個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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31話

 

 「では本日もパトロールとする。今日は昨日より時間を伸ばして対応を行う」

 

 「はい!」

 

 「……おう」

 

 職場体験3日目、今日は夕方から深夜まで保須にいることになっている。茜色の空に照らされる轟くん、エンデヴァーのヒーローとしての姿と自分が知る父親としてのエンデヴァーのギャップに相当打ちのめされている様子だ。だって私も轟くんの話を聞いて尚、ヒーローとしてのエンデヴァーは間違いなくトップ2だって言えちゃうから。深く色々知っている轟くんにとってはもっと衝撃的なんだろうなあ。

 

 肩を怒らせて私と轟くんの前を歩くエンデヴァー。きっと目線は街のあらゆるところを見ていて、些細な異常も見逃さない眼力を有しているんだろう。にしても飯田くん、心配だなあ。実はここに来る前に保須でパトロールするからすれ違えるかもね~と軽くメッセージを送っておいたんだけど、既読がついても返事がないの。

 

 飯田くん、メッセージを既読したら必ず5分以内、長文ならもうちょっとかかるけどそのくらいに必ず返信をくれるんだ。連絡事項でも雑談でも、付き合ってくれるいいひと。だから、既読スルーの現状は滅茶苦茶に心配になっちゃう。エンデヴァーに俺を見ろ焦凍おおおお!!!と叫ばれて舌打ちする轟くんという珍しいものを見つつ脳内でマップを起動して昨日と合わせてパトロールしたところを塗りつぶしていく。

 

 そうして、私たちはノーマルヒーローマニュアルの管轄区域に被るような形でパトロールを進めていく。もうすぐ日が暮れる……というとことろで周りの街並みが唐突に崩れ始め、爆音が響きだした。明らかな異常にエンデヴァーは

 

 「昨日の時点で俺がいるのを理解しただろうに。いくぞ、ヒーローとは何たるかを見せてやる」

 

 そう言って駆け出す。私たちはそれについていきながら、何が起こったのか自体を把握するため情報を収集する。爆発の原因は……?右目をズームさせて煙の中を見る。明らかな異形型の人間がっ!?

 

 「脳無!?」

 

 「んだと……?」

 

 「エクスマキナ!手短に知ってることを話せ!」

 

 「雄英を襲撃した一味が使ってた改造人間に酷似してます。主犯格が一緒なら複数の個性を持っているはずです!それがどうして……?」

 

 「なんでもいい!だが……ケータイじゃなくて俺を見ろ焦凍ぉ!」

 

 その爆発の中にいたのは、形は違えど脳みそがむき出しの造形をした異形……USJで遭遇した脳無に酷似したやつだった。というかほとんど確定で脳無でしかない。あんな脳みそむき出しの造形がヴィラン界隈で流行ってるなんて考えたくないです。それを聞いてきっと向き直ったエンデヴァーがスマホとにらめっこする轟くんを叱る。だけど私も思わずスマホを見てしまう。デクくんからの全体一斉送信……?内容は場所だけ、保須だ!これは……!

 

 「エンデヴァーさん!この場所にできるだけ多くプロを呼んでください!」

 

 「わりぃけど俺はそっちの方に行かなきゃなんねえ。楪、いこう」

 

 「待て、意味を……!」

 

 「友達がピンチかもしれねぇんだ」

 

 困惑してるエンデヴァーにそう言う轟くん。エンデヴァーはそれにたいそう驚いた顔をしたけど無言で踵を返して足から炎を噴射して飛び立った。無言の許可に私と轟くんは走ってデクくんが送信した場所に向かう。じれったいので誰も見てないのをいいことに轟くんを抱えて足を作り変えてローラーダッシュで車レベルの速度で逃げ惑う群衆を避ける。

 

 「楪、あそこだ!」

 

 「うんっ!」

 

 ドリフト走行でブレーキをかけつつデクくんの位置情報と重なる路地裏に入る。そこには……倒れ伏した飯田くんとデクくん、それにプロヒーローの姿とニュース画像に有ったヒーロー殺し、ヴィラン名はステイン!そいつが飯田くんに向かって刃こぼれだらけの刀を振り下ろそうとするところだった。私は轟くんを下ろすよりも先に片腕を圧搾空気で射出、空中でロケットエンジンを作り出してロケットパンチをステインにお見舞いした。

 

 ガキャァァ!と刀を犠牲にしつつそれを防御したステインがバックステップで後ろに下がり、そこに轟くんが私に担がれたまま炎を打ち出してさらに後ろに追いやった。

 

 「ハァ……次から次へと……!」

 

 「ごめんデクくん、遅くなった!」

 

 「緑谷、こういうのはもっと詳しく書いてくれ。間に合わなかったかもしんねえだろ」

 

 「楪さん……!轟くんも……!」

 

