個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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44話

 階段を駆け上がる。非常階段はどうやら監視カメラなどの防犯機能の対象外らしく、着ているだけで邪魔になってしまう光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)を着ながら走る必要はないみたい。幸い私たちの体力はそれなりに余っているから、階段を昇り続けることくらいはなんてことない。

 

 「最上階って何階だ!?」

 

 「200階だよ!今30階!」

  

 「マヂか!そんなにあるのかよ!?」

 

 「文句言う暇あったら足を動かす!」

 

 「ヴィランに出くわすよりはましですわ!」

 

 走りながら階数表示のプレートを見て上鳴くんの疑問に答えると、まさか200階まで階段だという事実に打ちのめされる峰田くん、彼は歩幅が私たちと違い過ぎるから体力の消耗も激しいだろう。それに……技術畑のメリッサさんなんかは特に体力がないと思う。ええい、この際恥ずかしいとか見られたくないとか言ってられないや!

 

 「お茶子ちゃん、全員浮かせてもらえる?お茶子ちゃんは私におんぶの状態でそのままでお願い」

 

 「了解!みんな、手を!」

 

 「よいしょっと」

 

 「うおおおお!!ぎゃあああっ!?」

 

 スカートをたくし上げて足カバーを外す。お茶子ちゃんがその後ろでみんなの手に振れて無重力状態にして浮かせている。何があるか分からない以上体力の消耗は避けるべき、それは私もそう。だから、機械に任せられる部分は任せちゃおう。私のスカートの中を覗きに来た峰田くんがイヤホンジャックで沈黙してるけど、全部終わったらビンタするからね。

 

 脚が変形して、人外の形をとる。鋭く先がとがった8本足、端的に言えば今の私はアラクネ状態、蜘蛛でいう腹の部分にゼログラビティ状態のみんなを乗せて、ワイヤーで固定し、無音で走り出した。お茶子ちゃんは許容超過しての酔いを避けるために自分は浮かせてない。ちょっとぎゅうぎゅうで申し訳ないけど許してね。

 

 「なんでオイラの扱いがこんななんだよ!」

 

 「殴られないだけありがたいだろ、峰田」

 

 「轟ィ!場所変われ!」

 

 「峰田君!状況を考えたまえ!」

 

 「すごい、ユズリハさん……でも体力が……」

 

 「生身部分は動かしてないから大丈夫!一気に登っていくよ!」

 

 一番後ろで逆さま状態でぐるぐる巻きになっている峰田くんの抗議は無視する。スカートの中は見られたくないの、いくら私でも。暫くそこで反省しててください、ちょっとしたら普通に戻すから。アラクネ楪ちゃんのスピードはまあ、並みだけどみんな抱えてこれ以上早く階段を昇る方法は正直思いつかないから、許して欲しい。メリッサさんが私の体力を心配してくれてるけど、まあ機械なので!金属疲労以外は平気!

 

 そんな感じで50階を越えて、70階を過ぎ、80階に到達しようとしたところで、私は立ち止まる。隔壁が降りている、このままじゃ進めない……!ああ、もう!非常階段のくせして非常時に使えないとはなんということだ!文句を言ってもしょうがないけど!みんなを下ろして、お茶子ちゃんがいったん個性を解除する。

 

 「どうする、壊すか?」

 

 「ダメ!そんなことしたら警備システムに引っかかってヴィランに気づかれるわ!」

 

 「……うーん、操作できそうな端末も見当たらないなあ……」

 

 パネルか何かがあれば私の個性で一部だけハッキングして隔壁を開けることもできるんだろうけど……流石はI・アイランド、そんな便利な穴は見当たらないよね……。アラクネ状態の私がうーん、と天井スレスレを掠っている頭をかしげて考えているとぐるぐる巻き状態の峰田くんが

 

 「じゃあ、このドアの向こうに行けばいいんじゃねえの?」

 

 「なるほど峰田、それがいいかもな」

 

 「あ!ダメ二人とも!」

 

 峰田くんが指し示したドアに、上鳴くんが手をかけてしまった。慌てて止めるのも間に合わず、ドアが開いてしまう。轟くんが走れ!と言って皆でドアをくぐって走り出す。私はその場にアラクネを捨てて自分の足で走り出した。峰田くんのワイヤーを切り離してからどうすべきか頭を高速回転させる。

 

 「気づかれた……!」

 

 「しょうがないよ!どっちにしろあの状態なら隔壁壊すかドアを開けるかだから!」

 

 「反対側に同じ構造の非常階段があるはずよ!そこまで走って!」

 

 「わかりましたわ!」

 

 「急ぐぞ!」

 

 飯田くんの号令に従って皆が廊下に転がり込んで急いで走りだす、当然ここには監視カメラが山ほどあるので、気づかれてしまっているだろう。それを現すように、廊下の隔壁である防火シャッターが次々と上から迫って閉まっていく。あっ!あれは!

