「クソ、あの雄英のやつどこに行ったんだ!?」
「もう探すのやめよう!?時間ないよ!?」
「情報割れてるやつの方が倒しやすいだろ!」
「おー……焦ってるね」
夜嵐くんとの短い戦いのあと、あの場では私以外の人たちは全員夜嵐くんに脱落させられてしまったので私は獲物を求めて移動を開始していた。ビットを全て回収したのちに光屈折迷彩を作り出して透明になった私は、ここに私がいたという情報だけを頼りに私に固執しているらしい他の学校の人たちを観察している。
こうしている間にも合格者は21人を超えた。私としてもさっきの夜嵐くんと少しお話してみたいし、そもそも仮免を取りに来たのでここでまごまごしてるわけにもいかない。二人倒せばいいんだし、そこできょろきょろしてる先輩方を狙うことにしよう。ちょうど今、見通しが悪い路地裏に入っていったから、ね。
「ハロ、注意を引いて……いや、そのまま倒しちゃえ」
『リョウカイ!リョウカイ!』
右耳のイヤリングからハロを外してサイズを大きくする。バスケットボール大になったハロは静かに転がって、路地の中で作戦会議をしている先輩方に近づいていく。コロコロと転がるハロに先輩たちはすぐに気づいた。けど、もう遅い
「なに、これっ!?あああっ!?」
「ぐうううっ!?」
『ニンムセイコウ!ニンムセイコウ!』
ハロの口がぱかっと開いて中からテイザーディスクがシュパパッと空気圧で発射される。テイザーディスクが服に張り付いて一瞬高圧電流が流れた後に持続的な電流が先輩方を拘束した。私は路地裏の中に入って電気によって体が麻痺している先輩のターゲットをボールでタッチしていく。一人の先輩はツーアウト、もう一人はワンアウトだった。ごめんなさい、今回は私の勝ちです。
テイザーディスクの充電が切れて電流が流れなくなる。だけど脱落してしまった先輩はそのまま呆けてしまったように動かない。光屈折迷彩をボックス状に圧縮してから口の中に放り込んで食べる。シールドビットとホルスタービットも同様に超圧縮するけどこっちはまだ使うかもしれないから腰のベルトに懸架しておこう。
「ハロ、行こう」
『ダッコ!ダッコ!』
「はいはい」
どうも、みんなが甘やかして抱っこしてるせいかハロは人に抱っこされて移動するのが好きになってしまったようだ。跳ねるハロをキャッチして両手で抱えてお腹の前で抱っこする。私はそのまま乱戦の戦場を抜けて合格者が向かう待機場所に歩いていく。私のターゲットは3つほど光りっぱなしでどうやらこれが合格者のサインみたいだ。
ハロを抱っこして歩き続けること少し、私は合格者控室にやってきた。ガチャリとドアを開けると既に30人ほど人がいて、机の上にあるジュースや茶菓子を手に他校と雑談に花を咲かせたり一人精神統一してたりと思い思いに過ごしていた。私が部屋の中に入ると一斉に視線が私に向く、ひょえっ!?もしかしてこれ入ってくる人全員にやってるの!?そうか、そうだよね、みんな仮免を取り合うライバルだから、気になるんだよね。
私に向けられる視線の8割は「雄英体育祭の」が枕詞につきそうな視線だけど、残り2割は純粋に私の実力を推し量ろうとする目だった。ちょうど、部屋の奥からずんずんと私の方に向かってくる夜嵐くんみたいな。彼は私と戦った時のような獣じみた笑みではなく暑苦しくも人懐っこそうな笑顔で私に話しかけてくる。
「あっ!やっぱり合格したッスね!俺は夜嵐イナサっス!改めてよろしくお願いしまッス!」
「楪、希械です。ライバル同士だけどよろしくね夜嵐くん」
「はいッス!いや~~俺の個性の合間を縫ってターゲットに当てられた時は冷や汗もんっした!結局俺の攻撃は当たってなかったッスし!」
「私はびっくりしたよ?あれだけのボールをそれぞれ別の風を操って全部操作するなんて。すごいなぁ」
「いやでも楪さんのあのメカ?かなんか分からないッスけど、あれヤバいっすね!熱いッス!」
ぐいぐい来るタイプだねやっぱり。それと彼、身長が高い、勿論私よりはかなり低いけど、おそらく1-Aで一番背が高い障子くんよりも背が高い、その彼がぐいぐい来るのだ。とても、距離が、ちかい。ただ、純粋にヒーローを目指してるんだなあって言うのが分かる。熱意の量といえばいいのかな、それが彼はずば抜けてる気がする。もちろん負ける気はないけれども。
私と話してる彼の顔が一瞬だけ凍り付いた。視線の先にあるのは……轟くんだ。どうやら彼も一次を通過することができたみたい。私を見つけた彼が嬉しそうにほっと息をついた。夜嵐くんはそれじゃ、俺はこれでと言って足早に去っていった。話の途中だったのに、どうしたんだろう。こちらにやってきた轟くんと何か関係があるのかな?
