個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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111話

 「あの……みんなは今どうですか?私のことはどう伝わってますか?」

 

 「お前のミッション先で不測の事態が発生したと伝えてある。脳無と……それにお前の個性が使われていたことは話してない」

 

 「よかった……このまま秘密にしてほしいです。正直、知られたくなくて」

 

 「楪少女……」

 

 高速道路を走る車の中でハンドルを握る相澤先生に私は尋ねる。自分の中で、今日あったことがこんなに重たいことになるとは思わなかった。忘れたことはない、目を抜かれる喪失感と痛み、大事なものを失った実感はいまだに私を苛んでいる。私の左目を取り戻して、きちんと荼毘にふす。秘かにできた私の目標の一つだ。ただ、今日その目標にも暗雲が立ち込めてきた。実際にコピーされた個性の実物が出てきた以上、私の目が原型をとどめている可能性は低い。

 

 じゃあ、どうやって誤魔化しましょうか。と私が提案すると、オールマイト先生がかなり真剣な顔で私の顔を覗き込んでくる。いつぞやの期末試験のような意志の強い瞳が、私を強く貫いている。私とオールマイト先生は座高が近い、というかほとんど一緒だ。だからこそ、その平和の象徴を張り続けた碧玉から目が離せない。

 

 「無理をしないで欲しい。私も相澤君も君の味方だ、絶対に。そんな風に、あんなことがあった後で……笑わないでくれ」

 

 「無理をしているかしていないかといえば、しているのでしょう。でもですね……笑っていたいんです。あんな風に使われた私の個性は人を助けられるんだって胸を張りたいんです。笑ってる人が一番強くて無敵、らしいですよ?」

 

 ぎり、と相澤先生かオールマイト先生の歯がなった。笑い続けて平和の象徴をしていた人間には、これを否定できないでしょう。最悪な使い方だ、だけど……話したくない。この胸の内のざわつきも、荒れ狂う感情も。だからこそ、笑っていたい。帰って来た時に私が私じゃなくなってれば、皆悲しむ。一昔前のヒーロー特撮のように、涙を笑顔の仮面で隠したい。私なら平気だ。友達がいる、娘のような妹もいる。親友もいる、大切な幼馴染もいる。支えてくれる人がいて、私も支えることができるんなら、私は立つことができる。

 

 それに、今のこの感情の半分が、自分自身への嫌悪だなんて言いたくないに決まってる。あの時は緊急事態だった、確かにそうだ。だけど……切り捨てるように私は殺害を選択した。それそのものはホークスが代わりにやってくれて、私は手を汚さずに済んだけど……証明されてしまった。私が、大と小を比べて小を切り捨てられる……人を殺せる選択肢を取れる人間だと。こんな私がヒーローを目指せるのだろうか。こんなぐちゃぐちゃな中身、誰にも言いたくない。

 

 「………………」

 

 「いいんです。どっちにしろいつかこうなるんじゃないかって思って、覚悟してました。オールフォーワンが言ったことが確かに現実になりました。なら私は、それに負けたくない。踏んだり蹴ったりですよもう、許せません。けどそれでめそめそして立ち止まるのは嫌です」

 

 「……高高度作戦中にヴィランの攻撃を受けて墜落、怪我はしなかったものの大事を取って俺たちが行った。これでいいだろう」

 

 「確かに、それならいい感じですね。ありがとうございます」

 

 さっきまで無言を貫いていた相澤先生が運転しながらカバーストーリーを考えてくれる。なるほど、これなら半分くらい本当だし冗談交じりにクラスに報告することができるだろう。私の意志が固いことを理解してくれたのだろう、話すつもりが全くないことも。捜査協力については必ずするけど、今のこの感情については自分の中で決着をつけたい。前に進むためにも、私がどんな人間になるかについても。

 

 結局そのあとは、何か話題が出ることもなく。オールマイト先生は難しそうに黙り込んで、相澤先生は口を閉ざした。私は申し訳なく思いつつも、高速道路の流れる景色を見ながら、離れない考えを振り払えずに、ずっと目を伏せていた。

 

 

 

 

 「ただいまー」

 

 「あー!希械ちゃん帰ってきたー!」

 

 「心配したんだぞ!ミッション先で不測の事態に陥ったと聞いたが、どうしたんだ?」

 

 校門前で先生たちに頭を下げてから別れ、ハイツアライアンスの玄関をくぐる、努めて明るく。何もなかったかのように。既に本日のミッションを完璧に終えてきたらしいみんなは今日あったことを話し合っていたらしい。私に気づいてくれた三奈ちゃんの声でみんなが一斉にバッと玄関を見て、私に視線をやる。クラスを代表して飯田くんが事の仔細を聞いてきたので相澤先生に考えてもらったカバーストーリーを早速説明することにした。

 

