個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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14話

 「あのオールマイト先生、こんなこと先生に言いたくはないんですけど……デクくんのこと大切じゃないんですか?」

 

 「ち、違うのだ楪少女!緑谷少年のことは大切に思っている!だがそれには深い事情が……」

 

 「事情って何ですか!?デクくんに個性を託したんでしょう!?発表するのは無理でも雄英に入った途端放置ですか!?デクくん個性で何回怪我してると思ってるんですか!そのうち体動かなくなっちゃいますよ!?」

 

 「あの、楪さん……僕は別に平気だから……」

 

 「デクくんも!貪欲に教えを請わないとダメだよ!?オールマイト先生の個性だよ?一番知ってるのはオールマイト先生なんだから、分からないことは聞かないと!殴るたび怪我してたら痛いでしょ?」

 

 「ハイ、その……ゴメンナサイ……」

 

 仮眠室に私の興奮した声が響く。まさか平和の象徴とその弟子にお説教じみたことを言わないといけないなんて物凄い恐れ多い。だけどデクくんが雄英に入ってからオールマイト先生に個人的なレッスンを受けてないというのは流石に看過しかねるんです。物凄い余計なお世話だろうけど、個性使うたびに大怪我して、リカバリーガールに直してもらって……そんなの痛いに決まってる。苦しいに決まってる。私みたいに換えは効かないんだから、自分を大切にしてほしいな。

 

 「……そもそもなんで個人的なレッスンをしなかったんですか?」

 

 「忙しかったとしか……」

 

 「……それはそうでしょうけど……例えば、個性のマニュアルを作るとかあったんじゃないですか?」

 

 「マニュアル?」

 

 「ええ、いわば説明書ですかね?オールマイト先生の個性の使い方を言語化して、整理するんです。いきなり渡されて使ってみろ!は難しいかと……ちなみにそのワンフォーオールの使い方はどういったものなんですか?」

 

 「うむ、ワンフォーオールの使い方はずばり……感覚だ!」

 

 「なるほど、デクくんが苦労するわけですね」

 

 「なんかアタリ強くない楪少女?」

 

 ヒーロー基礎学の授業の時からずっと思ってたけどやっと納得できた。オールマイト先生は超がつくほどの感覚派だ。自分の感覚で個性を使えてしまっているからいざ他の人にとなった時にうまく説明できない状態になっているんだと思う。端的に言えば天才というやつ、爆豪くんとかと一緒だね。

 

 デクくんは今まで無個性だったから、個性があるという感覚そのものを知らない。オールマイト先生の元の個性がどうなのかは知らない、あるいは無個性だったかもしれないんだけど……あれこれ結構ムリゲーというやつなのでは?感覚を説明するって非常に難しいし……デクくんとオールマイト先生が共通でわかるものを例に挙げないと無理な奴だ。

 

 「デクくんは、どうやって個性を使ってるのかな?スイッチの入れ方……私は回路に電気を通すイメージが一番近いかも」

 

 「僕は……今はオールマイトに言われた通りに、力を込めてスマッシュって……」

 

 「……ああ、だから0か100なんだ。調節の仕方が分からないんだね?オールマイト先生、一ついいですか?」

 

 「なにかな?緑谷少年にアドバイスをくれるなら実にありがたいが……」

 

 「オールマイト先生って、SMASHを打つ時、常に全力ですか?要は、個性を使う時……例えば人を巻き込むかもしれないから力を抑えようっていう場合……どうやって調節してるんです?」

 

 「……難しい質問だ。確かに常に全力ではないね。一時的に力む、といったらいいのかな……その力の入れ具合としか言えない」

 

 ああ、嚙み合ってない。デクくんは感覚派じゃなくて思考と試行回数、分析、解析……いろんな手段を用いて物事を努力し解決していくタイプだ。数学で言うなら証明問題でちゃんと途中式を全部書くタイプ。対してオールマイト先生は直感が物凄くすぐれている天才タイプ、証明問題で途中式無しにどんと答えを導き出せるんだ。そもそもタイプが違うから噛み合わずにうまく師弟関係を作れてない。

 

 さらにはデクくんはオールマイト先生の超超々大ファンだって聞いたし、憧れが大きすぎてよくわかってなくてもオールマイト先生が言ってるから正しい!と妄信して本来の持ち味である分析、解析を働かせてない。分からないです、と言えてないんだ。どうしよう、じゃあそのままで頑張りましょうなんて言えないし。

 

 「そろそろ授業が始まるだろう。私の用事は終わったし、緑谷少年も楪少女も体育祭、頑張るんだぞ」

 