 

 「楪さん!危ない!」

 

 「いいから!飯田くん!ドア!」

 

 「そうか!了解した!」

 

 「楪!」

 

 私は防火シャッターの下に身を躍らせるとシャッターを受け止めて、持ち上げた。グギギギギ、と異音を立てて私を押しつぶそうとするシャッターを押し込める。視線で飯田くんに示したドア、飯田くんはすぐに私の意を察してくれて蹴りでドアを壊してくれる。轟くんが氷結でシャッターを凍らせてくれたおかげで私も脱出し、壊されたドアの先にみんなで入る。

 

 中に入ると、うっそうと生い茂った植物と、近代的な機械装置のコントラストがアンバランスな場所だった。メリッサさんの説明によるとここは植物プラント、個性の影響を受けた植物を観察するための施設らしい。足を止めずにそこを突っ切ろうとすると響香ちゃんがみんなを止めた。見るとエレベーターが動いている。急いで皆植物の影に隠れる。

 

 「ガキはこの中にいるらしい」

 

 「ああ、メンドーなとこに隠れやがって……。匂いがするな、こっちだ」

 

 「……完全に気づかれてる……!」

 

 ヴィランたち、抜け目がない。背が高くて細い男とずんぐりむっくりな男の二人組、ずんぐりずむっくりなほうは個性なのか鼻をひくつかせて確実に私たちの方に向いた。完全に気づかれてる……!みんなの顔が青くなる、しょうがない。覚悟を決めなきゃ……!

 

 「皆、いい?私が飛び出したら一目散に非常階段を目指して。いいね?」

 

 「何を言ってるんだ!戦闘は……!」

 

 「今この状況でそれはもう通らないよ。逃げるかまた上に行くかは飯田くんに任せるけど……この中で、時間稼ぎが一番できるのは私だよ。他の人は残らないで。巻き込むかもしれないし、私も本気で戦えない」

 

 「希械さん……!」

 

 「さあ、行って!」

 

 「……っ!楪、絶対追いついてこい!」

 

 「もちろん!」

 

 手袋を脱ぎ捨て両手に機関砲を展開した私が植物の影から飛び出してヴィラン二人組に向かって走り出す。他のみんなは私と逆方向に走っていく。私はヴィランたちに向かって機関砲を連射するが、のっぽの方の男の手が手袋を破って肥大化し、振るわれた風がカマイタチとなって弾丸を一掃し私に襲い掛かる。体の方は手でガードしたけど……

 

 「ドレス、お気に入りだったのに」

 

 「わーるいことしたなぁ?大人しく死んでくれや」

 

 「一人か?いや、時間稼ぎか。涙ぐましいぜ、女残してとんずらか」

 

 「ふふ、私一人で十分なだけだよ?卑怯なことしかできないヴィランなんて」

 

 「強がったってなぁ……ガキ一人30秒もいらねえわ」

 

 カマイタチでドレスはずたずた、にやにやと笑うヴィランたちにむかっとしたけど今は冷静でいることが大事。火力をあげよう、圧搾空気から火薬で発射に変更、弾丸を徹甲弾へ。これでだめなら近接戦闘かな。ジャコッ!と大口径に変形した私の両手の機関銃を二人に向ける、ずんぐりむっくりの方のヴィランの身体が毛で覆われ、巨躯に変わった。人と獣のあいの子のようになったヴィランが跳躍して私に拳を振り下ろそうとする。

 

 咄嗟に両腕で防御しようと腕を構えた。衝撃に備え歯を食いしばってたら……予想された衝撃が来ない。はっと目を前に向けると、目の前に見知った背中があって、ヴィランの拳を体で止めてくれていた。

 

 「おい、誰かしらねえけどよぉ……俺の幼馴染に何してんだ!?」

 

 「こいつ、俺の拳を……ぐあっ!!?」

 

 「死ねえ!」

 

 「えーくん!爆豪くん!」

 

 獣人ヴィランの拳を止めていたのは硬化したえーくんだった。もう、かっこよく駆けつけてくれて!ありがとう!大好き!そして爆豪くんが爆破でヴィランを吹っ飛ばしてくれる。体勢を立て直した私は数瞬考えて爆豪くんに指示を飛ばす。

 

 「爆豪くん!私の後ろでみんなが上階を目指してるの!貴方の力が絶対にいるから追いかけて!詳しくはみんなから話を聞いて!」

 

 「ああ!?俺に指図す「お願い!」……チッ!」

 

 一瞬反発した爆豪くんだけど、真剣に頼んでたおかげか緊急事態であると理解したからか、舌打ち一つだけして爆破で空を飛んでみんなを追いかけていってくれる。えーくんは何も言わずともここで残ってくれる構えだし、これで私たちの勝ちは確定した。えーくんがいれば、私は誰にも負けない。私のヒーローが一緒だもの、かっこ悪い所見せられないよね。

