個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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64話

 サポート科、それはヒーローを支えるサポートアイテム、コスチューム、ビークルなどあらゆるヒーロー関連のシステムを一手に引き受ける技術屋を養成する学科だ。おそらく私もヒーローを志さなかった、あるいは諦めていたら個性柄この学科を受験したであろうことは間違いない。私にとっても楽しい学科だ。主に技術と素材的な意味で。

 

 デクくんの必殺技開発のため、というかフルガントレットとフルグリーヴに合わせてコスチュームを改良するために訪れたわけなんだけど、明ちゃんいるかな?いや十中八九いるんだろうけど、いなかった場合あとがめんどくさい。彼女が病的に自分本位なのはまあ、別にいいとして、彼女は今フラストレーションがたまりまくっているらしいのだ。I・アイランドに行けなかったせいで。

 

 I・アイランドの技術は適宜民間に流されているんだけども、やっぱ最新技術は実地に行かないと見れないからね。ただ、I・アイランドのエキスポ期間以外は渡航制限あるから……一応ね、聞いたらしいんだよパワーローダー先生、でもその時目の前で開発してたベイビーがすっごいいいところまで行ってたみたいで明ちゃん、行かないって言っていかなかったの。それで今後から後悔してるのね。

 

 で、その状態でI・アイランドの技術をたっぷり吸収して戻ってきた私、ついでにサポートアイテムの免許を取った……彼女にとっては今の私はネギをしょった鴨なのだ。1日5回くらいお話ししてくださいコールが来る。流石に入院中は来なかったけど。退院後も忙しくてこれだから、会ったらマジで分解されかねないぞ私。

 

 「ここがサポート科……」

 

 「あ、デクくんに希械ちゃんや」

 

 「麗日さん!飯田くんも!」

 

 「君たちもコスチュームの改良かい?」

 

 「そうなの、だから――――」

 

 私の言葉は最後まで続かなかった。何せ、サポート科の工房、気密扉が爆発したから。私の前に立っていたデクくんはもろに爆破を受ける、お茶子ちゃんに話しかける体勢のままで。私は爆発や爆風には慣れっこなのでノックバックもしなかったんだけど、完全に油断しきっていたデクくんは爆風に吹っ飛ばされかけ、後ろにいた私に突っ込んでくる。何せ私もここで爆破が起こるのは知ってたけど実際に起こるのを見るのは初めてだったので反応が遅れた。

 

 どさっ、ぎゅむっ!と2回の衝撃が私の身体を駆け抜ける。私にとっては極めて軽いものだったから反射的につむってしまった目を開くと……吹っ飛ばされて私の胸に後頭部を埋めて足が浮いてしまったデクくんと、そのデクくんに思いっきり抱き着く形で支える煤だらけの明ちゃんがいた。どうやら爆発で吹っ飛んできたらしい。幸い私とデクくんがクッションになって彼女自身が怪我をしているわけではなさそうだ。

 

 「おや!希械さんではありませんか!ちょうどよかったです!今新作のベイビーを作成してたところでして!」

 

 「爆発させたんだね……それはそうとデクくん苦しそうだからどいてあげて?」

 

 「やや!これは失礼しました……えーといつぞやの体育祭の!ヒーロー科の……すいません希械さん以外名前忘れました!」

 

 「み、みみみみみ……緑谷出久、デス……!」

 

 「またやったのか発目!全くお前は何度言ったら……楪じゃないか。それと1-Aの子たちも一緒か。コス変の件だろ?中に入りなさい」

 

 私と明ちゃんにサンドイッチされてにっちもさっちも行かないデクくんがあまりにも可愛そうなので、やんわりと明ちゃんを押しやってデクくんを解放する。うわあデクくん凄い顔してる。しかし明ちゃんこれで爆発を引き起こすの何度目だろう?明ちゃんは思いついたらとりあえず組んで動かしちゃうから良く致命的な噛み合いミスを起こして結果爆発しちゃうんだよね……パワーローダー先生が怒るを越えて呆れの域に入りだしてるから少し心配だ。

 

 「パワーローダー先生、こんにちは。今日は私じゃなくてデクくんのコスチュームの件で……」

 

 「はっはい!必殺技を開発するために何かヒントになるものがあればと……」

 

 「成程、君のコスチュームの担当は楪に変えるつもりなのか?」

 

 「え?それはどういう……」

 

 「何だ、違うのか?楪は既に免許を取得している。アイテムの開発力に関しては君らも知っている通りだ。てっきり大幅にデザインを変更するついでに担当者変更の届出をだしに来たのかと思ったんだが」

 

 「あの~私サポート関係志望じゃなくてヒーロー志望なんですけど……」

 

