個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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仮免許編
60話


 少しの間お世話になった病室をでる。8月の中旬、なんだかんだあったけど私は無事。髪型も元に戻した。何でってやっぱり目を隠してないと落ち着かないし、私がオッドアイだということは学校中に知られているから。両目とも真っ赤でデジタルなレティクルが浮かんじゃってるものに変わったのを少しでも隠せるなら、余計な騒ぎが起こらないし丁度いい。

 

 ニュースで、私と爆豪くんが被害にあったのは報道されているけど、私は重症ということだけで具体的に如何なったかというのは報道されてない。仮に片目を喪失していたという報道がなされればただでさえ揺らいだヒーローヘの信頼はさらに落ちることになる。悔しい話だけど責任を取るのは大人たちなのだ、私のミスだと言ってもそれは通らない。

 

 ちなみに私は退院したその足で雄英に戻ることになっている、というか入寮が今日なのだ。荷物に関しては両親に送ってもらっているし、家具やらに関しては私の個性で作っちゃえばいいので下着と服、あとは小物程度、段ボール3つ分くらいかな。病院の前でタクシーに乗ってそのまま雄英に行くことになった。ちなみにこの交通費どころか入院費も含めて雄英持ち、すごいね。

 

 そうしてまあ結構な時間タクシーに揺られて雄英に到着する。病院から雄英の制服でいたのでタクシーの運転手さんは気づいてるんだけど寡黙なタイプなのか何も言わずに無言でいてくれた。多分、被害にあったのが私というのも分かってるのだろうか。報道では私たちは顔写真付きで放送されたので顔は割れてるんだ、それ以上にオールマイト先生の引退の方がスキャンダラスだっただろうからそのうち風化していくだろう。

 

 そんなわけで、到着しました雄英高校。領収書を雄英宛てに切ってもらってからお金を払い、真新しくなった雄英バリヤーをくぐる。敷地内では、校舎からすぐの場所に無数のH型っぽい感じの建物が建っていた。築3日、私たちがこれから住まう学生寮であるハイツアライアンスという建物らしい。脳内でマップを確認した私はそのまま1-Aに割り当てられてる寮に進んでいく。

 

 「あーーーーっ!希械ちゃんや!よかった!会えた~~!!」

 

 「あ、久しぶり?みんな。ご心配をおかけしました」

 

 「ええんよ~~~!」

 

 既にクラスの大部分は集合していて、私を見つけたお茶子ちゃんが大声で叫ぶとそれのおかげでみんな振り返り、皆思い思いに私の無事を喜んでくれた。結局、お見舞いに行きたいと言っても家族が許してくれなかった人の方が多かったらしくて、あの事件の跡で出歩くのもよろしくないだろうから、それでいいと私も思ってたところ。だから私の無事はメールで知っていても実際に目にするのはクラスの大多数が初めてだ。

 

 「ぐえ、うえ、ぐぉ」

 

 「おお、すげえ」

 

 「女子全員を持ち上げるとは流石楪……」

 

 クラスの女子、三奈ちゃんも含めて私に突進して抱き着いてくる。四方八方から抱き着かれた私はそれを全部持ち上げて大丈夫だよ~とアピール。団子みたいだね、私たち。男子たちも私が元気になったというのはよくわかったみたいなのでほっと息をついている。いやはやご迷惑をおかけしました、本当に。

 

 「はい、集合。良し。おはよう諸君、まあ無事に全員集まれたようで何よりだ」

 

 しゅばっと全員が学籍番号順に整列する。相澤先生がやってきたと同時に刷り込まれた条件反射的なアレ、ぶっちゃけパブロフの犬のやつが働いた私たちは染みついた動きを完璧に発揮して相澤先生に怒られないように整列するようにできているのだ。やってきた相澤先生はそれを見て一つ頷いてから寮の説明を始めた。

 

 「さて、まあいろいろあるが、寮について説明する前に一つ、これからの予定について話しておく。当面は合宿で取る予定だった仮免の取得に向けて動いていくことになる」

 

 相澤先生が言うヒーロー仮免、それはプロヒーローの一歩手前の証だ。個性の限定的行使と有事の際のヒーロー活動が一部とはいえ許される凄い免許。つまりこれを取得することが出来れば雄英の先生曰く受精卵の私たちはセミプロとして孵化することができるんだ。これは是が非でもとりたいよね。

 

 「それに付随して大事な話だ。轟、切島、芦戸、緑谷、八百万、飯田……この6人はあの夜あの場所へ、爆豪と楪の救出に赴いた」

 

