個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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56話

 「随分と遅かったじゃないか。バーからここまで約5キロ……優に20秒はかかっての現着だ。衰えたね、オールマイト」

 

 「貴様こそ、なんだその愉快なマスクは!?かなり無理をしているんじゃないか!?」

 

 「こほっ、オールマイト先生……」

 

 「楪少女……!?貴様……!その子に何をしたァ!!」

 

 「今更僕のやることに怒るのかい?ただ、友達になってほしいと言っただけさ。断られたから少々八つ当たりしたけどね」

 

 バチィ、と音を立てて降ってきたオールマイト先生がオールフォーワンに振り払われる。たったそれだけですさまじい衝撃波が発生して砂埃があたりに巻き起こり、私たちを吹っ飛ばしかける。ここでやっと考えれてたことの最後のピースがはまった。ワンフォーオールの話を聞いた時にオールマイト先生が語ったワンフォーオールが立ち向かう巨悪、それがオールフォーワンだったんだ。オールマイト先生を半死半生にしたのが多分、このヴィラン……!

 

 オールフォーワンの後ろで爆豪くんと突っ立っている私を見たオールマイト先生は、オールフォーワンに怒りに震える声で怒鳴りつけ、オールフォーワンは面白そうにそれを茶化す。これ以上話しても無駄だということは分かり切ってるのだろう。オールマイト先生はそのまま拳を構えて戦闘の体勢に入る。

 

 「5年前と同じ轍は踏まん。楪少女と爆豪少年を取り戻し貴様を牢にぶち込む!貴様が手繰っているヴィラン連合もろとも!」

 

 「それはそれは……お互いやることが多くて大変だな」

 

 オールマイト先生の戦闘は近接での殴り合い、オーソドックスだ。彼の規格外のパワーがあればヴィランなんてひとたまりもない。相手が、目の前の巨悪でなければ。認識外の速度でオールフォーワンに迫るオールマイト先生が、カウンターを入れられて吹き飛んだ。一瞬、オールフォーワンの手が膨れ上がったと思ったら、サドンインパクトのような空気砲が発射されてオールマイト先生を吹き飛ばしたのだ。けど同時に、オールマイト先生も攻撃を当ててたらしく、オールフォーワンが地面を擦りながらぶっ飛んだ。

 

 お互いにカウンターを入れられて吹っ飛んだ二人は同時にビルに突っ込む。何棟ものビルが一瞬で貫通されてドミノ倒しのように崩れ落ちる。すさまじい衝撃波があたりを駆け抜け、私たちは吹き飛びそうになる。飛んでくる石や砂利から爆豪くんを抱き寄せて庇う。いつもならすさまじい抵抗を見せる彼でも、私がボロボロだからか、目の前の光景が信じられないからか無抵抗だ。

 

 「衰えていると思ったが、どうやら想定よりも保っているらしい。起きろ、黒霧。弔を逃がせ」

 

 オールマイト先生より一瞬早くこちらに戻ってきたオールフォーワンの手が黒い爪となって伸びて、気絶していたらしい黒霧に突き刺さる。彼は一瞬びくりと震えて、大きな黒い霧のゲートを作り出した。強制的に個性を発動させたんだ。それを皮切りに見ているだけだったヴィラン連合の面々が立ち上がる。来る、と私は爆豪くんを解放する、少々服が血に汚れてしまって申し訳ない、判断力が落ちて来てるかな?右目まで抜かれてたらヤバかったけど、無事だし幸い機械の目だ。霞んだりとかはしないし、問題ない。どれだけ動けるかな?激しい動きは無理だ、出血が嵩む。

 

 「行こう死柄木!あいつがオールマイト止めてくれてるうちに……!コマを忘れずにな」

 

 「やってみろや……!」

 

 「……もう、油断しないよ……!」

 

 膠着状態だった戦場が一気に動く、空中でオールマイト先生とオールフォーワンが同時に衝突して、地上では背中合わせになった爆豪くんと私がヴィラン連合の6人を同時に相手する。注意すべきなのはデクくんからの情報で明らかになった5指を接触させることでモノを崩壊させる死柄木と問答無用で圧縮させられるMr.コンプレスの二人。広範囲を焼き払える荼毘とワープゲートの黒霧はダウン中、しのげるはずだ。

 

 爆豪くんは無言で死柄木とMr.コンプレスを爆破で威嚇して自分に注意を向ける。無言の気遣いに、少しだけ口の端が上がった。派手な覆面を被ったヴィランがメジャーのような武器を鞭のように伸ばして攻撃してくる。私はメジャーを手で掴んで、全力で後ろに引っ張る。覆面ヴィランは綱引きに一瞬で負けて私の方にすっ飛んできた。そのままカウンターで顔面を殴りつけようとしたら、引っ張られる。

 

