「変じゃないよね……?」
ホテルの部屋の姿見の前で私は来ている礼服と髪型、お化粧が変じゃないかを何度も確認する。夜のパーティーに参加するのなんて初めてなものだから緊張するなあ。この日のためにお母さんといっしょに選んだドレスだし気に入ってるんだけど……ちょっとえーくんに見せるのが楽しみかも。三奈ちゃんには後で写真送ってあげよっと。
私が着ているのはブルーグレーのオフショルダー、フィッシュテールのドレス。いつもの手袋じゃなくて長いレースの手袋、脚もカバーを付けている。スカート丈は後ろの方が私の脹脛くらいまである。夜会のドレスは肌をある程度見せるのがマナーらしいのでオフショルダーを選んだんだけど、いいのかなこれで?その、谷間まで見えちゃってるから下品な印象を持たれないといいんだけど……。
髪型も変えてるし私だってわかってくれるかな?個性で髪を少し短くして、緩い三つ編みを作ってサイドから流してるの。流石に正式なパーティーに御呼ばれしてるのに顔のほとんどを髪で隠してるだなんて失礼極まりないので今日はちゃんと髪を分けてピンでとめて両目を出してるんだ。うーん、落ち着かない。ああ、そろそろ行かなきゃ!足の色もドレスに合わせたし、多分これで大丈夫。
すでに遅刻してるのでひぃひぃ言いながらドアを閉めて鍵をかけ、手近なエレベーターに乗る。何とホテルはセントラルタワー内だから集合場所までエレベーターで直通なの!すごいねI・アイランド!あ、えーくんに連絡……繋がらない?あ、また携帯を忘れてるね?もー、合流したらでいっか。あ、ついた。
「ごめんね~、お待たせしました」
「ゆ、楪さん!?」
「そうだよ?あ、そんなに印象変わった?似合ってる?デクくんはハマってるね、礼服」
「神よ……」
「オイラは今日生きてて初めて神の存在を信じたぜ……」
私より先に集まってたのは男子たち、ただ爆豪くんがきっと渋ってるんだと思うんだけどえーくんと爆豪くんはまだ来てない。正装のデクくん、飯田くん、轟くん。ウェイター服に上着を着た上鳴くんと峰田くんが先に待ってたみたい。女の子は準備に時間がかかる……って遅刻してる言い訳に使っちゃダメだよね。反省。
私の姿を見た途端上鳴くんと峰田くんは手を合わせて私を拝んだと思ったら天を見上げて今度は神様にお祈りを始めた。これ如何いう反応なんだろう?似合ってると考えてもいいのかな?それともご愁傷様、見るに堪えないから目を逸らすねっていうやつ?後者だと私そこはかとなく傷つくんだけど……。
「に、に、に、似合ってるよ、楪さん!」
「ほんと?よかった~~。デクくんもかっこいいよ、素敵」
「……目、出したんだな」
「うん、正式な場で顔を隠しているのは失礼だからね。またお揃いだね~」
「そうだな。よく似合ってる」
「うむ!楪君らしいドレス姿だ!似合っていると俺も思う!」
あ、もしかして結構高評価?あまりに褒められすぎてちょっと恥ずかしくなってきちゃった……。どもりながらも褒めてくれるデクくんに、私が両目を出した状態を気に入ってるらしい轟くん、真面目な飯田くんがダメだししなかったってことはきっとこの服装はちゃんとTPOを弁えてるということなんだろう。そんなことをやってると別のエレベーターのドアが開いた。
「ごめーん!遅れてしもうた~~」
「申し訳ありません、響香さんが……」
「だ、だってウチこんな格好したの初めてで……」
「「おぉぉ~~~~っ!!!」
どうやら響香ちゃんがかなり渋ったみたいだけど百ちゃんセレクトらしい礼服に身を包んだ3人、超かわいい。私なんか目じゃないくらいカァイイなあ。自信もっていいよ、峰田くんと上鳴くんを指標にしちゃだめだけどね。デクくんはお茶子ちゃんを褒めていて、上鳴くんはサムズアップで響香ちゃんを褒めてる。あ、照れ隠しでイヤホンジャック。あちゃ~。デクくんに褒められたのがよっぽど嬉しかったのかお茶子ちゃんは顔を赤くして手を振り回して慌ててる。うーん、青春。
「き、希械さぁ……だ、大胆、だね」
「え、そう?夜会である程度肌を見せるのはマナーって聞いたんだけど……」
「ええ、間違っておりませんわ。正礼装、大人っぽくてお似合いですわよ」