 「実はねー、ホークスとチームアップをさせてもらったんだけど高度2000mぐらいで戦ってたら、ヴィランの攻撃で墜落しちゃって。海の上だったから何とでもなったんだけど、先生方が心配して来てくれたの」

 

 「それは……危ないところだったんだな。無事で安心した」

 

 「むしろどうやって生き残ったんだよそれ……」

 

 「パラシュートくらいならノーモーションで作れるからね」

 

 高高度作戦の内容に興味津々なみんなではあるけど、これ以上は守秘義務があるのーと誤魔化す。いつも通りに笑えているかな、私。皆の感じを見るに違和感を持っている人は少なそうだ、良かったー。そういえば、とソファの方を見るとソファの上にはタオルケットがかけられたエリちゃんと、えーくん、そしてデクくんがいた。

 

 「待ってる、っていって寝ちまったよ。あとで謝っとけよ希械」

 

 「あー、エリちゃんに悪いことしちゃった。えーくんもデクくんも一緒にいてくれたんだ?ちゃんとご飯食べれたかな?」

 

 「大丈夫だったよ、でも楪さんが一緒がいいって」

 

 うおおおお~~~、ごめんよエリちゃん。そんな可愛いこと言ってたのね……そうだよねー、本当だったら夜ご飯までに戻ってくるはずだったもんね。えーくんにどいてもらって、私がエリちゃんの隣にぎしりと腰掛けるとその振動でエリちゃんは目を覚まし、眠気眼をぐしぐしと擦ってから、ぽや~~と私を見て、ふわ、と笑った。私の胸を見えない何かが盛大に貫いた音がしたが、コラテラルダメージなので無視をする。ただ一言、かわいい。

 

 「おかあさん、おかえりなさい」

 

 「ただいま、エリちゃん。ごめんねー待たせちゃって。お風呂入って寝ちゃおうか」

 

 「うん」

 

 「希械ちゃん、ホンマにお母さんみたいやね」

 

 「おっと、ここにも可愛い娘がいるぞ~」

 

 エリちゃんを抱っこして立ち上がった私は私のことを弄ろうとするお茶子ちゃんを片腕で抱き上げる。お茶子ちゃんは真っ赤になっちゃってぷしゅーと湯気を出してフリーズした。抱っこを求める子は誰だ~?と私が周りを睥睨すると女子の皆は何故かハグ待ちの態勢だった。あれ~?ここ嫌がって逃げ出すところじゃない?

 

 とりあえず私はお茶子ちゃんを下ろして、エリちゃんを挟むような形でぎゅっぎゅと皆とハグして回る。なおハグ待ち態勢だった峰田くんと上鳴くんは無視した。峰田くんが床を叩いて悔しがっているが知ったこっちゃない。上鳴くんは響香ちゃんにお仕置きされてる、結構理不尽。お風呂入ろうねーエリちゃん、と私はそのまま部屋に帰って荷物を置き、お風呂セットをもって階下に降りることにした。

 

 

 「眠れないなぁ……」

 

 すやすやと眠るエリちゃんを抱きしめながら寝転がっているけど、私に睡魔が訪れることはなかった。別に寝なくても平気といえば平気だけど、気分的に眠っておきたいのはそうだ。デクくんに滅茶苦茶羨ましがられたホークス製ドリームキャッチャーの効力も試したいところだし、眠らないとダメかなあ?

 

 しょうがない、眠れない時の最終手段として個性で電源を落とすような感じで意識を断とう……その前に、ちょっとだけ外の空気が吸いたいかな。時間外外出になっちゃうから、中庭に出て夜空でも見上げよう、なんだかロマンチックー。気づかれないようにエリちゃんのホールドを外してハロと白ハロにお願いする。無音でパタパタと耳を動かして返事をする2体のハロにお礼を言って、私は共用スペースに降りた。

 

 共用スペースにたどり着いた私は、窓を開けて縁側のような場所に腰掛ける。ぼーっと空を見上げる、雲一つない空の宵闇の中によく見えるまぁるいお月様が輝いていた。それ自体は発光していないはずなのに私を照らすほどに輝いている。

 

 「綺麗だなあ」

 

 「だな」

 

 びくぅ!と私の背が跳ねる。全く気付かなかった、えーくんが私の後ろにいつの間にか立っていた。し、心臓が口から出るかと思ったぁ……!えーくんは何も言わずに私の隣に腰を下ろして同じように月を見上げる。無言の間ののちにえーくんが口を開いた。

 

 「……なんかあったんだろ、今日。皆に話せねぇこと」

 

 「……ないよ?話したことが全部」

 

 「お前さぁ、俺相手にあんな嘘通じると思ってんのかよ。お前はあんな風に笑わねえんだよ。下手な作り笑顔なんかしやがって。皆は誤魔化せても俺は無理だっていい加減分かれって」