 私を引っ張っているのはマグネと傍にいるトカゲ男だった。確かこのヴィランの個性は磁力、人間に磁力を付与することができる個性、つまり私は彼に磁力で引っ張られてるのか……!私は態勢を整える暇すら与えられず、仰向けに引きずられるような態勢のままで顔面に振り下ろされるナイフを避けることが出来なかった。

 

 「……冗談だろ」

 

 「反則よ、アンタ」

 

 「ご馳走様でした、まずかった」

 

 ナイフを口で受けた私は、そのナイフを噛み砕いて、飲み下す。驚いたのか一瞬止まったトカゲ男を、襟首を掴んで腕の力だけでぶん投げた。爆豪くんの方に向かったトカゲ男は見事にMr.コンプレスとぶつかり合ってもんどりうって倒れ込む。それを勝機と見た爆豪くんがいつも通りのすさまじい顔で笑い、連続した爆破を放って二人を黒霧近くまで吹き飛ばして死柄木とのタイマンに持ち込む。

 

 「ああ、もう!力任せってこれだから厄介なのよ!せめてダメージ受けるふりくらいしたらどうなの!?」

 

 「ごめんなさい、私今どこが痛いか分からないくらい全身痛いんだ。でも便利だよね、くらっても無視できるから」

 

 「アンタ、イカれてるわ……!」

 

 マグネの攻撃が私に突き刺さる。けど私はそれを無視してそのままマグネの腕を掴んだ。確かに重い打撃だ。普通の人が食らったら病院行きは免れない、だけどさっき受けた脳無のパンチとか、高圧電流とか荼毘の炎とかそういうのに比べれば撫でられたくらいのものだよ。いい感じに痛覚が麻痺してるから、痛くもない。というか痛すぎてどこに打撃貰っても一緒だ。

 

 「捕まえた」

 

 「っ!放して!」

 

 「カァイイねえ!ねえ!もっと血が出てボロボロなのがいいと思うの!」

 

 ぐさり、と背中にナイフがささる。捻り上げたマグネの手を離さずに顔だけで肩越しに後ろを振り向くと、逆手にもったナイフを私の背中に突き立てていたのはこの場にいるヴィラン連合で唯一の少女。おそらく私と同年代のイマドキっぽい女の子が狂気的なほどの笑顔を浮かべたまま私の背中を刺していた。力を込めてマグネの腕を強くひねり、肘と肩の関節を同時に破壊して、その女の子に逆の腕を振るう。

 

 「ぐがああああっ!?」

 

 「え?」

 

 余裕がないのであまり加減が上手にできない。胴体に直撃した私の手を避けられなかった女の子は車に跳ねられるように勢いよく吹き飛んで爆豪くんの方へ飛んでいった。そこで私は頭がぼーっとする感覚を抑えきれずにふらついて倒れる。倒れた衝撃が気付けになったのかそこで頭の靄が少し晴れた。背中に手を伸ばしてナイフを抜き取る。そのまま歯を食いしばって立ち上がった。

 

 「楪少女!爆豪少年!今行く!」

 

 「行かさないさ。そのために僕がいる」

 

 「楪!死んだら殺すっつったろうが!そんなところでくたばってんじゃねえぞ!」

 

 「……うん、わかって、る」

 

 行動不能にできたのはマグネと女の子だけだ。明らかに戦闘慣れしてるマグネを制圧できたのは大きかったかもしれないけど、その代わりに私に限界が来た。元気いっぱいだなんて言ってみたけど体は正直だ。爆豪くんの喝に何とか返事をするけど、正直今は立つだけで精いっぱい。だけどここで私が抜ければ一気に戦線が瓦解する。

 

 「弱い所から狙うのは常套手段だよなあ?悪く思うなよ」

 

 「おっと爆豪、お前はこっちだ!マジックで遊んでやるよ!」

 

 「おいふざけんな!楪!こっち向け!」

 

 オールマイト先生がこっちに来ようとしてオールフォーワンに止められる。それの繰り返し、ふらついている私を見た死柄木は勝機と見たか、爆豪くんを迂回して私に突っ込んでくる。爆豪くんはそれに反応するもののMr.コンプレスと覆面の対応に手いっぱいでこっちに来れない。死柄木の手が私に触れるタイミングで爆豪くんは私に向かって大声を張り上げる。返事をするだけの気力はないけど、あと一手だけなら動けそうだ。

 

 「ゲームセットだ」

 

 「……そうだね」

 

 「なっ―――っ!?」

 

 腕を何とか差し込んで死柄木の手を防御した私、手に崩壊を予兆させる罅が入る、そして防御した私の左手が自爆して死柄木を大きく吹き飛ばした。とっさに手を放して後ろに飛んだ死柄木だけど、爆発の威力を全て殺すことは出来ずに背中から地面に叩き付けられる。左手を失った私がなんとかその場に踏みとどまる。ああ、もうこれで一歩も動けない。10秒後にはうつぶせに地面に転がっていることだろう。爆豪くんがヴィラン二人を振り払ってこちらに飛んできてるのが何とか視認できる。

