個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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57話

 よく生きてたね、と言われた。神野の悪夢と言われたオールマイト先生とオールフォーワンのぶつかり合いから3日が経っている。私は結局、空っぽになった左目を見られた段階で失血によるショックが限界を超えて気を失ってしまった。再起動プログラムとかそんなの関係なく、普通に死ぬ寸前だった。だった、という過去形なのは今の私は超重症であっても峠を越えて生きることが出来るから、つまり助かったのだ。命を拾うことが出来て実に嬉しい。

 

 私の命の恩人はまたしてもえーくんで、失血で死にかけてた私に自分の血を輸血して助けてくれたの。私とえーくん、血液型いっしょだから。救急車の中でそれを行ってくれたから、私は本格的な治療を行うまでに命をつなぎ留めることが出来て、全身くまなく、と言っても手足は機械なので胴体全体に大手術を受けた。頑丈で助かった、後遺症はのこらないそうだ。なくなっちゃった目を除いて。

 

 まあ、私は今朝個性のアラーム機能で目を覚ましたところで、まだ両親にも会えてないし、目覚めると思ってなかったらしい看護師さんが凄い顔で驚いて3回くらい転びながら廊下に出てったと思ったら医者に囲まれて色々検査されたと思ったら今度はリカバリーガールが現れて私に治癒を施しながら私が気絶してからのことを色々話してくれた。私はうんうんと頷くことしかできなかったけど、リカバリーガールにはそれで十分だったみたいだ。

 

 まず、オールマイト先生はオールフォーワンを捕まえることができた。流石はオールマイト先生、と思ったけどヴィラン連合の面々は逃げてしまったらしい。やっぱり黒霧をどうにかしないとダメだね……それでなんだけどオールマイト先生が引退した。冗談だと思うでしょ?冗談じゃないんだ。そもそもオールマイト先生は今無個性だ。ワンフォーオールはデクくんの中で、彼は残り火と呼ばれるワンフォーオールの残滓を使ってヒーロー活動をしていた。

 

 そう、つまりオールマイト先生はワンフォーオールの残り火を使い切ってしまったのだ。動けないながらも右目にネットで検索したニュースサイトを別タブで開きながら確認していくとどこもかしこもオールマイト先生の引退をクローズアップしていた。トゥルーフォーム姿で記者会見に臨むボロボロのオールマイト先生が、真実を語っていてどえらいことになったと私はリカバリーガールの話を聞きながら青ざめた。貧血でもともと青白いからバレなかった、いえい。

 

 さてどうしたものか、と私は自分の左目があった場所、医療用眼帯で覆われたそれを上から撫でる。見えてる世界が変わった、物理的に。私は基本的に左目を利き目にして物事を見ていて、右目は基本機能をできるだけ最低限に落としていた。それは私の単なるエゴ、皆と同じものを同じように見たいという考えがあったからだ。右目の方が当然機能は上、今の視界も明るすぎるくらいにくっきり、鮮やか、そして情報量が非常に多い。そこがまた、宝物を失くしたんだな、っていう埋めようのない喪失感を私に植え付けている。

 

 ただ、失くしちゃったものはもうしょうがないよね、という割り切りはオールフォーワンにあった時点でもう固めてたから改めてないことを理解してもそこまでショックではないかも。ただ……暫く左目を個性で埋めることはできない、かな。いや、起きた時さっさとやろうと思ったんだけど……うまく個性が使えないどころか過呼吸に陥ってしまった。あの目が抜かれるときの痛みや感触がフラッシュバックして、どうにもダメだったの。

 

 問題の先送りになっちゃうけど、怪我を完璧に治してから目のことについては考えよう。ふむぅ……問題は山済みだね。と治療の邪魔だったせいかぱっつんと切られてしまった前髪を個性で整える。暫く目を隠すのはやめようかな。治療の時邪魔だし。

 

 「希械!目覚めたのね!よかったわ!」

 

 「ああ、よかった……!お前が攫われたって聞いて父さんたち気が気じゃなかったんだ……!」

 

 「お母さん、お父さん……!」

 

 ドアが勢いよく開いて、個室の病室の中に私の両親が転がる様に飛び込んできた。鎖骨からカテーテルを入れていくつかの点滴を受けたままの私は動けないまま彼らを迎え入れる。ただ、両親に顔を合わせた途端に私の目から涙が溢れて止まらなくなってしまった。正直何回か死ぬかと思ったし、実際死んだと思ってた。だからこそ、両親に会えたことでこんなにも安心感で溢れているんだ。

 

