個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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24話

 『無敵かと思われた個性、ダークシャドウを真正面から粉砕!爆豪勝己勝利ィィ!』

 

 「すごいね、爆豪くんって。戦闘だけじゃなくて洞察力も秀でてる……」

 

 2回戦第4試合、内出血を治してもらった私と、たんこぶを治してもらったえーくんが観客席に戻ると、飯田くんに負けちゃった三奈ちゃんがおめでとうと駆け寄ってきてくれたと同時に切島も頑張ったねと褒めてくれた。どっち応援したらいいかわかんなかったよ~という三奈ちゃんに膝の上を占拠されて胸を枕にされた状態で観戦した最後の試合は、遠中距離でかなりの強さをもつダークシャドウを有する常闇くんとクラスの爆発才能マン爆豪くんとの戦いだった。

 

 圧倒的、と言葉にするしかなかった。ダークシャドウによる攻撃を全て爆破によるカウンターで防ぎ、ダークシャドウはダメージを受けないという既知の情報からどうにかして接近戦に持ち込むしかないと思ってたけど、あえて爆豪くんは中距離戦でダークシャドウに爆破を当てまくった。ダークシャドウに攻撃は効かないにしろ怯みはする、意思と痛覚はあるのだ。

 

 そして暴いた。ダークシャドウの弱点である……強い光を。思えば騎馬戦の時私が放ったフラッシュバンの後、ダークシャドウはなんだか弱弱しかったけど、そこら辺から既にあたりはつけていたのかもしれない。最終的に爆豪くんは両手を使って閃光のように光に特化した爆発を選択し、ダークシャドウを完全に弱めて常闇くんを撃破してしまった。

 

 「次は、轟くん対飯田くんだね……」

 

 「飯田、すっごい早くてさー!私、何にもできんかった……」

 

 「いや、芦戸さんすごくきれいにカウンター入れてたよね……?」

 

 「でもー!飯田の眼鏡割れなかったんだもんー!」

 

 私の前の試合だった三奈ちゃんの試合、私はモニターでしか見てなかったけど、飯田くんが速攻勝負にくるとみて三奈ちゃんの初撃はカウンターによる右ストレートだった。飯田くんの顔面に見事に入ったそれだけど飯田くんは止まらなかった、歪んだ眼鏡をかけたまま三奈ちゃんを場外に引っ張り出してしまったのだ。予備の眼鏡沢山持ってるんだね飯田くん……

 

 左手の骨折と右人差し指の骨折を治癒してもらったデクくんは毎試合毎試合物凄いスピードでブツブツ言いながらノートを取っているけどすごく気持ちわかるなー。データとそれの分析ってとっても大事だからさー私も右目をガンガン使い倒して今データ蓄積してるんだ。今度ノートの中身見せてもらおうかな、私のページとかとても気になるし。

 

 『3回戦第1試合!氷結のプリンス轟VSハイパースピードエンジン飯田ァ!』

 

 きた、轟くん。デクくんに炎を使わされたからこの試合でどうなるか……前と同じように氷だけなのか、炎も使いだすのか……はっきり言って読めない。炎側は正直言って情報が少なすぎるから……最大何度の炎を出せるのか、持続時間は?体への負担は?全ての情報が足りない。だからこの試合は私にとっても大事、爆豪くんに勝てたら次は彼と戦わなきゃいけないもの。

 

 試合開始、飯田くんの選択は……やっぱり速攻!レシプロバーストと聞いた飯田くん曰く誤ったエンジンの使い方で途轍もなく加速した飯田くんは轟君が氷結を出す前に彼の脳天に蹴りを入れて地面に打ち倒すと、そのまま服を掴んで場外に向かって走りだした。やっぱり場外狙い、そうなるよね。レシプロバーストの時間は約10秒、このペースなら……

 

 「レシプロバーストが止まった……!?」

 

 「あ、マフラーが凍ってる……!詰まらせたんだ、排気できないとエンジンは止まっちゃう……!」

 

 デクくんの驚愕の声に私は右目をズームさせて二人を見ると、飯田くんのエンジンのマフラーが轟くんの氷結で凍り付いて詰まっているのが見て取れた。ヤバいなあれ、飯田くんのエンジンが私が知ってるエンジンと同一の構造をしてるか知らないけど最悪爆発する止め方だ。あ、でも飯田くんのエンジンの燃料はオレンジジュースなんだっけ。可燃物じゃないから爆発しないのかなるほど……?

 

 大技ばっかり見せてきた轟くんの小技、止まってしまった飯田くんは轟くんの氷結の餌食になり、行動不能になってしまう。結局、炎熱は見せなかった轟くんだけどまずいかも……私の体って精密機械の塊だから、体の内部まで凍らせられるのだとすれば結構厄介この上ない。対処法としては極限まで隙間を小さくするしかないかな……?それだと排熱に支障が……?うーん、どうしよう……?

