39話
「はい、50回。インターバル5分挟むよ~」
「はぁ……はぁ……」
バタン、と倒れる心操くん。腹筋50回という中々に筋繊維ブチブチな回数を終えて、私に足を抑えられた状態で仰向けに倒れ込んだ。期末テストから一夜、まだまだ朝も早い時間帯である。なんでも相澤先生から心操くんが朝練を始めたという話を聞いて、オーバーワークしてないかなと心配になった私は様子を見ることにしたんだ。期末テストの時はあんまり顔出してあげられなかったし。
で、心操くんが一人っきりで走り込みやら筋トレを黙々とこなしてるのを見つけたのでお手伝いするよー、と乱入しました。あ、でもえーくん私が起こさなくても起きられるかなあ?雄英に入ってからくたくたになって帰ることが多くて、疲れがたまってるせいか一人で起きられなくなったんだよねえーくん。
まあ、昨日の内に今日は私朝早くに学校行くって言ってあるし、えーくんのお母さんが起こしてくれると思う。硬化した手で目覚ましを壊さないように気を付けてね……!それで心操くんなんだけど、黙々と基礎トレをこなしていたので私はやっぱり情熱あるんだねと感心した。普通科の期末試験はペーパーテストだけだったから余計に焦ってはいないかと思ったけど……。
「そういえばなんだけど、他の普通科の人たちって心操くんみたいにヒーローになりたい!!っていう熱い人いないの?」
「わからない、かな。ヒーロー科に多かれ少なかれ不満を持ってるやつはいる。けど、じゃあ俺がヒーロー科入って不満を解決しよう!って努力するやつは今んとこしらない」
「私たち、不満もたれてるの……?」
「結局体育祭もヒーロー科の独壇場だったし、ヴィランの襲撃にあったのもヒーロー科。茶番に付き合わすなって言ってたやつもいたな」
「それ、私たち何も悪くないんだけど……」
「わかっててもそう思っちゃうんだよ、人間ってやつは」
うーん、理不尽。雄英に於いて普通科はヒーロー科の滑り止め扱いで入学する人が多い。それが虎視眈々と心操くんのようにヒーロー科の席を狙い続けるというわけでもなく、自主練に明け暮れるわけでもなく、不満を漏らして中傷するだけの人がいるんだね。確かに、そういう不満はあるかもしれないし直接言ってこないだけ偉いけど……。
「心操くんみたいに、頑張ればいいのに」
「置いて行かれるとわかってて、追いかけるのは馬鹿のやることだよ。俺はその馬鹿なだけ」
「はい、そんなことありません。心操くんが自罰的なこと言ったら褒めろって相澤先生に言われてるから誉めるね」
「ちょ」
皮肉気にそんなことを言う心操くんにむかっと来た私は心操くんがいかに頑張っているかというお話を懇切丁寧に彼に伝えていった。ここ頑張っててえらい、ちゃんと毎日続けててえらいと伝えていくうちに真っ赤っかになっていく心操くん。かわいい。相澤先生がいないからないと思った?やれって言われてるからやるよ。人を褒めるの、私好きだし~。
「ねぇ、ヒーロー科の期末試験、どんなのだったの?」
「え、私はオールマイト先生とタイマンしたけど、他の人は二人一組で先生と戦ったよ」
「……勝ったの?」
「まさか、不意をつけたから合格は出来たよ。採点基準分かんないし、期末試験を合格できたかは分かんないけど……私視点でよければ、見る?」
「………………見たい」
私の褒め殺しから逃れるためか、顔を手で隠した状態で期末試験のことを訪ねてくる心操くん。むむ、では褒め殺しはここまでにしときましょう。心操くんの凄い所はまだあるけど。対オールマイト先生の動画、まあ私の右目で捉えた映像なんだけど……見たいの?って聞いたらたっぷりの間の後に見たいというお返事をくれたので、一旦朝練は中断、私は映像を投影するのだった。
「ふふんふーん」
「なんだ希械、上機嫌じゃねえか」
「えっへへー、実はちょっと嬉しいことがありまして」
教室で鼻歌を歌う私にちゃんと起きられたらしいえーくんが何があったのかを聞いてくる。なぜ私がこうも上機嫌なのか、それは心操くんにサンドイッチをご馳走したら美味しいって言ってもらったからです!あと様子を見に来た相澤先生にも勧めたら受け取ってくれて、それで食べてくれたの!心操くんの身体作りどうしてるのかなって聞いてみたら、ご両親が忙しいらしくてコンビニ弁当とか総菜が多いんだって。
それならばと私は朝お弁当をサンドイッチにして、沢山作っておいたんだ。だからそのうちの少しを心操くんと相澤先生にあげたってワケ!心操くんがお気に召したのは照り焼きマヨサンドで、相沢先生は明太ポテサラサンドが気に入ったみたい。朝から美味しいって言ってもらえて私はご機嫌なんだ~。私は褒めるのも褒められるのも好きだからね!
