個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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サブタイトル 楪希械:オリジン


23話

 そういえば、まだ話してなかったと思う。何の話かっていえば、私がどうしてヒーローを目指そうと思ったかって話。まあ、ありきたりで、よくある話かもしれないし、珍しい部類の話かもしれない。私にとっては少しだけ苦い思い出ではあるけど、この際だから思いだしてみようかな。これは、私がヒーローに出会ったお話だ。

 

 当時、私は幼稚園児で4歳だった。今と同じで両手両足は機械で、重くって硬かった。今と違う点と言えば、そのころの私は今ほど大きくなくて、皆と同じくらいの身長だったこと、体が出来上がってなかったから重い重い手足のおかげでまともに立つことすら出来なかったこと、あとは……両目がちゃんと青かったってところくらい。

 

 今みたいに髪の毛で目を隠してなかった私は当時はヒーローなんてほとんど興味がなかった。他のみんなみたいにお外で遊ぶなんてこともできなかったから、教室の中で座って絵本ばっかり読んでいる、そんな感じだったと思う。何分10年以上前のことだからそんなに覚えてないし、ここで話すのも少し恥ずかしいくらい。

 

 さて、4歳と言えばなんだけど……個性が発現する年齢ってことは知ってると思う。個人差あれど、大体4歳。私みたいな異形型はともかくとして、発動型や変形型、まあその他もろもろの個性は大体4歳までに発現する。そして、当時はオールマイト先生の絶頂期だった。1000人を同時に救った動画はとても有名で、ヒーローっていえばテレビの中の人っていう認識だった私でも知ってるくらい。

 

 えーくんとは産まれた時から一緒で、幼稚園も一緒だった。私は自分では遠くへ行けないし、先生でも持ち上げるのに苦労するくらい重かった。もうすでに成人男性くらいの重さはあったみたいだから。それで私はどこへ行くにも台車に乗っていて、その台車を押して移動するのは専らえーくんの役目だった。俺が連れてってやるからな!って言って、私が乗った台車を一生懸命押してくれたのを覚えてる。

 

 前置きが長くなったけど、ここからが本題。当時はオールマイト先生の絶頂期で、みんながみんなヒーローについて熱く語っていた。幼稚園にいる子みんなしてヒーローになるって言って、ヒーローごっこがそこかしこで行われてたくらい。そんな時期に、自分だけの超凄い特殊能力である個性が発現したらどうなる?答えは……何とかして使ってみたくなる、だと思う。

 

 人間っていうのは自分より違うものを受け入れがたいものだっていうのは15年の人生の中で学んできたことの一つかな。当時もそうだったから。手足が機械っていう異形の個性、おまけのその手足は積み木を握りつぶせるときたら……排斥したくなるのはしょうがないと思う。当時の私はえーくん以外まともにお話してもらった記憶はない。

 

 いじめかと言えば違う。単純に、どうしたらいいか分からないから、話さない。ずっと台車に乗って動かない私よりも、一緒に遊べるお友達の方が大事になるのは当然の話。そんな時期に個性が出て、何人かの男の子が俺の個性は凄いんだって自慢してたところにえーくんに連れられてきた私が、来てしまった。

 

 人に向かって個性を撃ってはいけません、って教えてもらってはいたけど分別のつかない子供の時期、魔が差しちゃうこともある。そこにちょうどよく動けなくて、それなりに全身が硬くて、仲間外れにされてる私がきた。ここまで言えばわかると思うけど、私は的になった。ちょっと驚かせてやるつもりだったって後から聞いたけど、当時の私には関係なかった。

 

 子供だから狙いも甘くってほとんど私には当たらなかった……ただ本当に運が悪かった。そこでサイコキネシスの個性を持つ子が私に向かって撃った石が……私の右目を抉っていった。私の悲鳴に驚いたのか、私に向かって個性を向けていた子たちの個性は制御を誤って暴走して、一気に私に向かってきた。

 

 教室の中にいた先生が慌てて駆け寄ってくるけど間に合わない。私はまた痛いのが来ると思って泣き喚きながらぎゅっと縮こまった。そんな私の前に立ったのが、えーくんだった。当時のえーくんもすでに個性は出てたけど、少し硬くなるだけで全然派手じゃなかったし、どちらかと言えば地味な部類だった。

 

 だけど、えーくんは私が攻撃を受けた時点で私と一緒に遊んでくれる他のお友達を誘っていた場所から駆け出して、迷いなく私の前に割って入ってくれた。幸い制御を失った個性は私にもえーくんにも当たらなかったし、そのあとに走って来た先生によって事態は沈静化した。

 

 それが、私のオリジン。動けない私を一切迷うことなく守るために立ちはだかってくれたえーくんの小さいけど大きな背中。右目が見えないパニックの中でその後ろ姿だけが酷く輝かしく脳裏に焼き付いている。今でも鮮明に思いだせるほどに。私にとってヒーローっていうのは、オールマイト先生でもパワーローダー先生でもなくて、えーくんだった。