「楪、先に通ってたんだな」
「うん、轟くんもお疲れ様。飲み物あるよ、お菓子も食べていいんだって」
「口元になんかついてるぞ」
「うそっ!?」
轟くんにお疲れさまと声をかけつつエネルギーを補給するために卓上のせんべいやら何やらをぽりぽりばりばりと頬張ってた私に轟くんはこそっと口元を指して口元に食べかすが付いてることを教えてくれる。私は飛びあがりそうになりつつ急いで口元を拭った。ああ、こういう時にこういうことが起こるととっても恥ずかしい~~。あ、そうだ。
「轟くん、覚えてる?夜嵐くんのこと」
「……いや、思えばあの時から俺は……周りの事見てなかったんだな」
「でも今は違うでしょ?ほら、ちゃんと私の事見てる」
「……そだな」
どうやら轟くんは推薦入試のことを全く覚えてないらしい。それは当時それだけ余裕がなかったってことなんだと思うけど、今はきちんと周りを見てくれてるし入学時の轟くんとは一線を画しているのが分かる。ただ、夜嵐くんの反応が少し気がかりだ。一瞬だけ顔を出したその表情は、まるで気に入らないものを見るような、そんな顔だったから。
それからすこし、どんどんと雄英1-Aのクラスメイト達が控室に入ってくる。百ちゃんに梅雨ちゃん、障子くん……皆怪我無く無事そうだ。私たちはとりあえずの1次試験を通過できたことを喜びあう。その次に入って来たのはえーくんと爆豪くん、上鳴くんだ。
「あ!楪!いやー、お前が作ってくれたこのサンダーロッド!初っ端から大活躍したぜ!ポインターとシューターもな!」
「うん、お役に立てて何よりだよ。えーくんも、無事そうでよかった」
「おう、いやー士傑の先輩の個性に捕まれた時はやばいと思ったんだけどかてーもん丸めるのに時間かかるみたいでな!その隙に上鳴が剣でズバッ!ってやって爆豪が爆破でボン!だぜ。俺だけいーとこなしだわー」
「じゃあ、次はえーくんが大活躍しないとね!」
「そうだな!」
えーくんとハイタッチ、ガチャンと硬いものがぶつかった音がする。これをするとちょっとだけ安心できるし、気合が入る。そうこうしてるうちにデクくんとお茶子ちゃんに瀬呂くんも合流した。デクくんはどうやらフルガントレットを使わなかったみたいで待機状態のまま手と足につけている。そうだね、あくまでそれは緊急時に補強するものだから普段は頼り過ぎないようにするのはいいことだと思う。
これで、A組の合格者は11人、残り9人は脱落してるわけじゃなく、まだ戦い続けてる。飯田くんが残ってるってことは彼を中心に指揮が取られてる、はず。何せモニター越しなので見たい場所を見れるわけじゃなく雄英にフォーカスが当てられてるわけでもない。残りの枠は10枠、雄英全員合格、出来るかな。いや、するんだ。私たちは前倒しで試験を受けに来ているけど、経験じゃ負けてない。きっと何とかなるはず。
『おっとここで続々と雄英がコンボを決めていくぅ!』
「三奈ちゃん……みんな……!」
「当然だぜ希械、あいつらがここで落ちるわけねえ」
「そうだね!そうだよ!」
えーくんが私の背中をばしんと強く叩いて励ましてくれる。そして、モニターの先では峰田くんと口田くんが他校生を完全に拘束して次々と残りのクラスメイト達が合格を叩き出しているところだった。残り2名、という目良さんの声と同時に飯田くんと青山くんが同時に合格をして、先着の100名が決まった。
『100名埋まりました!ッハーーー!!!!ではこれより脱落してしまった皆さんの撤収に移ります』
「雄英全員!一次試験突破だあああああ!!!」
「やった~~~!」
「おおぉぉぉ~~~!」
「希械ちゃ~~ん!」
「三奈ちゃんっ!」
一次試験の終了の合図と同時に膨らんできた喜びが私たちクラスに一気に伝播して盛り上がる。だって、脚きり10%以下に雄英の21人が受かってしまったからだ。凄いよ!100人のうちの21人を雄英が独占!次に多いのは士傑、傑物と続く感じだね。私に飛びついてくる三奈ちゃんを優しく受け止めてハグをして、解放。磁気キーを三奈ちゃんのターゲットに反応させてターゲットを取り去る。
そうして暫く合格の喜びを分かち合っていると、脱落してしまった人たちの撤収が完了したのか、1次試験の終了を伝えた時のハイテンションが嘘のように死に体の目良さんの声がスピーカーから聞こえてくる。どれだけ眠いんだろう、というかそんだけ公安は激務ってこと……?将来のビジョンとしては少し遠慮したいかも……寝不足で隈を作るヒーローは中々……相澤先生とか?いやクマないけどなんか雰囲気がそういうダウナーな感じが……じゃなくて!今は試験に集中!
