「わぁーーーっ!ちょっと待って待ってままままっ……!?」
ガチャリ、と音を立ててドアが開いた。お部屋披露大会と称されたそれで真っ先にターゲットになったのは男子の中でも比較的とっつきやすくそれで物腰も柔らかいみんなのよく知るあの人……つまるところデクくんである。難しい言葉を並べ立てたけど2階に上がって一番部屋が近かった哀れな人とも言う。
全力で入るのを阻止しようと腕を振り回すデクくんだけど、爆豪くんのように爆破をしてきたりとか強引に排除とかは生来の優しさのおかげでできないらしい。私は若干申し訳なく思いつつも、気にはなるのでデクくんのお部屋に侵入する。そこには
「わぁ……オールマイト先生がいっぱいだね」
「オタク部屋だーーっ!」
おぉ……すごい。いや凄いとしか言いようがない。だってさ、壁一面にオールマイト先生のポスターがあって、フィギュアがきちんと棚の上に配置してあって、カーテンもオールマイトカラー、ベッドも布団もそう。好きなんだなあとは思ってたけど改めてそう思うよ。好きなものなんだから誇ればいいのにね、恥ずかしい……分かるような分からないような。
「やべえな、なんか面白くなってきたわ」
「えーくん、ちゃんと荷ほどきできた?寮に入っちゃったから私お掃除中々してあげられないからちゃんと自分でもごもご……!」
「だーっ!みんながいる前では言わないでくれよ!」
「……切島ぁ……オイラ今ならお前に勝てる気がするぜ……!」
そういえば言い忘れてたし、えーくんのお母さんにも釘を刺しておいてねと言われたことを口に出すと、えーくんは真っ赤になって私の口を手を伸ばして塞ぐ。だってー、えーくんお片付けはともかくお掃除苦手じゃーん。こまけーんだよっていうけどそれがお掃除なんだよぅ。さて、次はお隣だね。
お隣は常闇くん……なんだけど、デクくんの件もあったからか扉の前で腕を組んでもたれかかり、部屋の中に入れさせない構えだ。どうしても見せたくないというならしょうがないし、なら次はべつの……と私がその隣の部屋に行こうとしたところで私を三奈ちゃんと透ちゃんが押しやって常闇くんの前にだしてしまう。常闇くんをじっと見降ろす私とそれを見つめ返す常闇くん。どうしたらいいの?二人とも
「希械ちゃーん!空輸!」
「なんだと!?」
「う、うん。ごめんね常闇くん」
どうしても常闇くんの部屋に入りたかったらしい三奈ちゃんと透ちゃんに常闇くんをどかせという指示を貰ったので、彼の脇に手を差し込んで、ぷらーんと持ち上げて私ごとドアの前からどく。そしてみんな、部屋の中に闖入する。その部屋の中は……
「暗い!?そして怖い!?」
「何かの儀式に使いそうだね……」
「出ていけ……」
呪術的、あるいは暗黒的といったらいいんだろうか。真っ黒の壁紙、黒いカーテンに悪魔っぽいスタチュー、なぜか模造刀がいくつか転がっている。私には今いち理解できないんだけど無駄にとげとげしてて、持ちにくそうで、重心が何ともおかしい。武器として考えた時に致命的すぎるんだけど……。インテリアなの?刀身になんか巻き付いてて使いにくそう。私だったらもっとこう……
「流石にこの形は使いにくいよ。グリップが短いし、柄が金属むき出しだなんて。せめて皮を巻くか何かしないと手汗で滑って飛んでっちゃうんだけど……作った人何考えて作ったんだろう?」
「模造刀にダメだしする女子初めて見た」
「あー、希械はそこら辺の目線プロだかんな~。実際ライセンス取って今プロみてーなもんだし、おかしく見えちまうんだろ」
「出ていけっ!!!」
常闇くんに追い出された私たちは、無駄に眩し、もとい眩い三奈ちゃん曰く想像の域を出ない青山くんの部屋を見た後次の部屋……に行こうとしたけどスルーして3階に上がることを決めた。それは何故か?待ち受けてるのが峰田くんだからだ。涎を垂らしながら息を荒げて入れよ……すげえの見せてやるよ……という峰田くんは360度どこから見てもへんたいふしんしゃさんだった。精神衛生上スルーするのが吉だろう。
続く部屋は尾白くん、感想としては……普通、かな?いやその特筆すべき点としては尻尾をブラッシングする用のブラシが卓上にあるくらいでドラマとかでよく見る普通の部屋をそのまま持ってきたみたいな感じだ。あるいみですごい、そして飯田くんルーム、眼鏡ずらり、本がどっさり。床にまで本があるのは少し意外かも、飯田くんならきちっと片付けるかと思ってた。
「チャラい!」
「うぇえ!?よくね?!」
「とりあえず好きなもの詰め込んだ、みたいな感じだね。上鳴くんの部屋。このスケボーとか、あとこのバッシュとか1年くらい使ってないんじゃない?」
「なんでわかるんだ!?」
チャラいを形にした上鳴くんの部屋。私の両目が解析した古傷の状態から推察した予想は当たってたようで、上鳴くんは驚いた様子。そして口田くんの部屋、いたって普通だけど違うのは個性の関係上なのかうさぎが一匹部屋の中を闊歩してたこと。これは女の子ポイント高いよ口田くん!みんなうさぎにメロメロだよ……部屋関係ないね?うん?まあいっか。
「なんか釈然としねぇなあ?なあ?」
「うん、俺もしないな、釈然」
「同意」
「ウィ☆」
「男子だけ言われっぱなしは納得いかねえ!お部屋披露大会だっつーならよお!女子の部屋も見せろよ!誰がクラス1の部屋の持ち主か白黒はっきりつけようぜ!」
「いいよ~~~!」
普通に男子の部屋を今見てるけど、終わったら女子の部屋、見せてもいいよっていう人は見せる予定だったからまあそれは問題ない話だ。私の部屋に来てくれた時に皆にシューアイス配ろうっと。そんなわけで4階へ、確かこのフロアにはえーくんの部屋があったはず、ちゃんと荷ほどき出来てるかな~?