 ざわっ、とクラス全体の雰囲気が変わる。百ちゃんも一緒来てたんだ……気づかなかった。助けられた立場の私、全部を棚上げにして言うと来るべきじゃなかったと思う。だって、それは違法行為だ。プロヒーローの現場に潜り込み、場を混乱させる行動だった。最悪騒乱罪でヴィラン扱いされてもおかしくなかった。結果論で私と爆豪くんは助けられたけど、それでみんなの未来が閉ざされたら私はどうすればよかったのか、分からなくなる。

 

 「その様子じゃ、多かれ少なかれ行く様子ってのは分かってたみたいだな。色々棚上げさせて言わせてもらうが、今回の件、普通なら俺は耳郎、葉隠、爆豪、楪以外は全員除籍処分にしている。理由は言うまでもないな?」

 

 そのまま先生は理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切ったことには変わらない、と続ける。クラス中全員が沈んだ表情に変わるけど、相澤先生の厳しい言葉は必要な正論だ。だから皆反論することなく黙って聞くしかない。私たちがそれをきちんと理解したことを察した相澤先生は声音を切り替えて

 

 「ただ、他人を大切に思う気持ち、仲間を取り戻したいという気持ち、そして負けて悔しいと思うその気持ちはヒーローとして大切なものだ。捨てずにとっておいてくれ。これからは正規の手続きを踏み正規の活躍をしてくれ。以上!さっ!元気に行こう、中へ入れ」

 

 んな無茶な……こんなクソ重い話のあとにテンションを上げまくれるわけもない。みんながみんな重い空気のまま戻れない。当事者であり原因の私だってそう、そこで何か思いついたらしい爆豪くんは上鳴くんをひっつかんで木陰に隠れる。一瞬の放電音のあと、アホになった上鳴くんがサムズアップを振り回して出てきた。それがツボらしい響香ちゃんが必死に噴き出すのをこらえる。

 

 「いつまでもシミったれてんじゃねえ切島。いつもみたいにアホさらせや」

 

 「え、なにそれ。カツアゲ?」

 

 「んなわけあるか!俺が下ろした金だタコ!さっさと元に戻れ!」

 

 えーくんに1万円札を何枚か渡した爆豪くんが一足先に寮に入る。えーくんにお金……?何かあったのかな?私にはわからない男の子の何かがあるんだろうか?今夜はこの金で焼肉だ!というえーくんだけど、誰もホットプレートとか持ってないと思うんだけど……え?私が作るの?そうなるよねきっと。別にいいんだけど、ご飯の仕込み間に合わないよぅ……

 

 

 

 

 「1棟1クラス、右が女子、左が男子……ただし1階は共有スペースだ。食堂や風呂、洗濯などはここで」

 

 寮の中に入ると、まるでホテルのロビーのような光景が広がっていた。広くて綺麗で、大きなテレビにソファーがあり、それなりに本格的なキッチンと私の心をくすぐるのに十分な設備が揃っていた。特にキッチン!私の数少ない荷物の中には愛用のお鍋とか包丁とかも入っているので結構立派なキッチンがあるのは嬉しいな!

 

 「豪邸やないかい……」

 

 「お茶子ちゃん大丈夫~?」

 

 ふら~っと倒れそうになるお茶子ちゃんを支えてあげる。どうやら一人暮らしの節約生活を心がけていたお茶子ちゃんからしたら高級ホテルもかくやというハイツアライアンスの設備は高低差で耳がキーンとなるには十分だったらしい。大丈夫?と尋ねるとすぐにハッと息を吹き返したお茶子ちゃんが大丈夫、と足に来てる感じで立ち上がった。産まれたての小鹿かな?お茶子ちゃんかわいい。

 

 「聞き間違いかな?風呂と洗濯が共有スペース……?」

 

 「男女別だ。いい加減にしといたほうがいいぞお前」

 

 「はい」

 

 「相澤先生、女子の共有スペースに峰田くん専用のトラップ仕掛けてもいいですか?」

 

 「許可する」

 

 「畜生!」

 

 「……日頃の行い」

 

 ハァハァと危ない呼吸音を響かせて涎を啜る峰田くんに強めの釘をさす相澤先生。余りの目の濁りっぷりに私たち女子は寄り添いあい自らを抱きしめるように震えるしかない。おそらく合宿の時のように覗かれるんだろうなあというのは分かり切っているので峰田くんにだけ反応するトラップを開発して設置することにしよう。見かねた常闇くんがダークシャドウで峰田くんをつるし上げて振り回して連行していく。片手を硬化させた半ギレのえーくんは私が止めておこう。はいはいえーくん大丈夫だよ~っと。

 

 先生について2階に上がる。開けられた部屋を見るとかなりの贅沢空間だ。小型とは言え冷蔵庫、エアコンにトイレ、クローゼットまで付いてる。学生寮というよりはウィークリーマンションとかそこら辺の充実具合だ。ほんとにホテルみたいだね。ベランダまである!凄いなあ!