 「オールマイト先生!今日はどのくらい活動時間が残ってますか!?」

 

 「……そうだね、残り10分あるかないかってところかな。それがどうかしたのかな?」

 

 「ならその時間!私に全部くれませんか!?授業の後、お時間を割いてほしいんです!そこでデクくんに個性の使い方を教えてあげてください!」

 

 「……なにか、考えがあるのかい?」

 

 「はいっ!オールマイト先生の感覚を、私が言葉にします!」

 

 

 

 ヒーロー基礎学を終えて、下校時刻。オールマイト先生に呼び出しを受けた、ということにして私とデクくんはオールマイト先生が抑えてくれた演習場にやってきた。既に体操服に着替えていて、オールマイト先生が来るのを待っていると、デクくんが話しかけてきた。

 

 「あの、楪さん」

 

 「ん、と……なに?デクくん」

 

 「その……どうして、そこまで協力してくれるのかなって、思って……」

 

 「あー……怪しいよね、ごめん」

 

 「いやいやいや!そうじゃなくて、その……楪さんには関係のない話のはずだから……」

 

 がっちゃんがっちゃんと音を立てて私がラジオ体操を繰り広げてるとデクくんは私が何で肩入れしているのか不思議になったみたいで、質問してきた。正直に言えば、罪悪感かな……だって、私が黙ってれば終わってた話だけど、私が抱えきれない弱い女だったせいで結局オールマイト先生の秘密を暴く形で知ってしまったんだから。けど、他に理由がないわけじゃない。

 

 「クラスメイトで、友達に協力してあげたいなって思うのっておかしいかな?」

 

 「そ、それだけ?」

 

 「それだけってひどいなあ。でももう一つあるよ、デクくんに自分を大切にしてほしいなって思ったから」

 

 「僕に……僕を大切にしてほしい?」

 

 「そう、何かあるたび怪我してさ。骨折っちゃって……見てる私が痛いくらい。私だって人のこと言えないけど、デクくんには換えがないんだから、羨ましいくらいだよ?生身の手があるのに自分でボロボロにしちゃうんだもん」

 

 しゃがんで、彼の両手を私の手で包む。私の機械の手にはない体温、正直羨ましい。私のこの機械の手では、誰かを暖めることはできない、同じ体温を共有することはできない。私にとって生身の体というのは自分にはないもので、ちょっとした憧れ。産まれた時から手足が機械で手を繋いだ時の感覚とか、そういうものを私は知らない。触ってることはわかるけど、結局それは機械の圧点のデータが脳に送られてるだけだから。生身同士で感じる感覚みたいなものは正直分からないんだ、私。

 

 「私も……USJで見たよね?手と足、必要なら犠牲にするよ。けど、それはまた元に戻せるからなの。でもデクくんは違うじゃない。あんな風に壊してたら、本当にヒーローになる前に手が動かなくなっちゃう。私はそれが嫌なんだ」

 

 「楪さん……」

 

 「せっかく暖かい生身の手があるんだもの。それなら、その手で誰かを助ける前に自分を助けないと。ヒーローが自分を大事にできないのに他人を大事にしてたら怖がられちゃう」

 

 ぎゅっとできるだけ優しくデクくんの手を握って立ち上がる。デクくんは自分の手を見て何か考えてるみたい。そうだそうだ、ちゃんと考えろよ若人~、なんてね。手を壊すのが常態化してきたら正直まずいし、そもそもそれを躊躇なく行えるのは正直頭ぶっ飛んでるよ。私ですら腕なくなるのちょっとイヤなのに。だから早めにおかしいってことを自覚させたい。訓練で腕ぶっ壊すな!初めて見た時炉心一瞬止まったんだぞ私!

 

 「おーい緑谷少年!楪少女!待たせてごめんね!」

 

 「オールマイト!」

 

 「オールマイト先生!すいません、無理を言って」

 

 「なに、楪少女の言うことももっともだよ。私はもっと緑谷少年に寄り添わねばいかんのだ。それで、ワンフォーオールの使い方の話だね?」

 

 「ええ、準備しますので少し待ってください」

 

 トゥルーフォーム、というらしいガリガリの姿でやってきたオールマイト先生に頷いた私は体操服の上のジャージを脱いで、裾を捲り上げてお腹を露出する。なんかデクくんが異常に慌ててるけど私のヒーロースーツはもっと露出してるでしょ?お腹くらいでそんな慌てられたらヒーロースーツの私はどうなっちゃうのさ。それはともかくとして