 

 えーくんが私にやってくれたように、私も同じように誰かを迷いなく守れるように強くなりたい。誰かのために考えるより先に体が動いたえーくんのようになりたいと心からそう思って、ヒーローに興味を持ったんだ。まあ、あとは色々あって、個性が右目を補って、色が違う目と、日増しに大きくなる体が恥ずかしくなって目を隠し、今に至るというわけ。

 

 『2回戦第3試合!ガチャガチャメカガール!楪希械VSカチコチハードボーイ!切島鋭児郎!』

 

 「やるか、希械」

 

 「うん。本気でやるのって、初めてだよね?」

 

 「そりゃあなあ……お前が本気で個性使える場所なんてなかったし、俺が本気でお前を殴るってのもなかったしな。つーか俺お前殴りたくねえ」

 

 「私には自分殴らせてるくせに」

 

 「俺はいいんだよ俺は、男だからな!」

 

 「男女差別だー」

 

 体育祭のステージ上で、私はそのヒーローと相対する。私とえーくんは特訓で模擬戦じみたことをやったことはあったけど、お互いどうしても本気は出せなかった。危なかったし、心理的にもブレーキがかかった。だから今この瞬間お互い本気で戦うのは初めて。手は抜かないっていう無言の約束通りにお互いを叩き潰すつもりで戦う。にい、といつもの太陽のような笑顔と好戦的な顔を混ぜたように笑うえーくんに私も応える。きっと私も同じ顔をしているのかな。

 

 『スタートォ!』

 

 「おらあああっ!!!」

 

 「やああああっ!!!」

 

 同じタイミングで駆けだした私とえーくんが鏡像のように同じ態勢で振りかぶってお互いに向かって拳を発射する。何の打ち合わせもしてないのに拳同士がぶつかって……力負けしたえーくんが吹っ飛ばされる。だけど、力負けしただけだ。私の右拳は……手首まで潰れてしまっている。えーくんの硬さに手が負けたんだ。

 

 「そりゃ、普通の手じゃこうなるよね……!」

 

 「効かねえぞ希械ぃ!」

 

 「知ってる!」

 

 チャリチャリ、と音を立てて私の手足が戦闘形態に変形する。肩から先、膝から下のジャージが破れて見るからに攻撃的な手足が露になる。当然のように無傷のえーくんが突進してくるのを、私は避けずに受け止めた。ドガガガ!とコンクリの床を削って押される私。流石えーくん、私の重い体をタックルで押して移動できるなんて!私は思いっきり踏ん張ってタックルを止める。えーくんの手を掴んで、脳無にもやったように手四つの力比べの体勢になった。

 

 「ふんぎぎぎぎ……!!」

 

 「くぅぅぅ……!」

 

 押し込めない。上から圧殺するように力を籠める私だけど、えーくんは関節を硬化させて固めることによって私の超膂力に対抗してる。それより進めないけど、それより後退もしない状態。えーくんの足元が私のパワーを現すように陥没して沈んでいく。えーくんの弱点は全身の硬化が永続しないこと。いつかは息を入れる必要がある。その時に……っ!?

 

 『切島巴投げーっ!?マウントポジションだぁぁぁ!!』

 

 やられた。えーくんは息を入れるタイミングで後ろに倒れ込んで私を巴投げして、仰向けになった私に馬乗りになった。そしてえーくんは、思いっきり拳を握って振りかぶる。

 

 「守れよ」

 

 「うん」

 

 『切島容赦ねえええ!女子の顔面に思いっきり!?』

 

 手でガードするけど、えーくんの力は鉄哲くんの試合で見た通り。押し込まれた私の後頭部が地面にめり込んで罅が周りに浮かび上がる。会場からはどよめきと驚愕の声が。違うんだよ皆、えーくんは私にこれが効かないって知ってるからやってるの。全力を受け止めてくれるって信頼してくれてるから本気で殴ってくれるんだよ。

 

 「っぱ効かねえかぁ!もう一発……ぐぁっ!?」

 

 「お返し!」

 

 上と下が入れ替わる。ガードに使ってなかった逆の手でえーくんの腰を掴んで引き倒し、今度は私が上になる。今ここで拘束してもいいんだけど、それじゃ味気ないし物足りないもんね。えーくんに習って私も思いっきり振りかぶって彼の顔面に振り下ろす。すさまじい音がしてえーくんのガードごと彼をコンクリのクレーターの中に沈めた。

 

 「っか~~!今度は効いた!」

 

 「嘘つき、全然元気そうだもん」

 

 マウントポジションを解くと、ガラガラと音を立ててがれきの中からえーくんが無傷で立ち上がる。んもう、半分私のせいとは言えカッチカチなんだから……!正攻法だとまず効かないしやっぱりこうしかないよね……!

