「いやー、ごめんごめん。周辺被害がすごいことになるところだった!」
「え、まあ、その……結果オーライということで……?」
誰だろ、この人。気絶、どころか顔面とろっ骨がおそらくボロボロであろうヴィランは個性を維持できなくなったのかシュルシュルとオールマイト先生がトゥルーに戻るときのように縮んでいく。一歩間違えばビル全壊、という被害で言えばマウントレディでもたまにしかやらかさないレベルになってたんだけどなあ。
手刀を切る男の人、彼が話すのは日本語。この時点であれ?となっているんだけど……うん、だってここアメリカ西海岸ラスベガスですから?いやまあ、そんなことはどうでもいいんだけど、つまりこの人が……
「えーと、あなたは……」
「あ、言ってなかった。おほん!俺はミステリアスな男!ザ・スカイクロウラー!」
「やっぱり……」
「やっぱり!?」
「アンタの噂はいろんな意味で有名だってことだよ苦労マン?」
「なんで鳴羽田の頃のあだ名を!?しかもスターアンドストライプが!?」
ズビシッとおそらくはオールマイト先生を参考にしたであろうキメポーズを決める苦労マン、ではなくザ・スカイクロウラー……本名は灰廻航一、鳴羽田の英雄、そしておそらくは……元ヴィジランテ。
ヴィジランテというのは、自警団のことだ。かなりマイルドに、良く言ってみたけど、ようはヒーロー免許を取らずに勝手にヒーロー活動をしている無法者のこと。当然ながら日本だけではなく海外でも違法だ。
個性社会は、個性を管理し、厳格に使用制限をかけることで成り立っている。その均衡を崩すのがヴィラン、そしてそれを勝手に捕まえるのもヴィラン行為とされている。たとえそれが善意の行動であったとしても。
まあ、そういう色眼鏡を通してみるべきじゃないというのはこの16年の人生の中でよく学んでいる。外からの情報も大事かもしれない、だけどそれ以上に重要なのはその中身だ。洗脳という個性をヴィランっぽいと呼ばれた心操くんも、異形型で気味悪がられていた私も、骨身にしみていること。
「初めましてザ・スカイクロウラー、私はエクスマキナ。雄英からヒーローインターンで留学中のヒーロー候補生です。ご協力ありがとうございました」
「あ、これはどうもご丁寧に。えっと、クロウラーでいいよ。君って確か体育祭で優勝した女の子だよね?そっちの君も本選に出てた」
「……知ってるんですか」
「うん、実はあの時謹慎しててねぇ。そういえば日本はどうなってるかなって思ってみてみたらちょーど雄英の体育祭やってたからさ。それに、神野の件もあったし。悔しかったよ、何で日本に帰れなかったのか」
「それは……」
「無理だろ。もうあんたアメリカの免許でヒーローやってるんだから。日本に行くならアメリカヒーローとしての手続きがいる」
やれやれ、とオーバー気味にかぶりを振るスターのご指摘の通り、彼はアメリカで免許を取ったアメリカのヒーローなので日本にかっとぶにはそれはそれは面倒な手順が必要なんだよね。神野のことがあってオールマイト先生が引退しても、海外からのヒーロー派遣はなかったんだから。
それこそアメリカの大統領あたりが「知るか!いけえ!」ぐらい言わないとヒーロー派遣はきつい。大震災とかだったりは別だよ?結局どの国も、自分の中を何とかするので精一杯だし。
「まあ、そうだね。それはそうなんだけど、とにもかくにも君が無事でよかったよ。ヒーローイントラネットで流れてくる資料映像だと、その、ね」
「いえ、ご心配ありがとうございました。この通りぴんぴんに元気なのでお気になさらず。相澤先生からもあなたから学んで来いと言われてますし」
「相澤先生?もしかしてイレイザーヘッド?」
「はい。イレイザーヘッドのことです。昨日楪とあなたのことについて少々話したので」
共通の話題があると話が弾むなあ、とのほほんとしていると騒がしいラスベガスの町が俺を見ろとばかりにざわつきだした。さっきまでまるで一般人のようだったクロウラーの顔が一気に引き締まり、歴戦のヒーローそのものの顔つきになる。
同時に私と心操くんも緊張感を高める。気を抜いていたつもりはなかったんだけどいくら何でも速すぎないかなあ。事件が起こる速度がさ。今度は何?事故?強盗?それともお薬?まとめて面倒見てあげましょうとも。だって、どこかで誰かが困ってるんだから。
