26話
「ねえ、君!楪さんだろ!?体育祭!見てたよ!」
「ひゃ、ひゃい!あ、ありがとうございますぅ……」
「そっちは切島君かい!?体育祭凄かったね!ヒーロー目指して頑張ってね!」
「ウッス!ありがとうございます!」
あの体育祭からはや二日、体育祭の振り替え休日を挟んだ今日は登校日……なんだけどこれがすごいの。歩くとそこかしこから声がかかって、体育祭のお話をされる。やれえーくんとの戦いがアツかったとか、爆豪くんの時もカッコよかったとか。メカはロマンだとか、安心感ある大きさだね、とか。
私と一緒に登校してるえーくんもそれは同じでえーくんはその圧倒的なコミュニケーション能力をいかんなく発揮して笑顔ですべてに対応しているんだけど、私は全然ダメダメ、どもったりいいコメントが思いつかなかったり……というかなんで変装してるのに私だってわかるんだろう……?
「コー、ホー……」
「なぁ希械。ベイダー卿のマスク被っても多分背と手足で分かっちまうぜ?」
「そんな!不気味さで曖昧にできると思ったのに!」
「逆に注目集めて見つけられてるんだよ……ホントお前……テンパると処理能力が落ちるよなあ」
「社長さんにも言われた……慌てると反応が遅いって」
今日はあいにくの雨、この二日間で繰り返し何度もメディアに映って武器を振り回す私の姿が放送されたかわかんない。だって例年話題になるのは3年生と2年生で、1年生は新聞の隅っこにちょこんと結果が張り出されるくらいだったから。それが3年生を押しのけての主役扱いな上に、掲示板に至っては専用の実況スレッドまであったんだ。その、中身に関しては思いだしたくない……。
私専用サイズの巨大な傘を差して、えーくんと雄英に入る。雨の日はちょっとイヤ、だってみんなと違って裸足な私は足を拭かないと校舎の中に入れないから。バスタオルを取り出して、念入りに機械でできた足を拭う。錆びたりはしない、というか錆びるまで放置はしないので私の足はいつもピカピカ、鈍色の鏡のような感じに保ってる。
「お!来たぜ優勝者!なあ楪!お前道中どうだった?声かけられただろ!?」
「あ、上鳴くんおはよう。うん、とっても……ちょっと怖かった……」
「だよなーっ!!一気に注目の的になっちまってよ!やっぱすげえな雄英って!」
教室の中に入ると、早くに来た人がそれぞれグループに集まって雑談に興じていた。ベイダー卿のマスクを小脇に抱えた私に話しかけてくる上鳴くんに思わず返してしまう、しまったまだ私は体育祭のチアのことを許したわけじゃないんだぞ。掲示板でとんでもないこと書かれてたから恥ずかしさ倍増なんだぞ、とウェイウェイ言ってる上鳴くんに無言でマスクを被せて私は自分の席に向かう。
「え?なにこれ!?」
「上鳴ちゃん、ベイダー卿ね」
「呼吸音まで再現してすげーっ!」
話題がそれてベイダー卿マスクで遊び始める皆をしり目に、私は机に突っ伏して、失った体力の回復に努めるのだった。え?八百万さんどうかした?頭から湯気?熱がこもってるんですぅ……。
「おはよう、体育祭お疲れ様だったな。今日の連絡事項だが若干多い、よく聞くように。上鳴はそのマスク取れ」
ガラガラ、と教室のドアを開けて寝袋を片手に持った相澤先生が入ってくる。粉砕骨折で治癒が長引いてたらしい腕の包帯はすっかり取れて、私も一安心だ。ドアが開いた瞬間に自分の席について静かにしてた皆だけどベイダー卿マスクをつけてた上鳴くんは出遅れて怒られてる。
「で、まずだが今日のヒーロー情報学。コードネームの考案だ」
胸が膨らむやつだ!と私のテンションが上がるのと同じようにみんなのテンションも上がって腕を振り上げる人もいるくらいだ。相澤先生のその言葉は私たちの興味を引くのに充分過ぎるものだった。というのもヒーローネーム、オールマイトとかパワーローダーとか……活動中に名乗る名前を自分で考える、否が応にも楽しくなってくるでしょ!
「はい、静かに。というのも体育祭前に話したプロからのドラフト指名に関する話でな。君たちには指名の有無関係なく職場体験に行ってもらう!」
しょ、職場体験!?ってことはヒーローの事務所に行ってヒーロー活動のお手伝いをさせてもらえたり直接アドバイスを求めることができるってこと?それってとってもすごいことだ!しかも指名無くてもいける!!私は正直体育祭だと破壊力に長けたゴリラ女っていうB組の物間くんが言う通りの活躍をしたと思うので都市部で活動するヒーローには嫌われたかもしれない。多少は指名あればいいかな~~って思ってたけど……どうだろう?
