個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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36話

 「ヤオモモ~~!希械ちゃん~~!!!おかげでペーパーテスト何とかなったよ~~!ありがとう~~!」

 

 「お役に立てて光栄ですわ!上鳴さんも頑張られたようで、私も鼻が高いです」

 

 「ありがとな八百万!楪も!マジで二人いなかったら赤点だった!」

 

 「上鳴くん、頑張ったからね~。自己採点これだけ高かったら赤点のラインはクリアしてるよ~」

 

 期末テスト当日、午前中全てを使ったペーパーテストを乗り越えた上鳴くんと三奈ちゃんの勉強苦手コンビが机に突っ伏して頭から湯気をあげながらお礼を言ってくれるので次につながるように褒めておく。頑張ったならご褒美がありま~すと朝焼いてラッピングしたクッキーを二人にあげる。クラスのみんなの分もあるよ~と配ると皆お礼を言って受け取ってくれた。爆豪くんも受け取ってくれた、意外。

 

 演習試験はデクくんたちの情報によると去年は対ロボット演習だったみたいだから、私の個性ぶっぱで超余裕!ロボインフェルノの耐久値も他のロボットの耐久値も全部頭に入ってるし、人間相手の手加減を考えなくていいなら破壊力重視のピンポイントレーザーライフル狙撃の一撃でいける!この間社長さんにメールでもらった設計図の一つにあったKARASAWAっていうレーザーライフルのお披露目を……!

 

 

 

 「残念!今年から諸事情があって内容を変更しちゃうのさ!」

 

 そん……な……!?余裕ぶっこいてどの兵器を試そうかうきうきで考えてた私ははしごを外されて絶望の淵にいた。真面目に取り組むつもりではあったんだけど人で試せないあれこれをロボでやろうとしてたから対策が全部丸々パーになっちゃったダメージがおっきい。特にこの期末テストに落ちちゃうと夏休み中にある林間合宿に行くことができないので実は私も割と必死、50体同時に攻撃できるクラスターミサイルとか、ガトリングパイルバンカーとか用意したのに全部パーだ!対人演習だったらまずい、私の持ち味である火力が意味をなさなくなる。

 

 あまりのことに既に林間合宿モードだった上鳴くんと三奈ちゃんは天を仰いで絶望を表現してしまっている。とても分かるよその気持ち……!でも切り替えなきゃ、もしかしたら対ロボット演習より簡単……なんてことはこの学校ではありえないか。難易度あがってるんだよねきっと……。

 

 「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視することにしてね!では相澤先生!」

 

 「……というわけで諸君にはこれから……二人一組、チームアップにてここにいる教師一人と戦ってもらう」

 

 た、たたたた……対人戦だああああっ!?うわああ対策のために作った武器、兵器その他もろもろ全部おじゃんだああああ!あれ?二人一組?チームアップ?……一人余るのでは?ああ、一つだけ3人一組になるんだね、分かるとも。だって教師の人も10人いらっしゃるからね。11組を担当するには一人足りないから、仕方ないかあ。

 

 「ちなみに一人余るがその場合は一人になるのでそのつもりでいるように」

 

 あれぇ!?私の考えてることとことごとく逆行ってない!?一人かぁ……大変だよね一人って。しかも先生たちと戦うのに一人、不安でしょうがなくなるよ。皆も一人で先生とやる場合があり得るということを理解したのかサーっと顔を青ざめさせるものや、好戦的な笑みを浮かべる人もいる。まあ爆豪くんのことなんだけど。

 

 「ペアについてはこちらで決めさせてもらっている。対戦相手もだ。さて……まずは轟と八百万。お前らは俺とだ。そして……」

 

 ペアが次々と発表される。校長先生は三奈ちゃんと上鳴くんと、13号先生は青山くんとお茶子ちゃん、プレゼントマイク先生は響香ちゃんと口田くん、エクトプラズム先生は梅雨ちゃんと常闇くん、ミッドナイト先生は瀬呂くんと峰田くん、スナイプ先生は透ちゃんと障子くん、セメントス先生はえーくんと砂藤くん、パワーローダー先生は飯田くんと尾白くん……一向に名前を呼ばれなくて焦っていく私……そして