 

 私の腰後ろあたりからいくつかのメカアームが変形しながら現れて、数台のカメラと金属を重ねた積層材のようなメカの塊を生み出した。アームからそれを切り離した私はそれをせっせと配置する。今回は暴風が想定されるので演習場の地面に挿すタイプのカメラだ。最後に重さ1トンを超える金属塊をカメラの真ん中あたりに設置して準備完了。

 

 カメラは今回確実な動作をしてほしいので有線にした。設置するたびに有線コードを私の首後ろに直結して、とこれでよし!オールマイト先生に金属塊の前に立ってもらう。

 

 「準備完了です。オールマイト先生、先生は威力の調整ができるとお昼に仰ってたので、その機械に段階的に出力を上げたワンフォーオールの一撃を放って欲しいんです。私がそれをデジタルに解析します。まずは5%から」

 

 「なるほど、しかし硬そうだね。緑谷少年、よく見てなさい。ムンッ!」

 

 「はい!オールマイト!」

 

 オールマイト先生が力むと何時ものムキムキマッスルなオールマイト先生に変身した。これがただ力んだだけだというからよっぽど個性っぽいんだけどな……SMASHの掛け声とともにオールマイト先生の拳が金属塊に打ち込まれる。これで5%?すごいなワンフォーオール……積層材の表層にがっつり拳の跡が付いてる。なるほど、力み方はこういう感じね。

 

 「どうだい、楪少女」

 

 「はい、力の込め方が分かりました。あとワンフォーオールのエネルギーの流れもです。続けてください。10%を」

 

 右目の上にモノクル状のHUDを増設して適当なピンで右目を露出する。カメラの耐久値確認、もんだいなし。情報処理能力をフル稼働して起きた事象を解析する。拳の内から、練り上げられた力の流れを見る。ワンフォーオールはかなり観測しやすい個性だ。何せエネルギー量が大きすぎる。倍の威力のSMASH、積層材の1層目が死んだ。威力にして20トンはくだらない。そりゃこんな力を振るえば腕も壊れるよね……

 

 

 「では、100%全力でお願いします」

 

 「わかった。流石に危ないので少し離れてなさい……DETROIT……SMAAAASH!!!!」

 

 「わあああっ!?」

 

 オールマイト先生の100%の打撃、15%あたりから暴風が伴うようになってきたんだけど、必死にノートを取るデクくんと解析を続ける私は気にも留めなかった。だけどこれは違うや、吹っ飛ばされる。乙女の秘密の体重が300㎏を超える私がだよ?デクくんも吹っ飛びそうだったからとりあえず抱き寄せて私が踏ん張る。1mほど暴風に押されてようやくそれが収まる。積層材のパンチングマシーンが影も形もないや。けど、情報収集はおわった。うん、これならいけそう。

 

 「む、むむぐ……」

 

 「あ、ごめんねデクくん。抱っこしたままだった」

 

 「ぷ、ぷはあ!ゆ、楪さん!?」

 

 「どうしたの?顔真っ赤だよ?」

 

 「HAHAHA!青春してるねえ緑谷少年!どうかな楪少女、何かわかったかい?」

 

 「はい。色々と。ですけどそれを全部吹っ飛ばす収穫がありました」

 

 オールマイト先生のSMASHを解析しているうちにとてもとてもいい収穫があった。私にとってじゃなくてデクくんにとっての話。ワンフォーオールのエネルギー移動の話とか、力み方のデジタル的な話とか全部纏めてなかったことになっても余りあるほどの大収穫があったのだ。

 

 デクくんは私に抱っこされたのがよっぽど恥ずかしかったのか分からないけど真っ赤な状態でブツブツ言ってる。私は首元に繋がってる有線ケーブルを纏めてぶちぶちっと引っこ抜いて、デクくんの目の前で手を打ち合わせる。ガシャアン!という音で飛び上がってびっくりしたデクくんが正気に戻ったタイミングで二人に向き直った。

 

 「私、デクくんに100%を撃たせて怪我をさせない方法を見つけました」

 

 「えっ!?それほんとなの!?」

 

 「ブハァ!?楪少女それほんと!?」

 

 興奮すると吐血するらしいオールマイト先生と全く同じ反応をするデクくんを見ながら私はにっこり笑って口を開くのだった。




 これより原作主人公の強化を執り行う!よくよく考えれば手をぶっ壊して勝つってめっちゃ怖いっすね...

 デクくんには個性制御を早めに覚えてもらおうと思います

 感想評価よろしくお願いします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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