個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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体育祭編
13話


 ヴィラン襲撃の翌日は臨時休校だったらしい。というのも私は保健室にお泊りしたので休み?というのがいまいち実感出来なかったのだ。ただ、お母さんとお父さんに滅茶苦茶心配されたという事実が、私が無茶苦茶やったっていう証拠で何とも申し訳ない気分になった。相澤先生は私の両親に頭を下げて危険にさらしたことを謝罪してくれた。雄英高校をヴィランが襲撃というニュースはセンセーショナルに世間に広まってたみたいだけど、両親は先生の謝罪を受け入れて、私は家への帰路につくことができたのだ。

 

 「皆!朝のホームルームが始まるぞ!席に着くんだ!」

 

 「皆ついてるよ。着いてねーのおめーだけだぞ飯田」

 

 「しまった!」

 

 教室内を暖かい笑いが伝播していった。臨時休校明けの朝、ホームルームの前のことだけど……私にべったりくっついて離れない三奈ちゃんとそれを苦笑するえーくんと一緒に教室に入ると、私の姿を見たクラスメイト達はみんな一斉に安心したようなため息をついたのだ。爆豪くんは舌打ちだったけど。麗日さんと葉隠さんに至っては「楪ちゃんが立って歩いてるぅぅ……」というなんか赤ちゃんが初めて立ったみたいな反応されてしまったし。

 

 申し訳なさで縮こまってしまった私を前の席の八百万さんが励ましてくれて少しだけおしゃべりしているとドアが開いて手を吊った状態の相澤先生がやってきた。ホームルームが始まるということでみんながピタッと静かになる。うん、すぐ静かになるあたりみんな相澤先生に教育されちゃってるね……。

 

 「さて、皆も知っているかもしれんが……雄英体育祭が迫っている!」

 

 「「「「クソ学校っぽいのきたああああ!!」」」」

 

 相澤先生の言葉にクラス中が大盛り上がりした。学校行事というやつはテンションが上がるのか?という疑問があるかもしれないけど雄英の体育祭は別なのだ。というのも雄英体育祭は日本全体にとってもビッグイベントで、それはかつてのオリンピックと同等なのだというから驚いちゃう。だって学校のイベントで日本中がテレビにかじりついて熱狂しちゃうんだよ?すごいよねえ……

 

 「ヴィランごときで中止するイベントじゃない。それに、うちの体育祭は年に1回しかないビッグイベント、逃す理由もない」

 

 あんなことがあったのにこの体育祭を強行する理由は何か……それは私たちにとっても重要なことがあるからだ。雄英体育祭はヒーローも観る。けど普通の人とは視点が違う、彼らプロヒーローはスカウト目的で体育祭を見るという話だ。だからプロの目に留まるために私たちも頑張る必要がある。

 

 自分で独立しちゃえばいいのでは?という話もあるけど、大抵ヒーローになったらどこかの事務所に所属してサイドキックとして活動するのがセオリー。そこからどばっと人気が出て独立する人……例えばオールマイト先生とかもいるけど、普通は地道に人気を稼いで実力をつけるの。だから、スカウト目的の体育祭は私たちにとってはとても大事な話なんだ。

 

 

 

 「あ、ごめんねえーくん。私今日お弁当作れてないの。だから食堂に行ってもらっていい?私はちょっと用事があるから、今日は一緒できないんだ」

 

 「おお、気にするなよ。んじゃあ午後のヒーロー基礎学でな。芦戸~、希械は今日メシいっしょに行けねーって」

 

 「ええ~~!ん、でも用事があるならしょうがないか~~。何の用事なの?」

 

 「私の個性の関係のお話。サポート科にちょっと行こうかなって」

 

 「そっか~~」

 

 4限目の現代国語という私の天敵を相手にした後の話、えーくんに手袋越しの両手を合わせてごめんなさいのポーズをして、今日はお弁当を作れなかったと謝罪する。あんなことがあった後で楽しく料理をする気分にはちょっとなれなかったから。なので今日は学食に行ってもらおうというのが一つ、そして……このお昼で私の抱える秘密に決着をつけたいのが一つ。

 

 オールマイト先生とデクくんの関係、個性の話、小さくなったオールマイト先生……すべて私が一人で抱えるにはちょっと重すぎるし、知ってしまった申し訳なさもある。だから、オールマイト先生に全部打ち明けて沙汰を決めてもらいたいというのが一番の理由だ。

 

 なので私はサポート科に用があるという方便を使ってクラスから離れることにした。まあ今日会えなかったら実際サポート科に行って発目さんとお話しすることにしよう、お預け状態だからね今。暴走されて本格的に分解される前にちゃんと話しておきたいし、最悪手と足ワンセット置いておけばいいかなぁ……?

