「おはよ~、みんな起きれる?」
「むにゃ……希械ちゃんおあよ~」
「おはようございますわ……」
「ケロ、まだ眠いわ……」
「希械ちゃんすごいね~……眠くないん?」
「すぴ~~」
「んぅ~……」
「あはは、私の体内時計は正確だからね。ほら響香ちゃんに透ちゃん、朝だよ……透ちゃんなんで裸なの!?」
「私、寝るときは裸派なの~」
そうなんだ……じゃなくて!あの魔獣の森トレッキング(不本意)があった合宿初日から一夜明け、集合時間少し前に目を覚ました私がみんなを起こす。私は起きようと思った時間にセルフ脳内アラーム&強制起床をすることができるのでみんなの目覚ましをやるよーと昨日のうちにお話してある。個性で寝ぐせぼさぁな髪を直してみんなを起こすと皆昨日のことで滅茶苦茶疲れてるのか何とも寝起きが悪い。
うゆ~希械ちゃん寝ぐせ直して~と甘えてくる三奈ちゃんの寝癖を櫛で治して、顔を洗わせたりなんだりしてるとすっかり集合時間間近だ。わーい朝ごはん……え?お預け?特訓が先?しょんなあ……動くためにジャージに身を包んだ私たちを出迎えてくれるのはいつも通りの相澤先生がいた。いつも眠そうなのに早起きなんだねえ~。
「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及び、プロヒーロー免許の仮免許の取得だ」
強化、なら私たちは毎日励んでいるわけだけどどうやらそれとは別のお話みたいだ。筋トレや訓練、戦闘に救助の経験じゃないものかもしれない。というのも不本意ながら私たちはヴィランに襲撃されて、体育祭を勝ち抜いて、さらにはI・アイランドでヴィランから島を取り返したというなんじゃそりゃという感じの濃ゆーい3か月を過ごしているのだ。こんなこと言いたかないけどそこら辺のヒーロー科では絶対できない経験だ。
「で、だ。入学から3か月、君らがどれだけ成長しているか、だが……爆豪、これ投げろ」
「こいつは……」
「お!そりゃ個性把握テストの時の!確かになあ!1キロくらい行くんじゃねえか?」
渡されたのは個性把握テストで使われたボールだ。それを受け取った爆豪くんがにやりと笑い……くたばれ、というまた何とも反応しがたい気合の掛け声とともに爆破でボールを打ち飛ばした。右目で観測すると、あれ?思ったよりも飛んでない?709mと少し、入学した時は705mだったから、あれだけ濃い経験をした割にはあまり伸びてないような気がする。
「とまあ、君たちは確実に成長していることは間違いないが……それはあくまで経験に技術、多少の体力向上くらいだ。見ての通り個性そのものに関しては伸びていないのが現実」
な、なるほど……確かに私の個性に関してもそうだ。例えば私の個性の上限と言えばオーバーヒート、熱耐性そのものが私の許容上限、熱圧縮だったり強制放熱だったり冷却ジェルだったりとあの手この手を尽くして熱への対策を積んできたものの、許容できる熱の上限が上がったわけじゃない。あくまで放熱効率が上がった、もしくは熱を捨てる手段が増えただけなんだ。
「この合宿で君らの個性を伸ばす!つまりはプルスウルトラ……限界突破だ!」
「じゃあ、轟くんよろしくね?私のことは気にしなくていいから」
「いや……普通に気にする」
「大丈夫だよ、私頑丈だから!」
個性の限界突破……私の場合は弱点を埋める方向になったみたい。そもそも私の個性を伸ばそうと思ったらやることはお勉強と実験なんだけど、既にビーム兵器まで実用化してるので攻撃力その他に関しては過剰もいい所、なので許容できる熱量をあげる特訓をすることになりました。
それで、その特訓をしてくれる相手は轟くん、彼は個性を交互に使ってお風呂の温度を一定に保つ特訓をするみたい。彼はアクセル全開状態なら両方を同時に使えるんだけど繊細なコントロールをするのがまだ無理なので両方を使いながらコントロールを目指すって感じかな。なので私は彼の近くで個性を使い続けて氷結と炎熱を交互に食らって温度に対する耐性をあげよう!っていうわけだね!
「いつでもどーぞ~」
「おお」
個性で椅子を作って座り、ついでに今一番作るときのコストが高いゴリアテを含めたタイタンシリーズやビーム兵器などをメカアームの先で作ったり仕舞ったりして私は個性を使い続ける。うぐうう~なんもやってないとすぐ熱こも……いやあつぅ!?轟くんの炎やっぱりエンデヴァーの息子なだけあって滅茶苦茶温度高いよ!あっつ!生身が焦げそう!ちべたっ!?今度は氷漬けだ!
