個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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21話

 『第4試合!見事なアッパーカットを決めて芦戸が勝利だぁ!』

 

 「三奈ちゃんさすが!」

 

 「楪ちゃん、嬉しそうね」

 

 「嬉しいよ!上鳴くんは残念だったけど……あ、そろそろ行かなきゃ」

 

 三奈ちゃんと上鳴くんの試合は一瞬だった。開幕の上鳴くんの全力放電を、前方に酸を噴射し続けて防いだ三奈ちゃんがアホになってしまった上鳴くんにアッパーカットを決めて勝利したんだ!三奈ちゃんの勝利に飛びあがって梅雨ちゃんと喜んだ私も、出番が近いので試合に備える為に控室に向かった。

 

 控室のテレビに映される映像だと、発目さんのペースに振り回される飯田くんが、彼女が自分から負けを認めたので勝利したところだった。どうも釈然としない顔をしている飯田くんに苦笑いしながら私は控室を出て、会場に向かう。途中ですれ違った飯田くんに無言のサムズアップをしたら微妙な顔をされたので急いですれ違いました。バッドコミュニケーション……

 

 『さあ第5試合!男のロマン詰め合わせ欲張りセット!楪希械!ヴァアアアサス!B組からの刺客!キレイな顔して棘があるかぁ!?塩崎茨!』

 

 「申し立て失礼します。刺客とはどういう意味でしょうか?私はここに勝利を目指してきただけであり……」

 

 『あ、ああごめん!』

 

 「え、と塩崎さん?よろしくお願いします」

 

 「はい、楪さんですね。お互い正々堂々と良い試合をしましょう」

 

 マイク先生のキャッチコピーに訥々と突っ込んで謝らせた塩崎さん。か、変わった人なのかな?まあ、マイク先生に好き勝手言われるのは今に始まったことじゃないと思うから私とか全然気にしなくなっちゃった。普段の手足の私だけど、これは舐めてるとかそんなんじゃなくて、単純に膂力過剰だから。ヒーロースーツみたいな防護服を着てない状態で、指先がナイフより鋭い戦闘形態の手があたりでもしたら……割とマジでスプラッタになっちゃう。こっちの方がまだまし。何だったら小回りはこっちの方が効くくらい。

 

 『試合開始ぃ!!!』

 

 「先手必勝!」

 

 「アロンダイト、形成開始(レディ)

 

 塩崎さんの文字通り茨のような髪が伸びて四方八方から私に迫る。私は腕を変形させて、大型の刀剣型兵器を作り出し、薙ぎ払った。アロンダイト、私の身の丈ほどの大剣で、一番の特徴は刀身の刃部分にレーザーが走っていて、ものを熱量で焼き切るという構造になっていること。レーザー兵器はすでに実用化されてるので、話には聞いてるかもしれないけど。

 

 巨大な金属の塊をレーザー付きで振り回す私。どうやら塩崎さんの茨は切り離しても動くらしい。なので脅威にならないよう振る速度を速めて短くしてしまう。水分が含まれてるからか燃え上がりはしないらしい。だけど、物量で勝負するなら私もそういうの沢山あるんだよね。

 

 「くっ……流石に一筋縄ではいきませんね」

 

 「貴方も、強いね」

 

 お互いに短く褒め合って、私は一旦距離を取る。場所はラインぎりぎりだけど、これを使う時は広範囲攻撃だから、相手が離れれば離れるほどいい。ガチャガチャ、チャリチャリと音を立てて私の手がジャージを破って変形し、出来たそれを迫る茨をアロンダイトで薙ぎ払いつつ肩に担いで構える。

 

 「ナンバーナッシング!形成開始(レディ)!」

 

 出来たのは超大型のミサイルランチャー、に見える物体。実際は別物なんだけど。狙いは塩崎さんの周り全て!絶対に当てないようにコントロールする!ガチャン!とトリガーを引くとナンバーナッシングから無数の砲台型衛星端末が飛び出て地面をターゲティングする。20数個が全て私と塩崎さん以外の地面にガイドレーザーでターゲティングを済ませる。塩崎さんは何があるか分からないので迂闊に動けない。

 

 『あああああ~~~!これは流石にやり過ぎだろ楪ァ!派手過ぎだぜ!』

 

 『よく見ろ、外してる。動きを止めるのが目的だ。当てに行ったら除籍したがな』

 

 上空から降り注ぐのは極太のレーザーの雨、塩崎さんは襲い掛かってくる熱を茨で防ぐ。予想通り!視界がふさがった!ステージが熱で溶けて移動もできない。私はアロンダイトとナンバーナッシングを捨てて、全力で壁を作り出す。ステージを横に横断する金属製の大壁。そこにある取っ手を掴んで私はパワーを最大限に高めて、その壁を押して前に移動する。

 

 『おっと逃げ場が消えたぁ!迫りくる壁!これを攻略するには……押し合いで勝つしかねぇえええ!』

 

