私が来た。平和の象徴、オールマイトの決め台詞にして代名詞。この言葉が聞こえたときヴィランは震えあがり、市民はある確信を持つ。自分たちは必ず助かると。その言葉が持つ意味はそれほどに重い。だからこそ、口にした。ナイン、お前をここで私たちが止めると。デクくんと爆豪くんの大規模攻撃で吹き飛ばされたお茶子ちゃんたちは瀬呂くんのテープのおかげで無事着地。私が戦線に出たことに峰田くんはガッツポーズをしている。
「くぅ……細胞活性さえ、あれば……」
「渡さないよ、活真くんも私の個性も。もうすぐ援軍も来る、あなたの仲間は確保した」
「わかりやすく言ってやろうかぁ?テメェもう詰んでんだ!おとなしく死ね!」
「麗日さん!活真くんたちを連れて下がって!ここからは、僕たちが止めるから!」
ぜえはあと息を切らせながらも幽鬼のように立ち上がるナインの口から出るのは私たちへの感情ではなく、活真くんの個性への渇望。えーくんと三奈ちゃんから私が戦線に復帰するのと同タイミングで仲間のヴィランを行動不能にしたという報告が入っている。何人かけが人が出てしまったらしいから援軍に来るのは難しいかもしれないけど、あとはナインだけだ。
「ふざけるな……ふざけるなぁ!こんなところで終われるものか!」
「ケッ!そう来なくちゃ張り合いがねえ!」
「まだやる気なのか……!」
「気圧変動、自然発火……ここまでして!」
「もはや、温存など……必要ない!」
鳴動するのは、パイプ、鉄片、チューブ……ありとあらゆる機械を構成する一要素たちが、ナインの体を取り巻いていく。ナインの手の先が、浸食されていく。個性に、私の無機物の個性が侵食してナインの手首から先が凶悪な黒い爪を備えたものに変わる。本気で私の個性を使い始めた、自分の体がどうなるかを無視して。やめて、やめてよ……私の個性は人を傷つけるためにあるわけじゃないのに!
気圧が下がる、急激に発生した積乱雲が朝焼けの空を包んでいく。まるでどす黒い悪意の、あのオールフォーワンと出会った神野の時のように。ジャケットを引き裂き、機械片で体を覆ったナインは顔に広がった紫のひび割れを拡大させながら目を血走らせる。その瞬間に、竜巻が突如として発生した。まだ見せていなかった個性で炎を出したナインの大竜巻は火炎の地獄となって私たちに迫る。
「だからなんだぁっ!」
「スマッシュッ!」
ゴボ、ゴボゴボ……と私が両手をメリクリウスに変じた瞬間、待てずに飛び出した二人の一撃が炎の竜巻を揺らす。デクくんの緑の雷がごときワンフォーオールのパワーと、熱されたマグマがはじけ飛ぶような爆豪くんの大爆破。竜巻がへし折れるように揺らめく。だけど規模が大きすぎる、人の所業じゃない、人の所業じゃない?じゃあ、私……人じゃない機械の仕事だ!
ドパァンッ!と音をたてて真っ二つに竜巻が割れる。竜巻に攻撃していた二人をメリクリウスで引き戻した瞬間だ。ハッとしてナインがその竜巻を見て、私を見て顔をゆがめる。何事かと振り返った二人も目を見開いて驚いている。もう、二人は何度も私が変わるところ知ってるんだからいい加減慣れてほしいな。ただ壊すだけなら、破壊力なんていくらでも高められるんだ……!