 

 えーくんはガシガシと頭を掻きながらそんなことを言う。そういえば、えーくんは私が異形型差別を受けた時とか、ちょっと仲間外れにされた時とか、必ず気づいてくれたなあ。私は知られたくなくって、毎回誤魔化してたんだけど家に帰ってから夜に窓を開けると大体ばれていた。会話できるくらいに近い部屋の窓を挟んで、私は結局話しちゃうんだったっけ。そんなこと、高校生になってなかったから忘れちゃってたよ。

 

 「えーくんには敵わないなあ……話したくないの。だめ?」

 

 「無理に聞くつもりはねえよ、んなの当たり前だろ。でもよ、お前泣きそうな顔で笑うんだからさ。しかもこれ、お前がなんかあった時の癖じゃねえか。ほれ、胸くらい貸してやる、吐き出してみろ」

 

 「……今日ね、脳無にあったの。私の個性持ってた。コピーされたんだと思う……最終的に自爆しようとしたところをホークスがやってくれたけど、ちょっときつくて」

 

 横から息をのむ音が聞こえる。えーくんにだけは、なんか話せる気がした。思ったよりするっと、口から今日あったことが出てきた。一度話し出してしまえばすぐだった、濁流のように整理されてない言葉がぼろぼろと出てくる、私の嫌なところも、知りたくなかった部分も。

 

 「それでね、脳無が自爆しようとしたとき……私、脳無のこと殺そうとした。脳無の命とホークス、捕まったヴィラン8人の命を天秤にかけた。ホークスには感謝しないといけないね、私……まだ人殺しじゃない」

 

 えーくんは、無言。ああ、ついに愛想をつかされちゃったかな……私、殺すかもしれないと覚悟をして攻撃したことは何度かある。USJの時の脳無もそう、I・アイランドのウォルフラムもそう……だけど、明確に、確実に命を絶とうとして攻撃したのはあれが初めてだった。確実に殺せる手段を選んで使った。ホークスが手を汚した、汚させてしまったから私はまだこうしていられる。だけど、あの荷電粒子の奔流を脳無に放ってたら、今私はどうしていたのだろう。

 

 「……俺さ、お前のこと尊敬してるよ。いつだって誰かのために前へ飛び出しちまってよ、大切なもん失ってもまだ進もうとしてる。けど……一人で行かないでくれよ。いつか絶対追いつくから、先に立っててくれていいから……俺も隣に立たせてくれ」

 

 「えーくん……」

 

 立ち上がったえーくんが、私の頭を横から抱きしめる。身長差が縮まって、彼に覆いかぶさられるような形になった。あったかいなあ……えーくんにはやっぱり敵わない、そう思っているといつの間にか、ボロボロと私の両目から涙が溢れてきた。止まらない、ぼたぼたと顔を伝って私の服を濡らしていく涙。蓋をしていたはずの本音が、出てきてしまう。

 

 「辛いよっ……どうして私、こんな目にあってるの……!?なんで、私の個性なの……?私の個性で人を傷つけないでよっ……」

 

 「お前は悪くねえ、絶対そうだ。断言してやる」

 

 「返してよ……私の左目、宝物……!お父さんとお母さんがくれて、えーくんが守ってくれたのに……!失くしたくなんかなかったのに!」

 

 「取り返そう。手伝うし、今度は俺が必ず守る。約束だ」

 

 「えーくんっ……!うえ、うええええええん……!」

 

 最終的に言葉にならなくなった私は、えーくんに縋り付いて大泣きする。こんなに泣いたのは、悲しくて悔しくなったのは、神野以来だ。あの病室で目覚めて両親と会った時に襲ってきた申し訳なさと、安堵と、絶望感……感情がない交ぜになって、ごちゃ混ぜになって……制御できなくなって……整理がつかなくなって……私の、弱いところが丸裸になった。

 

 どうして私なんだろう、他の人じゃダメだったんだろうか。分かってる、そんなの。ただ運が悪くて、私の個性が強かっただけなのに。私だから、今こうやって生きていられるって分かってるんだ。けど、納得できない。私は、普通にみんなと楽しく学校生活をしたかった。途中終了することなく職場体験をしたかった。ヴィランの襲撃を受けることなく夏合宿を全うしたかった。脳無を殺す決意なんてしたくなかった。

 

 えーくんにこんな感情をぶつけるのだなんてお門違いに決まってる。それでも私は、彼に縋り付くのをやめることが出来なかった。力いっぱい彼を抱きしめてその胸で大泣きするのをやめられなかった。膨らんでいた風船が弾け飛んだように、制御が効かなくなってしまった。

 

 私の力に締められて苦しいだろうに、それでもえーくんは何も言わずに……私の頭に手を置いて、優しく撫でてくれるのだった。その優しさすら、今の私には辛かった。




 

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