個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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32話

 「とりあえずこれで良し……どれだけ刃物持ってるんだろう……」

 

 「楪、お前肩大丈夫なのか?根元までいってたろ」

 

 「た、たぶん、止血したし大丈夫だよ。こんな強引な止血アニメかコミックでしかお目にかかれないと思ってたけど、自分でやることになるなんて……」

 

 ワイヤーで縛ったステインを引きずりながら路地裏から出る。まだ脳無の騒ぎは収まってないらしく、悲鳴こそ聞こえないものの戦闘音は聞こえている。規則やぶりに規則やぶりを重ねるわけにもいかないが、何もしないというのも歯がゆいな。ダガーが刺さった肩の違和感が酷い、触ってみると……無理な態勢で無理やりナイフを受けたもんだから鎖骨が折れてるかも、これ。認識するとずきずき痛む、確かめなきゃよかった……。

 

 「飯田くん、お疲れ様。こんな形になっちゃったけど、インゲニウム襲名おめでとう。お兄さんも喜ぶと思うよ」

 

 「楪君……すまない!みんな!僕の……僕のせいで傷を負わせてしまった……!何も見えなくなっていた……!」

 

 「僕も、ごめんね。友達なのに、君がそこまで思い詰めてたなんて気づけなかった……」

 

 「しっかりしろよ、委員長だろ」

 

 「次からは、お兄さんが誇りに思うような形で……その名前を使ってね」

 

 「……っ! うんっ……!」

 

 飯田くんは、目に涙をためて頭を下げる。私たち、少なくとも私は飯田くんが少しおかしかったのに気づいていたのでそれを見逃してしまったことを謝らないといけない。でも、仇討か……例えば私がえーくんをヒーロー殺しにやられてたら自制できてただろうか……?あ、ダメだ。考えただけで涙出てきそう……えーくんが傷つくのは嫌だなあ。

 

 「ここか……んおっ!?座ってろっつっただろうが!」

 

 「グラントリノっ!?へぶっ!?」

 

 な、なにごと!?突如現れた小柄なヒーロースーツの老人がデクくんの顔を踏みつけるように蹴った。敵襲か!?となってヒートナタを構えたところで、デクくんの感じからして違うということに気づく。グラントリノ……確かデクくんの職場体験先のヒーローがそんな名前だったと思う。

 

 私がヒートナタを下ろすと同じくらいのタイミングでぞろぞろと応援要請を受けた他のヒーローたちがやってきて、私たちに驚いたり拘束されたステインを見ておののいたりしてる。あの、もうちょっと早く来てほしかった……私の怪我はともかく轟くんにデクくん飯田くんの怪我が結構ひどいと思う……。

 

 「伏せろ!」

 

 「デクくん!」

 

 少し気を抜いた瞬間に全身にやけどを負った脳無の1体らしい個体がデクくんを足でひっつかんで空へ舞い上がった。私は持ってたステインの縄とヒートナタを捨てて脚にスラスターを作り出して飛び立つ。私より一瞬早く飛び立ったグラントリノと並んで上空へ逃げようとする脳無を追いかける。撃ち落とそうと腕から近距離誘導ミサイルをのぞかせた時だった。

 

 いきなり脳無が硬直したように体を止める。この個性は……!落下する脳無を追って私は軌道を変えてデクくんを追いかける。その私を踏み台にしたのは……どうやってか拘束を抜け出したステイン!彼はデクくんを掴んで私に投げつけると脳無の脳天にナイフを刺して止めを刺してしまった。その右肩がダランと垂れさがってるのを見て、関節を無理やり外して脱出したのだと理解する。

 

 「贋物蔓延るこの社会も、力を誇示し振り回す犯罪者も……ハァ、粛清対象だ……ハァ……」

 

 デクくんを抱き留めて背中から地面に落ちる私に、ステインのそんな声が聞こえる。デクくんを固く抱きしめて地面に激突した私がやつの方を見るとぞっとした。背筋にまるで氷柱を挿しこまれたようなそんな感じ。USJの手のヴィランが可愛いと思えるほどの殺気……それは私を越えて、脳無を追いかけてきたエンデヴァーに注がれている。

 

 「全ては……正しき社会のために……」

 

 「貴様……ヒーロー殺し!」

 

 「待て!轟!」

 

 赫灼熱拳の構えに入ったエンデヴァーをグラントリノが止めた。幽鬼のようにふらついて立っているステインに私は動くことができない。私の上で抱えられているデクくんも同じ。じり、とプロたちの足が一歩下がる。エンデヴァーでさえもその異様な威圧感に赫灼の熱を下げて警戒し始める。

