個性「メ化」   作:カフェイン中毒

4 / 118
4話

 イヤホンジャックが耳から伸びてる女の子が私から聞こえてるという音に言及してきた。なんか音楽鳴ってる……音楽鳴ってる!?聞こえてた!?万が一聞こえても不快じゃないように反響定位に使う音を一定のリズムを持つ音楽にしてたんだけど普通に聞こえてたんだ!?凄いな、人の可聴域じゃないんだよ?

 

 「ご、ごめんなさい!もしかしてうるさかった!?」

 

 「いや、ウチも言い方悪かったかな?結構ノリいいリズムだったから気になってさ。ウチ、耳郎響香。よろしく」

 

 よ、よかったあ。可聴域を超えてるとはいえ今回は超音波と超低周波を組み合わせたものだから、人によってはうるっせえぶっ殺すぞ!と言われてもおかしくないと思うのだ。だからとりあえず一安心、耳郎さんかあ、凄いクールっぽくてかっこいい人だなあ。

 

 「アンタ、すごかったよね入試。あのゼロポイントのやつぶっ壊したの」

 

 「えっ!?一緒の会場だったの!?」

 

 「そうそう、手大丈夫だった?」

 

 「えーーーっ!?楪ちゃんあのお邪魔ロボット倒しちゃったの!?」

 

 「う、うん。ヒーロー志望だし、逃げるってなんか違うかなって思って……」

 

 「ゼロポイントのお邪魔ロボット……」

 

 「えーと、こんな感じのロボット」

 

 うさぎ耳型集音機をまたまた変形させて空間投影モニターに作り替える。そこで私の右目に映ったゼロポイントのロボットの画像が表示される。八百万さんはそれを見てまあ、と口に手を当てて驚いている。空間投影モニターの電源を落としてバッグの中に仕舞う。いったん切り離しちゃうと作り替えることはできても体の中に再吸収するには食べるか体を変形させたシュレッダ―に入れるしかないから、あとで食べよう。美味しくないけど。

 

 「そう、最初はでっけーハンマーと槍持ってたと思ったら手が変形してよー。びっくりしたぜ」

 

 「あ、入試の時の」

 

 「覚えててくれたんだな!俺ぁ上鳴電気、入試の時は悪かったな」

 

 「いや、あれはその……私が悪いと申しますか、忘れて頂けるとありがたいと言いますか」

 

 「腹が鳴るのは元気な証拠だぜ?」

 

 「はうっ」

 

 「ちょ、アンタ遠慮なさすぎでしょ!ほら真っ赤になってるじゃん!」

 

 「わ、忘れてくだしゃい……」

 

 む、蒸し返されちゃった!入試の時のアレを!思いっきりお腹が鳴ったアレを!耳郎さんが知ってるってことは聞いてたんだ!上鳴くんの武士の情けなのか抱きかかえちゃったことに関しては何も言ってこないけど、その気遣いをこっちにも欲しかったよぉ!

 

 「だ、だって個性全開で使ってエネルギーが切れちゃったんであっていつもあんな風にお腹鳴らしてるわけじゃ……あうあうあう……」

 

 「いやあんなことしたらそうなるって。ロックだったよ」

 

 凄いな、皆フレンドリーだ。なんか前の席で金髪の男の子とメガネの男の子が凄い言い合ってるけどそれ以外はいたって平和、そう思ってるとドアが開いてまた新しいクラスメイトが入ってきていた。もさもさ頭の……あ!入試の時私のお尻にぶつかってきちゃった人だ!ほんと、邪魔くさい体してて申し訳ない……でもここであえて嬉しいな、ちゃんと名前聞かないと。

 

 「お友達ごっこがしたいなら他へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 ……なんか、寝袋の化身みたいな人がゼリー吸ってる……

 

 

 

 

 

 「個性把握テストぉ!?」

 

 寝袋の化身(暫定)は何と私たちA組の担任の先生だった。相澤消太先生、本名だから分からないけどこの人もきっとプロヒーロー、なんだろうけどメディアで見た覚えがない。合理性に欠くね、というセリフと共に差し出されたのは体操服、これを着てグラウンドに出ろ、とのことだった。ガイダンスは?という疑問をよそにとりあえず着替えた、着替えたんだけど……

 

 「いやその、ごめんって」

 

 「すっごいおっきいから、つい……」

 

 「お、お気になさらず……」

 

 「すっごいでしょー!これでまだ成長途中なんだよ希械ちゃん!」

 

 「な、なあ!?何やったんだ!?何やったんだよぉ!?オイラも詳しく!」 

 