「ゆ、楪……?大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ今の所!あ、いけないオーバーヒートした……轟くんは私気にしてたらダメだよ~直撃してもへーきへーき」
「……心臓に悪ぃ」
冷却ジェルも放熱も全くしないせいで一瞬で許容量を超えてオーバーヒートする私、個性は使えないけど熱耐性をあげるわけだからあんまり関係ないね。轟くんはところどころ焦げた私を心配してくれてるけど案外無傷だよ?え?もうちょっと離れろ?嫌です特訓なので。この夏の熱気がさらに私の中に熱を蓄積させていくぅ……。
暫く冷たいとあっついの地獄のハーモニーを甘んじて堪能していると、えーくんが尾白くんと一緒に個性伸ばしをしているのが目に入った、氷越しに。尾白くんは割と必死なんだけどえーくんの方は何とも余裕そうで不完全燃焼って感じがするね。
「あー、尾白。すまねえけどもっと強く打ち込めねえか?まだ俺の方余裕あるわ」
「やっぱそうだよね。結構本気なんだけど……具体的にどのくらい?」
「そうだなー……希械ー!わりぃけどちょっといいか~!」
「なに~!?」
「お」
えーくんに呼ばれたので氷漬けの状態から氷をバリバリと割って立ち上がり、メキャメキャと音を立てて体の自由を取り戻してから二人の元へ向かう。轟くん氷結の中にいた私が急に動き出したことにたいそう驚いたみたいだけど何度もやってるじゃん。うーん、氷漬けのおかげでオーバーヒートからは脱せたかな?オーバーヒートからの強制冷却を繰り返してるから大分酷使されたって感じする!
「いつもやってるみたいに殴ってくんね?思いっきり」
「りょうか~い。いくよ?ていっ!!!!」
「ふんぬっ!!!」
ゴガキャァ!!!とすさまじい音がして硬化したえーくんに振り下ろされる私のパンチが彼の足元を陥没させる。火花を散らして私の拳とえーくんの硬化した体がぶつかり合い、えーくんが耐えて私は拳を引いた。唖然とした顔でこっちを向く尾白くんにえーくんと二人で声をかける
「「このくらい」」
「できないよ!?」
「まあ、そうだよなあ。相澤先生に相談すっか。あ、でも尾白は俺殴ると個性伸びるんだよな?だったら変えるのやめた方がいいかぁ?」
「ならば、我ーズブートキャンプへ来い……!切島、貴様は我が揉んでやろう。尾白!貴様もだ!尻尾で筋トレ!筋繊維を千切り飛ばせ!」
「は、はい!」
「マジっすか!虎さん!ありがとうございます!」
如何せんえーくんは硬い、硬すぎる。何せ私の全力パンチをこうも耐えるのだ。尾白くんは異形型であって増強型じゃない、筋トレを繰り返せばえーくんばりのパワーを出せる可能性があるけどえーくんがこれだけのパワーを誇るのはガッチガチに体が硬いので自分に帰ってくる反動をすべて無視して力を籠めることが出来るからだ。普通の人体でえーくんのパワーを再現したらデクくんがそうなっちゃうみたいに反動で骨が折れるかもしれない。
「デクくーん、尾白くーん!あとB組の人たちも!これ期末で先生たちが使ってた超圧縮重りのリストバンドだよ!折角だし使ってみて!重さは一つ10キロね!」
「ほぉう、いいもの出すじゃないか楪……!全員それをつけてもう一回!」
「「「イエッサー!!!」」」
増強系で筋トレと言えば重りでしょ?と私が出したリストバンドをつけてブートキャンプを再開する増強組とプッシーキャッツの虎さんに連続で打撃を打ち込まれるえーくんを置いて私は特訓を続ける轟くんの元に戻る。もういいのか、という轟くんに大丈夫、と返すと彼は短くそうかと言って、また炎熱と氷結を繰り返していく。熱い、冷たい、熱い、冷たい……これ私じゃなかったら死んでるよね、今更だけど。
「世話を焼くのは昨日までって言ったね!?」
「己が食うものは己が作れ!カレー!」
「「「「「「イエッサー……」」」」」」
午後4時、一旦特訓を中断した私たちは飯盒炊飯をするという実に林間合宿らしいイベントを体験することになった。料理といえば私、私といえば料理。つまりここは私の独壇場!いや違うか。皆が楽しく料理するのが大事だよね~。私も適当に大雑把に頑張ろうかな。ニコニコしながら野菜に皮むきを進めていると
「ねー、希械ちゃん。私希械ちゃんの本気カレー食べたいな~」
「いいけど……材料が……」
「カレーっつったら希械のカレーうまいよな芦戸!分かるぜ!」
「え、なに楪のカレーそんなうまいの?」
「そういや楪の弁当のおかずどれもうめーもんな!そう考えると俺も食ってみてーなー」
三奈ちゃんの発言に端を発してクラスのみんなが調理をしながらも私のカレーの話に花を咲かせている。うーん、別に私のカレーは特に変わったところはないんだけど……えーくんも三奈ちゃんも確かに招待してカレーを振舞ったことはあるし、二人は味も知っている。そうなれば私も作ってあげないとダメかなあ……でも聞いてみないと……。