 

 「行ってくるね……!爆豪くん、よろしくお願いします」

 

 「……ケッ」

 

 試合が終わったので準備時間に入る。私と爆豪くんは試合に出る為に控室に行かなきゃいけない。けどステージの補修がないからすぐ呼ばれそう……みんなから応援の言葉を貰って観客席を後にする。爆豪くんの個性は爆発、威力は私が作る爆発物と同等、いや面積規模で言うなら彼の方が繊細で威力が高いかもしれない。拡散する爆発をピンポイントで最大威力で当ててくるだろうから……色々対策しておかないと。

 

 

 

 

 『3回戦第2試合!爆豪勝己VS楪希械!行ってみよーーー!!』

 

 『キャッチコピー考えるの面倒くさくなったのか、マイク』

 

 『盛り下がること言うのやめない?』

 

 爆豪くんと向かい合う。向かい合って初めて分かった、ポケットに両手を突っ込んでこっちを痛いほど睨みつける彼は少し汗をかいている。体、あっためてきたんだ。デクくん曰く、爆豪くんは個性の都合上動けば動くほど汗が分泌されて爆破の威力が上がるらしい。つまり、試合前に動いて個性を最大限使えるように高めてきたんだ。傲慢に見られがちだけど抜け目ない、爆豪くんの一面を新たに発見した気分。

 

 「試合開始!」

 

 「おい、楪」

 

 「だから楪……あれ?」

 

 ミッドナイト先生が試合開始を告げると同時に、動き出そうとした私を爆豪くんの声が止める。しかもクソメカ女とかじゃなくてちゃんと名字で呼んでくれた、なんという青天の霹靂、何事だ!?ば、爆豪くん変なものでも食べたの?いやでも拾い食いする性格じゃないだろうし……そもそも私爆豪くんがまともに人の名前呼んだの初めて聞いたよ?幼馴染のデクくんだってクソデク呼ばわりだし……

 

 「な、なに?」

 

 「てめぇ、本気出してねえな?舐めプしやがって。使えよ、USJであの脳みそクソヴィランに使ったやつ。しょうゆ顔から聞いた、てめえの全てをねじ伏せて、俺が勝ってやるからよ」

 

 「……ダメだよ。ゴリアテは使えない、人に使うものじゃない。ましてや試合でなんて」

 

 本気を出していない、というちょっと腹が立つ指摘は置いておくにしろ、ゴリアテをクラスメイト相手に使うだなんてとんでもないもいいところだ。そもそもアレは救助用の用途が大部分、倒壊した建物を持ち上げることやがれきを支えるなどの重機じゃ器用さが足りないところを補うために開発したもので、戦闘もできるように最低限の武装を付けただけ。目指すのは救助をするオールマイト先生のトレースでしかない。

 

 それに、威力過剰が過ぎるし加減が効かない。当たれば100%殺してしまう。マイク先生曰くクソの攻撃になってしまう上に、反則に近いんだ。攻撃を当てないようにして戦うのは私にとっては難しい。えーくんですらゴリアテのパンチを受け止めるのは絶対に不可能なのだ、いくら爆豪くんでも死んでしまう。

 

 「ダメ、絶対にダメだから」

 

 「関係あるか、俺が勝つ。いいから使え!舐めてんのか!」

 

 やっぱり聞いてくれないよね……主審のミッドナイト先生に目を向けると、私の提供した動画でゴリアテのことを知ってるらしく、無言で首を横に振られた。そこで改めて爆豪くんを見ると……盛大に舌打ちをして一言

 

 「なら使わせてやるよ……!」

 

 「使わないってば!」

 

 とびかかってくる爆豪くんに対して私は手足を変形させつつそう答える。いつもの戦闘形態じゃない、普段使う手足に近い状態だけど材質が違う。爆豪くんは速いうえに動きが細かい、若干大雑把なきらいがある戦闘形態だと後れを取ってしまう、だから組み上げた。対爆豪くん専用の手足だ。

 

 開幕の爆破を腕で受ける。初っ端から顔面狙いとは容赦がないね、それでこそ爆豪くんかな。爆発が腕に触れた瞬間に、腕の装甲が逆に爆発を起こして爆豪くんの爆破の威力を完全に殺した。その隙に腕を掴もうと手を伸ばすけど流石の反応速度で腕から爆発を起こしてバックステップ、そりゃこんな簡単にいかないか。

 

 「てめぇまたパクリやがって……!」

 

 「一発ネタだよ?爆発反応装甲、知ってるよね?あ、知らないか」

 

 「知ってるわ舐めんな!戦車についてるやつだろうが!」

 

 「……あ、ホントに知ってるんだ。爆豪くんも男の子なんだね」

 

 「俺のどこを見たら女に見えるんだクソが!」

 

 「そういう意味じゃないんだけど……!」

 

 まあ、爆発反応装甲は一発ネタ、これ以降は使わないし意味はないと思う。本命はこの手足、普段は油圧と電気モーターで動かしてる私の手足だけど、今回は別物。何と部品の全てが電磁石接合されており、さらには球体関節という仕様になっているんだ。端的に言えば、爆発の衝撃をインパクトに合わせて一旦接合を解き、衝撃を逃がしたうえで再接合するという構造になっている。パワーは少し落ちるけど十分!