 着替えに女子更衣室に行って、服を脱いだ……まではよかったんだけど……葉隠さんと耳郎さんとついでに三奈ちゃんに盛大に胸を揉まれた。そりゃその、身長分ひとよりおっきい自覚はあるんだけど、そんな激しく揉まれるだなんて思ってもなかったから……熱がひかないよぉ。あと葡萄頭の凄い小さな男の子が私に両手を合わせて拝みつつ詳細を聞こうとしてくる。えーくんがなんか凄い怖い顔して連れてっちゃった。

 

 「はい静かに」

 

 ぴたっっと音がしたようにクラス全員が静かになる。正直この先生結構怖い、コントロールがとてもうまい恐怖の与え方をしてくるのが酷く合理的だ。だからみんな素直に言うことを聞いている。

 

 「個性無しの体力テスト、やったことあるだろ。あれを個性ありで行う、そうだな……爆豪、ボール投げ……個性ありでやってみろ。何してもいい」

 

 ぱしっ、とボールを受け取った金髪の男の子……さっき眼鏡の男の子と言い合ってた子だ。彼は思いっきり振りかぶり、死ねという掛け声と手から発する大爆発でボールを彼方へぶっ飛ばした。右目の測距測角で飛距離を計算するとざっと700m、かなりの破壊力の持ち主と見ていいだろう。

 

 「自分の最大限を知ることはヒーローの素地を作るための第一歩だ」

 

 「なんだこれ、すげー面白そうじゃん!」

 

 あ、と思った。面白そう、という誰かの声で先生の雰囲気が変わる、右目を通さなくても分かる重苦しい雰囲気。声紋もかなり低くなった、よくない証だ。きっと今の遊び半分な言葉が導火線だった。

 

 「面白そう、ね。よし、ならトータル最下位のものは見込みなしとして……ヒーロー科を除籍処分とする。普通科には行けるから安心していい」

 

 うわあ……としか言いようがない。自由な校風ということは最初に知っていたけれどもそこまで自由だとは。多分訴えたら勝てそうなぐらい横暴だと思う。それでもまあ、納得し飲み込んでしまえばやることは決まってるんだ。私はここで除籍されるわけにはいかない。えーくんもそうだし三奈ちゃんもそう。ならあとやることは本気で取り組むことだけだ。声紋のブレがないから、多分本気で除籍される。

 

 「50m走からだ。始めろ」

 

 準備をしよう、まずは足から、と私は体操服のジャージのすそを捲り上げる。露になった鈍色の機械の足、物珍しそうに見る人もいるけど今は関係ないや。足を組み替える、歩行から移動へ、空気を噴き上げて浮かすホバークラフトがいいだろう。足にジェットエンジンを増設、空気供給用の管を増設して……うん、歩きにくいけどこれでいいや。次は手、最近作れるようになった水素プラズマジェットを試してみよう。手のひらから出るようにして、うん、これでいいや。

 

 「次!楪!」

  

 「……はいっ!」

 

 うう、緊張して声が裏返っちゃった……スタート位置について足のジェットエンジンを稼働させて浮く。そのまま手を後ろにやって、プラズマジェットを待機状態でアイドリング。クラスメイトのみんなは私の足からなる凄い音にわくわくと興味津々な様子。今まで二人一組だったのが私だけあぶれて一人だったから余計に視線がつらい。

 

 「スタート……3秒7」

 

 プラズマの光の尾を連れた私が爆音と一緒にゴールする。爆豪君がいたあたりから「パクんな!クソが!」という恐ろしい声が聞こえたので今後は別の手段を模索していきたいと思います。あのその……確かにパクりましたごめんなさい。だってほかの手段は服が破けて……それと多分こっちの方が瞬間的には速いから……ひっ!?凄い顔で睨んでる怖い。

 

 第二種目の握力、私の手足は機械なのは再三言ってるので、当然ながらセーブしなければそりゃ強い。油圧と電気モーターの組み合わせの握力で3トン、なんか握力計から変な音鳴ったけど……大丈夫だよね?立ち幅跳びは、手を変形させてヘリコプターのローターを形成、結果は測定不能。最大値らしい、飛べるからね私。そして反復横跳び、手段が思いつかず普通に敢行したらみんなよりも少ない、だって私重いから動きも遅いもの。30回、がちゃがちゃうるさくてごめんなさい。そして次、ボール投げ。

 

 「なあ、今度はどうなるんだろな」

 

 「手と足が変形するのおもしれえよな」

 

 「え、え、あう……あう……ろ、ロケットパーンチ!」

 

 「「「男のロマンきたあああああ!!!!」

 

 周りの期待の視線と緊張で喉からエネルギー炉が出そうになった私はてんぱってしまい、やろうとしてたリニアカタパルトによる発射ではなく腕をボールごと飛ばしてしまう。結果周りは大盛り上がり、男の子からの興奮の視線のおかげでなんだか自分がびっくり箱か何かになった気分だ。戻ってきた手がガッチョン!と合体するとさらに歓声が沸く。男の子ってこういうの好きだよね。