 『なるほどな、楪の一番得意なこと……真っ向からの力比べに相手を落とした』

 

 「く、っくう!なんという、力……!」

 

 壁越しに伝わる塩崎さんの抵抗、あの茨はかなりのパワーがあるとみていい。なら……私はここで初めて手足を戦闘形態に変形させる。たまった熱を戦闘形態の手足から放熱させて、さらに力を籠める。取っ手を握りつぶす程のパワーを受けた塩崎さんは、一気に後ろに押されて、場外のラインを超える。私の勝ちだ。

 

 『ヒロイン対決!勝利したのはメカヒロイン!楪希械だぁぁぁ!!!』

 

 「……おめでとうございます。貴方の次の勝利を応援してますね」

 

 「ありがとう、塩崎さん。とっても強かったね」

 

 「ふふ、あなたこそ」

 

 メカアームで繋げてたので壁を再吸収し終えて塩崎さんと相対する。すっと手を出してくれた塩崎さんに少しかがんで普段状態に戻した手で答える。いつの間にか会場にやってきていた発目さんを始めとしたサポート科の面々が私がポイしたアロンダイトとナンバーナッシングを掲げて喜んでたんだけど……あの、返して?え?だからその、返してくださいぃぃ……パワーローダー先生?暫く貸して欲しい?私の秘蔵技術なんです……ダメですぅ……返してぇぇ……

 

 「ひどい目に会いましたぁ……」

 

 「大丈夫です。これはきっと試練ですから……」

 

 涙目になって全部取り返して破砕機に放り込んだ私を不憫に思ったのか慰めてくれる塩崎さん、いい人だ……観客席の位置はA組とB組で隣同士なので一緒に帰って少しだけ仲良くなれた気がする。そして私の次の試合は、えーくんと鉄哲くんのはずだ。えーくんに勝って欲しいから思いっきり応援しないと……!

 

 『さあ行ってみようぜ第6試合!硬化の男!個性だだ被り!切島鋭児郎!ヴァアアアサス!鋼の男!こっちも個性だだ被り!鉄哲徹鐵!硬い男同士の対決だぁ!』

 

 「えーくーん!頑張ってー!」

 

 「切島さぁ……応援されちゃってさぁ……!」

 

 「峰田ちゃん、顔がすごいことになってるわよ」

 

 「だってよぉ!なんなんだよこの扱いの違い!」

 

 「日頃の行い……」

 

 「常闇はいてえところついてくるな!」

 

 えーくんが壇上に上がった時に大声出して応援する。三奈ちゃんは行くまえに思いっきりハグして応援したけどえーくんとはすれ違いになっちゃったからここで思いっきり!心操くんの例もあるから一応何言ってるか聞こえるようにうさ耳型の収音機を頭の上に作って八百万さんがチアの時作ったぽんぽんを振り回して応援する。

 

 えーくんは私の声が聞こえたのか分かんないけど、こっちの観客席をちらりと見て、グッと腕をあげてガッツポーズだけした。気合いが乗ってるんだね、えーくん……!峰田くんはそのしぐさにさらに文句を言い募ってるけどとりあえず一発頭をはたいたら黙ったのでよしとする。間違えて椅子殴って潰しちゃったのが効いたかな?えーくんを悪く言うのは許しません。

 

 「だだ被りだってよ。マイク先生もうまいこと言うもんだぜ、な?」

 

 「お前は硬化、俺は鋼……方向性は同じなのはそうだろうけどな」

 

 「んじゃあよ……やることは決まってるよな?」

 

 「わかってるじゃねえか!」

 

 二人の会話を収音機が拾う。多分私も分かった、二人とも真正面から行く気だ。マイク先生の試合開始の言葉と共に、二人が同時に個性を使う。全身鈍色になる鉄哲くんに対して、色は変わらずとも岩のような質感に変わったことが分かるえーくん、二人が同時に硬く拳を握った。

 

 「先手は譲るぜ、鉄哲」

 

 「お言葉に甘えさせてもらわぁ!ウラアッ!!!」

 

 硬いもの同士が激しくぶつかる音を立てて鉄哲の鋼の拳がえーくんの顔ど真ん中を捉える。が、硬化したえーくんは全く身じろぎすることなくノーガードで受け切った。たたらすら踏んでいない、鉄哲くんはどうやらそこで一気に警戒度を引き上げたらしい。首をゴキリと動かしたえーくんは

 

 「次は俺の番だぜ。顔面だ、ガードしろよ」

 

 「来ぉい!」

 

 「フンッ!!!!」

 

 『き、切島ワンパンで鉄哲をリングに沈めたぁぁぁ!!!』

 

 宣言通り、えーくんは顔面ど真ん中に向かって硬化した拳をぶち当てた。鉄哲くんのガードをものともせず……いや、ガードの上からねじ込まれたえーくんのパンチは鉄哲くんの鋼の腕に罅を入れるだけに飽き足らず。振りぬかれた拳が彼をコンクリートに沈め、蜘蛛の巣状の罅が鉄哲くんを中心に広がるほどの威力を見せた。会場にはパワー差へのどよめきが静かに広がっていく……やっぱりえーくんは強いね。

