個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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神野編
54話


 「はぁ……!はぁ……!二人とも、大丈夫?洸汰くんは……?」

 

 「えぐっ……俺は、平気……!守ってくれたから……!」

 

 「ちょっと割れちまったけど、まだ動けるぜ。緑谷こそどうだ?腕壊れてねえか?」

 

 「僕は大丈夫、ガントレットが守ってくれた……!楪さん、腕は……?」

 

 「ふぅ……ちょっと限界を越えちゃったね。3分したら多分生やせるけど今は無理かな……?ヴィランはこのまま置いておくしかないよ。見た感じ全身複雑骨折、まともには動けない」

 

 手足を全力稼働させながらゴリアテのサドンインパクトをかますということをしたので少し許容量をオーバーしたみたいだ。ぴく、ぴくと痙攣するマスキュラーは拘束せずに放置せざるを得ない。デクくんのあのラッシュを受けて骨折で済んでいるというのは驚異的だけど……もうこれで動けないだろう。泣きながら私たちに無事を伝える洸汰くんに一安心した。

 

 流石にまだ強度不足だったフルガントレットにフルグリーヴ、要改良だね。私は個性の最後っ屁で作っておいたそれらをもう一度デクくんに渡した。ここにヴィランがいた以上、多分もっといる。それならデクくんが無理をしないように全力で動けるようにしてあげないと。それと、釘もさしておくことにしよう。

 

 「デクくん、いいね?残弾12発、だよ。13発使ったら、怒るからね」

 

 「だな、緑谷。おめーいざという時捨てるだろ、この状況でそれはやべーぜ、使えば使うだけ動けなくなるしよ」

 

 「……うん、わかってる。ありがとう」

 

 えーくんの硬化は限界を超えた衝撃を貰うと割れてしまう。若干ひび割れたような亀裂から出血してるえーくんはまだ余裕そうだけど……あのえーくんの硬化を破りかけるなんて……マスキュラー、怖いヴィランだ。戦闘形態の私の手足ですら若干歪んでいる、出会ったのがある意味私たちでよかった。強引に破れるメンツが奇跡的に揃ってたんだから。

 

 擦り傷や切り傷をこしらえた私たちがこれからどうするか、を話し合う。正直言えば結構限界に近いが、やれることがあるならやらなければならない。既に私は何度かプッシーキャッツや相澤先生、ブラドキング先生に無線での連絡を試しているけど繋がらない。

 

 「もし、襲撃に来たヴィランがこのレベルならみんなが危ない……!相澤先生に伝えないと……!」

 

 「そうだね、デクくんはこのまま洸汰くんを合宿所に連れて行ってあげて。私とえーくんは、残ったみんなを助けに行こう。ここからでもわかるけど有毒ガスが充満してる。百ちゃんがガスマスクを作れるけど遅れた人たちもいるかも。出来るだけやり過ごして他のみんなを回収して合宿所に戻る、どう?」

 

 「ああ、それがいいだろ。緑谷なら洸汰くん抱えて合宿所までひとっとびだしな。頼んだぜ!」

 

 えーくんが頷いて同意してくれる。今合宿がある森は火災と有毒ガスでひどいことになっている。ガスは幸い可燃性ではないみたいだけど……!それでも吸い込み続ければ命にかかわってくるかもしれない。早急に助け出さないとA組はおろかB組のみんなも危ない。なら、私たちがやらないと!

 

 「洸汰くん、僕を昨日追い払った時、個性で水を出してたよね?いざ逃げるときにきっと、君の個性が必要になるよ。だから、それまでは僕がキミを必ず守って合宿所に送り届ける!おぶさって!いくよ!」

 

 「……うんっ……!」

 

 「頑張ったね、洸汰くん。デクくん、お願い」

 

 「わかってる!だけど!狙いの一人は楪さんだって……!」

 

 「そうだよ。だから大丈夫。狙いは私の生け捕り、殺しにこない。ならそこに隙がある」

 

 デクくんの心配を私は残った左手のサムズアップで応えて、彼を送り出す。洸汰くんを笑って送り出した私とえーくんは顔を引き締めて崩落した崖を駆け下りて肝試しの会場に戻る。ただ、道なりに行くと確実にヴィランと遭遇するため大回りを取って別のけもの道を走っていく。途中で個性が使えるようになったので、右手を改めて作り直した。

 

 「緑谷のやつ……アレがあるからって無茶しねーといいんだけどよ……!」

 

 「うん、速めに終わらせないとデクくん多分また無茶しちゃう」

 

 デクくんは追い詰められた時、簡単に体を捨ててしまう。私も人のことは言えないけど、彼の場合はもっと重症だ。なんせ生身だ、あとに響いてくる。それがこんな非常事態なら猶更……!だから早めに事件が収束することを願うしかない。まだヒーローは現着しないのか、警察は何をしているのか。いろいろごちゃごちゃと頭をめぐる考えから抜け出せない……!