バリバリ、と私の周りを帯電する蒼い雷、その発生源は私の足。黒と青のラインが奔った私の新しい足が、規格外のエネルギーを増産して私に供給する。私の体に収まりきらないそのエネルギーは電気に変じて周囲を焦がしていく。これが今の私の最高到達点、絶対に人には使えないと思っていたけど、予想は裏切られるものだね。
「
「何をした……!」
「何をした、と言われたら……ぶつけたんだよ、バスケットボール大のこれを、超高速で。真似できるなら真似していいよ?私の個性なら、できるはずだから」
「そうか、レールガン……!」
おお、デクくん大正解。私がやったことは単純、ふわふわ宙に浮くメリクリウスの球体をレールガンの要領で発射しただけ。ただし、きわめて超高速に。速度にしてマッハ20、速すぎて断熱圧縮ですぐにプラズマ化したメリクリウスだけど、威力だけなら見ての通り。戦略兵器と肩を並べるだろう。
ケラウノスはメリクリウスと組み合わせる前提で開発した私の足。膝頭に一つ、ふくらはぎを挟み込むように4つ、足の甲に一つ……片足だけで合計6つの改良型アークリアクターを搭載し、エネルギーの増産という形に特化させた。直列になった6つのアークリアクター、両足合わせて12個、2つの直列が並列で合わさり、爆発的なエネルギーを生み出す。私に収まらないほどの、破滅的なエネルギーを。
メリクリウスで私はパワーと重さを強化した。だけど、遅さは変わらない。むしろ、動くことが難しくなったといえる。総重量が最低1トンにもなるメリクリウスを連れてスラスター使って高速で移動?無理だよ、じゃあどうしようと考えたときに発想を転換した。私は別に動かなくていい、私が動くのではなく、動かしてもらう。そしてメリクリウスなら動かせるはずだ、人間の限界は関係ない。ただの液体金属であるそれをいくら雑に扱ったところで問題にはならない。
有り余る電気の力で空間に磁場のレールを作り、そこにメリクリウスを通して移動させる。レールガンはぶっちゃけ副次的効果だ。本来の目的はメリクリウスでのオールレンジ攻撃、および迅速な救助。この手足なら……いくらでもできそうだ。視界の端で障子くんと尾白くんに抱えられた活真くんと真幌ちゃんが退避していく。響香ちゃんに目配せしてそこにいる人は全員撤退をお願いした。ここからは、大規模破壊が容易に起こりうる。当然、できれば避けたいのだけど、無理そうだね。
「うおおおおっ!」
「くるよ!」
「うん!」
「見んでもわかるわ!」
機械の鎧に包まれた青のドラゴンが無数に表れて、こちらに向かって熱線を吐きながら迫りくる。ナインの背中に刺さる薬瓶がコポコポと彼の体に薬物を注入しているのがわかる、ひび割れが若干引き、そして機械の浸食が止まる。制御薬かなにかなのか?熱線をメリクリウスの壁を張って防御し、私たちはそれぞれ別の場所に向かって飛び出す。私は真上に、デクくんは左に、爆豪くんは右に。
赤熱したメリクリウスを引き連れ、磁場で形成したレールを私が通る。スタークインダストリーズの資料からやっと再現に成功した新型のスラスター、リパルサーを全開で足から吹かして吹っ飛ぶような勢いで上に向かう。爆豪くんは爆破で、デクくんはワンフォーオールの衝撃波でそれぞれ空中戦が可能だ。
「たあっ!」
「ハハッ!もらったァ!」
磁場の道を変えた私が急降下、一瞬で音を超えてナインの近くまでぶっ飛ぶ。青いドラゴンを小石サイズの弾にした電磁砲で打ち抜き、ナインに接近して、メリクリウスで防御壁ごと包み込んで、投げ飛ばす。その先にいるのは、爆豪くん。凶悪に笑った彼は、溜めに溜め込んでいたらしい小手のピンを抜いた。小手ごと吹き飛ぶような大爆発がナインを包み込んで、防御壁にひびが入る。
「今度は、こっちぃっ!」
「マンチェスタースマッシュッ!」
磁場レールを再形成、右手にナインを捕まえたメリクリウスをつなげ、今度は真反対に投げ飛ばす。その先にいるのはデクくん、計測不能のエネルギーを限界まで蓄積した右足のかかと落としがナインの防御壁を破って彼の肩に直撃する。吹き荒れる衝撃波がメリクリウスを消し飛ばし、直下に笑えないほど大きなクレーターができる。やりすぎとも思えるそれを受けてもなお、不気味な気配は消えない。
デクくんの足に装備され、圧壊するように壊れ中身を守ったナノグリーヴが一瞬で形を取り戻すと同じように、ナインのひしゃげた肩がメカに侵食されて形だけ取り戻す。同時に、背中に薬瓶から薬がすべてナインの体に注入されねじれるように割れた。倒れているナインの背中から紫の光がまるで蝶の羽のような形に噴出した。噴出した光は推力を伴うのかまるでマリオネットで吊るされるようにナインが浮かび上がる。
