個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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12話

 「さてとヴィラン。お互い早めに決着をつけたいね」

 

 「チートが……!」

 

 オールマイト先生の剛拳が脳無を天空高くにぶっ飛ばしてしまった。拳を握ってヴィランに最後通告を出すオールマイト先生に、私は驚きしかない。私があれだけ必死に攻撃してやっと数分動きを封じた脳無をああもあっさり……これがトップ、プロの世界なんだ……きゅ、と思わず口に力が入ってしまうけど、私を持ち上げるえーくんも傍で見るみんな、爆豪くんでさえもその光景に言葉が出ない様子だ。

 

 「あんな天変地異みてえな動き……」

 

 「でたらめな力だ……何発撃ったんだ……?」

 

 「わかんない……私の目でも見えなかったし……」

 

 もぞもぞとえーくんの抱っこの状態で体の態勢を変えた私が右目を使ってオールマイト先生を改めて観察する。戦闘訓練の時はまるで燃え立つ聖火のようにたぎっていたエネルギーが影も形もない。まるで吹けば飛びそうな風前の灯火だ。デクくんに個性を渡したから……?焦った顔をして今にも飛び出しそうなデクくんに私は声をかける。

 

 「だめだよデクくん、行っちゃだめ。オールマイト先生を信じて待たないと」

 

 「……緑谷、あの人が負けるなんてそうそうない。俺も含め、今あの人の邪魔になるようなことは非合理的だ」

 

 相澤先生に個性を消された状態で釘を刺されたデクくんはそれでもハラハラとオールマイト先生を見ている。デクくんはオールマイト先生の何を知ってるんだろうか?そう考えていると状況が動いた。黒霧が動いたのだ、オールマイト先生に向かって靄を飛ばして攻撃しようとしている。オールマイト先生は……動かない?なんで?

 

 私の疑問をよそに、手のヴィランはオールマイト先生に走り寄って手を伸ばす。あの人の個性が何なのかは知らないけど、攻撃だ。何でオールマイト先生は動かないの!?危ない、と口に出す寸前で聞き慣れない銃声が響き渡り、手のヴィランと黒霧に銃弾が降り注ぎ動きを封じた。

 

 「1-A委員長飯田天哉!只今戻りました!」

 

 その声で私たちは振り向いてUSJの入り口を見る。するとそこには、雄英に所属しているプロヒーローが勢ぞろいしてこちらを見下ろしていた。銃弾を浴びせたのはスナイプ先生、彼は2丁のリボルバーを見事なほどの早撃ちかつ正確な精密狙撃で次々と黒霧と手のヴィランに攻撃を当てている。別の所にも撃っているが、おそらく他のクラスメイトを助けたんだろうか。

 

 「っち。ゲームオーバーだ……おい、平和の象徴。次は殺してやる」

 

 「逃がすと思う?僕なら捕まえられる……!」

 

 黒霧の靄の中に入ってワープで逃げる主犯たちをコスチュームが半壊している13号先生の個性が捉える。靄を吸い込み続けるブラックホールだけど、今一歩遅く……主犯たちは逃げていってしまった。私は脅威が去ったことを確認して改めてオールマイト先生を見る……煙でうまく見えないから、右目で透視状態でじっと彼を見る。やっぱり、おかしい。何でこんなに急激にエネルギーが減っているのか……?

 

 「えっ……!?」

 

 「希械、どうした?」

 

 「ううん、何でもない。ちょっと、疲れちゃったみたい」

 

 口から驚きの声が漏れてしまった。煙に包まれて見えない状態だったオールマイト先生の身体が縮んでいったのだ。それは、昨日にサポート科に行く途中に見たスーツの人の容貌と同じ……!?プレゼントマイク先生が冷や汗をかいていたのは彼がオールマイト先生だったからなんだ……!幸いなのかセメントス先生がセメントを操って私たち生徒から見えないようにオールマイト先生を隔離してしまう。私は、また一つ増えた秘密をどうするべきか、どう処理すればいいのか分からなかった。

 

 

 

 「ちょ、ちょっと楪……それ」

 

 「楪さん、それは……!?」

 

 「ああ、えへへ……ちょっと頑張り過ぎちゃった。大丈夫だよ、ちゃんと生えるから」

 

 警察が捜査になだれ込む中、えーくんにおんぶされた状態の私がUSJに入り口に行くと、先に戻ってきてたらしい別の場所に飛ばされたクラスメイトのみんなが絶句してしまった。そりゃそうだ、だって私今手と足がないから、体重マイナス230キロくらい?大幅ダイエットだわーい、なんて言ってる場合じゃないのだけれども。

 