 動けないらしいデクくんと奥のプロヒーローにワイヤーを伸ばしてこちらに引っぱる。ステインは妨害しようとしたけど轟くんの炎と氷結に邪魔されて未遂に終わり、そのまま私の後ろの飯田くんと同じ位置に落ち着かせた。ロケットパンチが戻ってきてガチャンと私の片手と接合する。この場合、私が前かな。

 

 「ヒートナタ、形成開始(レディ)

 

 膝の頭の装甲が開き、そこから柄が出てくる。私は両膝からその柄を引き抜く。手に握られているのは分厚い刃を持った鉈……一つただの鉈と違うところをあげるとすれば、赤熱していて物を溶断する武装だということだ。ぶぉん、とヒートナタを振り下ろして構える。右目で見ると相当数の刃物で武装を済ませてるようだから、これで受けて同時に武器を破壊しよう。

 

 「私の友達を殺させないよ、ヒーロー殺し」

 

 「こいつらを殺せると思うなよ」

 

 「二人とも、血を見せちゃだめだ!血を舐められると体の自由が利かなくなる!」

 

 「それで刃物か、俺なら距離保ったまま……っ!?」

 

 「あっっぶない!」

 

 デクくんからの情報提供中にほとんどノーモーションで投げられたナイフを私が弾く、甲高い音を立てて弾かれたナイフに私と轟くんの意識が集中した瞬間に瞬時に距離を詰めたステインはいい友達を持ったなと飯田くんにいいつつも両手にサバイバルナイフと小型のダガーを持って轟くんに振り下ろす。さっきの投げナイフのおかげで態勢が悪い、割り込むことは出来たけど受けるしかない!しょうがないので腕を挿しこんで首の方のサバイバルナイフは防御、ダガーナイフの方は甘んじて受けることにした。

 

 「てぇい!!!」

 

 ざっくりと肩口に刺さったダガーナイフを無視して私はやつに思いっきり頭突きをかました。たたらを踏んだステインに追撃のヒートナタ……は不発に終わる。身のこなしが軽いうえに戦い慣れしすぎている。これが40人のプロヒーローを殺したヴィラン……!

 

 「楪!てめぇ……」

 

 「楪さん!?」

 

 「平気だから、それよりも冷静を保って。強いよ、あのヴィラン」

 

 「ハァ……悪くない。女……お前はなぜその贋物を庇う?」

 

 「贋物って……飯田くんの事?んっ!!痛ぁ……。誰かを守るのに何か特別な理由なんていらないよ。しいて言うなら、お友達だから」

 

 ぶつっとダガーナイフを引き抜いて、ヒートナタの側面で傷を焼いて止血する。血を見せたままなのはまずそうだ。贋物と飯田くんが言われたことにムカッと来たが怒ればヒーロー殺しの思うつぼ、押し殺して警戒に徹する。ホーダインクラブを右手に生成して飯田くんたちが寝転んでいるあたりに落として自動砲台に防御させる。あとは私が、押しとどめればいい。

 

 「ダメだ……二人とも……そいつは俺が、僕がやらないと……兄さんの名を継いだ僕が……!」

 

 「名前、継いだんだ。いいじゃない、飯田くんがインゲニウム。素敵だと思う」

 

 「ああ。俺が見たインゲニウムは、そんな顔はしてなかったけどな」

 

 飯田くんの絞り出すような声。お兄さんの名前を弟が継ぐ……いいことだと思うな。だけど、それが仇討のためだとしたら……悲しい。轟くんはつい最近までそう言う気持ちの中にいたから飯田くんの気持ちが分かるかもしれない。そんな顔、と言われた飯田くんはハッとしてこちらを見ている。氷結がステインを襲う。彼を覆い隠す氷結に刃物が走ってバラバラに斬り裂かれる。

 

 「己より素早い相手にわざわざ視界を塞ぐ……愚策だ」

 

 「私がいなければね!!」

 

 斬り裂かれる氷結の氷の裏、ステインにカウンターを入れる為にヒートナタを振り上げて思いっきり叩き付ける。サバイバルナイフを犠牲にして防御したステインは炎で追撃しようとしていた轟くんにナイフを投げ、私はそれに防御を間に合わせることが出来ず轟くんの腕に刺さってしまった。このっっ!!!

