心操くんが固まってしまった。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか?それとも私の余りの無神経さに絶句してしまったのだろうか?こ、こういうときに頼りになるのは周りの人……えーくんも三奈ちゃんもいない!相澤先生が助け舟を出してくれる、わけもない!どどど、どうしよう?
「初めて言われた。そんなこと、ヒーロー向けの個性だって」
「え?そう?だ、だってさ?ヴィランに答えさせれば一発で動き止めれるんでしょ!?私が武器振り回すよりよっぽど合理的だよ?誰も傷つくことなく、事件が収束すればみんな幸せじゃないかな?」
「そういう、考えなのか。流石はヒーロー科、根本から違うんだな。大抵のやつはヴィラン向きだっていうし、洗脳されたらどうしようって怖がるよ」
「あ!ああ!そういう考えが先に来ちゃうんだ。うーん、でもそれって他の個性の人もそうじゃない?私だってそうだったし」
「楪、さんが?」
「あ、言いにくいなら呼び捨てでいいよ~?」
なるほど、心操くんは自分の個性がコンプレックスなんだ。ちょっと気持ちは分かるかもしれない、個性差別は良くないっていうのはまあ個性社会の標語としては当然の話だけどはっきり言って無理な話っていうのが体験談。私はまだましな方だけど異形型は差別されやすい。人の形をまだしてる私でも中学校のクラスメイトや教師に陰口を叩かれることもまあ、あった。なのでそういう個性への差別にはそういうものがあるって実感してる。
「そうだねえ、例えば……私から目を逸らす人もいれば、手が触れたら飛びのく人もいないわけじゃなかったよ。しょうがないよね、私の手……鉄を握りつぶせるんだから。怖いって思うでしょ?」
「それは、違うだろ。アンタはそういうことしないって何となく俺でもわかる」
「……ん、ありがとね。だから、今言ったことそのまま返すけど、私は心操くんが洗脳を使って悪いことするとは思わないから、そういう考えが先に来てるの。私以外も個性悪い事に使おうと思えばいくらでも使えるけど、そうしないって考えてそういう風に頑張ってるから外から見て、悪いことはしないって思えるんだよ?」
「……はは、さすがは体育祭1位だな。こんな先にいるのか……」
流石に体育祭は関係ないと思うんだけど……なんで相澤先生は無言なの。もう、こういうフォローは私じゃなくて先生の仕事じゃないですか?それとも前職員室で目を合わせてくれるから嬉しいっていう話をしたせいでそういう体験があるっていうの感づいて、心操くんのメンタルヘルスに私を利用してるな!?何という合理的な先生だ……!そもそも私がそこら辺を完全に割り切ってまったく気にしてないのに気づいてる節すらある。えーくんと三奈ちゃんのおかげなんだぞそれは。
「それに、心操くんは周りにきちんと慕われてるじゃん。体育祭の時、普通科皆で応援してたし……もうちょっと個性に自信持ちなよ。あと相澤先生、私に全部投げないでください」
「お前が俺の言うこと全部言うからだろうが」
「じゃあ、もっと褒めてあげてください。同級生の私に褒められるのって多分恥ずかしいと思います」
「……ごめん、もう既に結構恥ずかしい……」
腕で顔を隠した心操くん、隙間から見える顔は真っ赤っか。ちょっとストレートに行き過ぎたか……?でも思ったこと、特に誉め言葉は必ず伝えるっていうのは両親からの教えだからやめるつもりはないし……。絶対心操くんの個性はヒーロー向きだという確信が私の中にはもう既にあるの。だって誰も傷つくことなく、物事が終わる……凄いことだよ!オールマイト先生だってそんなことできないんだから!返事一つで行動不能、即死&初見殺し!ヤバヤバ激ヤバ!私もそういうことやりたい!初見殺し(物理)しかないもん今!
「と、まあ自罰的なのは自覚あるようだから直せよ心操。じゃないとまた楪に褒めさすぞ」
「え!?何でまた私なんですかっ?」
「お前が俺より人のいいところを見つけるのが得意そうだからだ」
「……相澤先生の方が得意じゃないですか。こそっと褒めてくれたりとか、今みたいにストレートにきてくれたりとか」
私が人のいいところを見つけるところが得意なのかどうかは置いておくとしても絶対それは相澤先生の方が得意だしやる気が出る褒め方も知ってるはず!ぶっきらぼうだけど優しいのは知ってるんだぞ相澤先生!この短いお付き合いでも!私なら10個ぐらいすぐに先生のいいところぐらい言えちゃうよ!……あれ??