 嗚咽をこらえきれずボロボロと泣きだす私を両親は両側から強く優しく抱きしめてくれる。つっかえながらも心配かけてごめんなさいと謝ると、いいんだと二人とも泣きながら慰めてくれた。ただ、どうしても謝りたかったお母さんとお父さんから貰った大事な目を失くしてしまったことを謝ると両親は何も言わず、ただ私に寄り添って抱きしめてくれた。お前の方がつらいはずだ、と言われて初めて、噴き出すように辛いという気持ちが溢れてくる。割り切った筈なのに、こんなに未練がましく、失くした左目の事を思ってる。それだけ、私は大事なものを失ったんだと気づかされた。

 

 期末テストの時、オールマイト先生が言っていたことをようやく理解した。失っても補充できる、確かにそれは間違いなかった。使い捨ててる手や足と同列に考えていた。けど本当に大事にしていたものをなくすとこうなるのだということは理解してなかった、いや……したつもりだった。右目の時に思ったことを私は忘れていた、封じ込めていた。だからこそこうなったんだ。痛すぎる勉強代になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退院は割とすぐ出来るみたいだ。お昼まで泣きながら無事を確かめ合った私と両親はお医者さん、というか主治医のリカバリーガールのお話を聞いて胸をなでおろした。背中に刺さったナイフとか、脳無のパンチをまともにもらったお腹とか顔とか、鉄筋が貫通したわき腹も治癒のおかげでかなり回復してるらしい。頑丈だね、というリカバリーガールに私はいつものようにメカですから、とは返さなかった。今回私は生身であるということを痛いほど知ったのでいつもの定型句を返す気にはなれなかった。リカバリーガールはそれに満足そうに頷いてからカルテをもって出ていく。 

 

 入れ違いに奇麗なノックが個室のドアを叩く。私の代わりにお母さんが返事をすると聞き覚えのある失礼しますという声とともにドアが開いた。

 

 「相澤先生、オールマイト先生、校長先生まで……」

 

 入ってきたのは3人、こざっぱりとしてスーツに身を包んだ相澤先生と、スーツながら激戦の跡が隠せない腕を吊ったオールマイト先生。そして校長先生。お父さんとお母さんの目が少しだけ厳しいものになる。相澤先生と校長先生はそれも織り込み済みだったのかまず私たちに向かって頭を下げる。オールマイト先生もそれに続いた。

 

 「今日は、改めて謝罪と説明にうかがわせて頂きました。ご息女誘拐、並びに奪還の際の負傷……全て我が校の失態が招いたこと。雄英高校の校長として謹んでお詫びを申し上げます」

 

 「……顔をあげてください。貴方たちが悪くないというのは理解をしているつもりです。親としてはなぜうちの娘が、なぜここまで傷つく必要があったか、何かできたことはなかったかと思うことは山ほどあります。ですが、貴方方を糾弾するつもりはありません」

 

 「お父様、しかし……」

 

 「夫の言う通りです。悪いのはヴィランであって、大本の責任はあなた方にはない。確かにミスはあったのでしょう、担任の先生から細かい事情は聴きました。それに、鋭児郎君からも泣きながら謝られました。あの場ではどうしようもなかった……私でもそう感じます」

 

 「……お心遣い、痛み入ります」

 

 「それに、命を懸けて娘を取り戻そうと奮闘してくれたヒーローが目の前にいるのに、ヒステリックに責め立てるほど未熟ではないつもりです。仮に私がここで怒れば、娘が私を叱り飛ばすでしょうね」

 

 「さすが、お父さん。私のことよくわかってるね」

 

 「希械のお父さんだからね、当たり前さ」

 

 そう言ってお父さんはオールマイト先生の肩に手首から先が金属でできた手を置く。オールマイト先生はそれでもグッと頭を下げてから顔を起こした。相澤先生も顔をあげてありがとうございます、と言ってからつらつらと今回の件の原因から始まりヒーロー側の対処、これからの予防策を含めた全体の話をお父さんとお母さんにプリント使って説明しだした。

 

 どうも抜本的な改革として一番大きなものは全寮制の導入という話だ。全寮制、つまり寮生活……何それ面白そう。いやそんな軽い感覚で導入されるものじゃないんだろうけどさ。ちなみにお父さんもお母さんも同じ会社……警備会社に勤めているのでそういった内容について非常に詳しい。だから次々とこの場合は、あの場合はと例を出して防犯システムについて確認していく。

 

 「オールマイト先生、先生はお体大丈夫なんですか?」

 

 「ああ、大丈夫だとも。マッスルフォームもこの通り、30分なら持つさ。戦えなくなっても私は君たちに寄り添い、経験を注いでいきたい。どうかそれを許して欲しい、楪少女」

 

 「私は貴方に謝ってほしい事なんて一つもないんです。ヴィランに囚われたのだって……私が欲張ってみんなを助けようとしたからなのに。そうですね、我がままを言えるのだとすれば……まだ私の先生でいてくれるととっても助かります。私はこれから強くならなければならないので」

