個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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2話

 スタート?スタートって言ったよね?今先生絶対スタートって言ったよね?よーいドンの合図だったの?もっとこう、あるんじゃないかな!?と予想外の事態で処理落ちした私、当然ながら他の受験生たちもえっ?という感じで固まってしまっている。

 

 「ほらどうしたぁ!?実戦じゃカウントなんてねえんだぜ?!走れ走れ!賽は投げられてんぞ!?」

 

 その言葉でようやく、本当にスタートしていることに気づく。重い私は瞬発力に劣る、それは個性でカバーできるけど、こんなところで高熱のブーストを全開にしたら周りに迷惑だ。しょうがないので、一旦待つ。ようやく気付いた他の人たちが慌てて走り出す、団子のように押し合いへし合いしながら皆いなくなったところでようやく私は個性に燃料をくべた。

 

 「ブースト!フル!」

 

 爆炎と爆音を立てて背中のバーニアが推進剤を吐き出して、私を浮かせるどころか飛ばした。演習場のビル群を一瞬で飛び越えて最前列に躍り出た私が片手で巨大なスラストハンマーを振り上げて、なんか物騒な言葉を発しながらこちらに迫ってくるロボット数体に向けて振り下ろす。振り下ろした瞬間にスラストハンマーのブースターが起動して振り下ろしに更なる加速を加えた。

 

 「やあっ!!!」

 

 振り下ろされたスラストハンマーは豪快に数体巻き込んでアスファルトの地面に見事なクレーターを作った。飛び散った鉄の欠片やコードやガラスなどをなんかもったいないな、と思いつつチャージジャベリンを横に振るってこちらに来ていた3体ほどの敵マシンを両断する。えーとこれで……10点くらい?

 

 「うぇ、うぇい……」

 

 「あ、あああ、危ないっ!」

 

 ちょうど私の間近に居て、私の攻撃に驚いてしまったらしい金髪の男子生徒。私に気を取られてしまったせいで動きが止まり周囲の敵マシンの攻撃が当たりそうになる。吃りながらジャベリンを手放してその男子生徒を片手で抱き寄せて背中で割り込んだ。背中に敵マシンの攻撃が直撃する、が私はメカで今の背中は機械になっている、痛くもかゆくもない。胸の内でもごもご言っている男子生徒を解放しつつ、横薙ぎのスラストハンマーでビルの壁の染みにしてやる。

 

 「ご、ごめんなさい!私のせいで!あの、お互い頑張ろうね!」

 

 早口でいろんなことをないまぜにしながら謝り、ジャンプしてビル壁を蹴った私はまた飛んだ。もうちょっと前線の先に行った方がいいかもしれない、さっきみたいに私のせいで危ない目に会っちゃう人いるかもしれないし。咄嗟だったけど思いっきり胸を押し付けちゃって申し訳ないし、恥ずかしいし……。早く忘れよう、メモリから消去消去……。

 

 「もう!お前らのせいだああああああああ!」

 

 周りに誰もいないのをいいことに、普段はないくらい思いっきり叫んで力んだ私のジャベリンを構えた突撃(チャージ)は数体纏めて串刺しにしてビルを貫通してようやく止まる。あ、まずい演習場壊したらヤバいかも!?……し、試験だし事故だしまさか弁償なんて……ないよね?

 

 途中で見かける人が危なかったりしたらとりあえず割って入って助けたり、他個性の流れ弾が当たったりしながら暴れていると、残り2分だというプレゼントマイク先生の放送と同時に地面が揺れる。オイルを吹き出しながらジャベリンに貫かれた敵マシンからジャベリンを引き抜いていると、どこに仕舞ってあってどうやって出てきたのか分からないけど……ビルよりもずっとずっと大きいゼロポイントの敵マシンが、こちらに迫ってきていた。

 

 「すっご、おっきい……!」

 

 「でかすぎだろ!逃げろ!」

 

 「あんなのに巻き込まれたら死んじまうよ!」

 

 いつも言われる大きいという言葉を私は自分以外に久しぶりに使った。だって、そのくらいに大きい。身長240㎝の私がまるで小人のようだ。そいつはまるでドミノ倒しのようにビルをなぎ倒してこちらにやってくる。動きはゆっくりではあるが、歩幅が大きいのですぐにこちらにやってくるだろう。このままじゃ私も巻き込まれる。

 

 「逃げないと……っ!?」

 

 自分から出てきたその言葉にハッとなる。私はここに何しに来たんだ?思いっきり力を振るうため?……違う。じゃあ有名な雄英高校を記念に受験しておくため?……もっと違う。

 

 「私は……私はヒーローになりに来たんだっ!」

 

 自分への発破、そうだ。私はヒーローになりたい、大きな体、人から離れた機械の手足、そんな私でも人を守れると。誰かの手をこの冷たい機械の手で取って、守ることが出来ると証明するために!私は今ここにいるんだ!私のこの大きくて、硬い機械の体は、誰かの前に立って守るためにあるって!証明するために!