 

 そしてその瞬間、状況を全てぶち壊す出来事が起こった。私の前方、爆豪くんから見て背後から見覚えのある大氷壁がすさまじい音と速度で屹立し、その上を誰かが、複数人で戦場を横断するように飛んでいった。視覚情報だけはまだ万全に動いてくれるので誰なのか、それを確認する。

 

 「あぅ……ああ……!えー、くん……!」

 

 「希械ッ!!!!爆豪!!!来いっ!!」

 

 こんな状況なのに右目の視界がぼやける。機能がおかしくなったわけじゃない、泣いてるんだ、私。だって、この状況でこの場面で、一番来てほしくて、来ちゃだめな人が、私のヒーローが駆けつけてくれたんだから。えーくんを中心にデクくんと飯田くん。手を伸ばすえーくんを見た爆豪くんは一瞬唖然としたように驚いて、そして私の方を一直線に見つめた。

 

 戦場の時間が一瞬、ほんの一瞬だけ予想外の出来事でフリーズする。だけど爆豪くんにとってはそれで十分だった。爆速ターボ、手から最大規模の爆破を打つことで自身を加速させた爆豪くんは私に向かって突っ込んできて、タックルのような形で私をひっかけ、地面に向かってもう一度最大規模の爆破をかましてロケットのように私と自身を打ち出した。

 

 「んぐぁ……!クソ、重ぇ……!!ダイエットしろや楪……!」

 

 「……そう、だね」

 

 「真面目にとんじゃねえ!バカかよ、お前の幼馴染」

 

 「お互い様、だよ」

 

 私を俵担ぎしてるような形になった爆豪くんは手が痛むだろうに推進力を確保するため大規模の爆破を連打して上空を横断するえーくんたちに追いつく。えーくんの伸ばした手を取った爆豪くんが片手で私を強く固定してくれた。空中で姿勢を変更したのは飯田くんとデクくん、私と爆豪くん、えーくんが中心になる様に両脇から抱き固めた二人、えーくんの力強い手が私を離さないように抱いてくれる。その掌に血が滲んでるのを見て申し訳ない気持ちになった。

 

 「皆、行くよ!しっかり掴まって!かっちゃんも!」

 

 「うるせえ!てめえに指図される筋合いねえわ!」

 

 「だー!喧嘩すんなこんな時に!緑谷!急いでくれ!早く救急隊に希械を見せねえと!」

 

 「うんっ!」

 

 見ればデクくんは足にフルグリーヴをつけていた。どうやら私との約束を今度はきちんと守ってくれたみたいだ。自損せずに、合宿の襲撃を乗り越えたんだね。デクくんはフルグリーヴを利用して空中をワンフォーオールの全力で蹴り込んだ。衝撃波が推進力になって、私たちを戦場から遠ざけていく。

 

 背中だけ硬化させたえーくんがみんなの下敷きになって衝撃を和らげて着地することが出来た。私たちが墜落したのはパニックの最中、がれきが入り混じる繁華街だけど、戦闘範囲からは間違いなく逸れている。まずい、動きすぎた。何とか止まっていたというレベルの出血がまた始まりだしてしまう。

 

 「希械!希械ッ!しっかりしろ!おい!起きてくれ!頼むから、なあっ!!」

 

 「クソデク!緊急車両探せ!クソ眼鏡も急げ!」

 

 えーくんが血まみれになるのを厭わずに着ている服を割いて私の止血をしようと頑張ってくれてる。周りがにわかに騒がしい、サイレンの音が近いような、遠いような……。薄く開けた目から必死に私に呼びかけてくれるえーくんが見える。その声が私の意識をつなぎ留めていた。

 

 「頭からも出血している!ガーゼは持参してきた!止めないと、切島君!」

 

 「あ、ああ!飯田!助かる!」

 

 「……あ、みな……いで……」

 

 爆豪くんとデクくんが周りに知らせに走っていく。飯田くんが取り出した手当て用のガーゼを受け取ったえーくんが私の血で固まった前髪をあげようとするのをか細い声でとめる。だけど、間に合わずにえーくんは私の前髪をあげてしまう。あ、ああ、見られちゃった……。まだ知らせたくなかったのに。今まで隠してくれていた髪の毛が暴かれて空っぽになってしまった眼窩を見てしまったえーくんの顔から表情が削げ落ちる。飯田くんの顔からも、救急隊を引き連れて来てくれた爆豪くんとデクくんもだ。

 

 「なん、だよ……それ……!」

 

 絶望したようなえーくんの声が、周りの喧騒の中でも、よく聞こえた。

 

 




 曇れ、切島くん。神野編終了です。ボコボコにやられた楪ちゃんと幼馴染がマジで死にかけてる切島くん、そしてそれを目撃したクラスメイト達。彼らがどう立ち直り前を向いていくのか、うまく書けるかなあ!?

 では感想評価よろしくお願いします

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