 

 そう、私は強くならなきゃならない。オールフォーワンには遊ばれ、脳無相手にボロボロになり、挙句の果てには仲間の手を煩わせつつ脱出をした。最後に至っては私足手纏い以外の何物でもなかったからね。爆豪くんが助けてくれなかったらどうなっていたことか。これからは今まで以上にどん欲に何でも吸収していかないといけないだろう。ここで経験値でもナンバーワンなオールマイト先生が辞職しちゃったら私も困るんです。

 

 「……警備、防犯の内容については分かりました。希械からもさっき雄英に通い続けたいと言われています。なので全寮制については受け入れさせてもらう方向で考えましょう」

 

 「感謝いたします。また何かございましたら私共の方にご連絡をいただければまた対応させていただきます」

 

 「わかりました。ただ一つだけ親として言わせていただきます。私が貴方方にまた娘を預けるのは貴方方を信用したわけではありません。一度狙われているこの子がまた狙われた場合、私たちでは守れないからです。もしも、雄英が安全でなくなった場合……私たちはこの子の意思が何であれ引き離して別の手段を模索させてもらいます。この子に恨まれてもいい、これ以上傷ついてほしくない」

 

 「私たち夫婦は出来ればこの子がやりたいことをやって、なりたい自分になれるように応援したい。ですが、傷ついていいわけじゃないんです。今回この子は目を失くしました。目ですよ?この子が自分の中で一番大事にしていたところです。それが無くたって一大事なんです。それでも雄英でヒーローになりたいと泣きながら私たちに訴えてきました。この子の信頼を、裏切らないであげてください」

 

 「……ご忠告、痛み入ります。必ずご息女は雄英の総力をかけて守り抜き、立派なヒーローに育て上げます。どうか、これからの雄英を見て判断していただきたい……!」

 

 私の両親からの言葉を受け止めてくれた校長先生は、最後に深々と頭を下げる。両親はそれを見てほっと息をついてからこちらも頭を下げて娘をよろしくお願いしますと校長先生に行ってから、警察の捜査協力があるからと病室を出て行った。残ったのは先生3人と、私。

 

 「楪、すまなかった。一番いなきゃいけない時に俺は傍にいてやれなかった、助けてやれなかった。担任として不甲斐ないことこの上ない」

 

 「いえ、相澤先生もご理解してるはずです。今回の件は私の命令無視が原因、素直に施設に帰ってれば少なくとも私は攫われなかった」

 

 「結果論だ。それに、そうであろうともその責任は俺にある。お前は生きようと必死にあがいた。守るべき時に守れなかった大人の失態だ。よく生き残ってくれた……!」

 

 「……ありがとうございます、相澤先生。その、大変聞きにくい事なんですけど……私の左目の行方、分かってますか?元に戻すのは不可能だと思いますけど……私の目を使って個性をコピーするとあのヴィランは言っていました」

 

 私がオールフォーワンに抜き取られた左目の行方は気になるところだ。他人の所に自分の目があるっていうのは非常に気持ち悪いし、なんだかよからぬことに使われる予定みたいなことを直接オールフォーワンに聞いた。個性をコピーするのあたりは新情報だったのか校長先生が少し前のめり気味に話しを進めてくれる。

 

 「その話、後日でいいから教えられる範囲で教えて欲しいのさ。それと、君の左目は見つかっていない。彼を尋問しても煽るばかりで口を割らないんだ。ラグドールも個性を奪われたのさ」

 

 「やっぱり、って感じですね。私の右目で記録したことは明日かそれ以降纏めて提出させてください。今日は、疲れました……」

 

 「長々と居座ってすまなかった。ゆっくり休んでくれ……もう一度どこか、プライベートで見舞いに来るよ」

 

 「宿題、全然できてないけど許してくださいね」

 

 私が冗談めかしてそういうと、相澤先生は仕方がないな、と珍しく冗談を受け入れてからドアを開けて去っていく。校長先生とオールマイト先生もそれに続く。私は、リクライニング機能で起きていたベッドを倒して、目を閉じる。すぐに深い闇が私を眠りに誘った。




 自分の価値が低いので宝物を失っても前向き楪ちゃん。ちなみにこれが他人のものだと滅茶苦茶曇る。だけど理性ではそう考えてても心の深い所では拒否反応が出てしまっている、難しい話ですね。

 あとこの世界だと相澤先生解任問題まで発展してたりしますが、ヒーロー公安委員会により判断に間違いはなかったことが保証されたため免れてます、本人は解任されてもやむなしと思ってそうですが。クソ民度の話は書いてて面白くないのでカットだ!

 では感想評価よろしくお願いします

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ

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