 

 「っ!?えーくん!」

 

 「おわっ!?希械っ!?」

 

 「ぐううううううっ!!!」

 

 超高熱源反応を私の右目が捉えて、咄嗟にえーくんに抱き着いて背中で庇った。轟くんの炎熱とは比にならない温度で私に襲い掛かった蒼い炎は、咄嗟に背中に出した耐熱シールドをまるでバターのように溶かして私の背中を焼いた。服が焼けて背中が丸出しになる、軽いとはいえ私が火傷を負う、生身でも常人よりは熱耐性がある私を焼いた。それだけで警戒するには十分……!

 

 「ビンゴ、だな。ここで会えるとは運がいい」

 

 「てめぇ……!何しやがる!」

 

 「えーくんっ!だめ!」

 

 焼けた皮膚、ケロイド上になったそれをまばらに無理やり移植したような黒髪のヴィラン……私たちに炎を放ったヴィランに膝をついた私の背中の火傷を見て頭に血が上ったえーくんが硬化して突っ込んでしまう。とっさに止めようとした手が空を切る。そして、えーくんが蒼い炎に吹き飛ばされて、背後の木に叩き付けられた。

 

 「えーくんっ!!」

 

 「悪いな、急に殴り掛かられて怖くなった。こけおどしの低温だ、死にはしない」

 

 えーくんに駆け寄って安否を確認する。火傷は軽い、だけど意識を失っている……!これ、燃焼した炎で酸素がなくなったんだ……!酸欠で気絶させられた……!それに、あれで低温……!?私の耐熱装備をあっさりと熔かしておいて低温での脅しだったって……!?冗談じゃない、火の温度ならエンデヴァー並みだよそれ……!しかも、私はこの顔に覚えがない、ニュース放送されてない顔だ!

 

 「俺は『荼毘』まあ、覚えても覚えなくてもいい。今からお前を連れて行かせてもらうぜ」

 

 「何が目的……!?」

 

 「さぁな。しいて言うならここに居ること自体が目的さ。お前はまあ、おまけだよ。楪希械、生け捕りがベストだが……死体でもいいらしい」

 

 「っ……!!!」

 

 目論見が外れた……!えーくんは気絶してる……!私が彼を守らないと。私の鈍い痛覚が背中からの焼けるような痛みを伝えてくる。思ったよりもやられたかな……?いいや、それは捨てておこう。今はこの状況を何とかしないといけない。最悪、私が死んでもえーくんを守らないと。ただ、死ぬならあのヴィランを撤退に追い込んでからじゃないと……!ふぅーーっ、と口から大きく息を吐いて、キッと荼毘を見つめる。

 

 「いい目してやがるぜヒーロー志望は……だが、逃がしてやるわけにはいかなくてな」

 

 「……囲まれた……!?」

 

 「取引だ、大人しく付いてくるなら後ろで寝てるのは見逃してやる。俺は快楽殺人者じゃなくてね。仕事が果たせればまあ、どうでもいい」

 

 「信用できないよ、この状況で」

 

 「だろうな……じゃあ、無理やりだ」

 

 荼毘は私とえーくんを囲うように火を放って炎のリングを作り上げる。完全に退路を断たれた私に自分についてくるように提案した荼毘を私は一蹴する。ヴィランが約束を守るなんて到底思えない、私を殺しても問題ないと言い放つほどだ、目的外のえーくんの命なんて私よりも軽いに決まってる。飛びかかろうとした私を広範囲に放たれた荼毘の炎が縫い留める。

 

 えーくんを巻き込む形で放たれたそれはこけおどしといった先ほどのそれよりもさらに高温だった。とっさにえーくんの前に陣取って炎を受けざるを得ない。轟くんの明るい炎と違って、この蒼炎は暗く、それでいて異様に温度が高い、戦闘形態の私の手足が熱で変形する、一瞬で耐えれる熱の許容量をオーバーした……!個性が使えない……!

 

 「ふーっ……!ふーっ……!」

 

 「耐えるな、想定外だ。Mr.」

 

 「お任せあれ」

 

 「しまっ!?」

 

 私の背後の木の上から仮面をつけた道化師のような男が降りてくる。伏兵……!私のサーチに引っかからなかった……!?いや、ガスと火災でノイズが多かったせいか!咄嗟に振り向いた私が加減を忘れてがむしゃらに男に手を振るう。だけど、男の手が私の手に触れた瞬間にバスン!と音を立てて空間ごと圧縮されて抉られるような形で私の手が消失した。

 

 さらに男はすさまじい速度で私のもう片手、さらに両足を抉る。だるまのようになってしまい、地面にうつぶせに転がる私に、わざわざしゃがんで見せつけるように白くて丸いビー玉サイズの物体を目の前に置いて、バチンと指を鳴らす。するとその瞬間ビー玉は抉られた私の手足に代わる。触れたものを圧縮する個性だったんだ……!

