個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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55話

 「くぅ……はっ……はぁ……」

 

 「おお、素晴らしい。眼球を抜かれて尚も冷静を保つとはね。やはり、殺さないで正解か。脳無の素材にはもったいない。いや違うな……割り切ったのか!面白い!」

 

 眼球を取られた。機械の右目じゃなくて、生身の左目。オールフォーワンと名乗ったヴィランは私の目が入ったケースを一瞬でどこかに消した。けど、もうどうでもいい。抜かれた以上取り戻すのは困難だから。流石に失った眼球を一から作りだすのは今この場では時間がかかって無理だ。冷静を保て、目がないからなんだ。片方だけでしょ、ヴィランに屈しちゃダメだ。

 

 「私の目、どうするつもり……?」

 

 「ハハハ、その胆力に敬意を表して教えてあげよう。個性をコピーするのさ、個性因子を使ってね。本当なら、腕や足といった大きな部位が好ましいのだが……君には両方ともないだろう?だから、眼球さ」

 

 「……そう」

 

 個性のコピー……そんなことできるかどうか分からないけど、仮にできたとしても……私の個性はすぐに使い物にはならない。確かに手足が機械なだけでも十分強いかもしれないけど、私の個性の真価を発揮するためには相当な知識を詰め込む必要がある。私が10年以上時間をかけて研鑽してきた技術を取られたわけじゃない。目玉からそれを読み取ることはできない。すぐに脅威にはならない、と思う。

 

 「さて、そろそろ君も個性が使えるようになっているだろう。まだお喋りに興じたいなら付き合ってやりたいけど、なにせ僕も忙しい。だから最後に聞かせてもらうよ。こちらに来る気は?」

 

 「私、貴方の事きらいだよ。私が死んでも、次が繋がる。貴方は絶対に捕まるんだ」

 

 「そうなるといいね、君の願いは叶わないが。ああ、そうだ。暇だろうから、話し相手を用意してあげよう」

 

 雑な勧誘に、顔をしかめた私がオールフォーワンに死んでも嫌だと返す。彼は私のその答えを予想済みだったのだろう。嗤ってからヘドロのような黒い液体に包まれて、その姿を消した。彼の言う通り、私の体の熱が冷めて、個性を使えるようになっていた。戦闘形態の手足を作り直して立ち上がり、ふらついた。遠近感がつかめない、片目だから?右目を補正……くそ、痛みで集中できない。

 

 ぽたり、ぽたりと伽藍洞の左の眼窩から真っ赤な血が私の顔を伝って零れ落ち、着ている服が真っ赤に染まっていく。このまま止まらないと貧血に陥るかもしれない。焼いた方がいいかな、いやそれよりもラグドールの安否を……そこで、ごぼごぼと音を立ててオールフォーワンを転移させた液状の何かが3つ、また現れた。そこから現れたのは……脳無だ。

 

 「……倒せるかな、3体」

 

 ぽろり、と弱音が出る。やつが言ってた話し相手って脳無のことだったんだ。ラグドールを守らないと、左目の痛みで意識が飛びそうだ、かぶりを振って気付けをする。びちゃびちゃと赤い雫が周りに飛びちった。それが合図になったのか、脳無が飛びかかってくる。手が異様に長いのと、筋肉質なやつと、脚が4本あるやつ。一番乗りは筋肉質な奴、顔を掴んで後頭部を地面に叩き付ける。

 

 私の攻撃の隙をついてきたのは手が長い脳無、死角になってしまった左目のおかげで反応が遅れた。顔の左側を殴られて、吹っ飛んだ。失ったばかりの左の眼窩が酷く痛み、情けなくゴロゴロ転がってすぐに体勢を立て直して追ってきた4本足の前足を爪で引き裂く。痛覚があるのか雄たけびのような悲鳴を上げる4本脚を前蹴りで蹴り飛ばして距離を取った。

 

 「レアアロイブレード、ヒートホーク、形成開始(レディ)

 

 一瞬のスキをついて何とか集中、左手にレアアロイブレード、右手に赤熱する片刃のハンドアックスを形成して構える。飛びかかってきた長い手の脳無の攻撃に合わせてカウンター、ヒートホークは長い手の脳無の拳に真正面から食い込んで。縦に焼き切る。まるで裂かれたかのように分かれた手を抑えて絶叫する脳無。再生しない、そういう個性は持ってないんだ。そこで私を高圧電流が襲った。体か硬直する。4本足の攻撃か。そしてそのまま、飛びかかってきた筋肉質な脳無のパンチが私のどてっぱらを撃ち抜き、殴り飛ばす。

 

 「げほっ……ごほっ……フーッ、フーッ」

 

 いい所に入ってしまって、喉からせりあがってきたものを吐き出す。真っ赤だ。威力的に筋肉質は増強系の個性持ち。ラグドールを見つけた脳無たちが彼女にも攻撃しようとするので、今度は私から攻める。電撃を放つ前に4本足の片足を切りとばして、転んだところを加減せず踏みつけた。地面が陥没して4本足が動かなくなる。長い手の脳無が残った片方の手でラグドールを殴ろうとするのでヒートホークを投擲する。

