嬉し恥ずかしの地獄こと林間合宿も3日目に突入し、夕ご飯の支度をしている私たち。今日も私は炎であぶられて氷で強制冷却されて、ついでに限界を迎えたジャージが燃えるなんてアクシデントもあったけどいたって元気です。眠いの~という三奈ちゃんを背負いながら今日のメニューである肉じゃがの調理を進めていく。
「皆!最高の肉じゃがを作ろう!」
「爆豪くん包丁使うのうまっ!?意外やわー」
「意外ってなんだコラ包丁なんざ誰が使ってもおんなじじゃクソが!」
「出た、久々才能マン」
「もー、肉じゃが作らせるなら昨日のうちに作らせてほしかったな~。味がしみ込む時間が足りないよぅ」
昨日のカレーほど工数が多い料理でもないし、味付けさえミスしなければどう作ろうと美味しくなるのが肉じゃがです。具は大きめがいいよね~、糸こんにゃくも忘れずに。御出汁だけはきちんととったけど……さーてお肉を入れないとね~。そういえば昨日私たちが女子会やってた時にえーくんたち男子も男子で集まっていろいろやってたみたいなの。
昨日、肉じゃがを今日作るよって言われた時にじゃあ今作らせて味を染みこませたいんです、って言ったら却下されちゃったのは置いておくとして、豚肉か牛肉を選んでねっていう話をされたの。それでB組の男子たちとA組の男子たちで勝負をしたみたい。私の肉じゃがは牛肉なので、一応その時牛肉を主張しておいたんだけど……。まあ出汁とりのために昆布を水に浸して、乾燥シイタケを水で戻しておくのは許可された。シイタケ入った肉じゃがも美味しいよ~?
で、何をみんなしてたかって腕相撲による勝負だって!へー、そんなことしてたんだね、峰田くんがマッチョに囲まれていた時に。それで、5回戦したみたいなんだけどえーくんが3人抜きして、4人目の宍田くんに負けちゃったみたい。流石に増強系には勝てねーわ、って言ってたけどえーくん普通に力持ちだからね。それで、賞品だったのは豚肉だったんだけど……えーくんが、私の肉じゃがは牛肉だし多分そっちの方が美味しいって言って結局牛肉になったみたい。それ勝負した意味は……?売り言葉に買い言葉した爆豪くんのせいだけど。
透ちゃんに絡みに行った三奈ちゃんを見送って肉じゃがに落し蓋をしてコトコト煮込んでいく。火が通ったら30分は置いておきたいなあ。いったん冷まして味を染みこませたいんだけど……そう考えてると近くに轟くんとデクくんがやってきた。どうやら彼らも作業を終えたようで雑談に花を咲かせてたみたい。私と髪越しに目が合った轟くんが思いついたようにデクくんに話を振った。
「色々言ったけど、そういう話なら俺より適任がいるだろ。楪とか」
「……何のお話かな?」
「えっと、その……実は洸汰君のことで」
いきなり話を振られた私がぱちくりとしながら事情を聴くとどうやら洸汰くんはヒーロー社会そのものが嫌いで、端を発しているのは両親……2年前に殉職したウォーターホース夫妻が深くかかわっているみたい。ヒーローの両親が二人とも殉職してしまい、置いて行かれてしまった洸汰くんは死んでしまった両親を褒め称える周囲から反発し、ヒーローそのものを嫌悪するようになった。当然の話だ、他人にとっては英雄視される行為でも、残された方はたまったものじゃないから。
デクくんはその事情を知ってしまい、洸汰くんに何も言えなかった。もし事情を知ったのがオールマイト先生だったら彼にどんな言葉をかけるのか……それでもし、轟くんだったら、私だったらどうするかっていう話みたい。うーん、私がそれで言えるとしたら……。別作業に戻る轟くんをよそに私はデクくんに答えを返す。
「何もしない、かな。放っておいてあげるのも大事だと思うよ。デクくんは洸汰くんにヒーローを好きになってほしいの?」
「そ、そういうわけじゃないんだ!ただ……ずっと一人でいるみたいだし、味方って思ってもらえなくてもいいから……敵じゃないって、伝えてあげたいんだ」
「デクくんらしいね。ウォーターホースが殉職して2年……それをもう2年なのか、たった2年なのか捉えるのは人次第だけど……洸汰くんはきっと後者だよ。両親の思い出だってこれからたくさん作れるって時に二人ともいなくなった」
2年前、当時の洸汰くんは3歳、物心ギリギリつくかつかないかってところだと思う。両親にだって甘えたい盛り……いや、本当なら今だってそうなんだ。私は両親が健在だし、彼の気持ちを分かってあげることなんて到底できやしない。当たり前にいる人がいなくなるということを経験したことがない。ましてやそれが自分の親だなんて。
「正直なところ、私たちが洸汰くんにしてあげられることなんてないと思うよ。経験談だけど、心の傷を癒してくれるのは、時間だけだから。周りを見渡せるようになるまでは、そっとしておいてあげるのも優しさだと私は思う」
