個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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132話

「状況を整理するで。まず一つ、先日のテロ事件において使用されたヤク……今闇市で出回っとるブースト薬に使われる基本成分、つまりは個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)が主成分になっとるもんや」

 

「それってあれっすか?死穢八斎會の前の時、大阪で捕まえたヴィランが自分に打ったやつ?」

 

「せや。切島君の時はトリガーっちゅうやつやな。粗悪品やけども、今回はワケが違うで。楪さん説明してや」

 

「はい。では現在シールド博士は今回使われた薬物……仮称トリガーボムの研究で手が離せないので僭越ながら私から説明させてもらいます。まず……」

 

 ヒーローズビルの会議室。アメリカに来たヒーローたちを迎え入れたそこで全世界同時中継の会議が行われていた。仕切りはオールマイト先生、進行は薬物に詳しいファットガムだ。

 

 同時投影された画面の中ではそれぞれの派遣先にいる日本と現地のヒーローが映っている。フランスにはリューキュウ事務所の面々、つまりはお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが、エジプトではチームラーカーズ、通形先輩に上鳴くん、瀬呂くん、峰田くん、塩崎さんが、シンガポールでは百ちゃんと取蔭さんで、日本は残り、そしてアメリカの面々。

 

 最重要なのがヒューマライズの本部がある島国、オセオン。そこは現ナンバーワンヒーローのエンデヴァーとサイドキック、そしてデクくん爆豪くん轟くんのトップ3がいる。かなり壮観な光景に緊張しつつも分析結果をわかりやすく説明する。

 

 トリガーボムの効果は大きく分けて二つ。個性の超々強化、個性因子の無限増殖……これら二つの相乗効果により受けた個性持ちの人間は死ぬまで己の個性を暴走させ、最後には個性因子に食いつぶされて凄惨な死を遂げるということ。

 

 現時点で解毒薬の製造には成功しているものの解毒薬はトリガーボムの進行を止めるだけであり、先んじて打っておくことで一定程度トリガーボムを無視できるが、増えてしまった個性因子は戻らないこと。

 

 なので最善策としてはトリガーボムをなんとしてでも見つけ出し、爆発させない、もしくは無人の場所で爆破処理し、汚染が除去されるまでは人を入れないことが重要になること。

 

「以上が私とシールド博士が解析したトリガーボムの全容になります。不幸中の幸いと言ってはいけないのでしょうが、トリガーボムの成分は急速に空気中に広がった後に一定程度希釈されれば効果を及ぼしません。後々まで汚染されることはないかと」

 

『まったくもってとんでもないものを作ってくれたものだ。オールマイト、出撃はいつだ。手をこまねいているうちに次のテロが起きかねんぞ』

 

「今楪少女とデイヴが作ってくれた解毒剤を君たちに届ける手はずを整えている。明朝には完了する予定だ。作戦決行は全員に解毒剤が届いてから、全く同時に、解毒薬の効果時間内に終わらせるように可及的速やかに行いたい。各自、今は休んでいてくれ」

 

『……しかたあるまい。エクスマキナ』

 

「はい、なんでしょう」

 

『よくやった。作戦の成功率に大きくかかわる成果だ。仮に俺のところにインターンしていては同じ結果は得られまい。良い研鑽を積んだな』

 

「いえ、そんな……オセオン本部の方はよろしくお願いします。デクくんも爆豪くんも轟くんも、がんばってね」

 

『うん!楪さん、切島くん、常闇くん!そっちはお願い!』

 

「おう!任せとけ緑谷!そっちも任せるからよ!」

 

「フッ、期待されては応えねばなるまい」

 

 エンデヴァーからまさかのストレートなお褒めのお言葉をいただいてしまって顔を赤くしてテンパってしまう私。だって、あのエンデヴァーが!誉め……あれ?職場体験中の時割と轟くんも含めて結構ほめてもらった覚えがある。ここまで功績を称えるような誉め方じゃなかったけど。

 

 言い方もかなり柔らかったし、なんかエンデヴァー変わった?いい意味で前はこわばっていた顔から力が抜けて、力強い瞳の強さと炎の純粋さが際立っている感じがする。私が変わったってエンデヴァーは言うけど、これ多分エンデヴァーの方が変わってるように思うよ。私はこっちの方が親しみやすくて好きかなあ。

 

 それからフランスのお茶子ちゃんたちや、エジプトの通形先輩たち、それにアジア地域の百ちゃんなんかにもお互いに激励しあってから通信が切れる。さてさて、ふぅと一息ついた私たち。

 

「時差ぼけ大丈夫ですか?結構ずれたと思うんですけど」

 