 

 「スラストハンマー、形成開始(レディ)

 

 「そう来るよなあ……!」

 

 大質量で、えーくんを場外に吹っ飛ばす。大きなブースター付きハンマーを構えた私、ブースターから断続的にボ、ボと噴出する炎が私を照らす。えーくんも最終的にそう来るのは予測してたみたいで、完全に受け止めてくれる構えだ。ゴォォォォッ!!とスラストハンマーのブースターから爆炎が上がる。

 

 「いくよ……!」

 

 「こぉい!」

 

 『切島が楪の特大ハンマーを止めたぁぁぁぁ!!』

 

 スラストハンマーに引っ張られるようにえーくんに突撃した私が掬い上げるように鉄塊をえーくんにぶつける。ワンフォーオールほどじゃないにしろ衝撃波があたりを叩く。えーくんはハンマーが接触する瞬間にコンクリの地面に片足を挿しこんで飛ばされるのを防いだようで、ハンマーとの押し合い勝負になってる。でも、力押しなら私の有利……!

 

 「ぐぬぉぉぉ……!」

 

 「えーくん、負けないから……!」

 

 内蔵燃料が切れたスラストハンマーのブーストが切れる。瞬間、えーくんは潜り込むようにハンマーの柄をくぐって私の懐に入ってくる。私もハンマーから手を放して拳を握ってえーくんを迎撃しにかかった。私より早く攻撃の準備を終えたえーくんの鉄より硬い拳が私のお腹に突き刺さる。けふ、と息が漏れたけど攻撃の瞬間にゆるんだえーくんの意識の隙間を縫って、私の全力の拳が彼のこめかみを見事にとらえる。

 

 そこからさらに、肘にスラスターを作って瞬間的に噴射し、地面に向けて思いっきり降りぬいた。潰されるように地面に突き刺さったえーくんの体から力が抜ける。くたり、と脱力したのをミッドナイト先生が確認して勝敗が決する。

 

 「切島君気絶のため、楪さんの勝利!」

 

 『ガチガチの殴り合いを制したのは楪希械!ナイスファイトだぜ!』

 

 「いったぁ……脳無にやられた時より痛いかも……」

 

 痛覚が鈍い私なのにもかかわらず響くような痛みを訴えてくるお腹をさすってから、私はえーくんを抱っこして出張保健室に向かった。何とか、今回も負けなくて済んだ。えーくんより弱かったら、いざって時にえーくんの前に立つことができない。えーくんはショックが強すぎたみたいで当時のことは覚えてないけれど、幼稚園の時のように……今度は私が、えーくんを守ってあげたいから。色んな人の盾になる彼を、私が支える為に。

 

 

 

 「すまねえ!!!!!」

 

 土下座だった。それはもう見事な土下座だった。真っ赤なつんつん頭をベッドの上にこすりつけて土下座を敢行してるのは、さっきまで私と本気で殴り合いを繰り広げていたえーくんである。私はリカバリーガールにお腹をめくって見せていて、これから治癒を受けるところだったんだけどえーくんが目を覚まして私のお腹を見た瞬間に、赤くなったり青くなったり忙しい反応を見せて、これだもの。ビックリしちゃう。

 

 「試合だったとはいえ本気で殴った!跡が残っちまうだなんて……」

 

 「いやいや、えーくんだってたんこぶ……」

 

 「俺はいいんだ!男にとっちゃ傷は勲章みてえなもんだろ!けどよぉ……」

 

 「熱くなってる所悪いけどねえ、ひどめの内出血だよ。治癒ですぐに良くなる、安心しなさい。にしてもあんたら二人とも頑丈だねえ、楪は普通の人間だったら内臓爆発してるし、切島に至っては頭が取れてただろうに」

 

 「まあ、私は機械ですから」

 

 「俺は硬い事が取り柄っすから!」

 

 どうも、えーくんは青紫色に染まった私のお腹に責任を感じてたみたいだけどそんなのお互い様だし、私は結構嬉しかった。えーくんと本気で殴り合いするなんて今後なかなかないと思うから。正直気持ちよかったなあ……えーくん、私の想定を超えた強さだったしうかうかしてられないね。はんせーかい、とえーくんに声をかけて彼の隣に腰掛ける。あーだこーだと言い合いながら、幸せだと私はそっと感じるのだった。

 

 




 なんで希械ちゃんはオッドアイなのか、というお話でした。切島君はスパダリ、はっきりわかんだね。切島君は朧げながらこの記憶を有しているので楪ちゃんのことに無意識に過保護になってしまうわけですね。しょうがないね。
 
 お互いを守りたいから相手より強くありたいって関係...素敵やん?

 では次回もよろしくお願いします。感想評価をくださると励みになりますのでどしどしお送りください

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