「経験談って……?」
デクくんにそう尋ねられて、私は髪を分けて右目をデクくんに見せる。機械でできてて真っ赤で、瞳孔に十字のレティクルが入ったディスプレイのような私の右目。産まれてからずっとこうじゃなくて、ちょうど洸汰くんと同じくらいの時に失くした私の宝物の片方。そういえばクラスメイトに話すのって初めてだっけ。
「ちょうど洸汰くんと同じくらいの時かな。個性事故で私の右目、なくなっちゃったの。事故が無かったら両目とも蒼色だったんだよ?なくなってから……立ち直るまでは私周りの事見えなかった。だって、本当ならあるはずのものがなくなっちゃったんだもん。急に」
「えっと、その、ごめん……」
「ふふ、私にとってはもう気にもしてないことだから大丈夫だよ。それに、デクくんにも覚えがあるんじゃないかな?周りの人だけが持ってて、自分だけ持ってないもの。意地悪な言い方でごめんね?」
「あ、うん。そうだね……確かに僕にもあったよ」
そう、デクくんも私もベクトルは違えど知っているんだ。あるはずのものがないという絶望を。目がなくなった私と、個性がなかったデクくん。洸汰くんに立ち直ってほしい、とは私も思う。私なんかよりもマンダレイがずっと思ってる。でも、彼に一番近いはずのマンダレイも何もできていない、いや……できないんだ。ただ時間が、洸汰くんを癒すのを待っている。
「洸汰くんも、今は少し感情が追い付いていないんだと思う。だから、私がするとしたら一人で整理する時間をあげることかな。待って、待って……周りを見れるようになった時に思いっきり抱きしめて、味方だって言ってあげる。それが何時になるかは分からないけど、ね」
「……うん、そうだね……」
「まあ、それはマンダレイの役目だから。もし私たちに洸汰くんが歩み寄ってくるならそれはまた別だけどね!というわけではい!味見してデクくん!」
何となく空気が重くなってしまったことを払しょくするように、落し蓋を取った私が小皿に肉じゃがを少しよそってデクくんに味見してもらう。彼もまた空気を読んでくれたのか素直に味見してくれて、美味しいと言ってくれる。ふふん、時間を置けば味がしみしみになってもっと美味しいんだけどね~。基本料理は手間暇をかけるほどに美味しくなるから、時短できるときは時短して、時間をかけるときに時間をかけるのがコツだよ!覚えておくように!
美味しかったなあ、肉じゃが。やっぱり肉じゃがには薄切りの牛肉だよ、うん。豚肉もいいかもしれないけど私は牛肉の方が好き。豚肉は分厚いバラ肉を角煮にしたいよね!という感じの夕食を終えてお皿洗いなどの片づけを終えた私たち、さあお楽しみの時間!肝を試す肝試しの時間だ~~!
「悪いが補習組、お前らは今から補習だ。日中の訓練が思ったよりおろそかになってるからこっちを削る」
「ウソだろ!?わあああ堪忍して試させてよ~~!!希械ちゃ~~~ん!」
「三奈ちゃん……安らかに……!」
「十字を切ってやるなよ希械」
楽しみにしてた肝試しを削るなんてなんて無慈悲なんだ相澤先生……!私は捕縛布でぐるぐる巻きにされて運ばれていく三奈ちゃんがこちらに手を伸ばしているのを断腸の思いで見送る。せめて安らかにと塩崎さんに教わった十字を切ったらえーくんに叱られた。
それで肝試しのルールなんだけど1周15分くらいのルートを通って真ん中あたりにあるお札を取って戻ってくる。個性ありの脅かしネタを切り抜けて、最終的により多くの人間を失禁させたクラスが勝利、いや失禁はしないでしょ。しないよね?させるような脅かし方はしないからね私は!問題なのは二人一組だって話で……私たちのクラスは21人、うち4人が補習だから……。
「一人余る……」
「デクくん、くじの結果だから……そんな顔しないで」
「あー緑谷、必ず誰かそうなっちまうから、な?」
くじ引きの結果、一人になってしまったデクくんに私とえーくんが揃って慰めにかかる。ちなみに私はえーくんとペア、峰田くんが変われとにじり寄ってきたけどえーくんがアイアンクローをしたら黙った。流石に暗がりで峰田くんと一緒だと身の危険を感じないこともないこともないこともないと言いますか。覗きの件もあるからちょっと警戒中なのです。
順番はデクくんの一個前、3分ごとに出発するということなので結構待ち時間がある……んだけどどうしようかな。というのも私、夜でも昼間のように鮮明に色々見えます。右目が悪いんだけど。見え方的には生身の目と違うし、抑えても見えちゃうし……驚くことはできるかもだけどみんなとそれを共有できないかも、それだけちょっと悔しい!ぐぬぬ……!