「すいませんマンダレイさん、材料ってこれ以外にもあったりします?あとスパイスも……」
「ええ、あるけど……あら、レシピがあるの?じゃあ台所から好きなもの取ってきて、作っていいわよ。か・わ・り・に……私たちにも食べさせて頂戴な」
「え、はい!私の料理でよければ!」
許可が出たので合宿所の台所に駆け込んで必要な材料を取ってくる。えーっと、牛もも肉のブロックに、赤ワイン、リンゴ、はちみつ、ヨーグルトにチョコレート、コーヒー、あとパウダースパイス!ローリエも!ルーには頼らないのが楪ちゃん式です!むんっ!頑張るぞー!ゴム手袋嵌めなきゃ。
「あ、戻ってきた。って何それ!?」
「え?電気式圧力鍋だけど……時間がないし……」
時短のために個性で作り出した文明の利器と私が調理を開始する。ゴロゴロと大きくカットした牛もも肉にすりおろしにんにくと生姜を塗りたくってから焼き目がつくまで焼いて、そのまま赤ワインと一緒に圧力鍋に入れて煮込む。灰汁を取ってから圧力鍋の蓋を閉めて加圧開始。同時並行でIHヒーターを作り出してフライパンでみじん切りにした玉ねぎをバターであめ色になるまで炒め、パウダースパイスと一緒にカレーペーストを作っていく。そのまま鍋にジャガイモ、ニンジン、マッシュルームを入れて煮込んでおく。
「はっやどうなってるん……?」
「クソがこんくらい俺もできるわ!」
「かっちゃん張り合うところ違うんじゃないかな……」
それで、湯剥きしたトマトを角切りにして野菜が入っている鍋の中に入れる。コクが出て美味しいの!トマト缶でもいいんだけど、折角生のいいお野菜あるし!加圧時間は30分でいいかな。その間にご飯を炊いておこう。あ、やってくれてる?ありがと~~!カレーペーストを別皿に移して今は待ちの時間!
「希械ちゃん慣れとるね。ずっと家でもやってるん?私が泊まらせてもらった時とかもそうやったし」
「そうだよ~。私お料理大好きなの。本当だったら前日にブイヨン作ってそれでカレー作るんだけど……流石に昨日にタイムトラベルはできないかなあ」
「何だろ、もうすでにうまそうっていうのが分かる」
「市販のルー使ってない時点でなんかやべえもん作り出したって感じするよな」
「ケロ、お茶子ちゃんお泊りしたのね。羨ましいわ」
「ふふ、梅雨ちゃんも来る?みんなも来たければ来ていいよ」
「じゃあ是非オイラが……」
「峰田はダメだろ。考えろよ」
瀬呂くんに真顔で突っ込まれた峰田くんがなんでだよと言っているけど仕方ないと思います。私は加圧が終わった圧力鍋からトロトロになったお肉を野菜の鍋に汁ごと投入して、そこにカレーペーストと隠し味のリンゴやはちみつ、チョコにコーヒーを少しづつ入れて、ウスターソースで味の調整をする。まあこんな感じかなあ。あとは味がなじむまで15分煮詰めれば完成!私特性カレー!
ぐるりと寸胴一杯にあるカレーをかき混ぜて、小皿に移して味見。うん、これで大丈夫かな。じゃ、マンダレイたちプッシーキャッツの分のご飯によそって……うーん、つやつやのご飯にカレーってどうしてこんなに食欲をそそるんだろう!?我ながら美味しくできたぞ~。
「プッシーキャッツの皆さんと相澤先生、ブラドキング先生、良かったらどうぞ」
「うわー!すっごい美味しそうにゃん!」
「やるねー、想定以上のものが出てきた」
「感謝する……」
「あちしにも!?ありがと~~!」
「俺の分もあるのか!いい子じゃないかイレイザー!」
「……ま、そうかもな」
そうこうしてるうちにみんなのカレーも完成したみたい。鍋敷きに敷かれたカレーは私からしたらどれも美味しそうだなあ。でも、みんなの視線は私が作ったカレーに注がれてる。流石に全員分を大盛りにする量はないから、小盛りで許してね。と配膳を済ませてみんなで手を合わせて頂きます!
「うーん!やっぱり希械ちゃんのカレー美味しい~~!」
「ええ、美味しいですわ……!」
「お肉がトロトロや……!」
「えへへ、ありがとみんな」
どうやらみんなのお口にあったようで、皆が美味しいと言ってくれる。私はそれに嬉しくなって笑いながら、皆が作ってくれたカレーを口に入れるのだった。うーん、やっぱりこっちも美味しいね!市販のルーは偉大だよ、でもやっぱり。皆が作ったから美味しいのかな。
カレーって奥が深いですよね。ちなみに楪ちゃんと切島くんのトレーニングは常人なら殴り殺されてます。流石えーくんガッチガチ。普通に強いんだけどね、尾白くん……
楪ちゃんの個性特訓は熱耐性の底上げです。上限値なので突破できればよし!体制が上がればもっと良し!
感想評価よろしくお願いいたします。
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