 

 「おい、どっちだよ。こいつに攻撃したの」

 

 「俺だよ、悪いなクソガキ。かわいー彼女のおべべを破っちまってよ」

 

 「服だけしか破れてないけどね。団扇みたいな手の割にそよ風しか起こせないんだ?」

 

 「言ってくれるねえ……!」

 

 「ってぇな……あ?他のガキ逃げたか」

 

 「この馬鹿ガキ潰してさっさと追うぜ」

 

 どうも、このヴィランたちは私たちのことを知らないらしい。私たちが有名だとかそんな話じゃなくて、ヒーロー志望の学生だということを把握できてないようだ。獣人ヴィランが妙に強気なのもおそらくただの一般人の子供相手だと思ってるからだろう。ガツン!と拳と拳を撃ちつけたえーくんが私の前に出てヴィランたちに立ちふさがる。私はビリィ!とドレスのスカートを破って動きやすい形に変える。もったいないなもう!そして、戦闘形態に手足を換装した。

 

 「えーくん、いくよ」

 

 「おう」

 

 短くそう言って、えーくんは振り返らず返してくれた。それが生意気だったのだろうか、団扇のヴィランが両手を振って風を起こした。けど、えーくんが全てを受け止めてくれる。右目の観測、風を起こしてるんじゃないな。空間がえぐれてる。カマイタチは副次的効果なんだ。当たったらいくら私たちでもまずいかも。

 

 「くたばれクソガキ!」

 

 「ふんっ!」

 

 「ごぁっ!?」

 

 獣人ヴィランがえーくんに向かって飛びかかる。えーくんは獣人ヴィランの拳に拳をぶつけて対抗、打ち負けはしたものの相手の拳はえーくんの硬化した拳によって潰れて、拉げてしまった。即座に体勢を立て直したえーくんは軽いフットワークで相手の懐に入る。私はそれに合わせて足のバーニアで飛びあがった。えーくんのボディブローが正確に相手の肝臓を打ち据え、私のドロップキックが顔面を撃ち抜く。吹き飛んだ獣人ヴィランは壁にめり込んで気絶。団扇のヴィランは一瞬で行動不能にされた相方を見て冷や汗を流した。

 

 「えーくん、正装似合ってるね。汚れてないの見たかったなあ」

 

 「お前もな。ドレス、一生懸命選んだんだろ?ちゃんと見たかったぜ」

 

 「後で写真見せてあげる。全員助けたあと」

 

 「何者だ、お前ら……!?」

 

 ドロップキックの体勢で落下する私を横抱きで受け止めてくれるえーくん、戦闘で汚れちゃってるけどえーくんの正装、カッコいいな。お姫様抱っこの状態から立たせてもらい、残った団扇のヴィランを二人で見据える。

 

 「えーくん、あの手直接受けちゃダメだよ。多分防御できないやつ」

 

 「あー、俺そういうの苦手なんだよなぁ……突っ込むわ」

 

 「ん、わかった。じゃ、行ってらっしゃい」

 

 ジャコ、ジャキジャキ、と私の足や手が変形してハリネズミのように重火器やらミサイルが顔をだし、冷や汗をだらりと流したヴィランに私はにっこりと笑顔を向けて……全弾を相手を囲むように発射した。えーくんは私が制圧射撃を始めた瞬間に合図無しでまっすぐ相手に突っ込む。必死になって手を振るいミサイルや銃弾を排除しようとするヴィランだけど数が多すぎて追いついてない。えーくんの背中にも被弾してしまうけど、彼も私もそれは織り込み済み!当たっても大丈夫なのはお互い知ってるし、信頼してるから!

 

 「おい、歯……食いしばれ!」

 

 「待っ……!?」

 

 つるべ打ちのミサイルの煙に紛れて接近したえーくんの硬く硬く握られた拳がヴィランの顔面を捕らえる。命乞いに聞き耳持たなかったえーくんの鉄拳が顔面に直撃して背後のエレベーターの壁を陥没させるほどの威力をもってヴィランに襲い掛かった。うわー、いたそー……あれえーくんかなり本気で殴ったね。当然ながらヴィランは気絶……ズタボロの正装だけど私たち二人とも無傷。戦果としては上々だ。

 

 「えーくん、ん」

 

 「おう!」

 

 ガツン!と拳と拳をぶつけ合った私たちは、ワイヤーでヴィラン二人を拘束しにかかるのだった。

 

 




 流石はえーくん、お強い。アラクネ希械ちゃんの想像図は皆さんにお任せします。ですけどでかいのは間違いないです、はい。折角着たのに秒でボロボロにされる正装、おいたわしや。

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