個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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ワールドミッション編
130話


「やあ、楪少女。元気そうで何よりだ」

 

「お、おおおお……オールマイト先生!?なぜこちらに!?」

 

「HAHAHA!君に会いに私がきたぁ!と言えたらとてもよかったのだが……のっぴきならない事態が起きてね。キャシーは?」

 

「スターは今……アラスカにいます。私はハワイに行ってたんですけど、先に私の方が終わったので戻ってきた次第でして」

 

「活躍してるようでなにより!」

 

 ここはアメリカ、ニューヨーク。ヒーローズビルと名付けられたアメリカヒーローの本部、まあつまりは日本で言う公安本部の最上階で私がヒーロースーツで新装備の設計をあれそれしていると関係者以外立ち入り禁止のドアが開いて人影がこんにちはとやってくる。

 

 誰かと思えばそれはオールマイト先生で、彼は私を見ると朗らかに笑い、一瞬でトゥルーフォームからマッスルフォームに変わって私を抱きしめてくれる。

 

 しかし、なぜここにオールマイト先生が?と私はぐいーーっと首をかしげる。私に会いに来てくれた、というわけではなさそう。のっぴきならない事態、というからにはどうやら……

 

「いわゆる世界の危機というやつですか」

 

「そうだよ、キカイくん」

 

「シールド博士!?」

 

「直接会うのは久しぶりだね。さて、旧交を温めたいのはやまやまなんだけどさっき君が言ったように世界規模の危機があってね。ヒューマライズといえばわかるかい?」

 

「そりゃもう。というかハワイで支部一つ潰してきたところですからね。スターもそれがらみでいまアラスカです。昨日のテロのおかげでてんてこ舞いで、困っちゃいました」

 

 ヒューマライズという宗教団体……いや、私の認識ではすでにテロ組織だ。世界規模の思想団体で、その思想は「個性とは人類に寄生する病である」この一点。まあ、よくある個性終末論の亜種を唱える団体()()()

 

 それは、昨日に突然覆された。とある国の一都市で、大規模なテロが起こったのだ。そのテロの内容に私は背中に液体窒素を流し込まれたかのように、凍り付いた。個性保持者の個性が暴走をはじめ、町一つが一瞬で壊滅した。

 

 町の地下に仕掛けられたガス爆弾が爆発し、そのガスを吸った個性所持者の個性因子が無制限に暴走をはじめ制御不能に陥った。そして、自らの個性に押しつぶされるように暴走して亡くなったときく。助かっても、半死半生。そんな恐ろしいテロが起こったのだ。

 

 その時に犯行声明をだしたのが、ヒューマライズ。個性所持者のせん滅を目的にしたというそれに、世界は震撼した。アメリカはいち早く動いて所在が判明しているアメリカのヒューマライズの支部、アラスカとハワイを同時につぶすようにスターを動かした。ハワイは私がやったんだけど。

 

 殲滅自体は問題なく終わった。ガスは出てこなかったし、信者も私がデコピンで沈められるようなレベルでしかなかった。ようは……はめられたのだ。アメリカは。アラスカはまだわからないけど、ハワイの支部はダミーというのが私とほかのヒーローの結論、とオールマイト先生とシールド博士に伝える。

 

「そこまでわかってるなら話は早い。昨日の夜、つまりはテロ終息後すぐに私に声がかかってね。ヒューマライズの件は、アメリカのニューヨーク、つまりここに統括司令部を設置し、私が作戦指揮を執ることになった」

 

「ことがバイオテロだからね、トシから私に協力要請がかかったんだ。そこで、今回使われたガスの分析を行うにあたり、助手を君に頼みたい。早急に解毒剤を生成せねば、個性社会は終わりかねない」

 

「キャシーから聞いてないかい?ワールドヒーローズミッション、元から要注意団体だったヒューマライズは看過できないことを犯した。計画はかなり前倒しになる」

 

「名前、だけは。とにかく助手の件は引き受けたいんですけど、スターの許可を得ないことには」

 

「行ってきな!ことは一刻を争うんだろ!?マスター!久しぶり!こんな汚れて恥ずかしいったらないね!あ、キカイ窓開けて」

 

 なるほど、ワールドヒーローズミッションといえばスターが心操くんがいたときにぽろっとこぼした作戦名だ。シールド博士の協力要請、正直私は必要ないと思ったけど、彼が手伝えというからには相応の理由があるに違いない。

 