「へー、何があったんだ?」
「ないしょー」
「だああ!気になるじゃねえかそんなこと言われたらよぉ!」
「ひーみーつー、だからね」
「ちぇー」
口元に一本指を立ててしー、とやってみせると私の上機嫌の秘密を知りたかったえーくんはがしがしと頭を掻いてやっと諦めてくれる。ごめんねー、心操くんのことは内緒なんだ。いつか彼が胸を張ってヒーロー科の敷居をまたぐまでは内緒。えーくんに伝えるとあっという間にクラス中に広がっちゃうからね、えーくん嘘つくの苦手だから。
「予鈴がなったら席につけ」
しゅばっ、とみんなが自分の席に着く。相澤先生が教室に入ってきたからだ。みんな相澤先生に立派に躾けられてそういう行動を起こすのがとっても速く正確になってきている。相澤先生もそれはそれは満足気。相澤先生が怒ると怖いもんね、峰田くんとか上鳴くんとかはよくご存じのはず。女子更衣室覗こうとしたのは私でも流石に怒っちゃうよ?
「さて、昨日の期末試験だが……赤点が出た。上鳴、芦戸はもう分かってるな?他は瀬呂、砂藤が赤点だ。心当たりはあるだろう」
「みんな……お土産話期待してるから……!」
「寝てただけだからな……そうだよな……」
「切島に背負われてただけだもんな……」
「うぇい……」
「従って林間合宿には全員でいきます!!」
「「「「どんでん返しだぁ!!!!」」」」
赤点者の発表に呼ばれてどよーんとなってしまう4人。あそこまでやって赤点だったら私はどうすればよかったのかという話になるので一応合格しててよかったぁ……そして相澤先生が真顔で言った林間合宿全員参加の言葉に4人が感涙を隠せずに叫んだ。すごい、ホントにどんでん返しだ。よかったね三奈ちゃん、楽しみにしてた林間合宿に行けて。
「が、当然ながら現地で補習も行う。ぶっちゃけ残っての補習よりきついのでそのつもりでな」
そしてあげて落とすのも忘れない相澤先生、飴と鞭の使い方が上手だなあ。飯田くんが相澤先生の合理的虚偽に文句というか意見を言ってるけどこの学校でそれ気にしてたら多分やっていけないよ。私は学んだからね、騙されるの前提で頑張るのさ!嬉しくないなあ……。
合宿のしおりを見ながら予定立てをする。合宿は夏休みの後半にかけてだから、前半は色々できるよね。短い休みだけど私たちにとっては貴重な長期休暇!英気を養ってヒーローになるために頑張るぞ!
「楪少女、緑谷少年。ちょっとお話があるからおいで」
「え!?は、はい!」
「なんでしょう?」
すでに夏休みモードが漂う教室に筋骨ムキムキのオールマイト先生が私とデクくんを指名した。この組み合わせってことはワンフォーオール絡みの話かなあ?でもこんなに堂々と私たちを呼ぶってことはまた何か別の話題なのかも。談話室に一緒に入って鍵をかけたオールマイト先生が煙を上げてぼふんとガリガリのトゥルーフォームになってしまう。今日はギリギリだったのかな?
「さて、帰りがけに悪いね少年少女。実は夏休み中に小旅行に行かないか、というお誘いをさせて欲しくてね」
「小旅行、ですか?合宿もあるのに?」
「そうだとも!特に楪少女!君のためになる場所でもある!I・アイランドは知っているね!?」
「勿論知ってます!最先端の科学を研究する人工島であのデヴィット・シールド博士が所属してることで有名!常に移動しているうえに警備はタルタロス級だと……」
「あぅ、全部言われちゃった」
「ご、ごめん楪さん!つい!」
I・アイランド!その名前を聞いてときめかない技術者はいないであろう最新技術の宝庫にして科学の最前線!デクくんに全部言われてしまったけど常々行ってみたいなあという話をしていた場所だ。それが何でオールマイト先生の口から……?あっ!デクくんから聞いたことがあるんだけどシールド博士はオールマイト先生のヒーロースーツを作っている人だった!そうか、そういう関係か!
