個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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22話

 『えー……第8試合勝者、爆豪勝己……』

 

 『マイク、やるならちゃんとやれ。いい試合だった、二人ともだ』

 

 ……シン、と会場中が静かになっている。1試合前のそれとは大違いだ。というのも今の試合、爆豪くんと麗日さんの試合は……一方的なワンサイドゲームのようなものだったからだ。轟くんのように一瞬で勝負を付けず……えーくんの時のように抵抗を許したわけじゃない。麗日さんの策を一つ一つ真正面から粉砕し、蟻の足をもいでいくように詰みまで持っていった。

 

 私たちはそれが爆豪くんが油断せず、麗日さんの全てを警戒しているからだとわかってたけど、分かってない会場からのブーイングが響いてしまう始末。そのブーイングは相澤先生が黙らせたけど、やはり思うところはあったみたい。倒れ伏した麗日さんに背を向ける爆豪くんには賞賛に交じって一部批判的な視線もある。

 

 「次、デクくんと轟くんだね……」

 

 「ああ、2週間特訓しただけでだいぶあいつ変わったよな。骨折克服したしよ」

 

 「うん、問題は……氷結の攻略法。今のデクくんには……自損での打消ししかない」

 

 せめて……20%を使えれば……と思う。デクくんの許容上限は5%、風圧も出なければ……すさまじい威力は持たない。訂正、威力はそれなりにある。氷の表面を多少砕く程度はできるだろう。はっきり言えば焼け石に水ってやつだとおもうんだ。そして、それ以上は出せない。生身の彼の身体が追い付かない、肉体を完成させなければワンフォーオールの上限をあげていけない。オールマイト先生が筋トレばかりを教えてたのも分かる。

 

 『さあああいってみようぜ!2回戦第1試合!轟ヴァアサス!緑谷ああああ!!!!』

 

 マイク先生の文字通りのマイクパフォーマンスで轟くんとデクくんの二人が修復されたステージ上に並び立つ。スタートの号令がかかると同時に、やはり轟くんは範囲を強めた氷結をデクくんに向けて思いっきり放った。それに対してデクくんはやはり自損での打ち消し……じゃない!?ワンフォーオールを両脚に纏ってジャンプして飛び越えた……?そうか、考えたねデクくん!

 

 「脚の力は腕の3倍って言うけれど……デクくんの個性なら凄く有効だよ!氷を直接砕くより、よっぽど合理的だもん!」

 

 「やるじゃねえか緑谷!回数打たせる度に手前ェが有利になるぜ!」

 

 脚の力は腕の3倍、つまりワンフォーオールを腕に使った場合の3倍、一時的に15%……どんぶり勘定だけどね?実際は別だけど……ワンフォーオールの場合は少し違う、なにせ……強化倍率が圧倒的すぎる。脚の5%でも轟くんの氷結より先に逃げられるうえに、残った氷を足場にして逃げ場すら確保できてしまう。緑谷くん、私の始めての戦闘訓練の動画が欲しいって言ってたけど……この攻略法、いつ考えたんだろう。

 

 多分、最初から轟くんが最大威力で短期決戦に挑んでいたらデクくんは負けていた。だけど、轟くんはデクくんが自損覚悟で打ち消しに来ると思ってたから、打ち消されるの前提で数を打てるように氷結の威力を抑えた。それが、デクくんの狙い。自分がどれだけ動けるかを、隠してた。そしてそれを今全開にして、轟くんを仕留めにかかってるんだ……。

 

 そして轟くんも、デクくんがここまで動けるようになっているというのは少し予想外だったに違いない。だって彼は……あの2週間の特訓に入っていなかったから。それに氷結は体温が下がって身体機能に異常をきたすので使用回数に制限がある個性だ、左側の燃焼を使えば解決できる、っていうのは少しわからないけど……彼が使わない理由があって実際使わないのであればそれは強力なアドバンテージ。

 

 そしてデクくんの立ち回り、常に轟くんから見て左側にいる。轟くんの個性は右で凍らせて左で燃やすもの。逆はできないはずだ。というかできたら左でも凍らせてるはず。左に回り続けるデクくんのせいで、轟くんの氷結は一瞬遅れる、その隙にワンフォーオールで飛んで逃げる……凄いね、特訓でやった鬼ごっこを活かしてるんだ。

 

 そして、轟くんが氷結を使うたびに、デクくんには上の逃げ場が増える。この場合、轟くんができるのはやっぱり、最大出力の一撃で逃げ場を完全に封じること!私の予想通り、業を煮やした轟くんは最大出力の氷結を出そうとして一旦力んだ。そこで私は気づく、デクくんの狙いがそれだったことに。

 

 『緑谷ボディブロー!!!えげつないのが入ったぞ!』

 

 「デクくん、全身に個性を……!?」

 

 「マジか緑谷、それありなのか!?」

 

 轟くんが力んだ瞬間だった。その隙にデクくんはワンフォーオールを全身に纏って飛び出し、氷結が出る前に轟くんのボディに一撃入れた。轟くんは正直、個性の使い方が大雑把なきらいがある。ビルごと凍らせたり、瀬呂くんを閉じ込めた氷山も狙いすました一撃というよりも当たればいいという広範囲攻撃……。デクくんはその癖を見つけたんだ。この体育祭の間で……!