「あー、それよりも腹減ったわ。ヒコーキんなか退屈でショーがなくてファットガム事務所は全員夢の中やったで」

 

「ホークス事務所もそうだね。というか、作戦行動に備えて眠るように言い含めてたからねぇ」

 

「そこらへんで言うとおめーだぞ希械。大仕事で寝てねーんじゃねーか。お前昔っから、つーか今もだけどよ。夢中になると平気で3徹くらいすんだろ」

 

 ホラネ、楪少女というオールマイト先生の視線に冷や汗をかいた私、そしてえーくんのおっしゃる通り3回ほど徹夜して最終的にシールド博士と怪しい笑い声をあげてたせいでオールマイト先生にミズーリスマッシュ(弱)を食らって正気に戻った身としては何も言えないなあ。

 

「……やったな?」

 

「あはは?」

 

「笑い事じゃねーんだけどなあ俺にとっちゃ。ま、顔見たら今日は寝たみてーだしなんも言わねえけど」

 

「……ごめんなさいということでお詫びに何か作るよ。何食べたい?」

 

「あー、ゲン担ぎってことでかつ丼くいてーな。常闇は?」

 

「楪のカツ丼か、是非ご相伴に預かりたい」

 

「あ、皆さんどうします?私の作るものでよければですけど。天喰先輩は食べておきたいものがあれば今教えてくださいな」

 

 かつ丼かぁ……たしかシュニッツェルの材料があったはず。醤油とかはあったけどだしの素とかはなかったから出汁は引かないとだめだね。卵はアメリカだしここの卵は常温保存だから半熟はちょっと怖いのでしっかり火を通すことにして……。

 

 それで、とファットガムとホークスの方を見てみるとファットガムはえらく期待の眼差しを向けられてるし、ホークスなんて卵硬めで~なんてリクエストも飛んでくる。それで、天喰先輩はシジミをリクエスト。シジミはないなあ……ホタテでいい?あ、大丈夫なんだ。あ、カニ缶あるからカニサラダなんていかがざんしょ?

 

「あー!これだよこれ!やっぱこの味がないと始まんないぜ!ホタテフライも入っててうまいったらねえ!」

 

「タコとカニのサラダもおいしい。楪さん、料理上手なんだね……」

 

「いやー切島くんが自慢するだけはあるがな!おっ、楪ちゃんこれなんや?」

 

「カルツォーネです。中身はドライキーマカレーとチーズですよ。お持ち帰り用なので夜小腹がすいたら食べてくださいね。ファットガムのための超高カロリーです」

 

「気が利くやないか!」

 

「あれ?俺のはチキンカツ丼なんだ」

 

「さっき常闇くんから鶏肉がお好きだときいたので」

 

「ほんとに気が利くねえ。エンデヴァーさんが唾つけてなきゃ無理やりリクルートしてたとこだよ」

 

 うーん、久しぶりにお料理をみんなに振舞って楽しい気分になってきた。スターと一緒だと任務詰め詰めでほとんど料理の時間、仕込みの時間なんて取れなくてあんまりおいしくない軍用レーションとか栄養ブロックとかになっちゃってるからさー。その分メキメキ働けるんだけど。

 

「エクスマキナ、いるかい!?」

 

「スター!どうしました?」

 

「ああ、ちょうどよくスクランブルさ。これで大体直近危なそうな組織は潰せたかなってところ。ついてくるかい?」

 

「ぜひ!ごめんみんな、行ってきます!」

 

「待ちぃ。いろいろすっ飛ばして聞かせてもらうわ。ワイらにも手伝わせてくれへんか?ヒーローとしてそういうんはほっておけへんわ」

 

 皆が食べ終えて食後の談笑を楽しんでるときにドガタン、と金属扉をあけ放って現れたのは私のインターン先、スターアンドストライプだ。いきなりのアメリカナンバーワンヒーローの登場に全員驚く中、ファットガムは冷静にスクランブルという言葉に反応して助力を提案するけど、スターは……

 

「oh!ファットガムだね!嬉しい提案だけどごめん!日本で言う公安からの任務で秘匿性があるんだ!日本のヒーローはここで待機(ステイ)さ!ん、そっちは研修生かい?」

 

「はい、私の幼馴染と、学友と先輩です」

 

「hm……よし、気が変わった!場所はサウスカロライナだ!ついて来れるんならついてきな!今からね!」

 

「あっちゃー、そんな長距離移動できひんわ、ホークス、お前さん行けるんちゃうか」

 

「いける、僕は出ます。ツクヨミ、君は待機だ。音速超えてはまだ飛べないだろう?」

 

