「今日の特訓は二人とも来るの~?デクくんは引き続き頑張ろうね」
「うん!今日もよろしくね、楪さん」
「当然!次こそは希械のハンマーを止めてやるよ!」
「あたしもー!仲間外れは寂しいよー!」
「4人とも、何のお話をしてるのかしら?」
「あ、梅雨ちゃん」
デクくんの特訓二日目、今日の特訓にくるの?と二人に聞いたら当然行く!というお返事が。まあ当たり前だよね、昨日の進捗としてはデクくんのワンフォーオールの発動速度が速くなるという結果に終わった。本題の威力の調節は95%までで止まってしまったけど、なんと今日デクくんに朝聞いたらイメージを見つけたって聞いたからちょっと楽しみなんだ!
そんな話を4人でしてるとこのメンバーで固まってるのが珍しいのか口元に指を当てた梅雨ちゃんが会話に入って来た。実は、演習場を借り切ってデクくんの個性の特訓してるんだ。ついでに私とかの個性の特訓もしてるの、という話をすると。梅雨ちゃんは遠慮がちに手をツンツンとしながら
「あの、それって私もお邪魔したらダメかしら……?」
「来てくれるなら全然大丈夫だよ~。お家とかに連絡しなくて大丈夫?」
「ちょっと確認してみるわね」
「すまない、昨日聞いて気になってはいたんだが……俺たちも参加していいだろうか?」
「私も!参加させて欲しいですっ!」
「あ、飯田くんに麗日さん。いいよいいよ~おいで~」
飯田くんに麗日さんも参加だね~。家族に確認し終わったらしい梅雨ちゃんがホクホク顔で大丈夫だったわ、と戻ってきたので今日はまた増えたなあ、と思いつつもドアを開けて出ようとすると……なんかめっちゃ人がいる!?え?なにこれ……外に出れない、と困惑していると同じ状況らしい後ろ側のドアを開けた峰田くんが
「んだよこれ!?外出れねえじゃん!」
「敵情視察だろザコ。意味ねえからどけモブども」
「あの、人の事モブっていうのよくない……」
「ああん!?」
「ひっ!?」
「希械ちゃん爆豪みたいなタイプに弱いよね。よしよし怖かったね~」
教室の外にいたのは別クラスであろう人達の山で、廊下一杯に埋め尽くされるほどの数が集まっていた。爆豪くんは前から思ってたけど人の事モブって言っちゃダメって注意したんだけどあまりにも怖すぎて結局尻すぼみになってしまい、さらに睨みつけられて私は三奈ちゃんに慰められる始末、情けない。うう、爆豪くん怖すぎない?目の吊り上がり方がえげつないよぉ……
「ヒーロー科にいるやつってみんなこんななのかい?ちょっと幻滅しちゃうなあ。知ってる?体育祭のリザルトの話。結果によっては……ヒーロー科編入も検討してくれるって話を」
「知ってるわんなもん。んだけど今この時点で入試の時のてめぇとどれだけ違う?体育祭で下克上できんなら最初っからヒーロー科におるわクソ隈野郎」
「っ……悪いけど、宣戦布告しに来たんだよ。調子乗ってると足元掬っちゃうぞ……ってさ」
な、なんて大胆不敵な宣戦布告を……それに眉を動かさずに答える爆豪くんも豪胆だなあ……でも確かに爆豪くんの言うことにも一理ある。入試は確かに戦闘できる個性が有利なのは間違いないんだけど、例えば葉隠さんとかがいい例で、ただ透明なだけでも素手でメカは破壊できたし、何なら人助けという隠れた手段もあった。入学からひと月立たないこの時点でヒーロー科に編入できるポテンシャルがあるなら、最初からヒーロー科にいるハズなんだ。
失礼ながら、大胆不敵な彼を右目で捉えると……うん、あまり運動能力は高くないと思う。多分、このクラスの誰よりも体は鍛えられてはいない。だけどこんなに自信があるのだとするならば何かあるはず、例えば個性とか。使えば問答無用で相手をどうにかできる個性だからここまで余裕なのかも……?
