個性「メ化」   作:カフェイン中毒

38 / 113
38話

 「なんで、追いつけるんですかっ……!」

 

 「今の君並みに速い相手はいたさ!だが、君は動きが雑だからね!」

 

 「そりゃ、ぶっつけ本番ですもの!」

 

 拳と剣が衝突し続ける。ヒットアンドアウェイでオールマイト先生の周りを飛び回り、黄金色の刀身を振るう。だけどそれはオールマイト先生の拳にあっさり負けてしまう。音速の加速を加味してもなお、打ち負ける。すぐそばにあるはずの脱出ゲートが酷く遠いものに思える。被害を小さく抑えたいからオールマイト先生がすでに壊し終わったところで戦ってるけど、それが逆に私を縛っている。

 

 やっぱり一人は難易度が高いよ!いま何分!?10分経ってないね!だめだ、私の熱圧縮を使っても、オーバーヒートまではあと1回換装できるかどうか、それ以上は体にたまる熱を無視できなくなる域まで行ってしまう。何度かカフスを生成して剣戟と同時にカウンターで腕にかけようとしてみたけど、デコピンで壊されて対処されてしまった。最低でもこのレアアロイブレード並みの硬度が必要だと思う。

 

 それに私自身、シミュレーションはしていても外骨格であるタイタンシリーズを動かすのは全部ぶっつけ本番だ。機能テストは出来ても思いっきり動かすなんて日常生活で出来るわけないから。一旦逃げると見せかけて脱出ゲートへ!

 

 「おっと、逃がさないよ」

 

 「あうっ!?」

 

 回り込まれて、水平チョップが私を襲った。とっさにレアアロイブレードを十字に構えて防御する。受けたら敗北必至だから……!吹っ飛ばされてビルに突っ込む寸前でスラスターで急減速を取り、オールマイト先生がその場から放った衝撃波による空気砲を横方向に飛んで避ける。ビルが見事に陥没してる、頭おかしいよ。私じゃ再現できないレベルだ……!

 

 「これクリアさせる気ありますかっ!?」

 

 「plus ultraさ楪少女!目の前にある壁を真正面からぶち壊す!それが雄英の校訓!」

 

 「知ってます!」

 

 内臓がGによって潰されそうなほどの慣性が私を襲い続ける。ゴリアテ以上の加速でデタラメな軌道をとって戦ってるんだ。そりゃ、内臓が滅茶苦茶になってもおかしくない……!オールマイト先生の一撃をまともに食らえばいくらレアアロイブレードでも折れ曲がってしまうだろう。というかなんで刃物に素手で対抗出来てるんだこの人は!?これ個性の搾りかすで戦ってるだなんて思いたくない!

 

 幾度目かの交差、初動の遅さを動き続けることで解消するアルビオンでも、相手が速すぎるとここまで苦戦を強いられるのか……!でも、データは揃ってきた……!オールマイト先生の打撃の打ち方、力の込め方、初動の癖……!蓄積されたデータをもとに行動を予測する!そしてこれが、作戦3段階目……!

 

 「タイタンフォール!スタンバイ!」

 

 「2度目はないぞ楪少女!」

 

 「ええ、ですからこうです!」

 

 落ちてくる外骨格を私が装着する前にオールマイト先生は破壊しようと足に力を込めて飛びあがろうとする。だけど、その予備動作を予測していた私の上からの斬撃を防御せざるを得なくなる。そのまま私はオールマイト先生が行動の予備動作に入る前に先の先を取る形でオールマイト先生に攻撃を放ち続ける。力負けは必然、少しミスをしたらだめ。少しでも連撃に隙を見せればたちまち脱出されてしまう。予測し続けろ、その場に縫い留めるんだ!

 

 そして、空から降ってきた外骨格最後の一つ……改良型ゴリアテ、バージョン2が私が中に入ってないのにもかかわらず、組みあがって着地する。超大型外骨格であるゴリアテ、私が入ってなくても操作できるように改良済み!さらなる改良点は主に腕部、硬くして、パワーをあげた。さらに肘部分が突出しており、その中には杭が覗いている。ゴリアテの肘が伸縮する。片手を構えたゴリアテが突っ込んできて、パンチをオールマイト先生の背中に打ち込む。

 

 「サドン!インパクト!」

 

 「うおおおおっ!?」

 

 内部で圧縮に圧縮を重ねた空気砲が衝撃波と一緒に炸裂する。私は一瞬で炸裂範囲から逃れたが、私に邪魔されてギリギリ防御行為を取れたオールマイト先生は吹き飛んで、脱出ゲートの真逆に吹っ飛んでいった。けど、一瞬で戻ってくる。やはり、ダメージらしいダメージはない。サドンインパクトはワンフォーオールの攻撃による空気砲の原理を解明して開発した武装だ。火薬式杭打ちパンチより連打力は劣るけど威力は段違い、遠距離攻撃も可能になった。

