個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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期末試験編
33話


 「なぁ……希械お前ぇ……」

 

 「どうしたの?えーくん」

 

 「いや……何でもねえ。無事でよかったな、そんだけだ」

 

 「うん、エンデヴァーに守ってもらえたからね。怪我はしちゃったけど、元通りになったし!」

 

 長いようで短い入院期間を終えて、私の職場体験は終了した。飯田くんの左手は私たちが来る前にステインに刺されたせいで後遺症が残ったらしいけど、彼はあえてそれをそのままにしておくことで戒めにするって言ってた。両親は私がヒーロー科に入ってから怪我ばっかりしているのでかなり心配してくれたけど、全部ステインが悪いと丸め込んだ……というか納得してもらった。正直どうしようもないよ、ヒーロー活動に怪我は付き物だし。

 

 意外だったのは、エンデヴァーが私の両親に頭を下げて謝ったこと。預かった娘さんに傷をつけてしまったと、何時もは燃やしている顔の炎を消して謝罪をしたことだった。思わず私が悪いんだと言ってしまいそうになってエンデヴァーの眼光に黙らされた。これが、責任を取るということだと改めて知って、申し訳ない気持ちになってしまった。

 

 手術した鎖骨も切創もリカバリーガールのおかげできれいさっぱり治癒して傍目には何もなかったように私は職場体験を終えて、家に帰った。そのころには既に世間はステイン……ヒーロー殺しのことでいっぱいだった。ステインの気絶寸前の場面は誰かが動画を撮っていて、それはいま日本中に拡散されて悪い意味で注目を浴びてしまっている。

 

 そして、私たち。轟くん、デクくん、飯田くん……そして私はデクくんが発信した位置情報により、クラスのみんなから何があったかを聞かれ、ヒーロー殺しに遭遇したことを説明して、エンデヴァーに助けられたと面構署長に言われた通りのシナリオを話した。それぞれ怪我してしまったことを説明して、三奈ちゃんをまた泣かせてしまったし、えーくんはかなり暗い声を出していた。

 

 「ヒーロー殺し、すごく強かったよ。USJの脳無とはまた違う……技術を持ったヴィランだった。でも、もういいの!ちゃんと帰ってこれたし、短かったけど職場体験できた!えーくんはファットガムの所で何してたの!?」

 

 「お、おお!ファットガムのとこは大体トレーニングかパトロールだった!ファットガムってやっぱすげえや!俺とはタイプ違うのにまだぜってえ勝てねえ!ってなっちまう。もっと強くならなきゃな!」

 

 「うん、その意気だよえーくん!私もエンデヴァーの技術を再現して強くなるんだから!」

 

 私と朝、顔を合わせてから登校してもちょっと暗めのえーくんを元気づけるため、私は大丈夫!と明るい声を出して話題を切り替える。さすが私の数十倍のコミュ力を持つえーくんはそれを察してくれて話題に乗っかって職場体験でやってくれたことを話してくれた。そして私は最後にエンデヴァーが貴様なら理解できる、と病室の中で口頭で教えてくれた赫灼の極意の一つ「熱の凝縮」をものにして私の個性で溜まる熱の転用方法を模索することをすでに決意しているんだ!

 

 がんばるぞー!といつもはやらないしがらでもないけど腕を突き上げて決意表明、それに乗っかって両手をあげるえーくん。そうそう、えーくんはこうやって明るくなくちゃ。ああ、1週間もえーくんがいないなんて初体験だったからちょっと懐かしさすら感じるなあ、でも無事で会えてよかった。

 

 

 

 「ええ~~~!!!また希械ちゃんと一緒に帰れないの~~~!!???」

 

 「うん、また呼び出されちゃって……」

 

 「希械お前先生たちから頼りにされ過ぎだろ。今度は誰だ?またオールマイト?それともパワーローダー先生か?」

 

 「今度はね、なんと相澤先生」

 

 「ええっ!?相澤先生が!?希械ちゃんを呼び出したの!?それって除籍宣告だったりして……」

 

 「普通科に行ったらごめんね?」

 

 「いやだ~~~~!!」

 

 そんな朝が過ぎてあっという間に授業後。朝は爆豪くんの髪型がベストジーニストの髪型になっててそれを見たえーくんが腹筋に直撃を受けたらしく笑い転げて動けなくなって爆豪くんがめっちゃキレたり、職場体験のことをみんなで話し合ったり、そこでもやっぱり話題になったステインの話も出たけど、飯田くんがキレイに締めてくれたおかげでそんなに重くはならなかった。

 