 どうやらパワーローダー先生はとんでもない勘違いをしている様子だ。確かに私はサポートアイテムの免許を取って、コスチュームを自分で作って国に届け出を出すことができる。できるんだけど……現役のプロの方が凄いに決まってるじゃないですか。自分のなら自分でやった方がいい場合は自分でやるけど、他人のはまだ少し不安だ。フルガントレットとフルグリーヴに関しても20回くらい性能試験と耐久試験を重ねてから初めてデクくんに渡してるんだし。

 

 「くけけ……それならそれでいい。だが君の場合、個性柄俺と同じように戦場でコスチュームを応急修理することもあり得ると思ってな……早いうちに経験を積もうとしたのかと思ったのさ」

 

 「戦場でコスチュームを修理……確かにそういうのありそうですね……でも今はデクくんの必殺技に関してです」

 

 「必殺技!興味あります!」

 

 「あ、明ちゃん。気は済んだ?」

 

 「はい!」

 

 私とパワーローダー先生、デクくんが話してる後ろでお茶子ちゃんと飯田くん相手にベイビーを代わる代わる実験、もとい披露していた明ちゃんがこっちにぎゅんっとやってきた。腕にブースターをつけられて天井に激突した飯田くんと酔ってしまってグロッキーなお茶子ちゃんもこっちにやってくる。

 

 「とりあえず、フルガントレットとフルグリーヴに合わせてコスチュームをブラッシュアップしたほうがいいかなって。素材から選定しなおしだね」

 

 「フルガントレットとフルグリーヴ!何ですかそれ希械さんのベイビーですか!?」

 

 「そうだよ、デクくん見せてあげて」

 

 「あ、うん」

 

 デクくんが右手につけていた腕輪に触れると超圧縮技術で封じられていたバンテージが解放されて両手両足に巻き付いてフルガントレットとフルグリーヴを形成する。超圧縮技術を目にするのは恐らく初めての明ちゃんはそれに目を輝かせてなんですかそれ!と超ハイテンションになる。

 

 「もしや超圧縮技術!初めて見ました!なるほどそれの装備を前提にしてコスチュームを変更したいと!それならばいいベイビーがいます!!」

 

 「ああ、明ちゃんの悪い癖が……」

 

 フルガントレットとフルグリーヴを全方位から触った明ちゃんが何時ものように暴走を開始した。パワーローダー先生曰く病的に自分本位……分からなくもない。明ちゃんちゃんと考えてはいるんだけど、発想がちょっとぶっ飛んでいるんだ。既存の概念にとらわれないって言う非常にいいことなんだけど……成功までのトライ&エラーに巻き込まれる側の被害がね……。

 

 「パワードスーツです!」

 

 「あの……スーツのデザイン自体は変えなくてよくて……アイダダダダ!腰が!」

 

 「可動域のプログラミングをミスりました!ごめんなさい!」

 

 「発目……いつも言ってるがまずはクライアントの要望を聞け。お前の作品を押し付けたいだけならヒーロー科行って自分で試すことだ、俺や楪みたいにな」

 

 「デクくんも律儀に着ないでいいんだよ……?」

 

 「そもそも僕の個性は増強系だから筋力補正は要らないんだ……」

 

 明ちゃんが引っ張り出してきたのは細身のパワードスーツ、全身装甲でゴテゴテしてる感じのやつだ。おそらくデクくんには必要ない……重過ぎて持ち味であるスピードを殺す結果にしか繋がらない。律儀に着るデクくんもいい人だね……腰を曲げようとしてパワードスーツが曲がらない方向に腰を曲げようとするのを急いで救出する。明ちゃん?あんまりやると私怒るよ?私が怒ったら怖いよ~?峰田くんだって怖がるんだから!

 

 「でもですね、私思うんですよ!足が使えないのなら腕で走ればいいし!酔ってしまうなら酔っても避けられるようにすればいい!力が強いならもっと力を強くしましょう!って!」

 

 「まァ……発目の言うことは話半分に聞くとしてもだ。こいつとの縁は大事にしとけ、プロになった時に世話になるだろうよ」

 

 「明ちゃんはきっとプロライセンス取ったら即戦力だからね。どこかできっと凄いことを起こすって私思うよ。私と違って、既存の概念にとらわれないから。何だってチャレンジする」

 

 明ちゃんは恐れずにどんな発想でもとりあえず形にしようとする。私が処理している彼女の失敗作は毎週山になっているし、シミュレーションして無理だってわかり切ってるけど何かがあるはずだと挑戦する。そして、その結果からつかみ取って次に活かす。私は効率重視なのでシミュレーションで成功させてから形にする、この違いは大きいと思う。私も失敗前提で組んでみようかな?でも私の場合今はビーム兵器を研究してるので失敗したら周辺被害が……。

 

 「必殺技と仰りますが!具体的にいまどんな戦い方をしているのでしょうか!?」

 

 「えっと……僕の場合は指とか、パンチとか……強くすると腕が壊れるので楪さんのこれにお世話になってるんだ」

 

 「なるほど!じゃあ投げ技中心とかいかがでしょう!?パンチに拘りがあるのならやはりパンチを強化するベイビーなどもいいですが!」

 

 「いや……別に拘りとかじゃ……あれ……?」

 

 あ、デクくんが何かに気づいた、と同時に私もピコンと脳みそに天啓が走る。私なんでフルガントレットとフルグリーヴの待機形態を一つに絞ってたんだろう?二つのアイテムの耐久力をあげることに苦心していたけど……別に壊れてもいいと考えればいいんだ。チョバムガントレットのように。壊れても、修復する。あるいは新しいものが銃の弾倉を入れ替えるように復帰する。明ちゃんのおかげで新しい知見が得られた!