 八百万さんに耳郎さん、葉隠さん麗日さんはもう何も言えないって感じだね、ごめんなさい気持ち悪いものを見せて。あとは、そこで今にも泣きそう、というか完全に泣いちゃってる三奈ちゃんにも謝らないと。

 

 「ごめん、三奈ちゃん。変なもの見せちゃったね」

 

 「ううん、あたし希械ちゃんが頑張ってたの……見てたから!変じゃない!もう絶対希械ちゃんを一人で戦わせないから……!今度はあたしも隣にいるから……!」

 

 「おう!芦戸の言う通りだ!ぜってえもう無茶させねえかんな!今度はぜってえ……俺が前に立って、全部受け止めてやるから!」

 

 「うん……うん……ありがとう。ごめんね、ごめんなさい……」

 

 私にすがって大泣きする三奈ちゃんと悔しさをにじませるえーくんの言葉に私の涙腺も決壊しちゃった。左目から熱い涙がえーくんの背中に伝っていく。暫く周りを気にせずお互いに泣いて、落ち着いたところで生徒指導のハウンドドッグ先生がやってきてえーくんから私を持ち上げて抱えなおした。

 

 「え、あの……」

 

 「グルルルル……!バウッ!アオーン!」

 

 「ああ、彼は君を保健室に運んでくれるそうだよ!興奮すると人語を忘れるのが玉に瑕なのさ!」

 

 「それと緑谷くん、貴方も保健室よ。指、折れてるんでしょ。あとイレイザーも。13号はもう運ばれてったわ」

 

 「え、はい。あの……オールマイトは……」

 

 「彼ももう保健室に行ったわ。大丈夫、ほとんど無傷みたいなものよ」

 

 そのあと私は、デクくんより一足先にハウンドドッグ先生によって保健室に運ばれた。手足がない私を見た雄英の屋台骨、リカバリーガールは顔をしかめたけど個性で戻るということを話したらそれを前提に無茶をするなと物凄い叱られた。うん、それはまあその通りなわけで……。診断結果は全身の疲労と多数の打ち身。脳無が遠慮なくゴリアテの上から殴ってくれたおかげで生身の部分は青タンだらけだ。それで念のため1日保健室に入院することになっちゃった。

 

 今はリカバリーガールは席を外している。多分……デクくんとオールマイト先生、相澤先生の治療をしているんだと思う。保健室に運ばれて30分ほどでようやく個性が使えるようになったので手足を再生させて、一安心。お母さんお父さんは明日になったら迎えに来てくれるって言ってた。今日は流石に捜査の関係上雄英には入れないからね……

 

 私にとっては小さいベッドの上で考え事をする。隣では13号先生が眠っている。彼女も裂傷が酷いみたいだけど、命に別状はないみたいで。疲労が回復し次第治癒を受けるんだそうだ。初めて見る13号先生はとても美人だったけど、痛い筈なのに私のことを心配してくれて私優先でリカバリーガールに施術を頼んでたほど。まあそれは私はほぼ無傷ですでごり押して13号先生に先に診察受けてもらったんだけど。今は麻酔が効いて静かに眠ってるみたい。

 

 雄英に入ってからすぐにとんでもない体験と秘密を知ってしまった。ヴィランとの命のやり取りと、平和の象徴オールマイトの秘密と級友との関係。考えるだけで脳がオーバーヒートするぐらい重い内容だ。1テラバイトくらいあるんじゃないか?いやそれ以上かもしれない。

 

 まさか保健室に私のサイズの下着があるとは思わなかった着替えを済まして体操服でそのことについて湯気をだしながら考えているとこんこんとドアがノックされる。誰だろう、と考えながらも私以外にいないし私に用なのかな?ということでどうぞと返事をするとドアを開けたのは片手を吊った相澤先生だった。あー、うん。除籍してくれてもいいって命令無視したし、そのことかな?正直、後悔はないけどヒーローへの道が遠のいたのは悔しいなあ。

 

 「楪、少しいいか」

 

 「はい、除籍のことですよね?」

 

 「いや、違うが。今回のことで除籍はあり得ない。安心しろ」

 

 あら?違うんだ………………よかった~~~~!!!!そうすると相澤先生は一体何の用なんだろう?事件直後で忙しそうだし……私に何かあるのかな?私がベッドに座りなおすと彼は椅子を引っ張ってきて私の前に座って、深く頭を下げた。

 

 「楪、今回のことは済まなかった。かなり怖い思いをさせたと思う。お前たちを預かる教師として、謝らせてくれ」

 

 「へっ!?あ、相澤先生が謝ることなんて何もない筈です!私が勝手に戦っただけで……!」

 