「ヴィランもヒーローもない、力だけがある真の超人社会を作らねばならない……強きものが弱きものを支配する正しい新世界を、私の理想のユートピアを……!こんなところでは、終われない!終わってなるものかァ!!」
「弱肉強食だぁ?古すぎて笑えもしねえ!じゃあてめえの理想に従って負けて諦めろ!」
「そんなの身勝手な思い込みだ!強い人も弱い人も手を取り合うことはできる!あなたとその仲間が、そうしたように!僕たちだって!」
「その先に待ってるのは全部の崩壊だよ!結局あなたは、思い通りにいかないから駄々をこねてるだけ!支配者?王様?ヴィラン連合のピエロの間違いでしょ!?」
「新世界を拒むなら!消えされぇぇぇぇっ!!!!」
裂ぱくの気合を込めたナインの頭上の積乱雲が分厚くなり、冷たい風が撃ちおろしてくる。ダウンバースト……ってことはやっぱり!高電圧の雷が滞留し、私たちではなくナインを直撃した。紫電をまとったナインは、圧縮したダウンバーストを腕にまとわせ、さらに紫電を付加した。身にまとった機械の鎧が耐えかねるように破裂と再生、浸食を繰り返す。
「デクくん、爆豪くん。私が血路を開くよ。思いっきり突っ込んで、ぶん殴っちゃえ!」
「指図すんじゃねえよ!」
「わかった、お願い!楪さん!」
うん、と正反対の答えを返してきた二人に頷いて、私はメリクリウスの操作を破棄する。腕に収束してまとまったメリクリウス、足のアークリアクターがすべて輝いて、割れそうなほどの蒼電が足を駆け抜ける。さて、没になった必殺技がここで進化してお披露目だっ!左足をリパルサーのエネルギーが覆い、ダウンバーストと紫電をミックスした竜巻のビームに、臆すことなく私は自分を撃ち出す。
「スゥゥゥゥパァァァァ!イナズマッ!キイィィッッック!!!!」
「かっちゃん、今だっ!」
「わぁっとるわクソデク!」
レールガンの弾体として自分を撃ち出した私は、彗星の尾のようなプラズマと蒼雷をまとって竜巻の中に突っ込み、真っ二つに割った。反重力発生装置を応用した慣性制御の限界、マッハ5の流星は竜巻のその先、10以上張られた空気壁を叩き割ってナインが最終隔壁として張った金属と空気の壁にぶち当たる。だけど、私は一人じゃない。今、止まっても後が続く!
「スマァァァァッシュッッ!!」
「終わりだダボハゼェェェェ!!」
「なんだ、この力はっ……!ぐああああああっ!!!」
私の後ろから覆いかぶさるように仲の悪い幼馴染二人の渾身の一撃が衝突する。薄紙のように防壁を割ったそれが衝撃と爆炎の余波だけで島の一角を完全に吹き飛ばした。私たちに防壁をすべて取り払われ、まともに攻撃を受けたナインは全身あらゆるところから部品をまき散らし、私の個性に浸食された部位は吹き飛び、生身をさらけ出して海を割り、向こう側の花畑に吹っ飛んでいく。
「もう……空っぽ……!げほっ!」
「救け、られた……!」
「へっ……!ざまあ、みろ……!」
「二人ともっ!」
無茶しすぎた、私はほとんどのストックを吐き出して現在何も残っていないほどからっけつだ。全霊の攻撃を繰り返し放ち続けた二人は空中で気絶してしまう。スーパーイナズマキックの反動で内臓に来た私はせりあがってくるものに耐えられず吐血、何とか二人を回収して地面に激突する瞬間、私にテープが巻き付いて、尾白君の尻尾に弾き飛ばされたお茶子ちゃんが私たちを触り、ゼログラヴィティで浮く。
「お茶子ちゃん、ありがと……!けほっこほっ」
「無茶せんで希械ちゃん!」
「おい、緑谷、爆豪!無事かっ!?」
「デク兄ちゃん!希械姉ちゃん!」
「バクゴー!」
ああ、よかった。活真くんも真幌ちゃんも、無事だ。ギガンテスからの通信でエリちゃんの無事も確認できた。あとは……最後に一つだけやり残したことがある。私はお茶子ちゃんに二人のことを任せると、リパルサーを点火して飛び立つ。目的は、本当の沿岸にある花畑に吹っ飛んでいったナインの確保。彼が、起き上がれないように拘束を済ませれば、完了だ。止めるみんなを落ち着かせて、一人先行する。
「おっと……!予想外の客だ。いやはやお疲れ様ヒーロー」
「死柄木!」
「あー、こりゃダメだな。ナインにお疲れ様って言いに来ただけなんだから見逃せよ」
私の個性に侵食された右手と左足を失って芋虫のようにずりずりと這いずり回るナインの前に、黒い渦の中から現れたのは死柄木弔、ヴィラン連合の首魁だった。即座になけなしの金属を加工して作り出した機関砲を突き付けると、死柄木は顔に着けた手の下でめんどくさそうにするのだった。
ナイン撃破!次回で那歩島編は終了ですね。後期インターン、どうなるかお楽しみに。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