 スターに聞いてみないことには、と言おうとしたら若干コスチュームが凍っているスターが窓の外に浮いていた、というか足元の空気を足場にしているらしい。窓を開けてよいしょと入ってくるスターがだきっとオールマイト先生にハグのち私に向き直る。

 

「やっぱりアラスカはもぬけの殻だったよ。アタシが来るとは思ってなかったみたいだけどね。ヒーローは基本後手に回っちまうのが残念なんだけど、毒物に関しちゃ話が変わる。新秩序(ニューオーダー)でも限度があるからね。解毒剤作るってんなら何でも持ってきなよ」

 

「助かるよキャシー。聞いての通りだデイヴ、楪少女。ことは一刻を争う、すぐにとりかかってほしい」

 

「研究室はこの地下のを使おう。基本的なものはそろっているはずだ。専門的なものは悪いけど……」

 

「はい、私が。早速取り掛かりましょう」

 

「任せるよ。アタシはこの後ほかのバカがやらかさないかアメリカ中を見張るからいったんここで解散だね。マスター、私の優秀なサイドキックを頼むよ」

 

「もう行ってしまうのかい?」

 

「たった今、何よりも勝る元気を補充したからね。あなたが守った世界を、私も守りたいのさ」

 

 それだけ言って個性で体を強化したスターは開け放たれた窓から飛び立った。寂しそうにするオールマイト先生は、すぐに気持ちを切り替えて私たちに向き直る。私とシールド博士は頷いてオールマイト先生と一緒に地下の簡易研究所にエレベーターで降りるのだった。

 

 

 

 

 

「今回使われたのは、個性因子誘発物質……つまりはトリガーだ。それを見境なく強化したものだと言っていいだろう」

 

「サンプルはありますか?」

 

「昨日のテロ事件で使われた爆弾内部にあった残りカスしかない。空気と混ざってかなり薄くなっているが……デイヴ」

 

「私を誰だと思ってるんだトシ。そこにあるなら何とかして、いや何とかしなければならないんだ。サンプルなしより断然ましさ」

 

「メリッサさんは連れてこなかったんですか?」

 

「メリッサはこっちの方はからっきしだからね。君は、違うだろう?トシからある程度聞いた」

 

「ええ、まあ」

 

 そっか、確かに私は技術者側だけど、薬学もある程度知識がある。というのも、エリちゃんの件だ。個性消失薬、あれがどれだけばらまかれたかわからない。完成品は警察の手の中だけど、未完成のまがい物が出回ってはいる。

 

 もしもそれの製造元がエリちゃんだとばれたり……とか、想像すると震えて眠れないので、考えられる成分分析とか、I・アイランドの教授に聞きまくって知識をつけた。エリちゃんを守るためなら勉強だってなんのその。知識は無駄にならないのだから。実際、アメリカに来てブースト薬を押収するようになってから、その知識は役立っているし。

 

 研究室にある簡易測定器、では不安が残るので私が作った精密分析メカを使うとしよう、というかハロに頼めば成分出してくれるのだ。ハイハロ、あーん。オールマイト先生サンプルを1立方センチメートルください。

 

『ブンセキカンリョウ!ゲキヤバ!ゲキヤバ!』

 

「こう見ると、成分自体は個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)からは逸脱してないな。だがこの構成は……」

 

「効果自体は単純ですね。単純がゆえに強力です。まず一つ、個性因子の超ドーピング。個性の威力が跳ね上がります、体の耐久力を無視して」

 

「そしてもう一つ、個性因子を増殖させる。ドーピングはまだいいが、こちらの方が致命的だな。今回のテロの犠牲者のほとんどはこの作用で亡くなったに違いない」

 

「……器に収まりきらなかったのか。なんてものを作ってくれたんだ」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔でオールマイト先生が呟く。彼自身にも思い当たる節があるんだとおもう。個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)……いやもう全く別の薬品と言っていいけど、これは……人類を滅ぼしうる薬だ。

 

 この薬は……個性を持つ人が必ず持っている個性因子に干渉して、個性を制御不能になるまで暴走させると同時に、個性因子を増やす作用がある。これが、まずい。

 

 例えば、個性因子が一つから二つになるだけで、体にどれだけの負担がかかるか。那歩島のナインを思い出す話だ。個性がいくつも体内に収まったのが奇跡。脳無だってそう、自我が消えるくらいで済んでるのも十分おかしいんだけど。

 

 ようは、ワンフォーオールだ。器が出来上がらない状態でワンフォーオールを受け取ると、体が耐えきれずに爆散する、らしい。それと同じことが、薬によって引き起こされた。

 