 

 二人に手を振って別れてから教室を出る。目指すは職員室……ではない。というかオールマイト先生が普段どこにいるのか全く分かんない。そもそも私は入学したてでここの地理にも明るくない。仕方がないので個性を使うことにする。私は二つの手段を切り替えて音を聞いているんだけど、一つがみんなと同じ鼓膜を使ったやつ。でもう一つ私がどうやって音を聞いているかと言えば耳近くについてるアクセサリ、実はこれが私の二つ目の耳みたいなものなんだ。集音マイクが付いててこれで私は音を聞いてる、メカなので。

 

 というわけで集音機能をフル活用、職員室まで歩きながらオールマイト先生の特徴的な重い足音を探す。まあ見つからないよね……っ!?普通にいた!?しかもデクくんと一緒だ!これは何というチャンス!幸い昼休み始めでみんな学食や購買に群がってて職員室周りには人がいない!私は目立つのでこそこそするには向いてないし、こんな状況はめったにないだろうし……二人には悪いけど、ちょっと後を付けさせてもらおう。一階下からだけど。

 

 向かう場所は職員室からさらに奥まった場所にある談話室の先、仮眠室のようだ。ばれたら一巻の終わりなので遠回りして二人が仮眠室に入ったのを確認、そして右見て、左見て、誰もいない!うああ……緊張するぅ……どうやって切り出したらいいんだろう……?え、ええい!えーくんじゃないけど男は度胸!女も度胸!やってやれないことはない!覚悟を決めて仮眠室のドアをノック!

 

 「ん?HAHAHA!楪少女じゃないか!こんなところに何か用事かい?」

 

 「その、少しよろしいでしょうか?オールマイト先生、デクくんも一緒ですよね?大事な話があるんです、今じゃなきゃいけません」

 

 「……何の話か聞いていいかな?」

 

 「……ここで話して、誰かに聞かれても困るんです。私もう、どうしていいか……」

 

 「随分深刻そうな顔だね。いいよ、入りなさい」

 

 ノックした後少しドタバタして仮眠室のドアが開く。そこから顔を出したのはいつも通り人を安心させる笑顔をしている筋骨隆々のオールマイト先生、私が言葉を濁しつつ話があると伝えると彼は逡巡しながらも中へ入れてくれた。中には予想通りデクくんの姿もある。彼は私が来た事にあたふたしてる。ごめんね、大事な話かもしれないけど、私の方も大事なんだ。

 

 「それで、楪少女。私に大事な話というのはなんだい?サインならいつでも歓迎だぞ!」

 

 「……これ、見てください。デクくんは多分、知ってるんだよね?」

 

 私は手袋を外して掌を組み替えて空間投影型のディスプレイを作り、そこに捜査協力した時にあえて入れなかったオールマイト先生が縮んでいく様子を収めた映像を映し出す。オールマイト先生の笑顔が一瞬凍り付くがすぐに元に戻る、デクくんは……なんかこう凄く言い表せない凄い顔してる。

 

 「随分と合成が上手だね楪少女。残念ながら私のこの自慢の筋肉はニセ筋ではないんだ。ドッキリかい?」

 

 「そ、そうだよ楪さん!オールマイトがこんなガリガリになるわけないじゃないか!」

 

 「誤魔化さないでください。オールマイト先生は私が捜査協力の際に提供した映像が私の見たものであるというのはご存じのはずです。この映像はあえて入れませんでした。それにデクくん?あんなに大きな声で爆豪くんに個性を貰ったって話してたし、そのあとオールマイト先生とも話してたよね?」

 

 決定的な一言。まさか私が聞いていたとは思わなかったらしくデクくんが絶望的な表情になる。オールマイト先生も笑顔が消えてシリアスな顔になった。なんか、私悪いことしてるみたい……二人にとっては悪いことなのか。ごめんなさい、だけどもうこれを抱えておくのは私には難しいんです。

 

 「そ、それは……!」

 

 「シット……!見てたのかい……!?」

 

 「ええ、見てました。そのあと校長室の前ですれ違いましたよね?プレゼントマイク先生の反応も変でしたし。USJで確信しました」

 

 「そう、なのか……」

 