「ほんと?嬉しいなぁ。お嬢様の百ちゃんに言われたら自信出てきた」
響香ちゃんが私の姿を上から下まで眺めて、イヤホンジャック同士をつんつんとしながらそう評してくれる。大胆かあ、下品って言われないだけましかな?機械部分がカバーとか手袋とかでほとんど見えてない状況だからそういう風に見えちゃうのかな?でも百ちゃんが両手を合わせて褒めてくれるってことはお墨付きをもらえたということなので胸を張っていいだろう、むん。
「あれ?デクくんたちまだここに居たんだ?パーティー始まっちゃってるよ?」
「真打ち登場だぜ!」
あ、メリッサさん。メリッサさんもまたカワイくて、私並みにセクシーな正装に身を包んでいる。そんな大胆に足を露出する正装もあるんだね……。流石はパーティーの本場アメリカ出身、いやこれは関係ないか。あと峰田くんと上鳴くんのテンションが酷い。真打ち登場ってなに……?私らはおまけですかそうですか、ちょっと傷ついたぞ。
「ダメだ、爆豪君も切島君も電話に出ない。全く団体行動を何だと思ってるんだ……」
「えーくんは多分携帯忘れたんじゃないかな?爆豪くんはよくわからないけど……」
先ほどから5分おきというすさまじい正確さで二人に電話をかけていた飯田くんが首を振る。なんせ私が来てから通算3回目だからね、もう諦めるしかないよ。えーくんが頑張って爆豪くんを連れてくることを信じて先にパーティーに行かないと……
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムより、エキスポ会場内に爆発物が仕掛けられたという情報を入手いたしました』
「えっ?」
「……爆発物!?」
「メリッサさん、これ信用できる?」
「ええ、I・アイランドの警備システムの堅牢さは折り紙付きよ。だからこそ、バレずに爆発物を持ち込むなんて不可能なはずなのに……」
突然の警報、I・アイランドに爆発物?……ありえない。私は元よりメリッサさんがそれを一番よく理解してるはず。I・アイランドはエキスポの開催に合わせて普段でもタルタロス級の警備をさらに厳戒態勢で運用してる。ネズミ一匹どころかありんこの足跡まで把握できるほどのはず。その状態のこの人工島に爆発物を持ち込む?さらに警備が一番厳重なエキスポのエリアに仕掛けた?嘘としか言いようがない。
私の考察をよそに警備システムの音声はより厳重モードに入ることを警告している。これ以降の外出者は問答無用で拘束されること、さらには……主要施設はこれより封鎖されること……私たちがいる場所でも窓に防火シャッターが閉まっていき、常夜灯の光だけが照らす暗闇が私たちを包んでしまった。そして、あらゆる手段の連絡網が断たれた。携帯の電波に、ネット、無線……全部だめだ。
「……パーティー会場に、様子を見にいこう」
「なぜだ、緑谷君。警備システムの言う通り部屋に帰るべきじゃないか?」
「ううん、違うの飯田くん。今この島、オールマイト先生が来てるの。こうなった時点で動き出してないと変じゃないかな?」
「オールマイトが……!」
「何だ、それなら安心だな!」
薄く動揺が広がりつつあった私たちを一瞬で冷静に戻してくれる平和の象徴、その彼が動けばこんな事態は一瞬で鎮圧されている。けど、もしパーティー会場で何かあったとしたら……避難誘導の手伝いくらいは許されるはずだ。デクくんと同じ考えかどうかは分からないけど、様子を見るくらいは大丈夫なはず。
「メリッサさん、ここから徒歩でパーティー会場に行けますか?」
「ええ、非常階段があるから……」
メリッサさんが指し示した防火扉の先の非常階段、私は重い扉を開けて、そのままみんなを促して非常階段を昇る。パーティー会場近くまで来たところで、大人数でいくと仮にヴィランがいた場合オールマイト先生をピンチにしかねないという理由で響香ちゃんと護衛役の私とデクくんでパーティー会場の上階の窓から様子を伺うことにした。
「2人とも、これ被って」
「え、これ……」
「わかった」