「……仲いいっすね」
「問題児だからな、目を付けてる」
「そんな!?」
「それはそうと心操、調子に乗らせたくはないが、今のお前に必要なのは自信だと判断して伝えておく。体育祭の職場体験の指名……おまえにも100件来ていた。ヒーロー科に入っていれば行けていた話だ。気合い入れろよ、周回遅れを巻き返すんだ、並みの努力じゃ置いて行かれるだけだぞ」
「っっはいっ!!!」
ほら、やっぱり先生の方がやる気引き出すの上手い~~。相澤先生の言葉に頷いた心操くんは準備運動をはじめていく。私の場合準備運動は気分でしかないのであんまり意味ないんだ。せいぜい太ももを動かすくらいで……柔軟でもしておこうかな。はい、開脚、べた~~っと。足を180度開いて胸を地面につける。私がやれる数少ない柔軟運動です、手足がメカだと関係ないんだよね……股関節柔らかくするしかないの。
「じゃ、並行して教えるぞ。心操は基礎トレから。楪、お前はスパーリングだ。ただし力は加減してくれ、全力で来られると流石に教える余裕はない」
「はい~」
「はい」
腕立て、腹筋、スクワットから始める心操くんと向かい合った相沢先生とスパーリングを始める私。うっ……エンデヴァー事務所でも思ったけどプロの人たち格闘能力凄いよね……本気で手足を振り回せば私の手は人くらい簡単に殺せちゃう鈍器になるからそれはともかくとしてなんだけど、私の素人&動画でみてモーションキャプチャーして取り入れた動きをあっさりいなして転ばされる。うぐぐ、強い……!
あと相澤先生、私を心操くんの競争相手にするつもりだ多分。雄英式の高すぎる壁の役割として分かりやすく体育祭1位をとった私を連れてきて一緒に訓練させて、こなくそっていう気持ちを引き出してやる気を出させる。諦めるなら途中終了、頑張れればそれはplus ultraってことなんでしょう。す、スパルタぁ……!?
心操くんが熱い思いを秘めてるっていうのは体育祭で何となくわかっているんだけど相澤先生、カリキュラム外だとこういう風になるのか……!授業の数倍厳しいし、いわゆる除籍のハードルラインも下がってそう……!私も本気で頑張らないと……!!
「それじゃ、今日はここまでだ。心操は毎日基礎トレを怠らないように。楪は力押しを何とかしろ、以上解散」
「……はい」
「わかりました」
トイレでまた制服姿に着替えた私に対して、いまだジャージ姿のまま倒れ伏す心操くんに手短に注意点を伝えた相澤先生は体育館を出ていく。相当きつかったもんね基礎トレ……でもこれ毎日やるの?凄いな、ヒーロー科でも結構顔をしかめそうなくらいきついメニューだけど……そういった訓練が一切ない普通科ならこのメニューは地獄そのものだろねぇ……筋繊維ぶっちぶちに違いない。
「はい、心操くんこれ。私のおごり~」
「……いや、払うよ」
「受け取り拒否します。これから毎日頑張らないとだから、エールの意味を込めてプレゼントね」
着替えるついでに買ってきたスポーツドリンクを心操くんに手渡す。体を起こして受け取ってはくれたけど、払うって言うので受け取りを拒否してみる。今日のトレーニングで分かったのは心操くんがとっても頑張り屋だってこと。キッツいメニューでも全然弱音も愚痴も吐かなかった。ヒーロー科でもきついメニューが来たらちょっとブーイング出たりするけど、心操くんはそんなことなかった。
そこからさらに、彼のヒーローへの情熱というものを伺うことが出来て、私も全力でお手伝いしようと思ったんだ。まあ、なんていうかその……個人的な好き嫌いのタイプとして頑張る人、努力する人、頑張れる人っていうのは私にとってはドストライクに応援したくなるの。素敵じゃない?目標に向かって一生懸命になれるのって、えーくんとかデクくんとか、私の男友達はそんな人ばっかりだけど、そこに心操くんが追加された感じだ。
バックを漁って取り出された財布からお金を差し出す心操くんにぷい、と差し出されたお金をやんわり受け取り拒否する、それでようやっと諦めてくれた心操くんはペットボトルの中身を一息に開けて大きく息を吸った。うーん、やっぱり汗沢山搔いてるし喉乾いたよねえ。
「そんなあなたにもう一本!どうぞ?」
「どこから出したの……?この際ありがたく貰うけど……」
「バッグ型冷蔵庫だよ~~」