「女子に分かんねえよ、この男らしさは!」
壁にかかった大漁旗、部屋の中央にあるサンドバックに筋トレグッズ。段ボールは出しっぱなし、整理整頓とは程遠い……むむむむむ……これはいけませんよえーくん。透ちゃんの彼氏にやってほしくない部屋2位にありそうという地味に抉られる感想、1位じゃないのは慈悲だろうか。それはともかく、ねえ?
「えーくん?」
「き、希械……?」
「一緒に荷ほどきしよ?今から」
どうしたのそんなに皆青ざめた顔しちゃって。ほら、私笑顔だって笑顔笑顔。ちょっぴりえーくんが申告してたことと食い違いがあったからえーくんのお母さんに言われた通りにするだけだよ?えーくんはやればできるんだから。ゆらぁ、と両目を真紅に光らせた私の言葉にゴクリと唾をのむえーくん。というか床にダンベル置かないの。フローリング凹んじゃうでしょ。ちゃんとマットの上……マット持ってきてないの?
「えーくん??」
「あー切島?頑張れ」
「希械、まあほどほどにね?」
「希械ちゃーん、先行ってるね!」
「うん。それじゃえーくん?始めるよ?」
「はい……」
みんなが部屋から出ていく。えーくん、お片付けを後回しにするのはいいんだけど結局やらないじゃない。別に私にやってほしいなら言えばいいんだけど、恥ずかしいんでしょ?しょうがないので段ボールを畳んでそれの上にダンベルを置いていく。ちゃんときれいにできる部分は出来てるんだけど、なんでこう、ちょっと置いて後回しにするかなあ。やらないやつだよそれ。
ぷんすこぷんすこと耳の排熱口から蒸気を吹きだしてえーくんの残りの段ボール4箱を仕分けしていく。服でしょ、ダンベルでしょ、ダンベルでしょ、ダンベル……筋トレグッズ持ち込み過ぎだよ!床抜けるよ!?あ、私が立ててる時点で大丈夫か。早とちりだね、ごめんなさい。そんな感じで20分ほどで終了!段ボールを畳んで腕をシュレッダーっぽくして体の中に取り込む。後で体内炉で燃やしちゃおう。
「はい、こんなすぐ終わるんだからめんどくさがっちゃだめだよえーくん」
「あー、わり。助かったわ」
「そこでふざけんなやめろって言わないあたりえーくんもいい人だよね」
「いうわけねーだろ。実際俺の部屋片づけてもらってたりしたんだからよー」
「彼女さんが出来たらもうやらないからね?」
全くえーくんはもう。そんなこと言いながら部屋から抜ける、もうみんなはこの階にはいないみたい。ということは女子の方に行ったのかな?私の部屋は見せなくてよさげ?まあ別にみても面白いことは何もないけど。そんなこと言いながらえーくんと一緒にエレベーターで共用スペースに降りた後、女子棟に向かう。するとみんな他の人の部屋は見終わっていたところだったらしく、ちょうどエレベーターが1階におりてくるところだった。
「あ、希械ちゃん間に合ったー!ねえさっき凄かったんだよ砂藤の部屋!シフォンケーキすっごい美味しかったの!」
「部屋と……シフォンケーキ?」
「皆食うと思ってよぉ……焼いてたんだ。好評で嬉しかったぜ」
「へー砂藤くんお菓子作りが趣味なんだ。今度一緒に何か作ろうね!」
「おう!いいぜ!楪いるなら難しいやつもいけるよな……」
「それよりも最後!希械ちゃんの部屋いこ!皆待ってたんだよ!」
「え、見たいの?面白いものは何もないけど……」
みんなに促されて2階の私の部屋へ。なんだか男の子たちわくわくしてない?峰田くんは何をそんなに興奮してるんだろう?他の女の子の部屋に入ったんだよね?いいものなんてお菓子くらいしかないよ?まあ、いいか。というわけでカードキーで部屋の鍵を開けてドアを開き、みんなを促す。屋内センサーが人を感知すると照明がついて部屋中明るくなった。
「「「「サイバー!?」」」」
「一人だけ世界観ちげーよ!」
「ホログラムがいっぱいや」
「あ、ごめん。新しい装備の設計してたんだった」
部屋の中に無数に浮かぶホログラムの設計図、壁にくっついてる折り畳みの反重力ベッド、向かいには同じく折り畳みの作業台、壁にかけられてる大型オーブン、冷蔵庫に冷凍庫。あとは高スペックのパソコンくらいかな。特筆すべきところは。私はいくつかの設計図を掴んで纏めて丸めて投げつける。部屋の隅にあるゴミ箱のホログラムにからーんといい音で設計図の成れの果てが入った。