 

 すでに順番は前種目が終わった順になっているので、私の後ろはもさもさ頭の彼。名前は確か……緑谷くん。入れ替わりで私のいたところに立った彼の表情は非常に暗い。だって今までの記録、全部合わせても最下位だから。もしかして応用できない凄い限定的な個性か何かなのかな?そう思って様子を見ていると、右目に突如としてすさまじいエネルギー源が発生したという警告と脳内にアラート音が。緑谷君からだ、だけどそれは投げる瞬間で一瞬で消失してしまう。

 

 やったのは相澤先生、彼の個性は個性の消失というとても強いもので、緑谷君の個性は莫大なパワーの代わりに自損をしてしまうというもの、らしい。眼鏡君……飯田君が言うには私と同じようにゼロポイントのロボットを壊してしまったらしいからそれは相当なものだろう。だけど行動不能になることと引き換えで。

 

 相澤先生から何か注意を受けた彼は一層追い詰められた顔になってすさまじい速さで何かを呟いている。私の後ろにいる爆豪君は除籍勧告だろ、と面白くもなさそうに言っている。彼が投げる瞬間、もう一度右目にアラート、けど規模が小さい……指だけ?なるほど!腕全体に個性を発動するんじゃなくて指一本だけを犠牲にして最大限の効果を引き出したんだ!凄いな、でも痛そう……そう思ってると後ろの爆豪君が両手に小爆発を起こして緑谷君に跳びかかった!

 

 「どういうわけだ!デクてめえわけをい……んがっ!?」

 

 「だ、だめ!」

 

 明らかに緑谷君に襲い掛かろうとしてたので咄嗟に彼の前に出て真正面から抱き留めて動きを封じる。ほんとにヒーロー志望?クラスメイト、多分知り合いなんだろうけどその人に明らかに危害を加えに行くなんて!私の胸の中でもごもご言いながら暴れてた爆豪君の顔を覗き込む。

 

 「何しようとしたの?人に個性で危害を加えちゃダメ……!」

 

 「放せモブメカ女!」

 

 「楪、放していい。爆豪、次緑谷に何かしようとしたら強制的に最下位だ」

 

 「チッ……!」

 

 諦めて掌を下ろした彼を解放する。舌打ち一つして彼は踵を返して別の場所に行く。途中で葡萄頭の男の子に何かしら絡まれてたけど完全無視だ。私は呆然としている緑谷君の前に立って彼を見下ろす。右目のレントゲンでは……うわ、指凄いことになってる。これは痛い、色もひどいし……

 

 「えっと、その……指、見せてもらっても大丈夫?」

 

 「え、う、うん」

 

 そう言って差し出された指をしゃがんだ私の手で覆う、ちょっと重いけど許して欲しい、手の中で緑谷君の指を小さな金属片が覆って即席のギプスが完成する、最近研究途中の液化冷却ジェルを組み込んで患部を冷やしつつ痛みを麻痺させ固定させた。一応曲げることもできるように電気モーターと1時間分のミニバッテリーを搭載して、完成。

 

 「ギプスだ……」

 

 「う、うん。あんまりにも痛そうだから……でも無理したら指が動かなくなっちゃうからね?先生、これくらいならいいですよね?」

 

 「競技中は外せ。それ以外なら好きにしろ」

 

 緑谷君の手を放して私は立ち上がり離れる。彼はポカンとしてて追いついてないけど私はやりたいことをやれて非常に満足してる。三奈ちゃんがやさし~と言いながら抱き着いてきたりしたけどみんな多分助ける手段があったら助けようって思ってたんじゃないかな?救急箱を持った八百万さんとかもそうだし。

 

 

 

 「ではパパッと結果発表だ。口頭では非合理的なので一括で表示する。あと最下位除籍は嘘な」

 

 最後にボソッと呟いた相澤先生の合理的虚偽という一言のおかげで緑谷君の魂からの驚きの叫びが響き渡った。というか全員大なり小なり驚いてる、だって声紋からして本気だったから。八百万さんは嘘に決まってますわ、って言ってるけど違う。嘘をつき慣れているか嘘にしたかのどっちかだと思う。凄いな雄英、こんなのもありなんだ。

 

 ちなみに結果は1位だった。反復横跳びがアレだったから心配だったけど、私の研究を重ねた最新鋭の変形のおかげで記録は物凄く伸びたし。フィジカルなら負ける気はありません、素早さを除いて。




 本日2話目です。次回からまた1日1話投稿をできる限り続けていきますのでよろしくお願いします

楪ちゃんの個性は作ったものを切り離すともう一度取り込むには食べるか個性で作った粉砕器に入れる必要があります。手と足は例外で元々ついてるので合体するか生やすか選べます。

 感想評価よろしくお願いいたします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。