デクくんが携帯のフラッシュをつけたり消したりしてオールマイト先生の注意を引く。気づいてくれたオールマイト先生が見えるように空間に投影された文字で『デクくんと楪です、響香ちゃんが聞いてますので状況を説明してください』と表示する。オールマイト先生の口元が動いた瞬間に画面を消した。
「ヴィランがタワーを占拠、警備システムを掌握……!?人質は島民全員で、ヒーローたちも拘束されている。危険だから逃げなさい……!?ヤバいよ、希械、緑谷!」
「……一番最悪のパターン引いた感じだね……」
「いったん戻ろう、二人とも」
デクくんの号令で私たちは一旦、非常階段の踊り場に戻る。待っていた皆に状況を説明すると皆、黙り込んでしまった。私もどうすればいいか分からない、ただ一つ言えるのはこのままだとI・アイランドはヴィランの思うがままにされてしまうということ。行方が分からないえーくんと爆豪くん、ホテルにいるであろう三奈ちゃんを始めとしたクラスメイト達の安否も非常に気がかりだ。
「……俺は、オールマイトの提案通りに脱出するべきだと思う。俺たちができることは、何もない」
「飯田さんに賛成しますわ。私たちはまだ無免許、ヒーロー活動はできません」
「んならよ、何とかして脱出して外のヒーローに……」
「無理、かな。ここの警備はタルタロス級だから……外から入りづらいのは勿論だけど……中から逃がさないようになってると思う」
「じゃあ、オイラたち待つしかねーのかよ……」
飯田くんの現実的な提案に賛成する百ちゃん、上鳴くんに峰田くん。そう、そうなんだよ。私たちに許されるのは逃げることと、隠れること。嵐が過ぎ去るまで震えて待つしかない……けど、それがこの状況の最適解だとは思えない。
「ねえ、メリッサさん。警備システムってこの塔の最上階にあるんだよね?ヴィランが制圧したってことは……」
「警備システムのプロテクトが解除されてる……!奪い返せるかもしれないわ!」
「ダメだ!オールマイトが逃げろと命令してるんだぞ!?俺たちが規則違反を犯してヴィランと戦うわけにはいかないんだ……!」
「ウチは、希械に賛成する。ただ震えてヴィランが好き勝手するのを黙ってみてるなんて……ヒーローじゃないよ……!」
私とメリッサさんのやり取りに賛成したのは響香ちゃん、それに続くのは轟くんだ。ヒーローを目指しているなら、ここで指をくわえて見ているわけにはいかない。何もしなくていいのか?という轟くんの問いかけに飯田くんは押し黙ってしまう。飯田くんも分かってるんだ、本当ならどうしたいか。けどそれはしちゃいけないことだから賛成できない。
「……助けに行きたい。戦う必要はないんだ。隠密行動して最上階までいって、システムを取り戻す。そうすれば、ヒーローたちが動けるようになる」
「デクくん!行こう!私たちにしかできないことがあるならやらないと!ヒーロー以前の問題だと思う!」
「うん、行こうよ。幸い、私たちはまだ気づかれてない。それなら、気づかれないように上に登って、どこかの端末から私の個性でクラッキングを仕掛けるか……」
「私が直接、システムを変更するわ。お願い、私も行かせて欲しい!きっと役に立てるわ!」
麗日さんがデクくんに賛成をし、私もそれに続く。メリッサさんもそれに続いて、百ちゃん、響香ちゃん、轟くん、上鳴くん、峰田くんも次々に賛同に回ってくれた。ステインの件があるからか、飯田くんはそれでも消極的だったけど……止めても行くということを理解したんだろう。深くため息をつきながらも了承してくれた。
「……危険になったら引き返し、逃げに徹する。それを吞んでくれ、でなければクラス委員長として賛同できない」
「ありがとう、飯田くん!みんな!行こう!」
デクくんが飯田くんの目を真摯に見つめて、皆の言葉を代弁してくれる。私たちはそのまま急いで非常階段を駆け上っていく。途中でデクくんはパーティー会場を覗き込み、オールマイト先生と無言のやり取りをした。最終的に振り切る形になってしまったのだろうが、やれることをやってから怒られよう。今は、誰も犠牲にしない方法を探るんだ。
動き出しましたね。さあみんなに頑張ってもらいましょう
では次回から戦闘です。感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