 そして午前中を終えて久しぶりのお弁当タイム、そのあとはこれまた久しぶりのオールマイト先生によるヒーロー基礎学の時間だった。救助訓練レースと題したそれで驚かれたのはデクくん、私たちはステインの時に知ってはいたけどワンフォーオールを全身に発動し続けるという使い方を会得したとのことで、技名はフルカウルというらしい。途中で滑って落ちて最下位になってしまったけど個性把握テストの時と比べたら雲泥の差だろう。私は普通に空飛んで1位をもぎ取った。こういう単純なものなら私は強いんです。

 

 それで、帰りのホームルームに行く前に廊下で相澤先生に呼び止められて、授業後に時間あるかと聞かれ、あると答えたら手伝ってほしいことがあると言われてしまったのでわかりました~と返事してホームルームを終えたところなんです。正直断ってもよかったんだけど、直近で思いっきり違法行為を働いてしまった負い目がある私としては相澤先生のポイントは稼いでおいて損はないというか現状マイナスなので……。

 

 「やだ~~!最近希械ちゃん成分が不足してるの!ずっと遊べてないもん!女子で集まっても希械ちゃんいないことの方が多いし!」

 

 「うぅ……それ言われるととても弱いんだけど……」

 

 うじゅうじゅと言いながら私に縋り付く三奈ちゃんが私の良心にダイレクトアタックをかましてくる。そこら辺を考えるととても弱い、だってもう既にクラスの女子のみんなは名前で呼び合ってるのに対し、私はそうじゃない!それはなんでかと言えば私の授業後が結構忙しいから。サポート科に呼び出されたり演習場のゴミ掃除に駆り出されたりと半ば便利道具のような扱いを受けているせいでみんなと一緒にいる時間が少ないの……。

 

 「あれ……?もしかして私みんなとそんな仲良くなれてないのでは……?」

 

 「そんなことあらへんよ!?」

 

 ぽくぽく、ちーんと至った結論を口に出すと近くでデクくんと話してた麗日さんがすさまじい勢いで振り返って否定してくれた。前の八百万さんや梅雨ちゃん、葉隠さんに耳郎さんも違う違うと集まって言ってくれる。み、みんな……!

 

 「でも、あんまり一緒には行動できてへんよね」

 

 「そうだよね……」

 

 あげて落とされた、麗日さんに。確かに私もみんなと一緒に遊びたい、とは思ってる。というか普通に普通の休日を過ごしたいとはちょっと思った。半日どうして学校にジャージでいて粗大ごみを粉砕機の中に突っ込む仕事をしてるんだろうとはたまに思うけど。いや金属粗大ごみ出すぎじゃない雄英?リサイクルしよ?私がしてるんだけど。

 

 「なら私の事、お茶子って呼んでええよ~。私も希械ちゃんって呼ばせて欲しい!」

 

 「え、じゃ、じゃあ……お茶子ちゃん?」

 

 「希械ちゃん!」

 

 ちょっと赤くなって麗日さんのことを名前で呼ぶと、ぱぁっと顔をかがやせたお茶子ちゃんが私の名前を呼び返してくれる。それにぽかぽかと温かい気持ちになってると、ずるいと割り込んできた葉隠さんも私も下の名前で呼んでと言ってきて、それを皮切りに八百万さんと耳郎さんもそう言ってくれた。なので私は3人を名前で呼んで呼び返してもらう。

 

 なんだかうれしくなってはにかんでいるとそれを見たデクくんが何か眩しいものを見たようなすんごい顔してる。何その表情、あと轟くんは何を考えこんでいるんだろう。えーくんはいつも通りにっこにこだね、安心する。今度の休日はみんなでお出かけすると約束して、私は呼ばれた職員室へ向かう。相澤先生の呼び出しってなんだか怖いけど、何があるのかなあ。

 

 「失礼します。相澤先生……あれ?」

 

 「来たか、楪」

 

 「アンタは……」

 

 職員室の相澤先生の机のそばに立っていたのは……体育祭の本選に唯一残った普通科の星、心操くん。紫色の無造作へアが特徴的で、個性は洗脳。要望はヒーロー科への編入……その人がどうして相澤先生の所に?ああ、相沢先生って普通科の授業もやってるからその関係かな?じゃあ用事終わるまで待たないと。

 

 「よし、揃ったな。心操、楪、体育館行くぞ」

 

 「はい」

 

 「え?私もですか?」

 

 「そうだ。詳しくはそこで話す」

 

 頭の上に疑問符を浮かべながら、首元を抑える心操くんと一緒に相澤先生についていくことにする。体育館?何をするんだろう……?トレーニング?うーん、予想がつかない。無駄を嫌う相澤先生のことだから移動中に聞いても応えてはくれないだろうし、心操くんがいる時点でちょっと謎だ。というか心操くんジャージ姿だ、私は制服だけど……いいのかな?そうしてついた体育館で相澤先生は私たちに向き直る。

 