 

 「で、緑谷と爆豪がチーム、相手は……」

 

 「私が、する!全力で勝ちに来いよ!お二人さん!」

 

 「わ、わわ私、一人なんですか?」

 

 「ああ、その通りだ。相手はオールマイトさんだ」

 

 わ、私が一人……!しかもあのオールマイト先生が相手で……!か、勝てるビジョンが一向に思いつかない。ゴリアテレベルのものを出さないと対抗すら出来ずにパンチ一発で腕とかもげちゃいそうだ……!ん?ゴリアテ……そうか!オールマイト先生なら私の本気のさらに上の上だ!私の本当に全部を出さないと攻撃を当てることすら無理のハズ。だって、エンデヴァーにだってかすらせるのが精いっぱいだった。オールマイト先生はそれ以上だ。ゴリアテをめちゃめちゃにした脳無を一方的に殴り倒してしまったのだから……!

 

 つまり……ゴリアテや他の強化外骨格……タイタンシリーズを総動員して挑める……!そうか、試験だから……!私の全力を出せるように取り計らってくれたんだ……!ゴリアテ見せておいてよかった~~!あれ?でもなんでわざわざチームアップなんて……?あ、なんか組み合わせの理由が分かってきた。みんなこれ、弱点突かれてる。えーくんとかが顕著だけど継続戦闘時間に難がある個性とセメントス先生の時間に左右されない個性や、音に関する個性の響香ちゃんたちとプレゼントマイク先生。なるほど、何かしらのウィークポイントを突かれてるのか。

 

 「では、バスに乗り込め。楪以外は一斉に開始する。楪演習場近くで待機だ」

 

 露骨に準備する時間をくれてる……?いやだとしても、組み合わせに意図があるとしたら私が一人にされたのにも意図があるはず……?まさか単純に余ったとか体育祭優勝したからとかそんなあっさい理由で組み分けをするなんて考えづらい、というか相澤先生なら非合理的だって言って別の方法考えて壁をぶつけてくるはず。

 

 何かしらの意図がある、それだけ分かってる状態はもどかしい。わざわざ距離をとってバスの後ろに乗り込む爆豪くんと憧れのオールマイト先生とガチバトルすることになって緊張で顔がすごいことになっているデクくん、そして考え込む私と何故か焦り顔のオールマイト先生……そういえば、なんで二人は組まされたんだろう?個性的にオールマイト先生が弱点だと思えないし……むむ、わからない。

 

 「あの、オールマイト先生……私が一人なのって、余ったとかじゃなくてきちんと理由があるんですよね?」

 

 「そうだね、楪少女。組み合わせは意図して組まれたものだ。当然君が一人なのにも理由がある。なぜなのか、は言えないがそこだけは安心するといい」

 

 「目の前にそびえる天を衝くバベルの塔を見て安心しろとは凄いこと言いますね。私一人ですよ?あなた相手に。難易度ファイナルですか、ルナティックですか、大往生ですか」

 

 「楪少女、自暴自棄はいけないよ」

 

 「抱き着いて自爆すればいけるかな……?」

 

 「楪さんとんでもないこと言わないで!?」

 

 「え、だってまともに戦って勝てると思う?デクくん」

 

 「無理、かな」

 

 「ほらね?」

 

 「HAHAHA!ルールについては演習場に到着したら伝えよう!消極的なせっかちさんめ!」

 

 自暴自棄にもなりたくなるよ!絶対壊れない壁ですよ?平和の象徴ですよ?全盛期より弱体化してるとか正直信じられないんですよ!でも、これが試験なら頑張らなくちゃ。プルスウルトラだ、私。目の前の壁を全力でぶち壊して乗り越える!試験である以上、合格できる何かがあるはず。それを見つけ出して何としてでも期末テスト演習試験を合格しなくちゃ!