 

 全身にワンフォーオールを纏うのは一瞬しかできないみたいだけど、回避と攻撃を両立できるその使い方は非常に厄介だ。轟くんもここまでやられるとは少し意外だったんだろう。いつも無表情な顔が驚愕に歪んでいる。非常にうまいと言わざるを得ない。だって、これで轟くんは氷結がデクくんに通用しないと理解してしまった。残るは個性無しの接近戦か……炎熱を使うか。

 

 「轟のやつ……!接近戦もできるのか!?」

 

 「何でもできるって思ってたけど……!デクくんの勝ちの目が薄くなっちゃった……」

 

 轟くんは聞くところによると、現在の№2ヒーロー、エンデヴァーの息子らしい。エンデヴァーは事件解決数だけで言えばオールマイト先生を超えるスーパーマンだ。当然それは荒事も含まれる。個性無しの接近戦ができないわけがなかった。攻撃を入れたタイミングでカウンターを返され、蹴り飛ばされたデクくんに氷結が迫る。デクくんはまたも全身にワンフォーオールを纏って飛びあがって回避、その氷結の上に着地する。

 

 「震えてるよ、轟くん。君の戦闘映像、見れるものは全部見た。君の個性は使うたびに体温が下がって動きが鈍くなるんだ。でもそれって、左側を使えば解決できるもんじゃないのか?」

 

 「俺は戦闘で左はつかわねぇ。言っただろ」

 

 「ふざけないでよ!」

 

 収音機に二人の会話が届くと同時だった。爆風が轟くんの周りの氷ごと全て吹き飛ばす衝撃波と一緒に襲い掛かったのだ。発生源はデクくん……紫色に腫れあがった右の人差し指が彼が制御を捨てて全力でワンフォーオールを使ったことを現している。なんで、使ったの……?戦えてたじゃない……!その爆風を耐える為に自分の後ろに氷結の壁を張った轟くんの体には霜が降りている。戦闘訓練の時よりもひどい状態だ、相当苦しいと思う。

 

 「君は僕を見てないね……!僕を通して誰を見てる!?エンデヴァー!?オールマイト!?そうじゃないだろ!君の前にいるのは僕だ!僕を見ろ!」

 

 「緑谷……!」

 

 「皆、本気でやってるんだ……!君が半分の力で1番になりたいのは勝手だ。だけど僕はふざけんなって今は思う!君の氷結は僕には通じないぞ!君が完全に動けなくなっても僕は当たらない……!使えよ!炎!」

 

 「うるせぇ……!」

 

 「全力で、かかってこい!」

 

 ……デクくん……。貴方って人は、とんでもないね。勝てるかもしれないのに、勝てたかもしれないのに……それをあっさりと捨ててしまうなんて。多分デクくんしか知らない轟くんの事情があるんだ。それが轟くんが左を絶対に使わない理由。その理由はデクくんにとって納得できるものであっても、受け入れられるものじゃなかった。

 

 だから、彼はいま……己を捨てた。お前が全力じゃないなら僕が勝つ、たとえ何をしてでもと。それを現すために本当の全力……制御を捨てたワンフォーオールで指を壊して見せた。全力を出さなければ負けるんだぞと轟くんに示したんだ。A組の観客席が静まり返る。沸く会場とは真逆、皆試合に夢中になって成り行きを見守ってる。

 

 「僕はヒーローになりたい……!笑って皆を助けられるオールマイト(あの人)みたいに!だから僕は君に勝つ!君を超える!」

 

 レバー打ち、そして頭突き。動きの鈍った轟くんに最早ワンフォーオールを纏っていないデクくんの攻撃が突き刺さる。かなり生々しいのが入った。レバー打ちを教えたのは確かえーくんのはずだ。お腹を押さえて立ち上がる轟くんの体の霜はかなり広がっている。明らかに使い過ぎだ、凍傷が出始めててもおかしくないはず……!