 

 「そっか、そうだ!飯田くん!後でちょっと教えてもらってもいいかな!?」

 

 「あ、ああ構わないが……コスチュームの件は何一つ解決してないぞ」

 

 「あ、それだったら私が相談に乗るよ~。明ちゃんを通すとあらぬものを追加されかねないからね。明ちゃんは私と一緒に開発しよう!」

 

 「希械さんとの合作ベイビー!興味あります!」

 

 「楪、やっぱり君サポート科に来ないか?発目の手綱を握れる君が必要なんだ」

 

 「明ちゃん……どれだけ迷惑かけてるの……」

 

 明ちゃんにそのまま希望を伝えても、彼女なりに気を利かして色々提案はしてくれると思う。だけどそれはかなり明後日の方向に行くものが多いので誰かが手綱を握って方向を修正しないと飯田くんの腕ブースターみたいなことになりかねない。幸い私は免許を取っているので私がかじ取りと修正をすればいいものができるだろう。ちゃんと組めば明ちゃんの腕は確かなんだから。これが無かったら明ちゃん凄いのに……と私は合作と聞いて瞳を輝かせる明ちゃんを見るのだった。かわいい。

 

 

 「それで、緑谷君。俺に聞きたい事とはなんだ?」

 

 「あ、うん!実はキック中心の戦い方を教えて欲しいんだ。飯田くんって基本キックで戦うから」

 

 「構わないが……なぜ突然蹴りを?」

 

 「僕、オールマイトに憧れてて……ずっとパンチ中心だったんだ。でもオールマイトの言葉が発目さんのおかげで飲み込めた!僕は、僕の戦い方を作る!だから言うなればスタイル!戦い方のスタイルをもう一つ作りたい!それが僕の必殺技!」

 

 流石にあの後また体育館γに戻ってトレーニング、とは出来なかった。私たちA組が使う時間が過ぎてB組の特訓の時間になったからだ。圧縮訓練というだけあって強度は滅茶苦茶高く、私たちはくたくた。上限値のある人はとっくにそれを越えて凄いことになってる。上鳴くんの顔とかすごいよ、骨格変わってる気がするもん。

 

 そんな感じで私たちはヒーロースーツから着替えて、寮に戻ってきた。自主練は任せるとのことだけど、さすがにもう少し休みたい。圧倒的に糖分が足りない、エスカッシャンで脳みそを酷使しすぎた……むむ、なんか考えないとヤバいかな?私だけだと持てあます感じがするんだよね。何か補助のようなもの……ん?今日は私冴えてるぞ!ふふ、ふふふふっ!!!

 

 「希械ちゃんが凄い笑いながらなんかやってる……」

 

 「あー、希械のやつかなり集中してるな。周りが見えてないとああなるんだよ。希械、きかーい」

 

 「ふひゃ!?えーくん!?」

 

 頭におりてきた天啓を形にしたかった私は共有スペースのソファに腰掛けて周囲に10個ほど空間投影のモニターを展開し、両手で別々の投影キーボードをタイピングしながら思考操作で滅茶苦茶にプログラミングを繰り広げていた。どうやらそれがあまりにも不気味だったらしく、苦情が出たようで私の前の投影画面を突き破ってえーくんが顔を出して私を呼ぶ。それに私は驚いてソファごと後ろにひっくり返った。

 

 「び、び、びっくりしたぁ……」

 

 「悪い、あんまりにも向こうに行きすぎてたからよ。あのままだとお前3日くらい徹夜すんだろ」

 

 「えへへ、ごめんね。サポートアイテムのこと考えてたらつい」

 

 私も案外明ちゃんのことどうこう言えないかも。ただ、デクくんのフルガントレットの改良案が組みあがったし、今夜にでもメリッサさんと話し合って形にしちゃいたい。あとオールレンジ攻撃を補助するものの着想を得たのでそっちも形にしたい。忙しい忙しい!最高!私これならたくさん頑張れるよ!あれ?えーくんどうして頭抱えてるの?

 




 デクくんと楪ちゃん、何かを掴む。ちなみにこのデクくんは腕に爆弾がないのでがっつりパンチも使えます。お強い。

 そしてマッドな部分がにじみ出る楪ちゃんを強制終了させる切島君。放っておいたら不気味な笑いを漏らしながら徹夜します、英断。

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