個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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18話

 「緑谷、お前……オールマイトに目かけられてるよな」

 

 「轟くん……?」

 

 「別にそこ詮索するつもりはねェが……お前には勝つぞ」

 

 体育祭の控室、開会式を間近に控えて飯田くんが全員に準備は終わったか尋ねていると、深呼吸したデクくんに近づいた轟くんがいきなり、デクくんに向かってそう言ったのだ。私はエネルギー補給のために頬張ってたおにぎりを咥えた態勢のまま固まってしまったけど、どうやら言われたデクくんも思うところはあった様子で

 

 「皆……他の科の人も本気で取り組んでるんだ……言われるまでもないよ、轟くん。僕も本気で勝ちに行く」

 

 「……おお」

 

 喉に詰まりそうだったおにぎりを何とか飲み下してバチバチに変な空気にならないか心配してた胸をなでおろす。体育祭前に変な空気になるのはちょっとごめんかな……そう思ってると今度は私の方にやってくる轟くん。ちょっと待って今私おにぎり頬張っててめっちゃかっこ悪いから!30秒待って!ごっくんするから!

 

 「楪、お前もだ。今度は負けねぇ」

 

 「う、うん……もうちょっとタイミングとかない?」

 

 「なんか問題あったか?」

 

 ないと言えばないんだけど、私の口の中がいっぱいな問題とかがあったんだ。クラスのみんなからの生暖かい視線がいろんな意味で恥ずかしい。ええい、やけ食いして誤魔化そう……え?もう出番?そんな……私の3合おにぎり……。

 

 

 『雄英体育祭1年ステージぃ!入場行進だぜエヴィバディ!どーせ目的はこいつらだろ!?ヴィランの襲撃をしのいだ超新星!1年A組だろぉ!?』

 

 「ま、マイク先生そんな他のクラスにケンカ売るような紹介しないでよぉ……」

 

 「な、なぁ?なんか緊張するぜ爆豪……」

 

 「しねぇよ。ただただアガるわ」

 

 確かに私たちには話題になるものがあるというのは理解するけど、この体育祭は学校行事なので一クラスだけに肩入れするような紹介はやめて欲しいんだよプレゼントマイク先生……ひぃ……!他クラスからの視線が怖い……あと客席からちらほらとうお、でかい子だな、とか。パワーありそうでいいな、指名入れてみるかとか私に向かっての声が聞こえる。ひぃ、でかすぎて悪目立ちしてるよ私……!

 

 「では!選手宣誓!選手代表!1-A爆豪勝己!」

 

 他のクラスと一緒になって入場した私たちが中央で整列すると今年の体育祭の1年ステージを担当するらしいとんでもない薄い煽情的なヒーロースーツを身にまとった先生、18禁ヒーロー、ミッドナイト先生が選手宣誓を宣言して爆豪くんを指名した。あれ?爆豪くん宣誓の練習してるの見たことないけど大丈夫なのかな……?

 

 「爆豪なのか、あいつ入試1位だったしなぁ」

 

 「ヒーロー科の、入試な」

 

 爆豪くんが壇上に上がる時に吐き捨てるように言われてポケットに手を入れて壇上まで上がる。その時にぽろっとでた瀬呂くんの言葉に目ざとく反応した隣の普通科の人の言葉が妙に引っかかった。何でこんなに敵意むき出しなんだろう、別に私たち貴方たちに何かやったわけじゃないよね?爆豪くんのことは別にしても。なんだか気分悪いぞ……。

 

 「せんせー、俺が一位になる」

 

 「やると思った!」

 

 「かっちゃん……」

 

 「ふざけんなA組コラぁ!」

 

 「ヘドロヤロー!」

 

 「せめて跳ねのいい踏み台になってくれや」

 

 訂正、これなら嫌われるのもしょうがないよね。とても納得できました、私はこの1年きっと別クラスのお友達は出来ないんだろうなあ、くすん。なーんで爆豪くんは自分から嫌われるようなことしちゃうかなあ!私たちまで巻き込んでもう!しらないよどうなっても!むー、これはちょっとこまったぞ。首を掻っ切るジェスチャーをして列に戻った爆豪くんとついでに私たちに強烈なヘイトが向いてるのを感じる。

 

 「では早速第一種目よ!それはこれ!障害物競走!」

 

 きょ、競争!?どうしよう私そんなに早くない!いやその、早くする手段は沢山あるんだけど大体周りに場所がないと無理だよ!この人数で密着して競争するのはとっても不利だ!こ、こまった倍にこまった!うーん、あ!いいこと思いついた!