 

 ヒートホークは脳無の肩に思いっきり食い込んで、胴体中央まで切り込みを入れた。それが決定打となったのか長い手の脳無はそのまま崩れ落ちる、残りは筋肉質の脳無、レアアロイブレードを構えて、突撃。吠えた脳無が両手を打ちおろしてくる。私は倒れ込むような前傾姿勢で脳無にレアアロイブレードを深く突き刺した。打ち下ろしをそのまま背中にもらって地面に叩き付けられるけど、脳無は急所を突かれたのか、私の上に前のめりに倒れる。

 

 「うぅっ、ぐ……たお……した……かふっ……ゲホッ!」

 

 ドバッと口から金臭い液体が大量に出る。背中から脳無をどかして這うようにラグドールの所まで移動し、彼女の安否を確認する。呼吸は正常、よかった……私はそのままラグドールの隣に陣取って、周囲を警戒する。またいつ、脳無が現れるかわからない。彼女を守れるのは今私だけ、意識を飛ばすな。起きていないと。大丈夫、気付けなら今沢山受けた。暫くは、起きていられる。

 

 

 

 「……あ、誰か……来た?」

 

 どのくらいそうしてたのだろうか。意識を飛ばさないように必死で時間の感覚が飛んでいたみたい。真っ暗なこの場所、私が向いているその先の方から大きな破壊音と、多数の人間の声が聞こえてくる。確保、とかメイデンを持ってきてくれと聞こえるから警察かヒーローだ。おそらく脳無が向こうにまだいて、ヒーローたちが制圧してるんだ。

 

 いまだに気を失ったラグドールを抱える。案の定、私の正面の壁が粉砕されてがれきやら何かがこちらに飛んでくる。ラグドールの上に覆いかぶさるようにして私ががれきを受ける。ラグドールのヒーロースーツに私の血が付いてしまった。後で謝らないと、クリーニング代いくらだろう。顔をあげると、大きな手が壁を粉砕していた。これは、Mtレディだ。手が引っ込むとなだれ込むように人が入ってくる。

 

 「っ!?要救助者発見!大丈夫だ!よく頑張った!君は助かる!」

 

 「ちょ、ちょっと!重症じゃない!急ぎなさいよ警察!ストレッチャーぶん投げなさいよ!」

 

 「楪!ラグドール……!」

 

 入ってきたのは、ベストジーニスト、ギャングオルカ、Mtレディ、そして虎を始めとするヒーローたち。私を見つけたヒーロー達は、私とラグドールを発見してすぐに駆け寄ってきて、安否を確認してくれる。血まみれの私を見て一瞬青ざめたヒーロー達だけど、私の意識がはっきりあることを見て安堵した表情になる。大柄でパワーがあるシャチ人間、ギャングオルカが私を支えて、横抱きに抱き上げてくれる。

 

 「その体で、ラグドールを守ったか。賞賛する。よく耐えた、よく頑張った。あとは俺たちに任せて休め。君の帰りを待っている人がいる」

 

 「……はい」

 

 「……困るな、それを持っていかれるのは。脳無はいくらでも作れるが、その子は換えが効かなくてね」

 

 「動くな!貴様、何者だ……!」

 

 オールフォーワン……!黒くてまがまがしい機械を首から上につけたオールフォーワンがいつの間にか立っていて、手をくい、と動かす。すると私の口からごぼごぼとあいつが転移するときに使っていた酷い臭いのヘドロのような黒い液体が出てきて、一瞬で私を覆う。ギャングオルカが私の体を掴んで阻止しようとしてくれるけど、一瞬私の感覚が全てなくなって……それが戻った時目の前の全てが更地に変わっていた。

 

 「さて……やるか」

 

 「ギャングオルカ、虎さん、ベストジーニスト、Mtレディ……!?」

 

 「流石はベストジーニスト!僕は彼女以外を消し飛ばすつもりだったんだが、君のおかげで仕損じた!皆の衣服を操って攻撃範囲のギリギリ外に寄せたね!いい練度だ、並みじゃない!」

 

 わざとらしいほどの拍手をするオールフォーワン。私がいるのは彼の隣、そこに転移させられたようだ。見れば、まるで横向きの竜巻に抉られたような現場の隅に、ヒーローたちが転がっていた。意識の有無は分からないけどきっと……生きている。代償にベストジーニストはオールフォーワンの前でまともに攻撃を浴びて動けなくなった。

 

 「おっと、それでまだ動けたのか」

 

 「……うぅ、貴方の思い通りになんて、させないから……かふっ!!」

 