 

 「誰かが……血に染まらねば……ヒーローを取り戻さねば……!」

 

 冷や汗が止まらない。痛い筈の背中も、肩も感覚がなくなる。狂った使命感と狂気と思想が煮凝りのように固まったステインの目から視線を外すことができない。彼の主張から耳を背けることができない。オールマイト先生が言ってた思想犯の目がそこにあった。

 

 「来い、来てみろ贋物ども……!俺を殺していいのは……オールマイトだけだ!!」

 

 そう言って、にじり寄っていた足を止めたステイン。この場だけ何倍にもなったように思えた重力のような圧力がふっと消え去って、動かなかった体が動くようになる。荒くなった呼吸を正してステインを見ると……立ったまま気を失っているみたい……?と、とてもじゃないけど生きた心地がしなかった……!あれを路地裏でやられてたら……!考えたくもない。

 

 デクくんを立たせて私も立ち上がる。救急車のサイレンが遠くから聞こえる中、誰もがヒーロー殺しから目を離せずにいた。異様ともいえるヴィラン、こんなのもいるんだ……ヒーローへの道は、やっぱり遠いかな。

 

 

 一夜明けて、朝。なんだかんだ言って私は重傷だったらしくダガーナイフによる鎖骨の分断に深めの刺し傷、自分でやった深度熱傷というトリプルコンボで見事入院と相成ってしまった。というか鎖骨が互い違いになってしまったので手術した。デクくん、飯田くん、轟くんもそれぞれ浅い深いの違いはあれど怪我をしてしまってるので仲良く同室で入院、私だけ性別が違うので一人で隔離されてる。う~~、さみしい~~。三奈ちゃんとえーくんが恋しいよぅ……。

 

 先ほどエンデヴァーと一緒に保須を管轄する警察署の署長だという面構さんという方がやってきて私がやった脱法行為とその責任、及びヒーロー殺しの現在について教えてくれた。轟くんの炎でヒーロー殺しは火傷を負っており、それを利用してエンデヴァーを功労者として擁立するというお話で、そうすれば私たち学生が個性でヴィランを傷つけたという違法行為を無い事にできるとお話してくださった。

  

 何かしらのペナルティ、あるいはヒーロー科からの強制退学程度は覚悟してたんだけど……そんなことができるのか、と思ってしまった。もちろん私たち学生を管理する立場であるエンデヴァー、グラントリノそしてマニュアルたちは責任を負うことになってしまうらしく、それに関してはエンデヴァーに思いっきり頭を下げた。

 

 エンデヴァーは無言ながらも私の謝罪を受け取ってくれたようで、怪我をしてない方の私の肩をポンと叩き「これからに期待している」とだけ言って部屋を出ていった。面構署長もこれから男子の部屋に行って事態を説明すると言って帰っていってしまった。

 

 私はリカバリーガールが雄英から出張してくれるまでは入院だし、それは男子たちも同様。つまり私の職場体験はここで終了なんだ。仮に復帰できたとしても私たちを管理するヒーローたちは監督不行き届きでペナルティを受けるし、これ以上迷惑をかけたくない。でも~~~!悔しい~~!エンデヴァーにクリーンヒット入れてない!轟くんと超協力プレイでパーフェクトな会心の一発を決めたかった!

 

 あの余裕たっぷりなメラメラフェイスを驚きの形に変えたかった!轟くんのお話を聞いて私も思うところがないわけじゃないんだ!でも外野の私がぎゃいぎゃい言うのっておかしいじゃん!というかせめてあの移動の仕組みを解明したかった!あとできれば赫灼のやり方盗んで私に会う形で悪用……もとい利用したかった!右目の映像で復習かなあ……そう考えてるとこんこん、とドアがノックされる。誰かな?

 

 「え、はい!どうぞ!」

 

 「失礼します」

 

 「え?え?……????」

 

 私の頭に?マークがいっぱいになって埋め尽くされる。入ってきたのは真っ黒のスーツに身を包んだ数人の男女……私に面識は全くない。目を白黒として事態を飲み込めないでいる私がとりあえず寝た状態から立ち上がって応対しようとすると一番偉いと思われる中年の女性に手でそのままにしてなさいと制された。

 

 「楪希械さん、でよろしいですね?」

 

 「は、はい!楪希械と申します!あの、不躾ですけど貴方がたは一体……?」

 

 「突然ごめんなさい。ヒーロー公安委員会のものです。少しお話よろしいかしら?」

 

 ヒーロー公安委員会……!?名前と概要しか知らないけど、ヒーローに関するあらゆることを管轄している警察と同権限を持っているヒーローの上位組織のことだ。凶悪なヴィランの収監を行っているタルタロスという刑務所もヒーロー公安委員会の所属だったはずだけど……申し訳ないが私に一切公安のお世話になるようなことをした覚えは……思いっきり昨日しちゃったね。警察からのお叱りは免れてもこっちはダメだったのかな……?