12分後、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが出発する。残念ながら私の聴覚センサーに誰かの景気のいい悲鳴が聞こえてくることはなかったのでみんな驚きはしても叫ぶレベルじゃなかったみたい。私、急に何かが起こるとえーくん曰くぽんこつになるのでぽんこつ希械ちゃんになってえーくんを抱っこして全力疾走みたいなことになったら恥ずかしいし。
「なんか、焦げ臭い?」
「黒煙……?マンダレイ、火って使ってよかったでしたっけ?それとも轟くんが驚いて炎熱使っちゃっただけ?」
「なら轟のやつすぐ氷結使って火ぃ消すだろ」
私たちが異変に気付く。どうも何か、おかしい。異臭……?成分分析、ガスだ。しかもこれ、有毒……!?まだ薄いけど広がったらまずいことになるぞ!?えーくんに目を合わせると彼も何かがおかしいというのは分かっていたのかすぐに気持ちを切り替えてあたりを警戒し始める。そして、すぐに……
「ピクシーボブ!」
「邪魔ねぇ。子猫ちゃん?」
「なんで……何でヴィランがいるんだよォ!?バレないんじゃなかったのかよ!?」
聞くに堪えない音を立ててピクシーボブが殴り倒された。アイガードを割るほどの一撃は彼女をあっさりと気絶に追い込んでしまう。なんで……ここにヴィランが……?しかもヴィランは片方はたらこ唇にサングラス、おそらく金属製の何かを布で覆って武器にしてる。もう一人は恐らく異形型の個性、トカゲかヤモリだろうか。トカゲ男の方は知らないけどたらこ唇の方は知っている。ヴィラン名「マグネ」、殺人などで指名手配されているステイン並みに危険視されているヴィランだ。
「貴様ら……いい度胸だな……!マンダレイ!」
「大丈夫、もう指示出した!いい、皆!?決して戦闘せず、まっすぐに合宿所に帰りなさい!委員長は引率!……洸汰……!」
「はいっ!聞いたな皆!行くぞ!」
そうか、そうだ洸汰くん!マンダレイも知らないんだ、彼が何時もどこにいるのか!マンダレイの個性、テレパスの指示に交じって彼女の口からこぼれ出る洸汰くんの名前にデクくんが反応する。デクくん、心当たりがあるんだ!マンダレイの指示は今すぐにここを離れて合宿所に戻り、待機すること。
「マンダレイ、僕知ってます!飯田くん、先行ってて!」
「何を言ってるんだ緑谷君!マンダレイの指示が聞こえなかったのか!?」
「私も行くよ、デクくん。一人じゃ危ない」
「ああ、俺もいく。飯田、他のやつら頼むわ。俺と希械なら仮にヴィランにあっても逃げに徹すりゃ死にゃしねえ。緑谷の足なら洸汰君抱えて逃げられんだろ」
「君たち……!すぐに戻ってくるんだぞ!」
飯田くんの苦虫を嚙み潰したような顔に申し訳なく思いつつも、デクくんを促して避難するA組の残留組から反れる。何でヴィランの襲撃が、いやまずは、何でばれたのか。どうやってここを知ったのか。意味不明だ。森の中をデクくんの先導でかけながら私は個性で警察に連絡を入れつつ、さらに雄英にも連絡を入れる。
『やあ、楪少女。合宿中だろ?どうしたんだい?』
「オールマイト先生、合宿の場所は御存じですか!?すぐに根津校長先生に連絡を入れてください!ヴィランの襲撃を受けています!お願いですっ!」
『なんだって……!?待ってなさい!私が行く!』
私とデクくんが知っているオールマイト先生の連絡先に連絡を入れると活動中ではなかったのかオールマイト先生がきちんと出てくれた。慌てた私の拙い説明で危機を察知してくれたオールマイト先生が電話口で声を引き締める。私は一縷の望みを救援に託して、えーくんと一緒にデクくんについていくのだった。
始まりました、襲撃。デクくん一人だった洸汰くん捜索隊は3人になりました。いくぜVSマスキュラー!
あと即座に通報するのも普通ですよね。この時オールマイトは半身浴に興じてたらしいですけど。頑張れオールマイト!
では感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