 

 不安に駆られる私がどうにかして脳内メモリからオールマイト先生に有効な武装やら何やらを超高速で探しながらバスに揺られる。でもオールマイト先生に有効な武装?あるわけないよね。あったら平和の象徴とかそんなこと言われてるわけないし。やっぱり……私の強みを押し付けるしかないよねえ……

 

 そうして雄英のバスは演習場、確かここは市街地演習場Σだったはず。到着してバスを降りた私たちにここで試験をするよ、と声をかけたオールマイト先生がおほん、と咳払いをしてルールを説明しだした。

 

 「いいかな!?制限時間は30分!演習に合格するにはこのハンドカフスを私にかけるか指定のゲートから外に逃げること!私たちをヴィランと同じように考えてくれよ!」

 

 「逃げるか……戦うか、でもそんなの逃げる一択なんじゃあ?」

 

 「HAHAH!せっかちだな緑谷少年!まだ説明の途中だぞ!」

 

 確かにこの条件ならば確実に逃げるほうが楽だ。楽とはちょっと違う、確実って言った方がいいかな。相手は経験豊富なプロヒーローなのに対して私たちは孵化すらしてない受精卵、相対的な戦力比は明らかに負けている。その旨を口にするデクくんに指を振ってオールマイト先生は見せたのは、リストバンド。

 

 「まあ、それじゃあ逃げ一択になるのは緑谷少年の言う通り。そこでこれ、超圧縮重り!体重の半分の重りを付けて動きを制限するのさ」

 

 「戦闘を視野に入れさせるためか……舐めてるな」

 

 「どうかな。楪少女は逃げるためのゲート前で待機!仮眠するもよし!何するもよし!楪少女の時はまたルール変わるからね!」

 

 「変わるんですか……」

 

 「大丈夫!難しくするわけじゃないよ!さ、移動して頂戴な!」

 

 オールマイト先生のサムズアップに促されて私はゲート前で待つ。個性で適当に椅子を組み上げてそこで座り、二人の演習試験を見守ることにする。それと同時に、個性をフル稼働させる。ジャンパーを脱いで、背中に大型のラジエーターと排気口を作り、手足に冷却ジェルを回して全力冷却をしつつ、体の中で組み立てて、保持し続ける。

 

 雑草が熱でしなびていく、私の個性の本領である組み立て、外で組み立てないのは何を組みたてているのかバレないように準備するため。正直このやり方ってくしゃみを寸前で止め続けるとか、そういうたぐいの気持ち悪さがあるからやりたくないんだけど、相手がオールマイト先生なら準備に過剰なんてものはないし、どれだけやっても無駄じゃないと思う。

 

 オールマイト先生がゲートの目の前に陣取ると同時に時間になったのかスタートの合図が。オールマイト先生はスタートしてすぐに、その場で腕だけ動かすようなパンチを一発放つ。するとすさまじい衝撃波が通りのビルや家屋をなぎ倒して、おそらくデクくんと爆豪くんがいるであろう位置まで襲い掛かる。

 

 右目を望遠モードにして、様子を見守る。爆豪くんはやっぱりデクくんとは協力するつもりはないみたい。流石に轟音が響きすぎて音まで拾えないけど、様子からして喧嘩してるのは分かる。オールマイト先生の姿がぶれて、二人の近くに移動する。捉えられないよね、やっぱり……。

 

 逃げようとするデクくんと真正面から立ち向かおうとする爆豪くん、スタングレネードを放ったみたいだけどオールマイト先生には効かず、拘束されるがそのまま爆破を連打して抜け出そうとしている。きょ、協調性ゼロ……!爆豪くんだけじゃない、デクくんまで固まっちゃってチームワークがとれてない、叩きつけられた爆豪くんとフルカウルを発動するデクくん。バックステップをしたら空中で衝突する、噛み合ってない動き。

 

 「……もしかして、チームワークを取らせるためにこの組み合わせに……?」

 

 オールマイト先生はガードレールでデクくんを拘束して、重いパンチを爆豪くんのお腹に入れる。強烈すぎて嘔吐してしまう爆豪くん……もうだめ、見てらんないよ……!