 

 作戦3段階目、ゴリアテとアルビオンによる2対1でオールマイト先生にカフスをかける。スピードのアルビオンとパワーのゴリアテならオールマイト先生にだって小さい隙を作ることくらいはできると思うから、メキ、と道路を陥没させて大地を踏みしめるゴリアテと、そのうえでホバリングする私。

 

 「これでダメなら、私の負けです」

 

 「受けて立とうじゃないか。君の全てを受け止めよう」

 

 「行きますっ!」

 

 突っ込む、先駆けは私、両手の剣を揃えて横一文字の斬撃を見舞う。オールマイト先生はそれをバックステップで躱すけど、遅れて追いついてきたゴリアテに組み付かれて手四つの状態に持ち込まれる。当然それを抜け出そうとするオールマイト先生……ごめんなさい!オールマイト先生!

 

 「What!?」

 

 『楪希械!合格だよ!』

 

 手四つになった瞬間、ゴリアテの前面装甲が開いて、本来私が収まっているべき場所から大量のトリモチが発射された。作戦4段階目、ゴリアテを加えた2対1に見せかけてここまで見せてこなかった搦め手を使って、一気に脱出作戦。サドンインパクトでゴリアテのパワーを印象付け、真正面から衝突すると見せかけて、スピードのアルビオンで一気に離脱する。騙し討ちみたいな感じだけど、多分あのままだったらゴリアテを1撃で壊されるとかあったかもしれないし……。

 

 「こ、こここ……怖かった~~~!!!」

 

 「やられたよ楪少女……お疲れ様だ!」

 

 「えっ!?と、トリモチは……!?」

 

 「HAHAHA!全部振りほどいてきた!」

 

 「うそぉ……」

 

 何とか脱出ゲートをくぐった私がアルビオンのバイザーをあげてへたり込んでいるとすぐ後ろに多少スーツにトリモチがついているものの応えてない様子のオールマイト先生がやってきた。ひぇ、トリモチ通用しないんだ……!戦ってる最中のオールマイト先生強すぎて絶望感しかなかったから、全部終わって私は今涙目になっている。ヒーロー殺しとか脳無並みに怖かった……!

 

 「なんですかオールマイト先生、ぜったいデクくんたちの時より本気出してましたよね!?」

 

 「あ、いやまあ……その、思ったより強くてだね」

 

 「ほんとに……3回くらい死ぬかと思ったんですけど……」

 

 バンバンと地面を叩きつつオールマイト先生に抗議すると、案の定私に対する加減の弁がどこかに吹っ飛んでいたらしいオールマイト先生がバツが悪そうに頬をぽりぽり書く。だってデクくんたちの時は直当てしないように気を付けた感じで攻撃してたのに私の時は全部直撃コースだったんだもん!一発当たればいくら私でも重症ですよ!

 

 「あー、ほら、ね?そういう試験だから……」

 

 「私たちの課題部分を見てたようですけど……大方、私の場合「自分の負傷を無視する傾向がある」とかそんな感じですか。あと継続戦闘能力に難がある。だから一撃当たったらおじゃんなオールマイト先生で、30分の時間制限の生き残りっていう勝利条件が追加された。そんなところですかね」

 

 「むむ、分かってたのかい?」

 

 「いや、試験中あんなこと言われたら流石に分かりますよ。まあ、予め手足のストックを打ち上げてて良かったです」

 

 アルビオンの全面装甲を開いて私はアルビオンを脱ぎ捨てる。ギリギリオーバーヒートしてないからまだ何とか言い訳立つレベルじゃないかなあ?そう信じたいなあ。ああ、奥の手であるタイタンシリーズ3機を同時に投入しても足止めが精いっぱいだったオールマイト先生。№1ヒーローという頂きがどれだけ高いのか思い知りました。もっと頑張らないとなあ、私も。

 

 私は強化外骨格すべてを遠隔操作して、私の所に呼び集める。そして、粉砕機に全部放り込んで取り込んだ。そろそろサポート科に回収させるのも失礼な話だし、これからはこの方式で頑張ろう。そのあとやっぱり私が一番最後に試験が終わったらしくて、バスにオールマイト先生と乗り込んで教室に帰るのだった。でもこれ自慢できそうだよね、オールマイト先生の一撃を何度も防御したのに折れ曲がらなかったレアアロイブレード……!えーくんよりも硬いかもしれない。

 

 

 

 

 

 「ひぐっ……うぐ……うえええ……」

 

 「み、みみみ三奈ちゃん!?どうしたの!?」

 

 「希械ちゃぁん……慰めてぇ……」

 

 「????」

 

 「あのね、上鳴ちゃんと三奈ちゃんは、不合格だったのよ」

 