 

 「こいつ……一撃で俺のスティールを……!?」

 

 「悪いな。いっつも俺と特訓してるやつは……お前の比じゃねえくらいのパワーで打ち込んでくれるんだよ。俺は、そいつに勝ちてぇんだ。だからお前を、超えていかせてもらうぜ」

 

 「切島……!」

 

 「どこからでもこいや鉄哲ぅ!俺の硬化を破ってみろ!」

 

 『鉄哲立ち上がった~~!切島は迎撃かぁ!?』

 

 鉄哲くんは何とか立ち上がるが、すでに膝が笑っている。えーくん、ほんとに遠慮なしで鉄哲くんの事殴ったんだ……私以外にそんなことできなかっただろうから嬉しいだろうな、えーくん。硬化した自分を真正面から受け止めてくれる相手なんてきっとなかなかいなかっただろうし……。

 

 今一度の顔面への右ストレートに対して、えーくんが選択したのは硬化した頭を使ったヘッドバット。鉄哲くんの右拳にカウンターを入れる形で迎撃したそれは、彼の拳の罅をさらに広げる結果に終わる。右手を抑えて後ずさる鉄哲くんに、えーくんは見せつけるように拳を握る。硬く、一塊の岩塊のようになったえーくんの拳はまともに鉄哲くんの頬に入って彼の意識を刈り取り、ステージ上に沈めた。

 

 『個性だだ被り対決!圧倒的なパワー差を見せつけたのは切島だあああ!いい殴り合いだったぜ!』

 

 えーくんは、判定を聞くと気絶しちゃった鉄哲くんを担ぎ上げて一緒にステージを降りる、二人の健闘をたたえる拍手が会場中から響いた。それは勿論私も。えーくん、さすが。次の試合で当たることにはなっちゃったけど……手加減は一切しないからね。

 

 「ねえ、楪さん」

 

 「ん?何かな、デクくん」

 

 「切島君って、いつもどれだけトレーニングしてるの?」

 

 「あー、弱点しりたいんだぁ?」

 

 「ちちち違うよ!いやでも違わないけどそれはそのあれで」

 

 「ふふっ、冗談だよ。メカジョーク、メカ要素ないけどね」

 

 鉄哲くんの形に陥没しているステージをセメントス先生がセメントを流し込んで修復してるのをぼーっと眺めてた私にデクくんが話しかけてくる。さっき麗日さんを追うように出ていったと思ったらもう戻ってきて、こんどは私にえーくんの話を聞こうだなんて、すごい熱心だね。

 

 「えーくんはね、私を持ち上げられるの。USJの時みたいに手足がない私じゃないよ?今こうやって手と足がちゃんとある私を、えーくんは軽々と抱き上げられるの」

 

 「楪さんを、軽々と?えっと、その」

 

 「私の体重、手足の状態で上下するんだけど……だいたい300㎏くらいかな。えーくんって根性とか男らしいとかそういうスポ根系のワード大好きなんだよ。だから、私で筋トレしたりするの。上に載って腕立て伏せとか」

 

 「そ、それってすごいことなんじゃ……?」

 

 「そうだよ?個性テストの記録、えーくんほとんど素なんだから。もしえーくんが私に勝ってデクくんとえーくんと戦うことになったら……デクくんも覚悟した方がいいかも」

 

 えーくんって影響されやすいから、漫画で読んだ人を乗せた状態での腕立て伏せとか、スクワットとかそういうのをやりたがるんだよ。私は重いから危ないって言ってもお前がいいんだっていうから付き合ってるけど……そういえばなんで私じゃなきゃいけないんだろうね?単純に重いからか、ちょっと傷ついたけど事実だししょうがないよね。

 

 「よく知ってるんだね……切島君のこと」

 

 「知ってるよ。デクくんだって、爆豪くんの事よく知ってるでしょ?えーくんが強いことは、私が一番よく知ってるの」

 

 噛み締めるようにデクくんがそう聞いてくるので私は肯定する。えーくんのことならそりゃあよく知ってますとも。逆にえーくんも私のことをよく知ってる。幼馴染だもん。次試合のためにステージに出てきた八百万さんと常闇くんの試合が始まるので、私はそこで会話を打ち切るのだった。




 元ネタ解説
 アロンダイト デスティニーガンダムが持ってるすっげえでっかい対艦刀。折りたたんで変形するロマン付き。今作ではまだビームを楪ちゃんが実用段階に持っていってないので刃はレーザーで代用
 ナンバーナッシング
 作者の青春が詰まったラチェクラ4の最強兵器。冗談抜きに天変地異が起こるほどのレーザーが上空から降ってくる。つよい(小並


 今作切島くんはクソ強いですはい。単純硬い上にパワーがある重戦車。これも全部主人公ちゃんが悪い

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