 

 「ルールは単純!このスタジアムの外周4kmを走って先着順で決めるわ!当然わが校の売り文句の自由さを存分に発揮して、コースを守れば何したってかまわない!」

 

 その言葉に私は、にんまりと笑った。コースさえ守ればルール違反がないというのは私にとって物凄く有難いルールだからだ。何してもいいということは、手段の豊富さが売りの私の独壇場……と言いたいところなんだけどこの種目と出来れば次の種目までは順位を抑えたい、んだよね。ただでさえ目立つ私がさらに目立てば対策を取られちゃうかもしれない。今回と次回は出来れば情報収集に徹したいかな。

 

 位置につきまくりなさい、というミッドナイト先生のお言葉で、皆が正面のゲートに我先に殺到する中私は逆に最後尾に向かって逆走する。正直やる気がないらしい他の普通科の奇異の視線に少しだけ顔を隠して恥ずかしく思いつつも狙い通りの場所、最後尾から少し先に着くことが出来た。

 

 『スターートォ!!!」

 

 わぁっ!と我先に入り口に殺到する1年生たち、A組のみんなはあっという間に消えちゃった。それに対して私は、動かない。というか動けない。レースとはいえ強引に特攻できなくもないんだけど、まず間違いなく誰かにけがをさせてしまう。なので密集地点は出来るだけ避けてみんながいなくなった時に一気にごぼう抜きする予定。

 

 『おーっと注目の1-A楪ぁ!!動かないぞどういうことだぁ!』

 

 「もう、マイク先生も視野が広いんだな……もういいや。ホバーバイク、形成開始(レディ)

 

 私の下半身が変形して宙に浮き続ける流線型のバイクのような乗り物を作り出した。これはホバーバイク、I・アイランドというところで最近発見された反重力発生装置の理論を組み込んで私が作り出した空を飛ぶバイク、の試作品である。当然サポートアイテムの許可は取ってないし私には取れないので私専用です。足と切り離してそれに乗った私、アクセルを捻ってホバーバイクを加速させてゲートに突っ込んだ。

 

 おそらく轟くんあたりに凍らせられたであろう足が凍り付いて進めない人たちの上空を飛んで、なんかドンパチ聞こえるエリアに到着する。目の前にあるのは……うわー、懐かしい。入試の時の大型ロボットが沢山!どんだけお金かけてるんだろう、というかお金ありすぎじゃないかな?

 

 『あーーーっ!そのバイクイカすな楪!今度の授業で乗せてくれよ!動かなかったのは場所を確保するためか!』

 

 『マイク、私情を入れるな。楪の強みは豊富な手段と圧倒的な科学力。そして、入試のロボ・インフェルノを木っ端微塵にした一人だ。障害が障害にならんぞ』

 

 あ、相澤先生いるんだ……?解説?それはその、ぜったいマイク先生が引き込んだに違いない。だって相澤先生こういうの自分からやるわけがないって短い付き合いでもよくわかるもん。普通なら多分だけど、寝袋にくるまって寝てたんじゃないかな……?それはともかく、私はホバーバイクについてる機銃を連射して、ロボ・インフェルノを穴だらけにするけど……流石に数が多いし、他の人も危ないし……消し飛ばしちゃおうかな。入試の時みたいに。

 

 「ギガランチャー、形成開始(レディ)

 

 相澤先生に個性発動の邪魔になるので、と入れさせてもらったジャージの背中のファスナーを下ろす。背中から出たメカアームが巨大な2丁のバズーカに変わり、ホバーバイクを手放し運転した私がそれを両手に背負う。さらにメカアームは背中で大きな弾倉を形成してそこから伸びたベルトリンクがバズーカにつながる。ギガランチャー、端的に言えばベルト給弾式ロケット砲弾発射装置。その威力は押して知るべし、毎分100発のロケット弾のカーニバルなのだ。弾頭は破砕しないで燃焼して溶ける仕様になってるから爆発しても破片手榴弾みたいにはならない。

 

 『うおおおおおっ!?楪やり過ぎだろぉ!?』

 

 『よく見ろマイク、当ててるのはロボ・インフェルノの上部だけだ、下に被害がいかないようにしている。爆発半径を完全に知っていないと不可能な行為、自分で武器を作る楪ならではの策だ』

 

 ひょえ、なんか相澤先生がめっちゃ褒めてくれる嬉しい。それはともかく、絨毯爆撃で目の前のロボットを粉砕した私はそのままギガランチャーを投げ捨て、空っぽの弾倉を誰もいないところに放り捨ててホバーバイクを唸らせる。上空10mほどを人の足よりも速く進むホバーバイクのおかげで第二の障害、マイク先生の説明曰く、ザ・フォールにたどり着いた……んだけど……

 

 「これ、今の私意味ないよね……」

 

 空を飛んでる私には全く関係ない。どうやって掘ったんだろうと思えるほど深い円状の谷の中に足場とロープが張り巡らされているけど今の私はホバーバイクで地上から浮いている状態、これ便利だな。通常の移動手段として候補に入れてもいいかも。少なくともメガ・ブースターで墜落するよりはまし。膝が悪くなるよ……私の膝は機械だけど、太ももまでは生身だからちょっと考えた方がいいのかなあ?

