「にしても、エンデヴァーがそんな人だったなんて……かなりショックかも」
「……世間が知ってるクソ親父は、ストイックなヒーローだ。表になんて出すわけない」
轟くんの部屋にて、私はちょっとだけ肩を落としてそう言う。だって、エンデヴァーと言えば不愛想なところはあれど人を助け、守り、多くのヴィランを打ち倒してきた正真正銘のトップヒーローの一人だ。そのイメージは轟くんのお話で私の中でバグってガラガラと音を立てて崩れたわけなんだけど。そりゃあ、クソ親父とか言いたくなるね。ひと様の父親にこんなこと言いたかないけどまごうことなきDV野郎だ。
タチが悪いのが、私人としてはクソオブクソでも公人としては紛れもない完璧超人であるというのがもっとやばい。普通逆じゃない?家族大切にしなよ。オールマイト先生を超えるっていうのは人気の面で?それとも実力で?事件解決数ならもう超えてるのに。何でオールマイト先生を越えようとしてるんだろう?自己顕示欲が高いタイプとは思えないんだけど……。
「むむ、轟くんさ……一発くらいエンデヴァーに思いっきり文句でも言っていいんじゃないかな?」
「……言ったところで意味がねぇ」
「そう……それじゃあ……エンデヴァーの驚く顔くらいは見たくない?」
「アイツの……驚く顔?」
私の言葉に轟くんは小首をかしげる。文句を言っても無駄ならあとはもう肉体言語しかないと思う。つまるところ意趣返し、やつあたりとかそういうたぐいのやつだ。エンデヴァーは轟くんのことをくだらない反抗期と称したけど、じゃあ反抗期らしく思いっきりぶつかってしまえばいい。端的に言えば
「職場体験の終わりまでに、エンデヴァーに轟くんが一撃叩き込もう。そのくらいはきっと許されると思うよ」
「おお」
言葉少なにそう返してきた轟くん。私はそれを受けて努めて明るく反省会しよ!と声を出して周りに私視点ではあるけど訓練時の映像と、轟くんと私、エンデヴァーを簡易的なCG処理で表した動きの動画などなどを投影してどうしたらエンデヴァーに一撃入れることができるか話し合う。轟くんは結構モチベーションは高めらしく作戦を提案しつつも私の意見も聞いてくれる。なれば明日は実践あるのみ!
「だめか~~~!もう!流石№2!強すぎ!」
「ああ、全部避けられちまった……けど、かすらせられたな」
「クリーンヒットは無理だったけどね……」
翌日の事、同じようにトレーニングルームの床に倒れ伏した私たちは昨日と違ってボロボロ、とまではいかないがかなり善戦出来たと思う。私たちの連携力が上がったのをエンデヴァーは察したみたいで片眉をあげていたが逆にそれが火をつけたらしく昨日は守勢に回ってたのが逆に攻めに来られた。そのパターンの連携も考えてはあったんだけど、攻勢に回ったエンデヴァーはそりゃもう強かった。というか昨日の3倍くらい強かったと思う。何度地面に叩き付けられて腕が取れたかわかんないや。熱が伝わりにくいように自切しやすくしたのを逆手にとられました。付け焼刃はアカンということですはい。
最後の最後でぎりぎり、ぎりぎりエンデヴァーのコスチュームに掠る形で轟くんの氷結パンチがかすったんだけど。まさか爆豪くん式爆発カタパルトで轟くんを射出するとは夢にも思うまいふふふ……でもこれで奇策も通じないとわかっちゃったんだよねえ……。轟くん、中距離戦が得意なのはそうなんだけど、接近戦もこなせるのはデクくんとの試合で分かってたし……。
及第点だ、と言ったエンデヴァーは午後まで休むように私たちに言いつけて自分は昨日の穴を埋めるべくパトロールに出発した。流石に昨日の今日じゃ私の欠点である初速の遅さを補えるツールは開発できなかったし……ゴリアテのバーニアが一番それっぽいんだけどあれじゃじゃ馬すぎてゴリアテ着てないとまともに方向転換できないんだよねえ。エンデヴァーのあの炎噴射を科学的に真似できないかな?