 

 「スマァッシュ!!!」

 

 まだ持っていたらしい刀を抜いたステインが迫ってくるのに不意を突く形でデクくんの飛び蹴りが見事に突き刺さった。血を舐められて動けなかったはず……?時間制限があるんだ!それなら飯田くんやプロの人も復帰の目がある!私たちが耐えれば戦力は逆転する。

 

 「緑谷!」

 

 「なんか動けるようになった!多分時間制限……!摂取量なのかそれとも血液型なのか……!」

 

 「血液型……ハァ……正解だ。三対一か、甘くはないな。だが……正しき世界のために」

 

 これで引かないんだ……!しょうがない、デクくんが前衛に行くなら私は遊撃だ。片方のヒートナタを地面に落とし、右手を変形、前腕内部から機関砲、腕側面から小型ミサイルをのぞかせてステインを威嚇する。私の戦闘スタイルが遠近両用だと知ったステインはそれでもなお、こちらへの敵意を緩めようとしない。何が彼をそこまで動かしてるの……?

 

 「皆で、守ろう」

 

 「おお」

 

 「うん!」

 

 ステインに向かって私の機関砲が火を噴いた。後を追うように轟くんの氷結も迫る、ステインはそれを飛び越して、こちらに距離を詰めようとするがデクくんが三角飛びで頭上に入り、そのまま踵落としを肩に叩き込んだ。ステインはそのままデクくんの手にナイフを突き刺して、その血を舐める。そのままこちらに迫ってくるので私が前に出る!

 

 「やめてくれ……もう……」

 

 「やめて欲しけりゃ立て!なりてぇもんちゃんと見ろ!」

 

 轟くんの叫び、ステインは私の手足が金属製でナイフが通用しないのを知っているからか胴体に狙いを絞って接近戦を仕掛けてくる。ガキン、ガキンと私は何とか腕や足で防御して血を舐められないように努める。ダメだ、私は傷ついちゃいけない守勢が得意じゃない!大抵攻撃を体で受けて反撃をするから防御のみっていう行動が不慣れなんだ。言い訳にもならない!

 

 「このっ!!」

 

 「初速が遅いと、言われないか?」

 

 「しまっ!?」

 

 慌てて大降りになった攻撃をかわされ、掬い上げるような一撃を腹に受けてしまう。浅く斬られてしまった、ステインの刀には私の血がついている。それをやつが舐めた瞬間、体が固まったように動かなくなる。けど……それは体だけ、機械には関係ない……!

 

 「なっ!?」

 

 「ハァッ!!!」

 

 電気信号で動かした私の手が私を脅威から外したステインの足首を掴んでその場に固定する。その隙に飛び出したのは飯田くん、レシプロバーストを使って瞬時に距離を詰めた蹴りをまともに顔にクリーンヒットさせる。私は首から下に人の脊椎を模した骨格を作って、手足に外部から接続。マリオネットのように体を動かして立ち上がる。

 

 「これ以上、僕の学友を傷つけさせやしない……!」

 

 「感化されても変わらん。貴様はどうせ私欲を優先させる贋物にしかならない。粛清対象だ」

 

 「勝手なこと言わないで!そんなのあなたの物差しだよ!貴方にそんな権利も自由もない!」

 

 私はそう叫ぶ。後ろでふらりとデクくんが立ち上がっているのをステインに悟らせないため。飯田くんが復帰してくれた今スピードで勝る彼を主軸に一撃で決める!轟くんにアイコンタクトをして、頷いてくれた彼は氷結を地を這うように放つ、それに合わせて私は徹甲ミサイルを氷結を避けたステインに向かって放つ。それすらも避けたステインだけど、その上には氷結を蹴ってジャンプしたデクくんが拳を握って待ち構えていた。

 

 「もう!お前の好きにはさせないっ!!!」

 

 「いって!委員長!」

 

 デクくんの渾身の一撃がヒーロー殺しの脳天を捉えて叩き落す、予想外の復帰時間の速さにステインの動きが止まった。外れた私のミサイルが氷を砕く中、落ちるステインに最後の一撃を決めれるのは、飯田くんだ!私の声を聞いた彼は、脹脛のエンジンから爆音を、排気筒からは蒼炎を吐き、まるで飛ぶようにステインに向かって距離を詰める。

 

 「行け!飯田!」

 

 「僕はインゲニウム!お前を捕らえるぞ、ヒーロー殺し!レシプロ……エクステンドォ!」

 

 ステインの胴を抉る様に叩き込まれた回し蹴りがやつを吹き飛ばして、氷を砕いて壁に激突させる。少しの間、まだ立ち上がってくるんじゃないかと心配になったけど、ステインは気絶したようでピクリとも動かない。私は拘束用のワイヤーロープを作って、ステインをぐるぐる巻きにするのだった。この体の動かし方……動きにくいなあ。

 




 本日の楪ちゃんの敗因ポイントその1 閉所戦闘なので初速を補う方法がなかった その2 攻撃を受けちゃいけなかった その3 相手が素の楪ちゃんより素早かった。その4 協力プレイだったので使える火力に制限があった。 そして最大の敗因は そもそもステインがクソ強かった。

 ステインさん、楪ちゃんのメタキャラか何かですか。いや違うんだけど……感想評価よろしくお願いします。

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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