 

 みんながロープに苦戦する中私は悠々と一直線に横切ってザ・フォールを抜ける。先頭集団が見えてきたかな……狙いは10位から20位の間。上位何組が上に行くっていうのは聞いてないんだけど流石に30人くらいは上に進むことができるだろうというやつだ。

 

 『さあラストの障害!怒りのアフガン!一面の地雷原だぁぁぁ!!!』

 

 「じ、地雷!?流石にこれじゃ安定性に欠けるし……!そうだ!プーマバギー!形成開始(レディ)!」

 

 地雷と相対するにはホバーバイクだと不安だ。というのもこのバイクは反重力を使って浮いているので早い話が麗日さんの個性を使っているような状態、まともに攻撃や爆風に当たるとひっくり返ったりするかもしれないんだ!だから私は誰もいない地面に突っ込んで再変形、どんな悪辣な地面でも進めてさらに横転にも備えたバギー、プーマバギーに変える。当然これも無許可!武装は機銃と連装ミサイル!使わないけど!

 

 ブルゥゥロロロォォン!と甲高いエンジン音をあげると同時に、私がいる前で大爆発が起こった、咄嗟に右目を出して爆発の先を見ると……デクくんだ!地雷を集めて大爆発させて……さらに使えるようになったワンフォーオールの5%で空中を蹴って加速させて、転がり込むように一番にスタジアムに戻った!

 

 『誰が予想したぁ!今一番にスタジアムに帰ってきた男!緑谷出久の存在をぉ!』

 

 「すごいや、デクくん。本当に勝ち取ったね……!負けられないけど!」

 

 クラッチを放してフルスロットル。アフガンを一文字に突っ切る。みんなは誰かが通った後があって地雷が少ないエリアを選んでるけど私には関係ない。地雷原のど真ん中に突っ込んで、爆発で時折浮きながらもバギーをフルスロットルで動かし、誰かを轢かないように激しくハンドル操作をしながら怒りのアフガンを突っ切る。

 

 『最後尾からごぼう抜きィィィ!1-A楪希械!インテリジェンスを見せて9着でゴールだぁ!!!!』

 

 『周りを気にしすぎるきらいがあるが、そのくらいがちょうどいい個性かもしれん。何にせよ、個性の使い方はうまい方だ……が、危険な運転は厳禁、あとで説教だ』

 

 「そ、そんなあ……!だから最後まで残って巻き込まないように頑張ったのに……!」

 

 「だーくっそギリギリ負けたか……希械おめー、後続爆発でビビりまくって一瞬止まったぞ」

 

 「……素直にお説教受けます。ごめんなさい……」

 

 私の後ろでゴールしたらしいえーくんにずびしと運転席の上からチョップを貰って反省の弁を述べることにします。あ、先生これどこに置いたらいい?え?セメントス先生乗りたいの?いいですけど……はい、キーです。クラッチ重いんで気を付けてふあっ!?何という運転スキル!?すごい、ドリフトで別のゲートから出ていっちゃった……。

 

 それはそうと、ぐいっと立ち上がって背中のファスナーを閉じる。これでよし、ギガランチャー作った時から開けっ放しで背中丸見えだったもんね。うわ、峰田くんが八百万さんの背中に引っ付いて入って来た。これはわかるよ、サイテーだ。もう、しょうがないなあ峰田くんは。

 

 「みーねーたくーん。今すぐ離れるのと私が引きはがすのどっちがいい?」

 

 「いや、俺がやった方が早い」

 

 「いぎゃぎゃぎゃ頭潰れる!潰れるから!離れるからやめうぎゃああああああっ!?」

 

 「あ、楪さん切島さん……ありがとうございます……」

 

 よっぽど不快だったのかぷんぷんと怒ってる八百万さん、私が選択肢を与えたんだけどそれよりも早くえーくんが手を硬化させて峰田くんをアイアンクロー、あまりの痛さに峰田くんは悲鳴を上げて八百万さんから離れた。その隙に私は金属板を作って八百万さんの周りに突き立てる。簡易的な更衣室の完成。天井作って中に電球付けて、よし。

 

 「八百万さん、もぎもぎ引っ付いただろうし着替えちゃいなよ。周りに見えないようにしたからね、服は作れるでしょ?」

 

 「はい!ありがとうございます楪さん、何から何まで……」

 

 「お友達だもん、ライバルでもこういうことはさせて欲しいな」

 

 「はいっ!」

 

 簡易更衣室の中からの元気なお返事に、ぷりぷりとしてる可愛い八百万さんを想像してしまって、私も笑顔になってしまうのだった。




 元ネタ解説
 ホバーバイク&プーマバギー
 ラチェット&クランク4より。ガラメカ系はロマンと面白さが詰まってるのでちょくちょく出ると思います
 ギガランチャー
 ガンダム種運命のドムトルーパー正式採用型のウィザードより。毎分100発でバズーカ撃ってくるのは頭おかしいと思う

 多作品武器が本格的に出始めるのでタグにクロスオーバーを追加します

 感想評価よろしくお願いします

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  • 必用
  • 本編だけにしろ

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