「……承知」

 

「ついてくんのはホークスだけかい?そうだなー、もう一人くらいいれば楽になると思うんだけど~」

 

「あ、じゃあ私が抱えていくのはどうでしょう?さすがにファットガム抱えていくのは無理ですけど、もう一人くらいなら余裕です」

 

 私が指をピンと立てて提案をする。大体ここから1100km先なんで、マッハで1時間ってところだろう。アメリカならではのビックサイズ&長距離移動は日本のヒーローには慣れないかもしれないけど、移動だけなら私一人で何とかなるなる。

 

「そんじゃあ烈怒やな。環は見ての通り全力拒否しとるし楪ちゃんに抱えさすと使い物になるのに時間かかる、リアルスティールは個性使ったら重すぎる。切島君やったらま、怪我することもないやろ」

 

「決まったかい?ヒーロースーツは着てるね!すぐ行くよ!」

 

 任務先に向かう人材が決まる。天喰先輩は視線を向けるとものすごい勢いで顔を振ってるし、個性を使うと鉄になる鉄哲くんは確かに持ち上げて運ぶならともかく重すぎて飛んで運ぶのは大変そう。その点個性使っても頑丈になって重くもならないえーくんは最適かもねえ。

 

「っし!承ったっス!切島鋭児郎!ヒーロー名は烈怒頼雄斗!頑張ります!」

 

「いい挨拶だ!気合籠ってていいね!じゃ、早速行くぞ!Bros!スクランブル!」

 

 窓の外に浮かぶようにステルス戦闘機が姿を現す。豪快に窓を開け放ったスターがスタっと戦闘機の上に乗る。手招きするスターにホークスが先んじて空を飛び隣に着地、そして私とえーくんもジャンプして全翼機の上に乗った。

 

「[私の半径5mの空気は清流を保つ]……いくよっ!」

 

 ばしゅぅっと音をたてて戦闘機が飛び立つ。巡航速度は大体マッハ2ってところかな。大体30分前後ってところだと思う。酸素マスクを首に降ろしたホークスがシリアスに顔を引き締めて伝える。

 

「スターアンドストライプ、会えて光栄です。あなたがエクスマキナのインターン先だったのですね。積もる話はありますが、任務内容の説明をお願いします」

 

「いいよホークス!今回は廃線を根城にしてるテロリストどもの制圧だね。旧式の機関車を近代化、要塞化してる。まあ小物だったんだが……何人か、ヒューマライズに出向したみたいでね。潰して、情報を抜く」

 

「なるほど……ってことは閉所戦闘になるわけですね。前衛は……」

 

「私とえーくん、でどうでしょう」

 

「だね、もともと私もそのつもりだった。レッドライオット!エクスマキナから聞いてるよ、ずいぶん硬いんだって?アメリカじゃ銃は地面に生えてるもんだからね、ビビらずにな?」

 

「豆鉄砲程度じゃびくともしないッス!なんだったらビームでもいいっすよ!」

 

 ガチコン!と腕を硬化して拳同士を突き合わせるいつものポーズをとるえーくんの自信満々の顔つきを見たスターがにんまりと笑っている。あー、わかりますよスター。というかえーくんってスターの好きなステレオタイプの日本ヒーローにがっちりなんだよね。ガチンコ、熱苦しい、根性の3要素がそろってるから。

 

「ホークス、あんたはエクスマキナとレッドライオット、あたしが鎮圧したテロリストのドアホを個性使って外に出した後拘束してくれ。あたしが前から、二人が後ろからだ。全員ノシたら機関車を止めて終わりさ」

 

 到着50㎞前から私たちが直で飛んで現場に急行だよ、と言われてブリーフィングが終わる。うーん、この感じアメリカン!毎日こんな感じだったんだよねえ、ぐりぐりと背を伸ばしているとえーくんが話しかけてきた。

 

「お前、スターアンドストライプのとこ行ってたんだな。心操に聞いても何も言わねえわけだよ。また強くなったんだろうけど、俺も追いつくぜ。もう俺は、お前が出発したころの俺じゃないからよ」

 

「頼もしいなー。もちろん私だってそうだよ。でもねえーくん……私はいつだってえーくんを一番頼りにしてるんだから」

 

「そか。ま、そんなんは俺もだなあ、じゃ……ほい」

 

「ん!」

 

 えーくんが差し出してきた硬化した拳と、私の金属の拳がぶつかり合う。いい音が響いて、私たちは久しぶりに立つ同じ戦場に、重なるように武者震いするのだった。




 前哨戦行ってみよ~!というかんじで次こそは本番に入りたいですね。それではまた次回。

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

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