個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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29話

 「うむ、こんなものか。小休止ののちに講評を行う。倒れててもいいが、10分後に俺の部屋へ来い」

 

 「こ、こんなに差があるなんて……」

 

 「……クソ、分かってたはずなのに……」

 

 エンデヴァー事務所の滅茶苦茶おっきいトレーニングルームにてボロボロの私は仰向けに倒れ込んで、轟くんはうつぶせになって倒れ込んでる。エンデヴァーとの戦闘訓練は本当にかすりもできないほどに圧倒的で、考え抜いて作った筈の戦闘形態の手足が両腕共にドロドロ、ギリギリ形を取り繕ってる感じだ。それでいて生身の方はほぼ無傷。完全に遊ばれていなされてしまった。

 

 熔けてそこかしこに落ちてる私の武器たち、そして熱耐性が高いタングステンを主軸にしたシールドが赤熱して形が変わっている。ヤバいな、エンデヴァーのヘルフレイム……炎熱系で間違いなく地上最強……だけどすさまじく洗練された使用だった。最小限の準備で最大限の効果を。エンデヴァーの代名詞である赫灼を浴びたそれは一瞬で形を失ってしまった。熱対策があまい~~!

 

 「しかも……私の個性の排熱のタイミングを把握して待ってくれてこれ……」

 

 「腐っても№2ってことかよ……ああ、よくわかった……」

 

 うつ伏せだった轟くんがゴロンと仰向けに代わる。彼の右側からひんやりとした空気が漂ってきて私の手を冷やしてくれるんだけど……あ、待って轟くん!今熔けてるから!地面とくっついちゃう……!ああ、くっついちゃった……まあ、いいか。どうせ生やすものだからと個性が使えないのでバキンと無理やり切り離す……ガタッと轟くんが起きた。

 

 「う、うで、お前……」

 

 「え、ああうん。生えるのは知ってるでしょ?ここまでバキバキだと作り直すより生やした方が早いんだ。冷やしてくれたのは嬉しかったよ、ありがとう」

 

 「お、おお……心臓に悪いな」

 

 「お互い様~」

 

 それで私もなんとか起き上がって、エンデヴァーの部屋に向かう。スーツの再生機能は凄くて、腕ごと熔けてしまったジャンパーの腕部分はもうすでに再生し終わって私の手があった部分をひらひらしてる。まあ基本的に肘までしかないんだけどねジャンパー。上腕部分は良く変形させて機関銃とかだすし。

 

 氷と炎で凄いことになっている部屋を抜ける。壁にある無数の傷がここのヒーローたちの努力の跡だ。私の銃器も、剣も、ハンマーも槍もすべて熔かしてしまったエンデヴァー。私は絶対に熱に対する対策を考えなければならない。それはつまり、私の生存に直結することだから。

 

 「来たな。予想より3分早い。では講評を始める!焦凍!」

 

 「……ああ」

 

 「右は及第点だ、だが左の操作が甘い。ただ放出するだけではいたずらに被害が広がる。炎熱系の二次災害のことは何度も話したはずだ。操作を訓練しろ、無意識レベルで擦りこめ」

 

 私の腕については雄英からの資料で生やすことができるというのを知っていたからか特に言及せずエンデヴァーは講評を始める。つらつらと並べる問題点は正論かつ強めの口調ではあるが確実に轟くんの問題点だ。特に二次災害、遠中距離で戦う轟くんと前衛を任された私、轟くんの炎が何度かかすりかけた。というかエンデヴァーが射線に私を誘導するのがとてつもなくうまかった。それで轟くんの攻撃タイミングで私が割り込むというのが何度か。フレンドリーファイア……私も気にしないとダメだ。

 

 「次は楪……初動が遅い。バーニアを噴射して移動するようだが、初速に難がある。一撃の威力は並のプロを超える、個性にも努力の跡が見える……よく研鑽を積んでいるようだ。特に終盤の挟み撃ちは見事だった」

 

 うぐっ、それを突いてくるか……!私の移動は専ら足につけたバーニアだ。噴射してから移動できるまで一瞬の隙がある、それを遅いとエンデヴァーは言っている。確かにエンデヴァーの移動は足から噴射する炎だ。そしてそれは噴射された瞬間に移動してしまうほど素早い。褒めてくれた終盤の挟み撃ち、ミサイルを回り込ませて、正面から私がスラストハンマーで突撃、轟くんが氷結で追い打ちという二段構えの作戦の事だろう。結局ハンマー熔かされて、ミサイルは全部迎撃されて、優しく投げられて終わったんだけど。強いなあ……。

 

 あと気付いた。エンデヴァー、教えるの凄い上手。簡潔にまとまった要点、解決法の提案、あるいは思考の促し……エンデヴァー事務所に入るサイドキックたちもこうやって鍛えてもらってたんだ……!そりゃ強くなるわけだよ、炎系なら地上最強の人だもん。

 

 「で、問題の排熱問題だが……はっきり言うが貴様の排熱効率は俺以上だ。能動的に排熱できる貴様に対し、俺は自然に熱が抜けるのを待つしかない。故に貴様が行うべきことは……」