 「さて、楪……詳細を話さずに悪いな。お前、定期的に1日授業後を開けられないか?サポート科と被ってもいい。少しお前の時間を貰いたい」

 

 「えーっと……お話が見えないんですけど、心操くんが関係してるっていうことでいいですか?」

 

 「そうだ、ヒーロー科編入へ向けた基礎の基礎作り……お前らに追いつけるかはこいつ次第だが、相当なスパルタになる。肉体面でも個性面でもな。まあなんだ、俺が心操を個人的に見ることにしたんだが、どうしても届かない部分があってな。お前にそれを頼みたい」

 

 「相澤先生が出来なくて、私ができること……?異形型への対処とかですか?」

 

 「流石に鋭いな。それにお前、洗脳が効かなかったそうじゃないか。個性が効かない場合どう対処するかという場合の例としても適切だ。流石にこれは強要できないしするつもりもない。断っても問題ないぞ」

 

 むむ、なんて底意地の悪い言い方だ。敢えてそういう言い方をして私の良心を煽ってるな相澤先生。それはそうと、納得した。相澤先生が心操くんを気に入ってヒーロー科編入を果たすためにトレーニングを付ける手伝いをしてほしい、要はそういうことなんだろう。少し恥ずかしいお話だけど、私のフィジカルはそんじょそこらの男の人を軽く凌駕するし、身長も大きい。今も相澤先生と心操くんを見下ろしてるからね。そしてまあ、機械だから異形だ。変形もできるし異形型っぽいことはそれなりに再現できる。

 

 「これは相澤先生相当心操くんを気に入りましたね?え、と心操くんって呼んでいいかな?」

 

 「別に、好きに呼んでいいよ」

 

 「じゃあ、心操くん。心操くんはヒーローになりたい?」

 

 私は軽くしゃがんで、彼を目線を合わせる。髪越しに見る彼は、私と目線があったと思ったのかすっ、と目をそらしてしまったけど。私の質問が真剣なものだと悟って私の目を見てくれた。じっと彼を見つめる私に、何度か答えようとして、詰まる。彼の言葉を聞くまでは判断するわけにはいかない、相澤先生が見てる時点でそれは事実だけど、心操くんの口からその言葉を聞きたいんだ。

 

 「体育祭で言ったことに嘘をつくつもりはない。俺は絶対にヒーロー科に編入してお前たちより立派にヒーローをやってやる。だから、その……手伝って、欲しい」

 

 「……ん、分かった。じゃあ相澤先生、先生に一つお願いしてもいいですか?そしたら、お受けしようと思います」

 

 「なんだ。言ってみろ」

 

 「私にもトレーニング付けてください。格闘術、武器だけじゃ火力過剰なんです。一芸だけじゃヒーローは務まらない、ですよね?」

 

 「合理的だな。分かった、並行して教えよう」

 

 「クラスのみんなには言わない方がいいですよね?多分みんな押しかけて来るでしょうし」

 

 「ああ、そうしてくれ。今日から始める、楪はどうする?急だから今日は帰ってもいいが」

 

 「参加していきます。お手洗いで着替えてきますね」

 

 そう言って私は、お手洗いでジャージに着替えて戻る。するとそこには心操くんに紙を渡してメニューを説明する相澤先生の姿が。私に気づくとちょいちょいと手招きするので何かなと思って彼らに近づく。

 

 「とりあえず聞きたいんだが、楪お前、なんで心操の洗脳が効かなかったか心当たりあるか?」

 

 「あ、はい。私急に気絶すると基本的に他人が動かせないので、意識がふいに落ちると落ちないように再起動させるみたいな機能を個性で作ってあるんです。心操くんの洗脳の条件は詳しく知らないですけど……」

 

 「俺の洗脳は、俺の肉声を聞くことが条件。強い衝撃が加わると戻ることがある。楪さんのは多分後者、俺は前者だと思ってたけど……」

 

 「へえ、そうなんだ~。じゃあ機械を通して聴けば効かないんだ。でももったいないですよね~ヒーロー向きの個性なのに。ねえ、相澤先生」

 

 「ああ、俺は毎年言ってるんだがあの方式の入試は非合理的だ。心操のような取りこぼしが出る」

 

 「でも対人戦はそれこそ危ないですよね……どうしたの?心操くん」

 

 相澤先生に流石にもったいないですよとお話しすると心操くんはかなり驚いた様子で私を見ていた。顔に何かついてる?私何か気に障ること言っちゃった!?どうしようどうやって謝ろう!?たすけてえーくん!

 




 最近知り合いにこの小説を書いてることがバレたのですが「主人公ってこれサキュバスか何かじゃない?」と言われ、ブチギレて反論しようとしたら否定材料が全くないことに気付かされました。

 そんなわけでこれからもメカサキュバスこと楪ちゃんをよろしくお願いします

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