「お、いたいた!候補生ツインズ!エンデヴァーから連絡だよ~~!」
「ああ!すいませんバーニンさんこんなだらしないかっこで!」
「お」
トレーニングルームに大の字状態でじたばたして悔しさを表すというとても女の子とは思えない状態でバーニンさんと逆さに目が合った私は急いで立ち上がって直角に腰を下げて謝る。轟くんが軽く驚いた声をあげて起き上がった。バーニンさんは気にしない気にしない~とカラカラ笑ってくれたけどこれ轟くんにも見せちゃだめだったやつじゃない?変なもの見せてごめんね轟くん……。
「バーニンさん、連絡って何ですか?」
「よくぞ聞いてくれたねショートくん!アンタたち二人!夜のパトロールにエンデヴァーと一緒に行くことになったよ!場所は保須!理由は分かるよね!?」
「……ヒーロー殺し、ですね」
「流石雄英の受精卵!ニュースはちゃんと見てるみたいね!あのインゲニウムがやられたからね、エンデヴァーも警戒してるみたいだよ。だから出張でパトロールってわけ!」
「しかも夜のパトロール、ヒーロー殺しの被害はほとんど夜に起こってるから……」
タイミング的にあるかもなんて思ってたけどホントにあった。エンデヴァーほどのヒーローが直接動くことを決断するくらいヒーロー殺しの脅威度は高いってことなんだろう。そして、そのパトロールに職場体験とはいえ圧倒的な足手纏い二人を連れて行くことができるという自信と決断力……ヒーローとしてはホントに完璧超人なんだなあ。
「そんなわけでアンタたち二人とも今から仮眠を取りなさい!午後7時にエントランスにヒーロースーツで集合だよ!返事!」
「は、はい!」
「はい」
「よろしい!サイドキックたちも別方面から行くからね!じゃ、よく眠るんだぞ候補生!」
バーニンさんが出ていってから、私はうーんと考え込む。保須はここから行くなら新幹線の距離だ。及第点、という言葉から察するに連れて行ってもいいというエンデヴァーの合格点にギリギリ私と轟くんが達していたということだと思うけど……ヴィランに会うかもしれないんだ。USJの時みたいに、あの時は正当防衛が通ったけど、今は違う。私たちは見てるだけに徹さないといけない……できるかなあ?咄嗟に体が動いちゃいそう……。
「楪、楪……髪の毛、すげえことになってるぞ」
「ええっ!?考え事しすぎてゲーミングしてた!?」
「げーみんぐ?」
悩み事に意識を集中しすぎて髪の毛がゲーミング発光してたみたいで、轟くんに袖をクイクイ引っ張られて教えてもらった。すぐさま普段通りに戻した私とゲーミング発光そのものを知らないらしく首をかしげる轟くん、なんだろなあ。轟くんって要所要所で幼い感じがするんだよ~。今みたいに知らない単語をオウム返しした時とか。思わず頭を撫でそうになってぐっとこらえる。同級生を幼児扱いとかやべーやつだよ……峰田くんの事笑えなくなっちゃう……。
とりあえず、食事をとるために着替えましょうとなって轟くんと別れて私はシャワールームに入る。エンデヴァーってほんとに強いなあ……初見のはずの武器でさえ有効範囲をあっさり見抜いちゃうんだもの。跳弾まで利用したのに当たらなかったし!これはもう私、火が付いたぞ!職場体験終了までに絶対あの人に一撃クリーンヒットをお見舞いするんだから!とボディソープで体を洗いながら決意を新たに、私は泡を流すのだった。またちょっと大きくなってるなあ……困った。
轟くんと合流して何を作ろうかなと冷蔵庫を開けると、なんか蕎麦の量が増えててちょっと怖かった。怖かったのでお隣にあった鶏肉とうどんでカレー南蛮を作った。轟くんは和食派らしいので、次は手の込んだ何かを作ってあげたいなあ。あ、明日の朝ごはんにアジの南蛮漬け作っておこうっと。ん~~、サイドキックの皆さんの分も作っておこうかな?沢山つくっておこう!ん?轟くん何かやりたい?じゃあ玉ねぎ薄切りに……どうやったら全部つながるの……?うわああその手つきはあぶないよおおっ!
手切れてない!?よかったあ……!えっとね、切るときははこう。猫の手!そうそう!飲み込み早いね轟くん!うん、揚げたアジを漬け込んで、これで大丈夫!明日になったら味がなじんで美味しいよ~。こっちがサイドキックの皆さん用で、早い者勝ちになっちゃうけど書置きも残して、完成!