「おいおいおいおい!隣のB組のもんだけどよぉ!ヴィランと戦ったつーからちっと話しようかと思ったら随分調子乗ってるじゃねーか!本番で恥ずかしいことになんぞ!」
「ちょ!希械ちゃん急にどうしたの?」
「……さっきから聞いてたら、なんで私たちが調子に乗ってるだなんて決めつけてるの?力不足を痛感したばっかりなんだよ、私たち」
「お、おお……!?」
2連続で調子づいてるなんて言われたら流石に私としても言いたいことがある。調子に乗ってる?とんでもないよ。外から見たらヴィラン相手に誰も欠けることなく生き残った優秀なクラスに見えるかもしれない。でも、私は全力を尽くしても勝てなかったし、デクくんは怪我をした。他の人たちもヴィラン相手に大なり小なり戦って、思うところはみんなある。プロの世界を間近でみて、今の自分がどれだけ足りないかを頭を殴られた衝撃くらい、ガツンと知ったんだ。
近づいて、B組の男子生徒を見下ろす。いきなり私が出てきて見下ろされたもんだからB組の人は少し引き気味だ。私は確かに引っ込み思案であんまり自己主張が得意じゃないけど……言うべきことは言わないといけないというのはよくわかってるつもり。だから、彼にも言いたいことを言わせてもらう。
「調子に乗ってないよ、私たち全員。私たちはヴィラン相手に生き残って、自分の力のなさを知った。ヴィランの怖さを知った。だから、強くなる。体育祭に向けてみんな必死にやってるよ。あなたも、そうじゃないの?」
「確かに、そうだ。悪ぃ、廊下で聞こえた言葉でついカッとなっちまった。すまん!謝らせてくれ!体育祭じゃお互い正々堂々力比べしようぜ!」
「うん、私も強い言葉使っちゃってごめんね」
B組の人は勢い良く頭を下げて、帰っていった。何となくえーくんと同じ感じの性格っぽかったからちゃんと話せば伝わるんじゃないかなって思ったし、その通りだった。爆豪くんは舌打ち一つして帰っちゃったけど、どうも普通科や他の人たちにも火を付けちゃったみたいで敵情視察らしい人たちはまばらに解散してしまった。
「楪ちゃん、かっこよかったわよ」
「……私大分調子に乗ったこと言ったんじゃないかな……?」
「さっき調子に乗ってねーって言ってたろ希械。言いてーこと言ってくれてすっきりしたぜ俺は」
「違うの……みんなをバカにされた気がしてつい……」
全部終えた後で私は自分がとんでもない宣戦布告を逆にし返したんじゃないかと思い至り、顔が真っ赤になった後真っ青になるというムーヴをかましてえーくんに泣きついた。慰めてくれる梅雨ちゃんとえーくんがあったかいよぉ……他のみんなも私を慰めてくれるし、みんないい人だ……。特訓頑張らないと……。
「おお~~!ひろーい!」
「僕、ごほん。俺が思いっきり走っても問題ない広さだな……流石はオールマイトの演習場……!」
「飯田ちゃんはインゲニウムの使っているところを使えたりしないのかしら?」
「それは流石にフェアじゃないだろう」
「そう?使えるものは何でも使っていいのよ。それも含めて実力だって、相澤先生なら言うわ」
ところ変わってオールマイト先生の演習場、ここに来るのは昨日ぶりだけどやっぱり広い、それは飯田くんに麗日さんも同じ感想なわけで、両手を広げて海だー!みたいにやってる麗日さんと感心しきりの飯田くんの対比がちょっと面白いかもしれない。それはともかくとして、これを聞かなきゃ始まらないや。
「それで、デクくんが固めたイメージってなにかな?」
「あ、うん。その、電子レンジに入れた卵……なんだ」
「……なるほど?電子レンジが個性で、卵がデクくん?」
「うん!そう!だから、卵が爆発しないイメージ!」
で、デクくんって感性が独特なのかな?それとも家にある電子レンジで思いついたのをそのままイメージしてきちゃったのかなあ?そんなわけで私は電子レンジを作ってゴトンと地面に落とす。卵はないけれど実物があればより分かりやすくなるはずなのだ。腕にコンセントの穴を作ってそこに電子レンジのケーブルを繋ぐ。
「電子レンジだと、一番わかりやすいのはワット数を減らすことだよね。デクくんのイメージの電子レンジ、どんな感じ?私が作ったこれであってる?」
「うん、こんな感じだよ。出力を減らすってことは……」
「この摘まみ、ちょっと古い型にしたんだけどスイッチ操作よりわかりやすいかなって思って。個性を使う時に、この摘まみを思いっきり弱い方に入れるイメージでどうかな?」