 

 「俺は……親父の力なんて……」

 

 「その力は君の力だ!氷結も炎熱も!全部!君の力じゃないか!」

 

 その叫びが発端だった。ゴゥ、と轟くんの左半身から炎が噴き出した。使わせた……左の炎!いろんな感情がない交ぜになった顔で炎を噴出させ続ける轟くん。彼の心境はどんなものなんだろうか、デクくんの必死さが、真摯さが彼に伝わったのだろうか。それとも心の柔らかい部分を無遠慮につつき回されて怒ってしまったのだろうか……いずれにせよ……

 

 「デクくん、自分で不利な状況に持ち込んじゃった……」

 

 「何がしてーんだ?緑谷……」

 

 炎の噴出音がひどすぎて最早二人が何を言ってるかは分からない。ただ、分かるのは……やっぱり左を使えば轟くんの個性の弱点は消えるということ。体中におりてた霜は蒸発し、体温は正常に戻ってしまった。落ちてた運動能力も元に戻ってしまったに違いない。

 

 それを見たデクくんは凄絶に笑った。無事な左手、そして両脚にワンフォーオールを発動させる。腕の方はエネルギー量からして、100%だ。轟くんも右の氷結と左の炎熱を同時に全開にしている。これ……かなりまずいやつじゃ……!?その威力の程を察したのかセメントス先生とミッドナイト先生が動く。

 

 それよりも早く二人の緊張の糸が切れた。最大威力の氷結を放った轟くんとワンフォーオールで踏切り、飛び越えたデクくん、轟くんはそこで白く見えるほど炎の威力を高め、デクくんは全力のスマッシュを近くでぶち込んだ。何枚もショック吸収のためセメントス先生が出したセメントの壁を豆腐のように壊した二人の攻撃が、凄まじい衝撃波を伴って炸裂する。

 

 「緑谷……ありがとな」

 

 攻撃の刹那、轟くんのそんな声が聞こえた気がした。崩落したステージ、こちらに来る爆風が私たちを叩く。吹っ飛んだ峰田くんの足をひっつかんで椅子に戻して結果を確認する……勝ったのは……!?

 

 「緑谷君場外!よって轟君の勝利!」

 

 「デクくん!」

 

 「あっ!バカ希械どこ行くんだよ!?」

 

 崩落したステージの上に立つ轟くんと、場外の壁にたたきつけられた左手の折れたデクくん、勝敗は決したけど……私は観客席から飛び降り、脚にスラスターを付けてデクくんの所まで一直線に向かう。言ったのに、もうやっちゃダメって約束したのに……!もう!ずり、と崩れ落ちる気絶した彼を抱き留めて、横抱きにする。色々言いたいことが山ほどできた。それよりも先にリカバリーガールの所へ……!

 

 

 「楪、さん……?」

 

 「あ、おきた?もう、デクくん私との約束破ったよね?頑張ったね、お疲れ様」

 

 「ごめん、悔しくて……つい……」

 

 「いいの、やっちゃったんだし。轟くんと何かあったんだよね?でも全部ひっくるめてマイナス50点だよ。途中まで100点満点だったけど、腕壊しちゃったからマイナス50点」

 

 「……少年」

 

 「オールマイト……!」

 

 デクくんの口から出た言葉に私はあっとなってリカバリーガールを見るけど彼女は驚いた様子はない、知ってたんだ……!当然か。USJの時、トゥルーフォームのオールマイト先生は保健室に行ったんだから。気絶から目覚めたデクくんを見下ろすオールマイト先生はデクくんの頭にポンと手を置いた。

 

 「君は……彼に何かをもたらそうとして、実際に彼に何かを与えることができた。結果は残念だったかもしれないがそこに関して私は胸を張って君を誇りに思いたい」

 

 「でも僕は……果たせなかった……!」

 

 「やり方はよくなかった。もっと別のやり方もあった……!だが君はヒーローの本質の一つを違えなかった」

 

 「……本、質?」

 

 「余計なお世話ってやつさ。ヒーローはそこから始まったんだから。お疲れ様だ緑谷少年。よく頑張った!でも、身を滅ぼす戦い方はもうやめような。一緒に違うやり方を考えよう」

 

 「はいっ……!」

 

 デクくんのやり方は褒められちゃいけないものだった。リカバリーガールも褒めるなと言ったし、今後はもう身を滅ぼした結果の怪我は治癒しないとまで言い切られてしまった。だけど、オールマイト先生とデクくんだけが知ってる轟くんの闇に少しだけ罅を入れることができた。誰かの手を取り助けること、余計なお世話でもデクくんはそれを果たした。ヒーローとしてのそれを。

 

 心配した皆が出張保健室になだれ込んできて、私の思考はそこで打ち切られたけど、デクくんの分まで頑張らないとと、次の相手のえーくんを見てそう思ったんだ。

 

 




 映画の描写からおそらくOFAは足の5%でも氷結から逃げられると思ったのでデクくんに頑張ってもらいました。フルカウル(一瞬)も習得、これは強いですねデクくん。

 あと重要なのが、原作より怪我がだいぶ軽いです。片腕骨折と指一つの骨折。手も歪んでない、これは緑谷お母さんも号泣。結局泣くわこれ。

 明日以降毎日更新ではなく2日に1回くらいのペースで更新します。端的に言えばストックが消えました。書き溜めに入らさせていただきます。

 感想評価よろしくお願いいたします。

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