 

 「趣味が悪いな、Mr.コンプレス」

 

 「種明かしはマジシャンの嗜みでね。君がどうなるか、分かっただろ楪さん?」

 

 「……触れないで、今体内に核爆弾を作った。急ピッチだけどここら一帯を消し飛ばして余りあるよ」

 

 「ウソだな。お前は他人のために死ねるが、逆は絶対にできない。じゃなきゃ、そこの赤髪を庇わずとっくに逃げてる。ああ、爆弾作れるってのは信じてるぜ?体育祭見たからな」

 

 苦し紛れのブラフも一瞬で見破られる。核爆弾が作れるのは事実だけど、そこから見破られた。Mr.コンプレス、と呼ばれた男を強く強く睨みつける。視線だけで嚙み殺してやれるくらいに。頭の中にマンダレイのテレパスが響く、戦闘行動の許可、そして爆豪くんと私が狙われているということ。こんな、こんなあっさりとヴィランに目的を遂げさせちゃうなんて、情けない、情けない!

 

 「話したい事は終わりか?ああ、泣いちゃって可哀想に。じゃあな、楪さん」

 

 私の目から涙が落ちる、それをせせら笑ったMr.コンプレスが大仰な手ぶりで私の頭を触り、そこで私の意識は電源を落とすようにぷつん、と切れた。

 

 

 

 ふっと、意識が戻る。真っ暗だ、右目の視界を弄って暗視状態で周りを見渡す。電波は……届かない……!まずった、生きてることは拾い物だけどどれだけ意識を失ってた?何日時間が流れた?ずり、ずりと芋虫のように這ってゴロンと仰向けになり、腹筋の力を使って起き上がる。荼毘の超高温のおかげで個性はまだうんともすんとも言わない。熱が保存されてる?それとも時間が止められた?攫われてから10分も経ってない?どれなんだろうか。

 

 「っ!?ラグドール!?」

 

 周囲を見渡していると、私から少し離れたところにプッシーキャッツのメンバーの一人、ラグドールが血まみれで横たわっていた。急いで転がる様に傍に移動し、呼吸が正常に働いてるのを見て、胸をなでおろす。右目で見る限り、命に別条がある怪我ではないが、出血量が気になる。

 

 「気になるかい?その女が」

 

 「えっ……!?ひぃぅっ!?」

 

 「おやおや、ひどい反応じゃないか。はじめましてくらい言ったらどうかな?楪希械」

 

 唐突にかけられた声、ねっとりとしていて、不気味で、底が知れない。声だけでそれほどの威圧を放つ人物を目にとらえ、私は悲鳴を隠せなかった。体中に管を繋ぎ、点滴を打ち、喉にチューブを刺した男。顔は何かに潰されたようにのっぺらぼうで酸素マスクが目を引く、そして目がなかった。声が出せない、喉が干上がったみたいだ。

 

 「クク、いや済まない。これで話せるかな?まあ、少しだけ付き合ってくれたまえよ。暇つぶしに、ね」

 

 「はぁっ……はぁ……あなた、誰?ヴィラン連合に私を攫わせたのは貴方?」

 

 「如何にも。体育祭で君を見てね、実にいい個性だと思って、欲しくなった。だが、会ってみれば少々期待外れでね……」

 

 「それはっ、期待に沿えずに申し訳なかったよ……!でも、私にとっては嬉しい限り……!ラグドールに、何をしたの」

 

 男から放たれる圧のようなものが弱まり、私はなんとか話せるようになる。つっかえつつも攻撃的な態度は崩さずに男に詰問した。熱が少しづつ引いていってる。個性が効率的な冷却を無意識のうちにあの少しの合宿で身に着けたんだ。個性が使えるようになったら、持てる火力をすべて使ってここを破壊してラグドールを抱えて逃げないと……!だけど、男の言葉に私は思考が止まってしまう。

 

 「彼女?ああ、なんてことはないさ。「個性」を貰っただけだよ。そして君の個性も、貰おうと思ってた」

 

 「……個性を、貰う?」

 

 「僕の名はオールフォーワン。覚えてくれても構わないよ。話の続きをすると、君の個性は少々、今の僕には重い。そして弔には合わないだろう。だから、君からは別のものを貰うことにするよ」

 

 「何を……?あっ!?あああっ!?」

 

 オールフォーワン、と名乗った男が私から貰う、と尋ねた瞬間に私の左目が耐えがたいほどの痛みを発して、引っ張られる。まるで見えない手が無理やり私の目に干渉して引っ張られるように、ブチブチと音を立てて、耐えがたい痛みが強くなる。熱いナニカが左目から溢れて私の顔を伝っていく。私の悲鳴を肴にする様に含み笑いをした男が何かを引っ張る動作をする。

 

 形容しがたい音を立てて、私の左目に失くしがたい空虚感、喪失感が産まれた。ちかちかと明滅する視界が、まるでバグに侵されたかのように安定しない。いつも見えてる視界じゃない。取られた、取られた、取られた……!私の宝物が、今宙を浮いてオールフォーワンが持ってた何かの液体が入ったケースの中に納まる。

 

 私を見つめるその蒼い玉が、私の左のそれだということをまざまざと私に語り、私はその場で身を捻ってのたうち回るのだった。




 投稿当初に主人公が目を失う展開がありそうと感想で予測されておりましたが、予測した人!大正解です。狙われる理由はご想像がつくかと思いますが、なぜ目を取られるのかについては次回ということで。

 感想評価よろしくお願いします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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