「うん、やってみるよ」
「そうそう、その調子だよ。じゃあ頑張ろうね!みんなー!デクくんが使うから注意してねー!」
演習場の片隅で、しゃがみ込んだ私とデクくんがイメージについてあーでもないこーでもないと話しながら相談を済ませる。昨日と同じでチョバムガントレットをデクくんに装着した私はHUDを右目に増設して全力解析でイメージを固めたデクくんを観察。スマッシュの気合の雄たけびと共に放たれた一撃は、かなりいいセンをついていたようで、私は喜んで飛びあがる。
「デクくんデクくん!凄いよ!昨日と全然違う!40%!大幅削減だよ!このまま行けばすぐに怪我しないレベルに持っていけるよ!」
「うん!今のは僕もかなり手応え感じたよ!これで行けるのなら……あとは……」
「あ、ブツブツ始まった。あとは試行回数だね!ガントレット置いておくから足りなくなったら言ってね」
昨日は95%までしか下げられなかったのに昨日の今日で40%まで一気に減った。やはりイメージを掴むのはかなり大事なようだ。というのも私の個性も設計図とかそういうのをきちんと覚えて何を作るかイメージしないと変なものができるからね。メモリのおかげで設計図とかは詳細に覚えられるからあんまり気にしてないんだけど。よそ事に気を取られると愉快なオブジェができる。GANRIKINEKOが出来た時はどうしようかと思ったよ。
「おーい希械。今日はアレやってくれ。次のステップに行きてぇ」
「ホントにやるの?ハンマーで叩いてほしいだなんて」
「おう!オールマイトのアレ食らった後だと俺ももっと頑張らねえとッて思うんだよ!」
「うーん、そもそも私えーくんをぶつのも嫌なんだけど……」
「何するん?」
「えーくんの個性の特訓。見てれば分かるよ」
そして私はグレートメイスを作り出して構える。通常形態だから戦闘形態ほど威力はないけど全力パンチよりは威力あるよ?上半身を脱いだえーくんに相対した私が思いっきり横に振りかぶってえーくんにメイスをぶつける。全身硬化したえーくんにぶつけるとすさまじい音がして火花と一緒にえーくんが地面を擦って吹っ飛ぶ。10mくらい吹っ飛んでようやく止まった。
「ぶはっっ!どうだ!行けるじゃねえか俺!」
「切島ちゃん、凄いわね。希械ちゃんといつもこんなことしてるのかしら?」
「うん、えーくんの個性って打たれれば打たれただけ硬くなっていくの。今までは木刀とか、鎖とか、私が叩いてたんだけどついには私に満足できなくなったみたいで……」
「切島君、最低や」
「なんでだよ!いい方が悪いだろいまのは!」
「???何の話?」
「希械ちゃんはそのままでいてねー?」
「????」
なんだかよくわからないけどえーくんがめっちゃ責められてる。えーくん何も悪くないのに。それはともかくとして、えーくんが遂に私のパンチを越えて武器の領域に足を踏み入れ始めちゃった。カチカチや~と硬化したえーくんをぺしぺし叩いて遊んでる麗日さんが癒しなんだけど、これ体育祭でえーくんに当たったらヤバいんじゃないかな?本当に戦闘形態で全力パンチすることになりそうで怖いと、私は若干戦々恐々としつつ特訓に精を出すのだった。
翌日以降も、八百万さんや耳郎さんをはじめとした人たちが特訓の話を聞きつけて参加していき、いつの間にかクラスの半数がオールマイト先生の特訓場に集まって各々個性の特訓に励むようになっていた。ヒーロー基礎学の復習も兼ねた反省会も開かれるようになって益々みんな盛り上がっていた。そんな中、デクくんのワンフォーオール制御特訓もかなりいいとこまで行き、1週間でかなり集中する必要はあれども体が壊れない上限、5%でワンフォーオールを使えるようになってしまったのだ。凄いなデクくん、個性初めてってほんとかな?
そして2週間で制御能力はかなり上がったと思う。連続して別の部位に発動することができるようになり、チョバムガントレットなしでも手が折れるようなことはなくなった。初めて成功した時は涙の圧で地面に足が埋まるほど泣いてたんだよねデクくん。それがあまりにもヤバくて私珍しくおろおろして久しぶりに変なオブジェを作っちゃったよ。
2週間はあっという間に過ぎて、雄英体育祭の日がやってくるのだった。
次回から体育祭を始めます。デクくんがどれだけ強くなったかはお楽しみに!
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