「で、その肝心の指名なんだが……今年は大分偏ってな。結果はこうだ」
「「「「楪(さん)が7000件!?」」」」
「あの、さすがに集計ミスでは……?」
黒板に投影された集計結果、爆豪くんが3000件、轟くんも3000件と並んでいき、デクくんは100件えーくんは300件の指名があるみたい、なんだけど私の数字が抜きんでているというかダブルスコアで他を引き離してるので棒グラフがちっさい。というか7000件は流石に盛ったとしか思えない……。
「楪の場合は少し事情が違う、ヒーロー事務所が4000弱、残りはサポート会社だ」
「え、サポート会社も指名権を持ってるんですか?」
「持ってるわけじゃないが、ラブコールが山ほどきてな。お前も知ってる発目にも来ている。それで校長の判断で指名として扱うことになった。職場体験はどっちに行ってもいい、お前の場合はどっちも糧になるだろうからな」
な、なるほどサポート会社……そういうのもあるんだ……確かに私にとってはどっちに行っても糧になる。最新の技術に触れれば個性が伸びるし、ヒーロー活動は言わずもがな。最近詰まってる荷電粒子の実用化とか超圧縮技術だとかについて知れたら私はもっと強くなれるから。あと新素材!頑丈で、軽くて、硬くて!そういう凄いのがあったら知りたいなあ!ああ、I・アイランドに行けたらいいのに……
「それでヒーロー名だ。プロの職場に行くんだからな、適当な名前を付けるなよ。付ければ……」
「地獄をみちゃうからね!」
「ミッドナイト先生!」
「とまあ今からのヒーロー情報学、ヒーロー名のセンスなんぞ俺にはよくわからんのでそこら辺をミッドナイトさんに査定してもらう」
「ボードを配るからそれぞれヒーロー名を考えて発表してもらうわ!名は体を表す!なりたい自分をよくイメージしてね!」
相澤先生の言葉を遮ったのはミッドナイト先生、時計を見るともう既に1時限目に突入する寸前だった。時間をきっかり守る相澤先生にしては珍しい、というか私が延ばしちゃったからか。反省しないと。ミッドナイト先生が用意した真っ白いホワイトフリップに私は手持ちの油性ペンを使ってヒーローネームを記入していく。実はもう決まってたんだ、えーくんにも内緒にしてたけど。
そして15分後……名前順で発表していくということで登壇したのは青山くん、彼はこのクラスの中でも私と話さないし誰かと一緒に何かしてるのを見たことない不思議な男の子。
「輝きヒーロー! I can not stop twinkling!」
え?短……文……?ありなの?と私が目の前の事象にメモリと脳みそをフリーズさせていると、ミッドナイト先生は大まじめにIを取って短縮形にした方が呼びやすいとアドバイス。なんか流れがおかしくなってきた気がする。もしかして三奈ちゃん……?大丈夫だよね?信じていいよね?
「リドリーヒーロー!エイリアンクイーン!」
ガッシャン!と音を立てて私は自分の机に沈んだ。三奈ちゃんの流れで確定してしまった、完全に大喜利めいた流れになってきてしまっていると!は、発表しづらいよぉ……あ、机が凹んじゃった……さっきの短文はオッケーだったのに三奈ちゃんのやつはミッドナイト先生のやり直しを貰っている。何がダメなんだろう?著作権とかそういうのに引っかかるからなの……?