 

 「レアアロイシールド、スタンバトン、ホーダインクラブ、形成開始(レディ)

 

 左手に高硬度の希少金属で来た円形のシールド、バチバチと音が鳴る電気の流れる大型警棒、手のひら部分を変形させた自動砲台設置システムを一気に作成する。シールドが付いた手のひらから丸い機械の塊を次々投げる。爆豪くんはそれを手榴弾あるいは閃光弾だと思ったのかさらに距離を取った……だけど、これは違うんだよ。機械音を立てて一気に変形した玉は……自動砲台へと姿を変えて爆豪くんに向かって圧搾空気を利用したゴム弾を発射する。

 

 爆豪くんが逃げたのは当然だけど上、地面にいたら格好の的だもんね。そして私の真上を取る、そのまま両手の爆破で高速回転を始めて突っ込んできた。多分これ超大技だ!避けられないし耐えるしかない!

 

 「榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォ!」

 

 「くぅ!」

 

 シールドを上にかざして攻撃に備える。彼の最大威力に加速が加わった大爆発が、私を襲った。設置した砲台は一瞬で壊されてしまった。シールドの上からの爆発の圧力で私の足が地面に埋まる。閃光と煙で視界が悪い……!

 

 「殺った……!!」

 

 「とってない!」

 

 煙に紛れて私の背後を取った爆豪くんが至近距離から爆破を放とうと手を向ける。だけど私は前を向いたまま腕を人体の関節を無視した動きで動かして彼の手をシールドで叩いて逸らした。電磁式球体関節はどんな方向でも曲げられるのが強み、爆破を逸らされた爆豪くんが離脱しようとするより一瞬早く振り向いた私は電磁バトンを彼に向かって叩きつける!

 

 「があああああっ!?」

 

 人体に影響がない程度だけど十分に高圧の電気が爆豪くんを襲う。全身が硬直してしまった彼の隙をついて私は武装を投棄して、彼の肩を腋から掬い上げるようにを両手でつかむ。じたばたと暴れる爆豪くんを軽く持ち上げて拘束状態に持っていくけど……どうやらこの状態では勝利判定ではないみたい。暴れる爆豪くんが遠慮なしに爆破を私の顔にたたきつける。

 

 「ねえ、爆豪くん」

 

 「離しやがれぇ!」

 

 「ロケットパンチって、知ってるかな?」

 

 前髪が焦げて、鼻血を出した状態の私の問いかけに、爆豪くんは一層暴れだして四方八方やたらめったらに爆破を打ち出すが、腐っても機械の手、そう簡単に拘束からは逃れられない。そして私は肘部分にロケットエンジンを作り出して、腕ごと爆豪くんを発射する。手を何とか後ろに回して爆破を連続して勢いを殺そうとする爆豪くんだけど……その手、最大出力で30分は飛ぶんだ。

 

 「爆豪くん場外!楪さんの勝利!」

 

 爆豪くんの身体が抵抗むなしく壁に接触した瞬間にミッドナイト先生の宣言が響いた。私はそこで腕を呼び戻して再接合する。ずり落ちるように壁から落ちて座り込んだ状態の爆豪くんは、こちらにも聞こえるほどの大きな歯ぎしりをして、無言で立ち上がり歩いて会場から去っていった。

 

 『決勝進出はぁ!ヒーロー科轟焦凍と同じくヒーロー科の楪希械だぁぁぁ!!!小休憩を挟んで決勝だぜ!リスナーたちよ!盛り上がれぇぇぇ!』

 

 会場が爆発するように沸く。私は焦げてしまった前髪を弄りながら、鼻血を啜って出張保健室に向かう。治癒は受けなくていいけど、女の子的にはこの焦げちゃって癒着しちゃった髪の毛はどうにかしたいし、鼻血も止めたい。爆豪くんホントに遠慮しなかったけど、逆にそれが嬉しかった。爆豪くんにとって私は全力を出さない嫌な奴かもしれないけど、私は今までの爆豪くんのデータから導き出した一番勝率が高い装備を選んで本気で相手をした。それだけはきちんと理解して欲しいと私はそう願っている。……無理かもしれないけど。折角苗字を覚えてくれたのに、舐めプメカ女とか呼ばれだしたら私泣いちゃうかも……。




 実は殴り合い専用パワードスーツでありつつもブレイキングマンモス枠でもあったゴリアテ君。強化形態案はまだありますけど他は純粋戦闘用ですね。戦争用ぐらいの勢いですけど。

 元ネタ紹介

 レアアロイシールド アメリカのケツが持ってるアレ。ビブラニウム製ではない。星条旗カラーでもないし塗装もされてない

 ホーダインクラブ ラチェクラシリーズより。自動砲台を投げて設置するメカ手袋。便利

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