 

 「熱耐性の向上、ですか」

 

 「そうだ。炎熱系の個性の特徴として、非常識な体温に耐えることができる。俺や焦凍、サイドキックたちも同様。貴様は違う、許容量はそこまで高くないだろう。個性を伸ばせ、熱に耐えろ」

 

 「地道な訓練が成果を結ぶ……そういうの大好きです、私」

 

 トライ&エラーは何回も行っている。武器開発、技術開発、私は個性を使うために科学知識を蓄え、電気回路を学び、実験を繰り返し……何度も反復して思い通りのものを作れるように練習した。それの焼き映し、熱耐性を高めること。でも同時に、その熱を別方面に使えないかとは思ってるけどとん挫しているのが現状だ。

 

 「明日も訓練だが……今日はもう上がれ。宿泊設備は事務所に整っている。焦凍もだ、貴様は一時的にこのエンデヴァーのサイドキック。ここで生活しろ」

 

 「……言われなくてもそのつもりだよ、クソ親父」

 

 「……ふん。では解散だ。明日に疲れを残せば叩き出すぞ」

 

 や、やっぱ仲が悪いよね~~~!!この、クソ重い空気が唐突に流れるから胃にずしんと来るよ~~!私はそれに気圧されて赤べこのようにこくこくこくと頷くしかない。だって、その……気まずいじゃん!?かと言って轟くんに何がどうしてそうなったのなんて聞けるわけないから……1週間で私の胃、穴が開くかも……。

 

 

 

 

 「それじゃ、ここが1週間アンタの部屋よ!食事は基本自炊!ヒーローは料理もできないといけないからね!材料は冷蔵庫の中のもの勝手に使ってよし!業者が定期的に補充していくからどれだけ使ってもいいよ!それじゃね~」

 

 「な、なんて大きいシステムキッチン……!何作ろうかなあ……!」

 

 シャワーを浴びて着替えて、轟くんと合流したら待っていたのはバーニンさん、彼女に部屋に案内された後連れてきてもらったのは泊まる時に使う厨房だった。綺麗に整っていて、火力が強そうな業務用ガスコンロに、大きなオーブン、業務用冷蔵庫……!まるでお店の厨房みたい!家庭用のそれとは違うものにテンションが上がる私と反対になんだかしょんぼりしている轟くん。うーん、火力と言えばチャーハンだけど手の込んだものも作りたい!でもここは職場体験先なわけで……!

 

 「俺、料理できねぇ」

 

 「え、そうなの?轟くん涼しい顔で何でもできると思ってた」

 

 「……したことねぇんだ」

 

 「へー……食べられないものって何かある?あ、好きな食べ物とかは?」

 

 「蕎麦、冷たいやつ。食えねえもんは別に……」

 

 「流石にお蕎麦は打てないかなあ……轟くんの分も私が作ることにするよ」

 

 冷たいお蕎麦……ざるそばとかかな?冷蔵庫の中には何が……おお!めっちゃ色々あ……?見るからに高級そうなお蕎麦が……?お高そう過ぎてなんだかな……私は庶民らしく、野菜炒めとご飯といきましょう。キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、豚肉……お豆腐あるし冷ややっこもいいね!後はお揚げのお味噌汁~。カツオ出汁とって、出しガラはふりかけにしちゃおう。メニュー決まった!よしやるぞ~~!

 

 個性で料理用のゴム手袋を作って両手につける。よく手入れされた包丁に感嘆しつつも私は慣れている順番でお料理を開始、轟くんは私に全部やらすのがなんか申し訳ないらしくおろおろしてるけど好きでやってることだからお気になさらず~~。るんるんと鼻歌交じりに完成した料理をお盆に乗せて食事用スペースへ。

 

 「いただきます……うん、上出来」

 

 「いただきます……うめぇ」

 

 「あ、ほんと?よかった~~。三奈ちゃんとかえーくんとかは美味しいって言ってくれるけど轟くんの口に合って良かったよ」

 

 両手を合わせて食事を始めた時、野菜炒めを口に運んだ轟くんからぽつりとこぼれた言葉にちょっと嬉しくなる。お料理は好きだし、自分が美味しいものを食べたいから始めて今となっては趣味なんです。お弁当をおすそ分けすることも最近は多くなってきたから皆にも気に入ってもらえたんだと思うんだけど、改めて美味しいって言われると嬉しいなあ。

 

 無言の食事だけど、雰囲気は別に悪くない。轟くんの食事ペースも落ちることはないし私も同様。轟くん、ものを食べる所作がきれいだ。じっと見つめてしまって軽く首を傾げられてしまい、慌てて何でもないと訂正して私も食事に戻る。そうしてお米一つぶ残さず食べ切った私たち、あとはお片付け!