 ここまでやってようやくオールマイト先生は誤魔化すのを諦めたみたいで、ぼふんと彼が座っていた場所に煙が立ち上る。煙が晴れるとそこにはさっきまでの筋骨隆々なオールマイトとは真逆のガリガリで、眼光だけがそのままな骸骨のような人がぶかぶかのスーツ姿で座っていた。

 

 「君は……いつから気付いてたんだい?」

 

 「戦闘訓練の時、オールマイト先生とデクくんの個性のエネルギーが同一なのに気づいたんです。何か関係あるのかなって思ってたら……下駄箱で」

 

 「そうか……どうしてこのタイミングで私たちに接触を?」

 

 「端的に言えば……心苦しかったからです。脅すような形になって申し訳ないんですけど……秘密が漏れているかもしれないって知ってほしくて。デクくんバスの時も思ったんだけど誤魔化すの下手すぎだよ」

 

 「うっ……」

 

 「緑谷少年……」

 

 「フォローしときますと動揺が酷かっただけで誤魔化しはまあ……」

 

 「そんなに下手だったかなぁ!?」

 

 「音声再生する?」

 

 「ヤメテクダサイ……」

 

 バスの中の動揺っぷりはひどかった。せめてその、笑いながら違うよくらいは言って良かったんじゃないかな。そしたら私は喉に釘が刺さった変な女で終われたのに……というかデクくんが一番気を付けないといけないのになんで私は気を張ってるんだ!盗み聞きした私が悪いんだった!ごめんなさい!自業自得じゃん……

 

 「一応聞いておくけど……誰にも言ってないよね?」

 

 「あの、言えると思います?平和の象徴の個性をクラスメイトが持ってるんだって。オールマイト先生が縮んだって……悪い冗談以下ですよ……」

 

 「だが君は証拠を持っていた。インターネットにばらまくような真似もしてないのだろう。その判断に感謝するよ……私が弱体化しているという噂が流れたら、ヴィランが活性化してしまう」

 

 「弱体化、ですか?失礼ですけどそのようにはとても……」

 

 「いや、私は弱くなっている。脳無と戦った時150発以上拳を叩き込む必要があったが、全盛期なら5発で終わっていた。とあるヴィランとの戦いで呼吸器官と消化器官の半分を失ってね。それ以来私の活動時間は衰える一方なんだ」

 

 そうだったの……?脳無を5発でノックアウト出来たという全盛期のすさまじさはともかくとして……体の中身まで勝手に見るのは気が引けてオールマイト先生が怪我の後遺症に苦しんでいるというのは気づけなかった。けど、USJの時動かなかったのには納得した。動かなかったんじゃなくて限界だったから動けなかったんだ。

 

 そこから私はオールマイト先生の事情を聴かされた。自分の後継を探しており、それがデクくんだということ。譲渡可能な個性、力を蓄え次代に繋ぐ「ワンフォーオール」……デクくんの中に今はあり、オールマイト先生はその残り火を使っている状態だということ。近くオールマイト先生は戦えなくなるかもしれないこと……どれもこれもが特大級のスキャンダルだ。こまった、秘密が増えてしまった……。

 

 「さて緑谷少年、色々しっちゃかめっちゃかになってしまったが……私からのお願いだ。体育祭……このビッグイベントにて……君が来た!ということを世の中に知らしめて欲しい!」

 

 「僕がきた……ということを……あのでも僕、ワンフォーオールをまだ全然……」

 

 「そうだね、君はまだスイッチのオンオフを知った状態だ。どうしよっか」

 

 「でも……デクくん脳無に使った時は折れてなかったよね?何か違いとかないかな?」

 

 「あ……!人に使おうとしたから?」

 

 どうやらオールマイト先生がデクくんを呼び出したのは自分の後継として世の中にアピールをしてほしいという話だったらしい。そこに私が突撃してきたせいでぐっちゃぐちゃになってしまったのだ。うんその、ごめんなさい。私が悪いんですぅ……。でもデクくんとオールマイト先生が師弟関係というのは羨ましい話かもしれない。だって平和の象徴のマンツーマン指導だよ?羨ましいなあ……ん?でも……

 

 「あのオールマイト先生、デクくんへの指導って週何回やってて、どういうトレーニングをしてるんですか?」

 

 率直に伝えた私の疑問に、平和の象徴は血を噴いて固まった。




 一人の女の子にずっとあれを秘密にしろは難しいし、原因が盗み聞きなら猶更ですよね。

 ところでオールマイト先生、デクくんに個性トレーニングの一つや二つ、付けてあげてもいいと思うんだ。次代の平和の象徴は勝手に生えてこないぞ

 というわけでデクくん特訓編開幕です。

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