「近未来……」
「あれ、希械ベッドどこ?」
「ベッドはこれー」
作業台を折りたたんで壁に引っ付け、今度はベッドを引っ張り出す。反重力でふよふよ浮いているベッドを見たみんながおお!となってるのを見るとなんだか嬉しいな。あらゆるものを折りたたんでしまえるようにすることで体の大きな私でも使いやすいように部屋を広く取っているんだよ!デクくんがホログラムの一つを手に取ってしげしげと眺めてる。
「これ、もしかして……」
「あ、うん。それフルガントレットの改良品、の設計案だね。かっこいいでしょー?」
「うん!凄いかっこいい!色、緑なんだ!」
「デクくんのヒーロースーツが緑だからね!シルエット変えたくないんでしょ?赤だと差し色になっちゃうから」
「ぷ、プルスウルトラ……」
「おい峰田。それ開いたら俺はこの電話をかけざるを得ないぞ」
「はい」
峰田くんが私のクローゼットの中を物色しようとしてえーくんに止められていた。ほんとに懲りないね、すごいよある意味。あ、そうだった!私は冷凍庫の扉を開けて、ラッピングされたシューアイスをみんなに渡すことにした。
「砂藤くんと被っちゃうんだけど、実は私も暇だったからシューアイス作ってたの!クラスのみんなの分あるから良かったら食べて!今食べない人は明日までなら食べられるから私の冷凍庫で保管しておくよ!」
「うわ!食べるー!」
「この時間にアイスは冒涜的……うまっ!?」
「うわ、すげーな楪。シューアイスとか結構難易度高いぜ?うまっ!俺もまだまだかぁ……」
「私、砂藤くんのシフォンケーキ食べたかったな~。砂藤くん合作したら凄いもの作れそうだよね!」
わいわいがやがやと盛り上がるみんな。これで爆豪くんを除く全員の部屋を見ることができたのかな?そんな感じで私たちは談話スペースに戻る。はてさて第一回部屋王はだれかな?私はみんなの部屋を見てないからえーくんと一緒に投票には不参加だけど、実に気になる話題!何でも瀬呂くんのお部屋凄いおしゃれだったみたいなの!今度見せてもらえないかなあ。
「えーでは第一回部屋王は……男子の圧倒的な支持を受けての希械ちゃん!」
「えっ!?なんで!?」
お、おかしいよ!だってこういったらアレだけど私の部屋女の子っぽい要素ゼロだよ?普通に色眼鏡無しで見たら誰かの仕事場にしか見えないよ!?頭の中に疑問符が浮かび上がって湯気をあげてオーバーロード仕掛けてる私に男子たちは理由を説明してくれる。
「楪、男はな……ああいう秘密基地みてーなのに憧れるのよ」
「ベッド変形したりとか、ホログラムとか……特撮の基地みたいだったよね」
「あれはあれでいいものだ」
「つーかさり気に全部スマート家電だったよな。自動で開いたりとかよ」
「実は僕も……ああいうの好きだったり」
「分かるぜ緑谷」
「ちなみに次点は女子票を全てかっさらった砂藤力道!理由は「シフォンケーキ美味しかったから!」」
「ヒーローが贈賄してんじゃねーよ砂藤!!!」
「知らねーよ!でも嬉しい!」
そんな感じで第一回部屋王は終了、みんな解散の流れで……お茶子ちゃんがデクくんを始めとしたあの夜に神野に行った人たちを呼び止めた。私はそれが気になったけど、きっと私が知るべきことじゃないと思ったから……そのまま自分の部屋に帰って、眠ることにした。ハイツアライアンスの玄関から外に出ていくみんなの姿が、少しだけ心残りだった。
模造刀に文句を言う女子高生(プロライセンスを取ったヒーロー志望)次回以降から仮免許取得の話に向けてやっていきます。
必殺技……どうしましょうか。色々考えていますのでお楽しみに!
感想評価よろしくお願いします
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必用
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