 

 「作ってもらったし、俺が片付ける。先部屋戻ってくれ」

 

 「え、でも……」

 

 「何もしなかったら据わりが悪ぃ」

 

 「んー、じゃあ一緒にやろ!轟くんがお皿洗って、私はキッチンの掃除するから!」

 

 「おお」

 

 私が好きでやったことだし、一人分も二人分も作るのは一緒だし、特に今日みたいな簡単メニューなら負担でもない。お片付けやってくれるっていうのは嬉しかったけど、使ったものを自分で片さないのは私としてもあれなので折衷案を提案して一緒に片付けをする。使ってたフライパン、コンロを清掃して、包丁を研ぎなおし、油汚れを掃除してこれで良し!轟くんは不慣れっぽい手つきでお皿洗い終了!お部屋戻って反省会しなきゃ……!

 

 「なあ、少しいいか?話してぇことがある」

 

 「え、うん。大丈夫……だよ?」

 

 背中越しにそう言われて、私は首をかしげながらもオッケーの返事をする。ここじゃ何だから、と言われて轟くんが使う予定の宿泊室に入らせてもらう。私の部屋と同じ作りで、片隅に置いてある轟くんの荷物以外は変わったところはないんじゃないかな。男の子の部屋……厳密には違うけど……に入るのはえーくんの部屋以外だと初めてかも。

 

 「正直、なんか聞いてくると思ってた。今日の事、分かんねぇことだらけだっただろ」

 

 「……私が聞いていい事かどうか分からなかったし……話したくなる話でもなさそうだから、聞かない方がいいかなって」

 

 この事務所に来るまで、来てからも何度も感じたエンデヴァーと轟くんの確執、かなり根深い話だと思うし、私がどうこうできる話ではなさそうだった。それを飛び越えていったのがデクくんなんだけど、きっと彼はすべてを轟くんから聞いてそのうえであの行動をとったに違いない。ただ、引っかかるのは……おかあさんと同じことを私にしようとしてるんじゃないかという、轟くんの心配は、気になっている。

 

 「……そうか。個性婚って知ってるよな?2,3世代あたりで問題になったやつだ……俺も、そうなんだ」

 

 そこから、轟くんの家の事情を聴いた。自らの力でオールマイトを超えることは不可能だと感じたエンデヴァーは、自らの子供にその野望を託すために伴侶を選んだ。それが、轟くんのおかあさん。上に兄姉がいる轟くんとその兄弟姉妹の中で唯一、エンデヴァーの思った通りの個性を持って生まれた轟くんは、幼少期に隔離され、厳しく修行を付けられる。おかあさんはそれを止めたが、次第に精神的に追い詰められて……轟くんに煮え湯を浴びせてしまった。

 

 おかあさんは精神を病んでしまい入院、以来轟くんはおかあさんをそこまで追い詰めたエンデヴァーを憎悪し、体育祭まで左を封印して右の……おかあさんから継いだ力だけでオールマイトを越えてエンデヴァーを否定しようとした。……なんて、壮絶な生い立ち。

 

 「じゃあ、轟くんは私をエンデヴァーが次の個性婚の相手として選んだって思ったってこと?」

 

 「ああ、1回やったならもう1回やるって思ってた。けど、そこまで腐ってはなかったみてぇだ。そこだけは、少し安心できた」

 

 「優しいんだね、轟くんは」

 

 「優しい?」

 

 轟くんの生い立ちを聞いて、私が思ったことは……彼は、えらいと、褒められるべきだと、そう思った。だって、おかあさんを父親のせいで狂わされて、それでもなりたかったもののために雄英に入学した。全部ぶちまけてエンデヴァーを堕とすことだってできたはずなのにしなかった。きっとそれは彼の中になりたい自分、ヒーローの姿があったからだ。

 

 だけど、えらいと褒めてあげるのは私の役目じゃない。えらかったね、すごかったね、頑張ったね……その言葉を口にして彼に与えてあげるべきなのはきっと、おかあさんの役目のはずだから。体育祭で言ってた意味がようやく分かった、彼は今家族と向き合いだしてるんだ。憎くて憎くて仕方がない筈の父親相手にすら、向き合おうとしている。

 

 「ここに来てからずっと、轟くん余裕ないように見えたんだ。エンデヴァー見た時からずっと怖い顔してたし。でも、そんな中でも私の事心配しててくれたんだね、優しいじゃん、轟くん。轟くんはきっと、おかあさんから氷の個性と一緒に優しさももらったんだね」

 

 「おかあさんから……」

 

 「おかあさんには、会いに行った?」

 

 「……体育祭の振り替えの時に。歓迎、してくれた」

 

 「うん、じゃあさ。今度会いに行った時……俺、頑張ったから誉めて!って思いっきり甘えてきなよ。絶対褒めてくれるから、だって……きっと轟くんのおかあさんは、轟くんのことが大好きだから」

 

 「……考えて、おく」

 

 私の提案に、何時ものポーカーフェイスをほんのりと赤くしながら、彼は私から視線を逸らした。

 

 




 エンデヴァーって絶対教えるの上手だよねというお話。サイドキックの数とか。そう考えるとインゲニウムってすごかったんやなって

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