 

 「レールキャノン!形成開始(レディ)!」

 

 チャージジャベリンを持っている左手を変形させる。カチャカチャと金属音や何かが合わさる音を立てながら私の体積を越えて巨大な砲身が完成する。2本のレールの間に弾頭としてチャージジャベリンをセット、まるで戦艦にある砲台をそのまま持ってきたかのような長大なレールキャノンを持ち上げて、こちらに向かうお邪魔ロボットに向ける。

 

 同時に杭打機のように変形した私の足が地面に杭を打ち込んで体を固定し、腰から伸びた支えを利用してレールキャノンを発射態勢に持っていく。ブースターの中で燃やした推進剤の熱で発電、体内に元から作ってある不要物を分解してエネルギーに変える炉心をフル稼働させて必要な電気を急速にチャージしていく。

 

 排熱が間に合わない、体の各部に排熱口と吸気口を増設、空気を取り込んで急速に冷却を開始。オーバーヒートして行動できなくなる前にかたをつけないと、残り1分、十分だ。チャージ終了、右目の網膜に映るレティクルのど真ん中にやつを収めてロックオン。発射まで残り3秒、2秒、1秒……!

 

 「レールキャノン、発射(ファイア)!」

 

 2本のレールの間に紫電が走り、一筋の光となったチャージジャベリンが轟音を立てて発射される。すさまじい反動が私の左手ごとレールキャノンをぶっ壊して、その代わりにこちらに向かってくる巨大なお邪魔ロボットの足から上を消し飛ばした。バシュゥゥゥッ!と排熱機構から余った熱を吐き出しながら、私は片手をあげてガッツポーズをするのだった。よし、勝った!

 

 そしてぐううううっとお腹が鳴る。残った右手でお腹を押さえる。排熱とは関係ない熱さが顔に集まっていくのを感じる、ばっと右を見て、左を見ると同じ会場の受験生はみんな気まずそうに私から顔を逸らしている。え、エネルギーを使い果たしてしまったとはいえこんな高速でお腹が鳴るなんて……

 

 「おい、手!大丈夫なのか!?」

 

 「ふ、ふええええ~~~~ん!!!」

 

 完全に混乱した私は序盤で助けた金髪の男の子が心配してくれていたにもかかわらず、持ち直したのにスラストハンマーを放り投げて泣きながら逃げるという最悪の選択肢を取ってしまった。すさまじい音を立てて地面に落ちたスラストハンマーの音を聞きながら、私はバス停まで逃げかえり、そこで合流した三奈ちゃんとえーくんの顔が真っ青になるのを見て初めて、左手を忘れてきたことを再認識するのだった。

 

 

 

 

 「き、肝が冷えたぜ……!」

 

 「アタシ、希械ちゃんの手が取れるなんて想像だにしてなかったよ……」

 

 「ご、ごめんね。今は戻らないけど個性が使えるようになったら生やすから……!」

 

 「「生えるんだ……」」

 

 私の手足は機械なので、もげても一応再生させることはできる。触覚を感じられる程度の痛覚は通っているので痛いには痛いんだけどさっきまで興奮してアドレナリンドバドバだったし、熱が籠りすぎてオーバーヒートを起こしてたせいで感覚器官が一部死んで痛覚も麻痺してたから全然痛くなかった。今までもげたことなかったから二人には言ってなかったけど、再生できるのは理解してた。ロケットパンチを試した時に出来たのでできるとは思ってたんだ。

 

 今もすでに再生が始まっていてバチバチと電気やらが漏れてた肩口の所も既に漏れてたあれこれも止まっている。片手で凄い着替えにくかったけど三奈ちゃんに手伝ってもらう。熱が抜けきるまでは個性の使用は出来ないので帰るまではそのままでいいや。ああ、それにしても……

 

 「お腹空いたよぅ……」

 

 「思いっきり動いて確かに腹減ったなあ~」

 

 「ファミレスいこファミレス!ご飯食べてこー!」

 

 またしても大きな音を立てるエネルギー切れのお腹の音を二人に聞かれる。耳から蒸気を吹き出しながらゆでだこのようになる私に便乗するように腹が減ったというえーくんの助け舟とそれを察してくれた三奈ちゃんのおかげで私のエネルギー補給のめどは立ったのだった。落ち込んだり、喜んでたり、受験生の数だけ反応があるのだ。この中から上位の37人、今回は定員が一人多い形で選ばれる。

 

 制服の左袖がプラプラしてて落ち着かないな、とまだまだ体内の熱が冷める気配はなく個性もうんともすんとも言わない状態で歩く、気合で脚と手は普段モードに変形させたけどまだ腕が生えない。強制的に放熱できなくもないけど服燃えて全裸になるからヤダ。しょうがないのでそのままだなあ……三奈ちゃんのお話に気を取られて立ち止まってしまい、ちょうど腰あたりにぽすん、と誰かがぶつかってきた。あ、しまった!