『えーでは残った100人の皆さん、こちらをご覧ください』
そう言われた私たちは素直に控室内にあるモニターを見つめる。写ってるのはさっきまで私たちが対人演習を行っていたフィールドだ。さっきまでとなにも変わりがない、と揃って首をかしげているといきなり、画面の中のフィールドのそこかしこが爆発する。同時に控室の外からも轟音が響き渡った。……なんで?なんでその、爆破しちゃったの?いったいいくらかかってると思ってるんだろう、この演習場を作るために使ったお金……?
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれよりこの被災現場にてバイスタンダーとして救助訓練にあたってもらいます』
「パイ、スライダいたっ!?」
「違うわ峰田ちゃん、バイスタンダーよ」
「現場に居合わせた人のことですわ。一般市民を指す場合もありますが……」
これは授業でやった話だ。峰田くんも頭はいい筈なので覚えてると思うんだけど、バイスタンダーはその場に居合わせた人という意味、つまり私たちはこの被災現場に偶々いたヒーローとしての役割を全うできるかどうか試されるわけだね?まずいな、これ。救助訓練は勿論授業でやってるけど、その経験値は私たちは少ない、というか周りの先輩方に比べたら0だ。その差は、大きいと思う。
「ああ!人がいるぞ!あぶねえ!」
「HUCだ……初めて見たよ」
画面の中では老人や子供、老若男女問わずあらゆる人間が次々と災害現場に入っていくところだった。彼らはきっとヘルプアスカンパニー、HUCと略される要救助者のプロ。お父さんとお母さんが会社の訓練で利用したことがあるという話をされたので名前だけなら私は知っている。あらゆる訓練に引っ張りだこ状態でとっても人気なんだとか。お仕事って色々あるんだね……。
『傷病者に扮したHUCがフィールド全域にスタンバイ中、皆さんにはこれから彼らを救出してもらいます。今回は皆さんの救出活動を減点方式で採点していき、終了時に基準点を上回っていれば合格とします』
「なるほど……まるで、神野を意識してるみたいだね……」
「……そうだな」
町中を含む大規模災害の救助訓練……オールマイト先生とオールフォーワンが戦った神野の件が頭をよぎる。私にとってはとても苦い思い出だけど、乗り越えなければならないものもあるんだ。私とえーくんが気合を入れなおしてると瀬呂くんと上鳴くんと峰田くんが何事か話し合ってた。
「士傑のボディスーツの人いるじゃん?あの女の人。あの人がさぁ、緑谷と素っ裸で岩陰に居たんだよ」
「「緑谷ぁ!!!!!」」
「……デクくん?」
「緑谷、お前……」
「ち!違うんだよ!なんか個性関係のことで色々聞かれて!僕も凄い怖くてわけわからなかったんだ!」
「ウソこけアレ一歩進んだ男女の反応じゃねえか!」
「いい思いしてんなああん!?」
へー、デクくんそんなことしてたんだ、演習中に……ふーん……。まあ反応とか見るに本当に何もなかったみたいだけど。これで峰田くんみたいな行いをしてたのだとしたら、私はちょっとデクくんとの付き合いを考え直さないといけないところだったし、最近デクくんととても仲がいいお茶子ちゃんをさりげなく離したりとかもしなきゃいけなかった。今までの言動を鑑みて、私はデクくんを信じます。
私たちの騒ぎがうるさかったのか士傑の人たちがこちらにやってくる、頭を下げそうになったけどどうやらそういう目的じゃないみたい、どうやら士傑の人が爆豪くんに突っかかったことへの謝罪?そんなことがあったのえーくん?何々……うん、それはちょっと私でも怒るよ。仮にその人が目の前に居たらゴリアテ着てサドンインパクトを両手でぶち込んでたところだね、あはは。
「おい、坊主のやつ……夜嵐、だったか。俺、お前になんかしたか」
「イヤぁ申し訳ないッスね、エンデヴァーの息子さん。俺はあんたらが嫌いだ。その目、おんなじなんスよ、エンデヴァーと」
轟くんの質問に、棘ありまくりの口調で答える夜嵐くん、彼に発言の真意を聞く前に、ベルが鳴り響いた。始まったんだ、演習が。夜嵐くんはそれに顔を笑顔に変えて士傑の方に戻っていく、残された轟くんは、複雑な顔をしていた。
楪ちゃんの信頼が揺らぎかけるデクくん。重なると峰田くんと同じ扱いになるかもしれない。切島君だったら多分真正面から胸を揉んだとしても許してくれるくらいには信頼してる。そこを目指すんだぞデクくん。事故だったら無条件で許してくれるぞ!というか気にしない。
お肉先輩が仮に楪ちゃんの前で爆豪くんにあーだこーだ言ったら間違いなくキレます。お肉先輩がビームで丸焦げになってサドンインパクトが乱舞してミイラマンになります。よかったなお肉先輩。
では感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