「とまぁそんなわけでI・アイランドのエキスポ招待チケットを頂いてね。折角だから君たちと一緒に行きたいと思ったのさ!」
「こ、光栄です!オールマイトに誘ってもらえるなんて!」
「あの、デクくんは分かるんですけどなんで私もなんですか?」
「HAHAHA!緑谷少年と私は君に随分と世話になったからね!お礼の意味を込めてさ!」
デクくんを誘うのは師弟関係なわけだし分かる。とても分かる話だけど、私ってぶっちゃけ勝手に首突っ込んで好き勝手やっただけなのであってお礼されるほどのことをしていないような……ああ、でもI・アイランドは非常に魅力的だ。行かない選択肢はあり得ない。もしも、もしもだけど荷電粒子の権威の一人であるミノフスキー博士に会えたりしたらビーム兵器を実用に持っていけるかもしれない……!
「まあ親御さんのこともあるから返事は夏休み前にくれれば平気だよ。あ、でも楪少女、君パワーローダーからサポートアイテムの免許取る様に言われてただろ」
「え、はい。模試はA判定でしたけど……」
「流石だね。実はI・アイランドでも試験があってね。作品を事前に送って、合格点に達していれば国際版の免許が発行されるんだ。楪少女の場合そっちを取った方がいいと思う。どうかな?」
「や、やりますっ!!!絶対!」
そうか!科学の総本山であるI・アイランドにサポートアイテムの免許試験がないわけないんだ!というか向こうの学校であるアカデミーだとそれを取ってからじゃないと入学できないだなんて話も聞くくらいだし!日本だと取れるのは夏休みあと!夏休み中に取れるかもしれないなら越したことはないよね。お父さんお母さんを何としてでも説得しなきゃ!
「何送ろうかな?プーマバギー?ホバーバイク?あーでもスイングショットシステムも捨てがたいよね……」
「HAHAHA!やる気みなぎっているようで何より!君の作品ならば問題ない筈さ!パワーローダーに模試の結果を向こうに送るよう言っておくよ!」
「あ、発目さんにも……あ、でも彼女模試判定Dだったような……」
「流石にそれだと私の名前を使って推薦するのは難しいかな……」
「オールマイト先生に推薦されるんですか私!?」
「そうだとも!というか私相手にあそこまでやれるサポートアイテムを作ってる君が無免許なのは少々まずいからね!相澤君風に言うと合理的推薦というやつさ!」
発目さんは実技方面では途轍もなく優秀なんだけど、興味が向かない部分にとことん無頓着みたいで法律を覚えるよりもトライ&エラーですとのことでパワーローダー先生の実験室にこもっている結果みたい。パワーローダー先生は頭を抱えているみたいだけど発目さんらしいっちゃらしいかも。まあ、彼女なら必要と理解させれば超速度で試験を通過しそうだし。
とにかく、I・アイランドに行ける!滅茶苦茶楽しみになってきたぞ夏休み!それならば!私も全力で研究に励みレポートを作って向こうの科学者の人に質問できる時が来たら質問するんだ!……あれ?私人前で初めて話す人に質問できるかな?声震えて詰まって何も言えなくなっちゃいそう……せ、せめて超圧縮技術だけは掴んで帰りたい……!
「むむむ、どうしようこれ」
そんなことがあった夜、私の部屋の私の机の上に、なぜかあるI・アイランド行きのチケットレセプションパーティーへの招待状付き。何でこれがあるかっていうとオールマイト先生に誘われた直後、帰る段階になって相澤先生からもらってしまったのだ。何でも体育祭優勝の商品らしい。しかし私はオールマイト先生と一緒に行こうと誘われてしまっている。
オールマイト先生に推薦していただく以上一緒に行動するのは当たり前の話だし、そしたらこのチケットは腐らせてしまうことになる……ん?これ私限定のチケットじゃないね。誰でも使えるみたい。そうとなれば……
「えーくーん!I・アイランドに興味ない!?」
「何だそりゃめちゃくちゃ興味あるぜ!」
私は窓を開けて隣の家の庭にてバーベルスクワットをしているえーくんに声をかける。デクくんほどじゃないにしろ私もえーくんもヒーロー好きなのでI・アイランドのことはえーくんも知っている。となれば食いつくのは必然。シャワー浴びてそっちに行くわ!というえーくんに私はお茶の準備をしに自分の部屋を出るのだった。
映画の導入です。サポートアイテムの免許に関してはどうも色々とよくわからないので勝手に設定します。ちなみに他作品からいろんな博士がI・アイランドにいる予定ですが基本的にマッドじゃありません。善人です。ナニカサレル可能性はないです多分!
感想評価よろしくお願いします。
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