 体の中で増えた因子に、器たる体が耐えきれなかったのだ。暴走まではまだいい、まだなんとかなる。だけど、因子自体が増えるというのは……前例がない。そんなことをすれば、同じ個性が複数体の中に存在することになる。そんなの、耐えられるわけもない。

 

「以降はこれをトリガーボムと呼ぼう。トシ……解毒剤は作れる……はずだ。だが……意味がない可能性がある」

 

「はい……解毒自体は容易ですが……これは、解毒云々の問題じゃないです」

 

「……まさか、解毒しても個性因子は増えたままなのか!?」

 

 オールマイト先生の緊迫した声に、私とシールド博士はそろって頷く。そう、この薬の恐ろしいところは、増えた個性因子は減らないということだ。解毒剤自体は個性研究の第一人者であるシールド博士なら容易に作れると思う。問題は、この薬は投与された時点で後戻りが効かないところにある。

 

 薬によって増えた、あるいは細胞分裂のように分裂した個性因子は解毒されても一つに戻ったりはしないだろう。打たれた時点でアウトだ。解毒剤を打っても意味がない。

 

「作ったやつはよほど個性が憎いらしい。生き残れるのは無個性くらいだろう……解毒剤……この場合予防薬か。これを作ること自体はできる……が、全人類、いや被害が予想される地域全員分を作るには明らかに時間も物資も足りない。ヒーロー分だけで精一杯だ」

 

「最悪の予想ですけど……トリガーボムの成分自体を微妙にずらしてきたりされたら解毒薬すら意味をなさないかもしれません。最善策はたぶん……」

 

「爆発自体をさせないこと、か」

 

 そうだ、と沈痛な面持ちでシールド博士が頷く。これは、世界の危機だ。掛け値なしに。たかが薬品一つ、じゃない。数千分の一に希釈されたそのガスは、核兵器をも上回る毒の霧だった。

 

「こうなったら、こちらが攻勢にでるしかない。すぐに各国に連絡を取ろう。ヒューマライズの支部をすべて突き止め、全く同時に攻め込む。次の準備を与えないようにせねば」

 

「解毒薬はできるだけ生産しよう。キカイくん……しばらくは眠れないよ」

 

「あいにく、眠らなくても余裕ですから」

 

 私たちは、頷きあって動き出す。これからの未来を最悪から最善に切り替えるために。

 

 

 

「フレクト・ターン……何を思ってこんなことを……」

 

 すこーっと3日の徹夜を終えて盛大に眠るシールド博士とやつれるという言葉をはき違えたオールマイト先生にブランケットをかけて私は独り言ちる。

 

 ヒューマライズの指導者フレクト・ターン。目的は人類の救済、らしいがやってることがちぐはぐだ。人類の救済というくせに大量虐殺を行っているなんて。

 

 突貫で完成させた解毒薬を私が作成したメカが量産していくのを見ながら、私は思考を深める。相手を知ることは重要だ、相手の思考がわかるのなら、次に何をしてくるかがわかるから。

 

 ヒューマライズの本部があるのはオセオンという小さな島国だ。ヨーロッパの島国の一つ、個性は病であるという思想に、どうして、なぜそうなったのか。知りたい。知らなければならない。次のテロを防ぐためにも。

 

 完成させた解毒薬を一つ、無針注射器に充填してそのまま首筋から体内に注入する。少々強引だが治験だ。この解毒薬の効力がどれだけ持つかを調べないといけない。

 

 太ももの血管にカテーテルを入れて血液の循環に検査機を挟んで成分を分析しながら椅子に座って安静にしつつ、考えを巡らせる。

 

 ヒューマライズの思想は単純、個性は病、悪、無個性こそが真の人間である。これはそのままフレクト・ターンの思想信条のはずだ。

 

 私は、個性が悪だとは、病だとは思えない。こんな体をしてるから、だからこそ、これは私の『個性』であると胸を張って言える。いいこともいやなことも、この体だから体験できた。フレクト・ターンは私を見て、なんていうんだろ……無機質な検査結果を表示し続けるモニターを見ながら、私は堂々巡りから抜け出せずにいた。

 




ヒロアカ完結おめでとうでございます。最初から最後まで面白く、ジャンプの王道とも言える作品だったと思います。寂しくなっちゃうなあ。

そんなこんなぇ映画第三弾突入でごぜえます。ゆっくりペースでごめんなさい。それでは。

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