一番先に動いたのはスター、ついでクロウラー、同時に私と心操くん。心操くんに手を差し出した私は彼を抱えあげて飛び立つ。新秩序で身体能力を強化したスターと機械の力で飛び立つ私、そしてそれに当たり前のようについてくるクロウラー。
「地元のやつらからの連絡だよ。ここら辺仕切ってるカルテルがやけを起こしたらしくてね!あたしらがラスベガスにいるせいで仕事が全部おじゃんになって上から切り捨てられたんだ!」
「自暴自棄ってやつか……アメリカってほんとにもう!」
「心操くんみえる?いけそう?」
「……スター、やらせてください」
「……いいよ!やってみな!」
うっわー、本気でやけを起こしたんだなあとわかる惨状が目の前に広がっている。個性が乱舞し、銃弾が飛び交っている。あ、無反動砲が飛んできた。キャッチして握りつぶしながら抱えた心操くんに顔を近づけて尋ねる。
心操くんはあくまで仮免許を持たない職場体験。だから、ヒーロー活動にはスターの許可がいる。だけど、アメリカに来てからの現場の中では一番大規模だ。カルテルの組織員たちが自暴自棄になって暴れているのは、それこそ広さ的には神野とおなじくらいだ。さすがに更地にはならないだろうけどね。
この現場に飛び込むには、勇気がいる。私やA組のみんなでもだ。本格的な実践が初めてな心操くんならもっとのはず。小競り合いはこの1週間で経験してる。だけど、これはほとんど戦場だ。
それでも心操くんは、ぐっと震えるのどを堪えてスターに現場突入の許可を求めた。スターは一瞬呆気にとられたような顔をしたけど、すぐに二っと笑って許可を出した。どえええ!?とクロウラーは驚いてるけど、肝の据わり方ならプロにだって負けない、私も心操くんも!
「全員黙らせるよ!エクスマキナは周辺の建物および市民の広域防御!クロウラーは遊撃!シンソーは洗脳で一人でも多く行動不能にするんだ!
「はいっ!」
「了解!」
「……やります!」
スターの的確な指示、広域で大体何でもできる私が被害の拡大を食い止め、移動能力が高いクロウラーが遊撃をし、乱戦において非常に有用な個性を持っている心操くんが動きをランダムに止めて最前線のスターが鎮圧する作戦だろう。
私はバンッと心操くんの背中を強めに叩いてから彼を下ろし、飛び立つ。私の気合の入れ方が強すぎたのか心操くんは若干涙目になりつつも私のおなかあたりに軽くパンチをやり返してにやりと笑う。私はそれに笑顔を返して振り向かず上空に滞空する。
「シグナス!
『リョウカイ!リョウカイ!』
自らがあらゆる物質に変じつつ別個体と組みあうことで様々なメカを生成する万能物質、ナノマテリアル。それが私とシールド博士が開発したナノ技術の本質。それを大量に生産して真っ白のくの字のブーメランみたいなメカ、シグナスを生成して戦場に飛ばす。
同時に上空に飛ばした10機の高性能カメラを目として戦場全体の様子を把握しつつハロの処理機能をフルに使って数百機のシグナスを同時に操る。
シグナスは単騎、あるいは組み合うことでピンポイントバリアを発生させることができたり、人を運んだりできる救助端末。それを使って流れ弾、あるいは攻撃を防ぎつつ人を安全地帯まで運んだりシグナスを集めて安全地帯を作り出して対処する。
まっすぐヴィランたちに向かって突っ込んだスターが大立ち回りを繰り広げている大外あたりで心操くんがホログラムに身を包み、構成員の声をまねて洗脳にはめて疑心暗鬼を作りだしている。今着ているヒーロースーツならたとえ手榴弾が直撃しようとも痛いだけで済む。痛いのはしょうがないので許してほしいけど、うまくやれてるみたいだ。
そして、クロウラー。彼は不可視の力場を手足にまとい、重力あるいは慣性を無視するような動きで漏れ出た敵を衝撃波のような何かで打ち据えている。
これがまた、絶妙。気絶するラインを見極めた威力の調節だ。さっきの巨大ヴィランを殴り倒したときの攻撃を見る限り本気で打てばビル程度は消し飛ばせそうな強い攻撃を対人用に威力を弱めて使えている、すごい。毎度毎度威力調節に苦労している身とすれば是非ともご教授願いたいね。
心操くんやスター、クロウラーの周りにシグナスを配置して万が一に備えつつ人命救助と現場保護を並行で行いつつ私はクロウラーをさらに観察する。
それで分かったのは、彼は反射神経が異常に優れているということ。至近で撃たれた銃弾を、見てから回避している。それもまぐれじゃない、数えているだけで20回は超えた。ここまでくるともう偶然じゃなくて必然だ。