「じゃ、集合までおやすみ、轟くん」
「ん、おやすみ」
部屋のベッド、作りがいいので若干小さいところ以外は私にとっては嬉しいところ。布団もふかふかで寝やすいなあ……手袋だけ外して、おやすみなさぁい……。
「よし、バーニンから概要は聞いているな?道すがら説明する、駅まで行くぞ」
「はい!」
「おう」
仮眠をとった私と轟くんはパトロール帰りだというエンデヴァーにヒーロースーツで合流した。やっぱり轟くんはエンデヴァーと一緒だとあんまり機嫌がよろしくなくなる。もう事情を聴いた後なのでしょうがないことだと思うし、向き合おうとするだけ凄いなあって感じるだけなんだけど。
事務所に来たときと同じように車に乗って駅まで移動する、サイドキックの人たちの内バーニンを含めた5人が一緒に保須に行くみたいで、別の車で後ろについてきている。来たときのように事件は起きなかったので今度はエンデヴァーも一緒。もしかしたらヤバそうなのパトロールで全部潰してから来たのかも……。
「おい、なんでお前と俺が隣なんだ」
「開いてる席の都合と性別の問題だ」
「ごめんなさいバーニンさん、狭いですよね……」
「健康的でいいんじゃない!?もっと胸張りなって大きいんだから!」
「そ、そんなことこんなところで……!」
実は私、新幹線は初体験。轟くんが隣の席になったエンデヴァーに噛みついてるけど、領土侵犯を犯している私のお尻についてバーニンさんに謝ると彼女は私の背中をバンバン叩きながらそんなことを言うもんだから、私は余計に蒸気を吹きながら真っ赤になっちゃう。
新幹線の中で説明されたのは、ヒーロー殺しを確保するのが目的のパトロールで、捕まらない限り体験中の夜は基本保須に行くことになるということ。ヒーロー殺しは今までヒーローを一つの都市で4人以上再起不能にしてから別の都市に現れているのでまだ保須にいる可能性が極めて高く、ここでビルボードチャートが高いエンデヴァーが行くことで囮をしつつ捕まえる作戦らしい。
「基本的にショートとエクスマキナは俺と行動する。小競り合いの喧嘩程度ならヒーロー活動も許可しよう。バーニン達は都市の外周に沿っていけ」
了解、とはきはき返事してバーニンとサイドキックたちはそれぞれ分散して都市の外周に向かった。私たちは都市の内部でも治安が悪めな方面を虱潰しにローラー作戦するみたい。治安が悪い、と言うだけあって確かに人通りが多いわりに何となく怪しげな風体の人が多く思える。じっ、と右目を駆使して暗がりを見つめると……!うわあ……!たむろしてる、いかにも不良みたいな人たちが。爆豪くんってまだグレてはなかったんだね……。
「ショート、エクスマキナ。あれを見ろ……おそらく万引き犯だ。先ほどバックの中に商品を隠すのを見た。店の外に出た瞬間でいい、確保しろ」
「おお」
「はい」
ギラリ、と常に鋭い瞳をさらに鋭くして私たちに指示を出したエンデヴァー。その視線の先にあるコンビニでは、やたらに焦って周りを見渡しながら別商品の会計を済ませるサラリーマン風の男の人の姿がある。右目で軽くバックを透視すると……わぁ、盗んでるねワンカップのお酒……。私が直接捕まえます、とエンデヴァーに報告して背中からポンチョ型の布を生成して被る。
「
ジジッ……と蛍光灯がつくような音を立てて私の姿が透明になっていく。これは周囲の景色を布型のディスプレイに投影することで高い迷彩効果を発揮するもの。私は透明状態でコンビニの前で仁王立ち、店員さんも気づいていたようでバックヤードから出て来てるのが見える。男がコンビニから出た瞬間に店員さんが声をかけるけど男はそれを無視して全力で走りだして……私にぶつかって尻もちをついた。私はそのまま男の人の肩を掴んで、迷彩を解く。
「えっと、あの……お酒、盗んでますよね?現行犯で、逮捕です」
「ふん、俺の目の前でやったのが運の尽きだったな」
「え、エンデヴァー!?…………すいませんでした…………」
エンデヴァーを見て絶対に逃げられないことを察した男の人は肩をがっくりと落としてうなだれた。エンデヴァーは私に、ぶつかる前に確保するようにと厳しい口調でアドバイスをくれて店員さんに男の人を引き渡した。おそらくこのまま警察を呼ばれて男は引き渡されると思う。個性使ってないから重い罪にはならないだろうけど……魔が差しちゃったのかな……?
「これがヒーロー活動だ。罪の大小は関係ない。犯したのならば捕まえ、向き直らせる。確保が遅くなり、逃がせば次の犠牲者が出るぞ。最速最短で捕まえろ。エクスマキナのやり方は悪くない。ショート、貴様ならどうした」
「逃げる前に、凍らせた」
「それでもいい、が周辺被害を考慮するならば駆けだした瞬間に組み伏せて背中を地面と凍らせて接着するのが一番いいだろう。右ならばコントロールもできるはずだ」
「……」
ヒーローとしての父親の姿を見た轟くんは、深く何かを考えているようだった。エンデヴァーはそれ以上何も言わず歩を進める。私はポンチョを折りたたんで小脇に抱えつつそれについていく。結局この後は喧嘩の仲裁や暴走族の小競り合いなどを鎮圧することはあったけど……ついぞヒーロー殺しに遭遇することはなかった。一抹の不安を抱えつつも、一旦エンデヴァー事務所に引き返すことになるのだった。
元ネタ解説
光屈折迷彩 緋弾のアリアより。布型ディスプレイとかいうそのうち開発されそうなやつ。作者こういうのも好き
次回かその次あたりでヒーロー殺しですかね。感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