 「違う、お前にそう判断させたことがそもそもおかしいんだ。結果的には確かにお前はあの脳無とかいうヴィランに真正面から対抗できた。だが、生徒に命を懸けて戦わせる教師がどこにいる。ヒーロー以前の問題だ。今回の件は俺たち教師側の力不足に原因がある」

 

 誠実で、優しい人なんだな……相澤先生。私にまっすぐ合わせてくれる目がそれを物語ってる。この人が私たちの担任でよかった。でもやっぱり、勝手に動いた私も悪いはずだから、私だって謝らないといけない。

 

 「私も、すいませんでした。逃げろって言われたのに勝手に戦って。相澤先生の腕が折られた時に頭に血が上って……それで考えるよりも先に、動いちゃいました」

 

 「……コレは受け売りだが、考えるよりも先に体が動く。ヒーローとして名を残した人物は共通してそう語ってるよ。正式な謝罪はご両親の前でさせてもらいたい。それと一つ、いいか?」

 

 相澤先生はこれ以上は謝罪合戦になると判断したのか私の言葉をフォローする形で切ってくれた。私が何でしょうと彼に尋ねると相澤先生は入ってくださいとドアに声をかける。すると一人の男の人が入ってきた。トレンチコートがよく似合う男の人だ。誰だろう……?

 

 「こんにちは。警察の塚内といいます。怖い思いをした直後で申し訳ないんだけど……調書を取らせて欲しいんだ。あの黒いヴィランと直接戦ったって聞いたからね。もしも話すのが無理なら落ち着いてからで構わないよ」

 

 「あの、個性の無断使用は……」

 

 「それは間違いなく正当防衛になるから問題ない。全く警察も合理的じゃないな。生徒の心労も考えてくれ」

 

 「耳が痛いよ。だけど、あのヴィランの異質さは異常だ。早期に捜査を始めないと取り返しのつかないことになるかもしれない」

 

 「わ、分かりました。お話します……2分だけ時間をください」

 

 「うん、大丈夫だよ」

 

 入ってきた男の人は警察官だった。今日の事件の捜査をするために調書を取って回っているらしい。それなら私も役立てることがある。目を閉じて深く集中し、今日あったことを脳みそに直結してるメモリから洗い出して時系列順に私が見たことを映像化する。さらに脳無との戦闘映像も私の一人称視点という話になってしまうがそれも纏める。右目が集めたあらゆるデータを封入してオールマイト先生がぶっ飛ばしたところまでを一本の動画データに出力する。オールマイト先生の秘密の所までは入れないでいいはずだ。

 

 チーンと電子レンジのような音がなって、私の右耳当たりのアクセサリが一部開き、USBメモリがにゅっと出てきた。集中を切って目を開け、手袋がないので壊さないように慎重に手に取って相澤先生に渡す。

 

 「これは?」

 

 「今日1日、USJに入った時からオールマイト先生に助けられるまで私が見たものを映像にした動画データです。覚えていたことを話すよりずっとわかりやすいかと思って。私は機械ですから」

 

 「なるほど、いい個性だね。必ず捜査に役立てる、約束するよ」

 

 「すまん楪、これ雄英の方でもコピーしていいか?今度の職員会議での対策検討の時に使えるかもしれない」

 

 「はい、構いませんよ。どんどん使ってください、私も覚えてることは全部お話しますから」

 

 そこから始まった調書取り、何があったかを時系列で話して地震災害演習場でのヴィラン拘束と広間に戻っての戦闘の事を話して終わった。塚内さんはボイスレコーダーを仕舞って席を立ちあがり、あとでUSBを取りに来ると言って帰っていった。私はそこでようやく全部終わったんだな、と完璧に力が抜けて相澤先生の前なのにふら~~~っとベッドに倒れ込んでしまう。

 

 「おい、どうした?大丈夫か?」

 

 「全部これで終わったと思うと力が抜けちゃって……それに」

 

 そこでくぅ~~~っと私のお腹の虫の音が鳴る。相澤先生の前なのに!鳴っちゃった!お腹減ったなあとは思ってるけどタイミングが悪いよぉ!蒸気を吹き出して真っ赤になった私は枕に顔をうずめながら話す。

 

 「お腹が減りました……」

 

 「ランチラッシュに飯を頼んでくるよ」

 

 「通常の3倍量でお願いします……」

 

 相澤先生は触れなかったけど、私は恥ずかしさでいっぱいになってしまうのだった。




 楪さんの戦闘での悪い癖「基本的にライフで受けがち」防御行動はとるにしろそこまで頓着せずまともに受けて反撃してくる。あと自分の手足とかに全く頓着してない。必要ならあっさりと犠牲にできる。正直緑谷くんより治る分質が悪い。そして大概の攻撃なら無視して反撃に移れる硬さとタフネスが拍車をかけている。

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