「ケロ、私は……梅雨入りヒーローフロッピー!昔から考えてたの」
か、かわいい!梅雨ちゃんらしいいい名前だと思う!ミッドナイト先生の手放しの賞賛を受けて照れ臭そうに席に戻る梅雨ちゃん、かわいい。そこで完全に流れが変わり、みんなそれぞれ自分の考えたなりたいヒーロー名を発表していく。えーくんの烈怒頼雄斗、昔から聞いてたやつ。他にはチャージズマやウラビディ、イヤホン=ジャックとか皆らしい名前を発表していく。
本名そのままのショート、デクくんはヒーロー名も頑張れって感じのデクにしたみたい。爆豪くんの爆殺卿はリテイク、そっとベイダー卿マスクを見せたらすごい目をされたのでひっこめた。2回目三奈ちゃんはピンキー、クリエティ、グレープジュース……そして今度は私の番。
「メカヒーロー、エクスマキナ。一番しっくりくるかなって思います」
「デウス=エクス=マキナからかしら?」
「はい。強引なハッピーエンドにする機械仕掛けの神様……だけど、ハッピーエンドでいいじゃないですか、神様にはなれませんけどみんなを幸せにする機械でいられたらって思います」
何でもできる神様じゃないけれど、救いの手にはなれる。ハッピーエンドにする機械仕掛けのヒーローとしては中々いい名前じゃないかなって気に入ってる。最後まで考えてた飯田くんは自分の名前で落ち着いたけど……とても悩ましい顔。お兄さんのことが関係してるのかな……連休中のニュースで飯田くんのお兄さんであるプロヒーロー、インゲニウムがヒーロー殺しなるヴィランに再起不能にされたという話を聞いた。
とても深くは聞けないし、聞くべきことでもないからクラスのみんなも察して話題にするのは避けてる。幸い、命に別状はないと聞いてるけど……大丈夫かな……?
「爆殺王……!」
「違う、そうじゃないわ」
爆豪くんも違う意味で大丈夫かなぁ……?
どっさぁ……と私の目の前に積みあがる紙の束。ちなみに規模は違えど轟くんと爆豪くんの机にも同じ現象が起きてる。ざああっと雑に鞄に詰め込んでさっさと帰っちゃった爆豪くん、一方の轟くんはちらっと眼を通していくつもりみたい。私は流石に多いので情報学の授業の後データでくださいとUSBメモリを作って渡して、帰りのホームルームでメモリを受け取っている。
ぶすっと右耳のアクセサリにメモリをぶっ刺して中身を閲覧する。うわ、ほんとに7000件近くある……ヒーロー事務所は……有名どころが沢山……!?リューキュウ事務所に、ファットガム事務所、クラスト事務所、ギャングオルカ事務所……!!サー・ナイトアイの事務所まで!
「えっ……エンデヴァー事務所まである……!」
「それ、ほんとか?」
「え、轟くん?」
「クソ親父は俺に入れるとは思ってたが……もう一つをお前に入れたのか。何を考えてやがる……!」
「どうしたの?」
「何でもねぇ。俺はクソ親父の所に行くから……一緒になったら俺が守るからな」
「……轟くん、凄いこと言ってるよ今……」
「友達守るのは当然だろ。なんか問題あること言ったか?」
クラス中がシン、と静まり返っている。轟くんが私のことを友達って言ってくれたのは嬉しいけど、これ女の子が選ぶイケメンに言われたいセリフ堂々1位に燦然と輝くやつじゃない?轟くん、ド天然なんだね……デクくんと話してたえーくんは轟なら安心だな!って言ってるけどそうだけどそうじゃないの。女子のみんなはイケメンだぁ……って言ってるし、峰田くんは血の涙を流してる。
だめだカオスだ。こうなれば他の情報はシャットアウトして真剣に選ぶほかないよね、と思考の海に沈む前に教室に独特な体勢でやってきたオールマイト先生によって教室の空気は一変した。ありがとう№1ヒーロー!でもデクくんを呼び出したってことはワンフォーオール絡みなのかな?気になるなぁ……。
サポート会社の方は……なんか偏ってる。主に色々と、というか半分軍需産業もやってる会社ばっかり!スプーンから宇宙ロケットまでのキャッチコピーでお馴染アナハイム・エレクトロニクスの日本支社、圧縮技術に秀でたサナリィ、センサーのアクアビットに火薬庫こと有澤重工、うわ、海外だけどメガコープに謎が多くて有名なファクトリーまで……!どうしよう、サポート会社のほう行きたくなってきた。最新技術が沢山ありそう……!このコジマっていう企業は聞いたことないけどどんな会社なんだろう……?
「だめだ。かえって考えなきゃ……」
「そーだよねー。希械ちゃん沢山指名貰ってるし!私はゼロだよおかしくない!?」
「え、三奈ちゃん飯田くんにキレイにカウンター入れたしいいところまで行ったのに……」
「うわーん、慰めて希械ちゃん~~!」
半泣きで飛び込んでくる三奈ちゃんを受け止めて、私は三奈ちゃんの魅力が分からないなんて案外プロは見る目がないのかとちょっと怒るのだった。
別作品の変態企業が沢山出てきましたが、本筋には全く絡まないので気にしなくて平気です。たまに小ネタとして名前が出てくるでしょう。
企業にもヒーロー事務所にも人気が出る個性だと思います多分
感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