 

 我が家のクローゼットと同じくらいですわ、という百ちゃんのセリフにまた倒れかけるお茶子ちゃんを支える。大丈夫なのかなあこの調子で。相澤先生の号令で各自の荷物が搬入されている部屋へ入り、各自の部屋を作っていろという指示の下、私たちは自らの部屋を作りに自室に赴くのだった。私の部屋は2階!1階に一人しかいなくて若干寂しいけどしょうがない!私重いからね!上に行くと潰れちゃ……流石にそこまで重くないもん!

 

 

 

 

 「時間余っちゃった~~」

 

 持てる技術と個性をフル活用して部屋を作り上げた私は反重力で浮いている部屋の半分を占領するベッドの上で寝転びながらそうこぼした。超圧縮技術のおかげでコンパクトかつ多機能、それでいて省スペースというウルトラマジックで工房兼厨房兼自室を作り上げた私、実家の部屋よりも凄いよ!後完全防音&吸音!たとえここでTNT火薬を爆発させても壁は無傷で音すら漏れない!そんな要塞なのです!……やり過ぎたね、間違いない。

 

 うーん、暇になっちゃったらここはひとつ、お菓子を作るに限る!入院中の薄味のご飯も悪くはなかったけど、折角なら美味しいお菓子を食べたい。あわよくばみんなにも振舞いたい。そして暇を持て余した私、出来るだけ行程が複雑でこの夏にふさわしいお菓子……むむっ!

 

 「シューアイスだ!材料何かあったかな!?」

 

 実家から送られてきた沢山のお菓子の材料とか私特性ミックススパイスとか色々を棚に突っ込んで整理しつつ見つけた。牛乳に、生クリーム、卵に小麦粉、バター!ふふふ!これで作れる!アイスもシュークリームも!ベッドを飛び降りて、ぽんと叩くとベッドは折りたたまれて壁にピタッと薄くくっついた。そのまま腕を引くとジェスチャーに反応して反対側に畳まれてた調理台が自動で広がる。

 

 目指せ!キャラメルシューアイス!と私はキャラメルを作って同時並行でアイスを作ることに決めて、小鍋にバターと牛乳、生クリームとお砂糖を入れてコトコトと火にかける作業から始めるのだった。

 

 技術の無駄遣いでお馴染な私の急速冷凍技術によって時間のかかるキャラメルをまばらにちりばめたアイスが容器一杯に完成する。味見をして、ん~~~~!甘くておいしい!久しぶりのおいしさ!ちなみに私の部屋は通常の数百倍電気を消費するのでI・アイランドのインセン教授に紹介されたアメリカの大企業スターク社のCEOに頂いた宿題を解いて開発したアークリアクターというエネルギー炉を使用して電気を補っている。日本に行ったら会いたいと仰られてたのでそのうち来るかもしれないね。

 

 チーン、と大型のオーブンがサクサクのシュー生地が焼けたという合図を教えてくれたのでミトンに手を通し、天板を掴んでオーブンから生地を出す。さっくりと焼けたシュー生地をナイフで上下に切り分ける。ちゃんと中身空洞だね!ん~~、香ばしくていい匂い。あとはこれにアイスを挟んで……出来た!いただきまーす!

 

 「よし!美味しくできた!後は量産するだけ!」

 

 粗熱が取れるまで待って、私はそのままシュー生地を半分に割り、アイスを挟む作業を続ける。個性で作った持ち運び用冷凍庫に個別パック包装をして夜に時間があったらみんなに振舞おうと思ってそのまま置いておく。キンキンに冷やすと美味しいんだよ~~。

 

 

 「あ、みんな終わってたんだ?お部屋、どう?」

 

 夜になって、私は流石にお部屋にずっといるのもアレかなと1階の共同スペースに他の女の子たちと一緒に降りる。すると男の子たちも考えることは一緒だったのか皆共同スペースのソファに座ったりして思い思いに過ごしていた。実はさっき女子である提案を男子に持ち掛けようと決めたんだ。

 

 「ねえ男子~!提案なんだけど……お部屋披露大会しませんか!?」

 

 ぱん、と柏手を打って提案する三奈ちゃんの輝く笑顔に、男子たちは楽しそうに同意するのだった。一部なんか顔がヤバい人もいるけど大丈夫かな?




 楪さんのお部屋はとてもメカメカしてます。女の子要素は欠片もありません。では次回、お部屋披露大会を開催しとうございます。楪酸はどんな反応をするのかご期待ください。

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