そして、個性。観測している限り、何かしらの力場を放出するような個性に見えるんだけど、詳細が読み取れない。というのも、どこからその力場、あるいはエネルギーが来ているのかがわからないからだ。
例えば青山くんのネビルレーザー、轟くんの半冷半燃、これらは個性といえども身体機能で、エネルギーの放出という結果は同じでもその持ってくるエネルギーは本人の中にあるからだ。だけど、クロウラーにはそれがない。
いわば、ここ3次元よりさらに上の高次元にあるエネルギーを直接持ってきて操ってるように見える。少なくとも私が持ちうる観測手段で何がどうなってるのかを観測するのは無理そう。
「よし!これで最後!」
力場を反発させるように衝撃波を発したクロウラーが吹き飛ばしたヴィランをシグナスで受け止めながら私は、科学的興味に心を震わせるのだった。なお、スターが吹き飛ばしたビルの再建設でその興味はどこかへ行ってしまったのだけど。心操くん、どうだった?無傷?さっすがー。
「なんだい、もう2カ月くらい伸ばせないのかい?もう少しいろいろ叩き込みたかったんだがねえ。あたしもbrosも」
「無茶言うなよスター。そもそもお前がヒーロー候補生を受け入れるってんでアメリカひっくり返すような騒ぎなんだぞ。さすがに我が儘の限度が過ぎる。ま、シンソーの飲み込みが早くていろいろ仕込みたくなるのは同意だけどな」
「それで戦闘機のせてちゃ世話ないね。ま、元気でやんなよヒトシ。困ったらいつでも連絡しな。卒業後にサイドキックしたいってんなら大歓迎だよ」
「はい!お世話になりました!絶対にヒーロー免許取ってヒーローになります!」
1カ月っていうのはあっという間だねえ。毎日ラスベガスでドンパチ、アメリカ軍の基地で訓練、ネバダの砂漠でボンバーしてたらもうほんとすぐに心操くんが帰る日付になっちゃった。寂しい、寂しいよ~。私、お友達が大好きだから、心操くんも他の人も。
「楪、改めて言うけど俺、お前にほんとに感謝してる。体育祭の時から訓練に付き合ってくれて、弱い俺に文句ひとつもつけないで根気強く相手してくれたりさ」
「もう、またひねくれたこと言って。でも、素直にお礼言ってくれてるみたいだし許す。英語ペラペラ、とまではいかなかったけどもう日常会話じゃ困らないし、心操くんは努力の人だね」
「やめてくれよ、努力なんてお前らヒーロー科だって俺以上にしてるだろ。ま、お前は引き続きアメリカにいるんだろうけど……帰ってきたら驚かせてやるくらいはして見せるさ」
「おお、ちょっと期待しちゃうなあ。うん、楽しみにしてる。来年は一緒のクラスになれるといいね。今の心操くんならきっと、ぱぱっと仮免だってとれちゃうよ」
「ああ、すぐ追いつく」
テロによって爆破されたネバダの空港も一カ月たてばすっかり元通り。国際線だってびゅんびゅん。来た時より重くなった荷物も鍛えた体で軽々と持つ心操くんは、いつもの斜に構えて皮肉気な笑みじゃなく、純粋な笑顔で私とスターに相対していた。
背中を向けた心操くんに、じゃあね。とアメリカで繰り返した闘魂注入を改めてしてあげると、せき込んだ心操くんは振り向いてぽすん、と私のおなかにパンチをくれる。お互いにやっと笑って、今度こそ、私は空港の外で、心操くんはゲートの向こうに消えていく。いつか必ず、お互い並び立てると信じて。
「キカイ、大方この一カ月でアンタの実力は把握した。次はラスベガスなんて一都市だけじゃないよ。アメリカ全土が、あたしたちを待ってる」
「
「いい返事だ!」
英語で返した私に、スターは日本語で返してから、一瞬で飛び立つ。私もそれを追ってブーストをふかして飛び立った。それを、お付きの軍人さんは頭を抱えてみていたけども
スカイクロウラー君は残念ながら顔見せのみです。あ、でも出番はまだあるかもしれません。さて、次回以降映画3段目に行こうかなと思います。
ヒロアカの完結が近いのが悲しいところですね。永遠にやっててほしいけどきれいに終わっても欲しいというジレンマ……でも、美しい物語だったと思います。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いいたします。
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