 

 「ああ、楽にしてください。昨日の件とは全くの無関係ですが……少しお話をさせてくださいな」

 

 「えと……その……お話とは……?」

 

 「ええ、単刀直入に申しますと……雄英を卒業しプロになったら……公安所属のヒーローとして活動しないか、というお話です」

 

 「公安所属のヒーローって、今何人かいる方たちですよね?ビルボードチャートに乗らなくなって、あんまり表に出ないっていう……」

 

 公安所属のヒーローっていうのは簡単に言えば国の有事に動く実力を認められた強者だけの称号、みたいな感じで……その存在自体は公表されてはいるものの誰で何をしているのかは全くの不明。半分都市伝説扱いでチャートのヒーローの誰かがそうなんじゃないかと言われているくらいの雲の上のお話だ。

 

 「ええ、概ね間違っていません。ヒーローが準公務員だとすれば公安所属のヒーローは公務員そのもの。国のために人を助ける、そういうお仕事です」

 

 「その……なぜ私に?いきなりすぎてすこし……」

 

 「体育祭の映像は私たちも拝見しています。仔細は話せませんが、私たちが熟す任務はどれも難易度が高く、戦闘、諜報、捕縛……ありとあらゆるスキルが必要です。貴方の個性の万能性、そしてあなた自身……適格者に間違いないと判断されています」

 

 こ、ここで体育祭の話が出てくるのっ!?ヒーロー公安委員会って雄英の体育祭みるんだ……というかますますわからない。私は高校1年生で、まだどう転ぶか分からない。雄英風に言えば受精卵というやつで優秀かどうかも測りかねる段階だと思う。相澤先生が言ってたように指名は興味であってリクルートじゃない。今この段階でリクルートしてくるのは一体どんな意図が……?

 

 「なぜ今ここで接触したのかですが、早い段階で私たちを知ってもらい進路の一つとして意識していただきたいからです。貴方の個性はヒーローとしても、サポート会社としても、そしてヴィラン側からも狙われやすいと自覚してください。時に科学は個性を凌駕します。その逆もしかりですが……個性と科学の両方を持つ貴方の場合はそれが顕著です」

 

 「私の個性が……ヴィランに……?」

 

 「レーザー兵器を個人で運用できる人間にヴィランが目を向けない理由はありません。雄英に入学して良かったと思います。普通校では……ヴィランに誘拐されていた可能性がありますから」

 

 ぞっとした。何でもないように使っていた個性だし、危険性は重々承知してはいたけど……ヴィランに攫われて兵器工場にされる可能性があるなんて考えもしなかった。仮に誘拐されたら……利用される前に自爆でもしよう。どうしようもなくなった時の最終手段だけど、私の武器が無実の人を傷つけるのなんて天地がひっくり返ってもごめんだ。

 

 「はい、意識したようで結構。今回の事件を見るに、若干無鉄砲なきらいが見受けられます。貴方が誘拐され、仮に利用されれば無数の被害者が出ることを心に刻んでください。まあ……お節介なおばさんの余計なお世話というやつです」

 

 「いえ、身に沁みました。わざわざありがとうございます」

 

 「よい顔です。組織人としては今回の件を褒めるわけには参りませんが、いち個人としてはとても好ましく思っています。またどこかで会うと思います、卒業後か、その前か。いい形で出会えることを祈ってますよ。では、お大事に」

 

 そう言って、ヒーロー公安委員会の方たちはドアを開けて去っていってしまった。つまるところ、彼女たちがしたかったのは体育祭の指名、そういうことなんだろう。ヒーロー公安委員会……そういうのもあるのかと私はベッドの上で考える。そして、考え事にふけりすぎてやってきた相澤先生に目の前で柏手を打たれて正気に戻った。ごめんなさい!ノックも声かけも電話もメールもしてくれたのに気づかなくて!え?はい、一応無事……違反行為はごめんなさいぃぃ!

 

 




 これで職場体験編は終わりです。公安の人が言ってたヒーローはホークスやナガンが所属していたものとは別枠です。もちろんスカウト後にホークスの後輩にするつもりでしょう。

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