 

 「えっ!?デクくん!?」

 

 目を背けようとしたとき、拘束を解いたデクくんは爆豪くんを思いっきり殴って路地裏に姿を隠した。いきなり仲間割れ……!?ああ、もう!路地裏なんて透視できるわけないからどういうやり取りしてるかわかんないよ!あ、出てきた!爆豪くんが後ろを取って……!デクくん!爆豪くんの腕のアイテム付けてる!?他人が使えるようにしてるんだ……!轟音が鳴り響いて、爆豪くんの最大威力の爆破がオールマイト先生を襲う。

 

 応えてるか分からないけど煙幕に紛れて脱出ゲートに向かう二人、オールマイト先生もさすがに今ので吹き飛ばされたらしい……ダメージらしいダメージは入ってないけど……距離は大分離れた、今のうちに逃げ切れば……っ!?

 

 「今ので、あんなに早く復帰を……!?」

 

 爆豪くんの最大威力の爆破は家一軒更地にできるレベルだ。それをほぼゼロ距離でまともに受けたはずなのに、一瞬で二人に追いつくオールマイト先生……爆豪くんがもう片方の籠手を向けるが無情にも破壊される。

 

 『ここで最初の合格者が出たよ!八百万、轟チーム!演習合格!』

 

 「百ちゃん!轟くん……!やったんだ……!」

 

 でも、と私は二人に目を向ける。オールマイト先生にやられてしまった二人は、また振出しに戻ってしまった。何をしたか分からない、何かをされたとしか理解できない。そんな隔絶された力量差……!

 

 あっ!!爆豪くん素手で最大火力を!その隙にデクくんを投げ飛ばすけど……オールマイト先生はパンチを推進力にしてデクくんにぶつかり、無力化してしまう。だけど爆豪くんは諦めず最大火力をオールマイト先生にぶつけ続ける。プライドを捨てて協力して、負けたくない。ゲート前から見える顔がそう語っていた。オールマイト先生に地面に押し付けられても必死に抵抗している。

 

 「デクくん……!オールマイト先生を……!」

 

 殴った、思いっきり。デクくんは素早く態勢を立て直して、今まで攻撃しようとしなかったオールマイト先生に対して思いっきり拳を振るって爆豪くんを助け出す。オールマイト先生はそれを満足そうに受け入れて、デクくんは爆豪くんを抱えてゲートを飛んでくぐる。私は慌てて立ち上がり、二人を受け止めた。その瞬間にカチリ、と私の中で全ての準備を終えた音が聞こえる。排気孔を塞ぎ、ラジエーターを切り離し、気絶寸前の二人に微笑む。

 

 「お疲れ様、二人とも。次は私の番だね……よく見てて、勝ってくるから」

 

 この頑張りを見せられたら強いとかそういうの、言ってられないよね。オールマイト先生……全力でぶつからせてもらいます。

 




 楪ちゃんの組み立て方の違い。いつもは体の外で機械が組みあがる感じですが、体内で組み上げて使う時に八百万さんのように完成品を肌から直接出す方法も使えます。ですがこれはくしゃみを我慢し続ける類の気持ち悪さとまともに動けなくなるというデメリットがあるので時間があるとき以外は使えません。戦いながらやるのは不可能。

 次回、脳無戦以来の何でもあり本気楪ちゃんVSオールマイトをやります。乞うご期待!

 あと何話がどの話か分かりづらいと思ったので章分けを実施しました。サブタイトルがあった方が分かりやすいかもしれませんが、サブタイトル考えてると更新に影響出るので折衷案です。

 では感想評価よろしくお願いします。

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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