 着替えたりなんだりでみんなより遅くなってしまった私が教室に入ると、まるでお通夜のように沈み込む上鳴くんと、ぐすぐすと号泣する三奈ちゃんの姿があった。私が慌てて三奈ちゃんに駆け寄って何があったのか尋ねると慰めての一言で抱き着いて何も言わなくなってしまう。とりあえず膝に抱き上げて私が椅子に座ってよしよしとあやしていると残念そうな顔をした梅雨ちゃんが三奈ちゃんと上鳴くんの組がタイムアップで不合格になってしまったことを教えてくれる。

 

 「そうだったんだ……でも三奈ちゃん頑張ったんだよね!私は頑張ったの知ってるから!夏休みはいったらいっぱい遊ぼ?」

 

 「うわああん!林間合宿行きたかった~~!」

 

 「あー、芦戸。今日帰り付き合ってやるから。カラオケ行こうぜ?なんか奢ってやるよ」

 

 「ぱふぇ……」

 

 「おう、パフェでもパンケーキでも何でも食え!男に二言はねえ!」

 

 「明日のお弁当、三奈ちゃんの好きなもの沢山入れるから!ね?」

 

 「うん……」

 

 よっぽど林間合宿に行けないのがショックだったのか幼児退行を起こしだしてる三奈ちゃんに思うところがあったのかえーくんも加わって私と二人で慰めにかかる。私の胸に顔をつけた状態でもごもごいう三奈ちゃん、物で釣ってるみたいであんまりよろしくないかもだけど、元気じゃない三奈ちゃんは三奈ちゃんじゃないので……

 

 「まるでお父さんとお母さんね」

 

 「あそこだけ家族オーラやべえな」

 

 「芦戸って末っ子っぽいところあるよな」

 

 「あ、ウチも行っていい?久しぶりに思いっきり歌いたい気分」

 

 「カラオケ……行ったことないですわ」

 

 みんなも期末テストがどんな結果に終わったかはわからずとも息を抜きたいというのは共通しているようでえーくんのカラオケという言葉に食いつく人が結構いた。三奈ちゃんのためにも賑やかな方がいいと思うので来てくれる分には構わないし、歓迎だ。でも私、このクラスのみんなに歌を聞かせるの初めてだ。なんか緊張してきた……あ、そうだ。

 

 「えーくんはセメントス先生とだったよね?どうやってクリアしたの?」

 

 「あー……男らしく正面突破しようとしたんだけどな、無限に壁生えてきてよぉ。砂藤は途中でダウンしちまうし……」

 

 「うわ、ある意味予想通り。それで?」

 

 「んで、セメントス先生ってセメント操って壁作って俺ら囲ってたから……見えてなかったんだよな俺らの事。だから、砂藤背負って地面掘って、足元から奇襲してカフスかけたんだ」

 

 「いや、悪かったな切島……お前のおかげでクリアできたぜ。今度菓子でよければ受け取ってくれ」

 

 なるほど、地面からの奇襲をかけたんだ。えーくんの手なら硬化させてスコップ代わりにしても問題ないだろうし……でも凄いな。手で地面掘って奇襲?根性とかそれで片づけていいものなんだろうか……?それにしても

 

 「よくわかったね、セメントス先生がいるところ」

 

 「あー、いや……勘だったんだよ、それ」

 

 「……運も実力の内?」

 

 抱っこちゃん状態で私から離れない三奈ちゃんの頭を撫でながらえーくんと話していると、ようやく気持ちの整理がついたらしい三奈ちゃんがばっと顔をあげて会話に混ざってきた。ちょっと涙目のままだけど、何時もの三奈ちゃんだ。

 

 「もー!校長先生どこいるかわかんなくてさー!どんどん逃げ場ふさがっちゃうし!希械ちゃんみたいに空飛べれば私も~~!」

 

 「でも空飛ぶのって大変なんよ?行きたい方向に行けんかったり……」

 

 「お茶子ちゃんは浮くだけだからねえ。スラスター貸してあげよっか?」

 

 「あはは、明後日の方向行きそうやから遠慮しとく」

 

 「おし、カラオケ行こうぜ!反省会と一緒に思いっきり歌おう!」

 

 「切島君奢ってくれるん?」

 

 「え、マジ?切島ごちー」

 

 「何頼もうかな」

 

 「いや奢るのは芦戸と希械だけだぞ!?」

 

 「私も?」

 

 なぜか私にも奢ってくれるらしいえーくんと他の人たちのブーイングを聞きながら、私は帰り支度をするのだった。一発芸のゲーミング希械ちゃんの出番がついに来たか……!ミラーボールいらずの輝きを見せてあげよう……だから歌わせるのは勘弁して……




 切島くんはライジングしました。さて次回からは映画のお話をやっていこうと思います。なくてもいいかなとは思ってたんですが話の都合で重要になりそうだったのでやることにしました

 感想評価よろしくお願いします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。