 指でっぽうを構えたオールフォーワンが攻撃に入るのに合わせてベストジーニストを庇う。受けた左腕が粉砕されて、私は何度かバウンドを重ねた後、がれきに背中から突っ込んだ。お腹が熱い、脇腹だ。ああ、鉄筋が刺さったんだ、と他人事のように自分のお腹を見る。脇腹を貫通した鉄筋を体を起こして引き抜いた。だくだくと血が溢れる傷を右の指から溶接用のバーナーを出して焼いて塞ぐ。じゅううっという音と死にそうなほどの痛み、歯を食いしばって耐える。

 

 バシャ、と音を立てて私をオールフォーワンのそばに転送したヘドロがまた現れる。また脳無……?かと思ったが違う。見慣れた金髪の男の子……爆豪くんだ。なんじゃこりゃぁ!と大声で怒鳴る爆豪くんが周りを見て、オールフォーワンを見つける。彼は一瞬でバックステップで距離を取った。そうか、ヴィランは目的を達成しちゃったんだ。私だけじゃなくて、爆豪くんの拉致にも成功したんだ。

 

 そのままオールフォーワンを警戒した爆豪くんが周りと確認して、私を見つける。情けなく血まみれでへたり込む私を見た彼の目が零れ落ちそうなほど見開かれた。そっか、そうだよね……今私結構ギリギリの怪我してるんだ。背中は荼毘のせいで焼けちゃったし、左目はなくなって血が髪の毛に染みて固まっちゃってる。口から吐血したし、服は真っ赤だし、おまけにお腹に穴が開いてる。気持ち悪いと思うのもしょうがない。

 

 「んだよ……それ……!楪、てめぇ……」

 

 「……大丈夫、生きてるよ。ごめんね、気持ち悪いもの見せて」

 

 「そうじゃねえ!そうじゃねえだろ!……クソが!てめぇか!こいつこんなにしやがったやつは!」

 

 「イエスでありノーだ。彼女の怪我は自業自得だよ、しかし君がクラスメイトの心配をするとは。彼女がそんなに大事か?」

 

 「はあああ?!心配なんざしてねー!俺はこのクソメカ女に負けてんだよ!万全のこいつに勝つんだ俺は!断りなくこいつ半殺しにしてんじゃねーぞ!」

 

 爆豪くんらしい怒り方に私は一瞬呆気に取られてしまう。だけど、少しうれしかった、なんだかんだ彼は私や他のクラスメイトにアタリが強く、一人で行動することを好んでいる。えーくんを始めとして構いに行く人もいるけど、自分からこちらに関わることはほとんどない。その彼が、私を越えるべきものとして見据えてたことがこの上なく嬉しかった。

 

 ふふ、といつの間にか口元が弧を描いてた。口にたまった血をぺっとその辺に吐き出して、立ち上がる。左手を再構成して、歩を進める。爆豪くんが転送されてきたのとほぼ同タイミングで同じように転送されてきたヴィラン連合の面々が、事態を把握して立ち上がる。全身痛いし貧血でぼーっとするけど、私は全然平気、機械だから?……違う、心が折れてないからだ。

 

 「寝てやがれ、邪魔すんな」

 

 「えへへ、今私元気一杯なの。動きたい気分なんだ……利用して、私の事」

 

 「……途中で死んだら殺すぞ、楪」

 

 「じゃあ、頑張って生きることにするよ」

 

 爆豪くん、素直に下がってろって言えないのかなあ?けど、彼が来てくれたおかげで気力が沸いてきたのは間違いない。体はズタボロでも心はベストコンディション、負ける気がしないよ。そろそろ血も止まってきた。ギリギリ失血死はしないかな。ヴィラン連合相手だけど、私の天敵の荼毘はどうやら気絶してるみたい。Mr.コンプレスが彼を圧縮してポケットに入れる。死柄木にコマ持って逃げようぜ、と言ってる所を見ると私と爆豪くんは依然彼らの拉致ターゲットの様子だ。

 

 おそらくこのまま戦闘に入るのだろう。ヴィラン連合はまだいい、だけどオールフォーワンを相手にしてどこまで粘れるか……!爆豪くん一人なら逃がせるかもしれない。申し訳ないけど場合によっては強引に逃がした方がいいかも、と私がいくつか起こりうる可能性を思案していると、オールフォーワンが明後日の空を見上げた。

 

 「来てるね、やはり」

 

 ぽつりと奴が呟いたのと同時に、流星が降ってきた。見覚えのあるその姿、№1ヒーロー、オールマイト。ガッツリ手四つで組み合った二人、余波がすさまじい衝撃波となってあたりを駆け抜ける。

 

 「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!」

 

 「また僕を殺すか?オールマイト!」

 

 戦いが、はじまる

 




 ボロボロ楪ちゃん。一応これが一番下です、これ以上酷いことにはなりません。AFOにとって誤算だったのは個性はコピーできても兵器はコピー出来ないことですね。知識を詰め込んで設計図を覚え、そこからさらに正確にイメージしないとダメなのです。

 では次回にお会いしましょう。感想評価よろしくお願いします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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