 

 「ごごごごめんなさい急に立ち止まったりして!怪我してない!?大丈夫!?」

 

 「い、いいいいえ僕こそぶつぶつボケっとしててごめんなさい!」

 

 「いいいいえこちらこそ……」

 

 私の油断が招いたことなので振り返って謝る。やっぱり私よりもだいぶ小さい男の子だ、赤い大きな靴ともさもさの頭が印象的、彼はぶんぶんと頭を下げて謝ると私の言葉を待たずして足早に去っていってしまった、何となく落ち込んでるように見えたのは気のせいなのだろうか。彼も受験生だったし、もしかしたら結果が芳しくないのかもしれない。みんながみんな受かればいいのにな、とありえないことを考えながらも……私も変なことして失格とかになってないかなって心配になるのだった。特に最後のレールキャノンやり過ぎじゃないよね?あんなデカブツ出しといて、それはないと信じたい。

 

 

 「あ~~~~っ!!!そこ違ったの~~!?」

 

 「う、うん。でも私が間違ってるかもしれないし……」

 

 「やっべえ俺もここちげえわ。あー、ギリギリかこれ……?」

 

 「ううん、私が正しければだけど、二人とも合格ラインは上回ってると思うよ。私はその、国語が……」

 

 「希械ちゃん漢字とかそういうのは覚えられるけど作者の心情を読み取れ~とか苦手だもんねえ」

 

 「気持ちが分かれば戦争なんて起こらないんだよ!」

 

 「すっげえ極論だぜそれ」

 

 私は多分国語とか漢文とかとは一生仲良くなれないと思うのだ、と帰りの道で個性が使えるようになり新しく生やした新品の左腕でファミレスの昇天ペガサスマックスハンバーグセットをかきこむ。多少お行儀が悪いけどお腹が空いているから見逃して欲しい。何せ私は個性を使うと頗る燃費が悪くなる。不要物を分解する廃棄炉のエネルギーはあれど結局私の摂取したエネルギーで個性を使うのでご飯がそのままパワーになるのだ。個性使わなければ普通だけど。

 

 えーくんはミックスグリルとドリアのセット、三奈ちゃんはパスタとケーキ。私たちはご飯を食べながら今日の学科試験の答え合わせをしているのだ。と言っても答えが配布されてるわけじゃないので私のメモリ頼りになるんだけど、多分正答率は結構高い筈だ。自己採点の域は出ないけど、自信はある。つまりそれは二人の合格ライン越えを保証するものでもあるから。

 

 「あとは~~~実技だねえ~……」

 

 「芦戸は自信ねえの?」

 

 「いやさー、ヴィラン壊すよりも人助け優先しちゃって……ヒーロー志望だから、見捨てるのは変かなって」

 

 「私……街凄い壊しちゃった……失格になってないかな」

 

 「あー、確かに俺もどっちかっつったら人助けの方だなあ。だって俺の個性って守る方が適してるわけだしよ」

 

 「ま!これであとは結果を待つだけよ!何とかなるなる!この後カラオケ行こー!久しぶりに希械ちゃんのアレみたい!」

 

 「こ、これ?」

 

 「うおっ!?それどうなってんだ!?」

 

 「ゲーミングに光ってるだけなんだけど……」

 

 アレ、と言われてあたりを付けたのは私のお尻まである長い髪の毛。ファイバー形質のこの髪の毛は武装につなげればエネルギー供給できる優れものなんだけど副次機能として、いろんな色に光らせることが出来る。私の数少ない隠し芸で、ゲーミングな1680万色に発光させることが出来るのだ。カラオケで立った状態で歌えばセルフミラーボールである。一瞬で虹色になった私の髪に驚くえーくんに見せたことなかったかな?と疑問を持つ。

 

 この後、ご飯を食べ終えた私たちはカラオケ屋にフリータイムで入室し、受験のストレスから解放されるように思いっきり歌うのだった。あとセルフミラーボールはえーくんに結構ウケた、うれしい。




 機械がぶっ壊れうるのは様式美。反動でかい武器はロマン、発射後の排熱はロマン。全身機械の女の子もロマン。やはりロマンはこうでなくては。

 金髪のうぇいうぇい言ってる男の子は役得かもしれない(小並感

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