個性で作ったウエストポーチ型冷蔵庫、腰の後ろから取り出した2本目のスポーツドリンクを差し出すともう諦めたのか普通に受け取ってくれる。うんうん、素直が一番だよ~。そのペットボトルを半分開けてようやく一息付けたらしい心操くんは私を見て、話しかけてくれた。
「あれだけ動いたのに全然疲れてなさそうだね、さすがヒーロー科」
「私は機械だからね、疲れないのがデフォだよ。こんな重い物付けて生活してたら体力だってつくよぅ」
「……重いって?」
「はい、持ってみて」
「うわおもっ!?待って腰抜ける、っていうか腕……」
重い、の理由が理解できなかったらしい心操くんに左手外してパスすると成人男性より重い腕を支えきれずにすさまじいガニ股になってしまう心操くん。私の腕が外れたことについてはもはや説明する必要もないだろう、便利でしょ?セルフロケットパンチ。最悪ジェットエンジンの変形間に合わなかったら腕外して投げて当てればいいんじゃないかなって最近思い始めたんだ。外して投げる、2行程、何という簡略化だろうか。
「あ、でも股関節の柔軟性だけは毎日鍛えてるよ。こんな感じで」
「うわ、カンフー映画で見たやつだ」
「あ、心操くんそういうの好きなんだ、アクション映画はえーくんがよく見るから私もたまに見るよ~」
脚を前後に開いてストン、と腰を地面に落とす。お風呂上がりの柔軟の成果が今ここに!柔軟これしかやれないんだけどね!ちなみに心操くん結構体固めみたい。開脚して前に倒すやつ全然できてなかったからあんまり体鍛えてなかったのかな?まあ個性鬼つよだから話術とかそういうの鍛えるほうがいい気がするけど。
そんなことを話しながらあれこれやってたけど、流石に着替えると言って心操くんは行ってしまった。私もスーパーに買い物に行ってから帰るという用事があるので心操くんとはここでお別れ、茜色の沈みかけの夕日に照らされていつもお世話になっているスーパーの中に入る。お野菜~と見ているともやしの目の前で悩ましい顔をしている知り合いの顔が
「あれ、お茶子ちゃんだ。どうしたの?もやしとにらめっこなんてして」
「はえっ!?希械ちゃん!?ちゃ、ちゃうねん実はおかずが家になくって買い物に来たはいいもののお肉は予算オーバーでもやしで何作ろうかとか考えてたわけじゃ……」
「全部言ってるよ?」
「しまった!?」
話を整理するにお茶子ちゃんは夜ご飯が家になくっておかずの材料を買いに来たはいいものの予算が足りないからなくなくもやしで我慢しようとしていたと。ふむふむ、なるほど……体育祭でお茶子ちゃんの実家はあまり裕福ではないという話は聞いたし、一人暮らしの予算も少なめなのかも。んー、余計なお世話はヒーローの本質、だよね。
「ねえ、お茶子ちゃん。今日、私のお家でお泊りしない?」
「え?」
「急かもだけど、折角会えたし……今日明日私の両親出張でいなくて、寂しいなって思ってたの。よかったらご飯食べに来てくれると嬉しいなって」
幸い今日は土曜日で、明日は学校休みだ。お茶子ちゃんに用事があったら残念ってなるけど、私は明日暇になったのでこうしてお誘いするに至った。相澤先生にお願いして粗大ごみ回収の頻度下げてもらったのだ。スケジュール伝えたら頭抱えて「頼み過ぎだ……お前も断れ」ってなって私への手伝いについて学校でルール決めるって言ってた。そこまでしなくてもって思ったけど有無を言わせぬ感じだったので何も言えませんでした。
「その……迷惑じゃ、ないん?」
「迷惑だったら誘ってないよ~。お茶子ちゃんの事もっと知りたいし、仲良くしたいな~って。お家、ここから近いの?」
「う、うん!待っとって!すぐ準備して戻ってくるから!」
「やった!じゃあ私お夕飯のお買い物してるから、ゆっくりね?」
「マッハで戻ってくる!」
ぜひお家にきて!という私のプッシュが通じたのかお茶子ちゃんは物凄く嬉しそうに笑ってくれて、そのままスーパーを出て走ってお家の方に行ってしまった。私は楽しくなってきたな~と人知れず気合を入れて、お夕飯の献立を考えながらお買い物にいそしむのだった。ふふふ、お腹いっぱいに食べさせてくれようぞ。
心操くん、個性差別受けてるんですよね...それでも異形型や無個性よりだいぶマシですけど。自信持ってもろて、君はすごいんやで
このあとお茶子ちゃんとめっちゃいちゃいちゃした(描写外
しばらくまったり行きます
感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