「では、講評だ!まず今回のベストは楪少女と切島少年の二人だな!理由はわかるかな!?」
「あれ?楪さんだけやないんや」
「はい、オールマイト先生!」
「うむ、では飯田少年!」
瀬呂くんを拘束していた拘束具を引っこ抜いて回収し、帰りながらばりぼりと口に収めながらモニタールームに帰ってきた。轟くんは一人でさっさと帰っちゃったし、どうやら壁を2枚突き破ったせいで気絶しちゃった障子くんに肩を貸しながらにやり過ぎたわと謝ってるえーくん。瀬呂くんは私がかじってる拘束具を見てうまいのか?と聞いてきたけど驚くほどまずいよと返したら食わなきゃいいのにって言ってた。こういうのをケチらなきゃいけないの。食べなきゃ材料が底をつくんだよお……。
そんな感じで講評タイムに入る。私より目線がちょっと低いオールマイト先生の隣に並ぶ、凄いなオールマイト先生、おっきい。身長の高さで言えば私の方が高いんだけど、筋肉とか溢れる力強さとか安心感とか……人としての大きさが全身からにじみ出てる。それに対して私は注目されてるのが恥ずかしくてぷしゅ、と耳あたりから放熱してしまう始末だ。でも私の隣に並んだえーくんが誇らしげなのを見て少しうれしくなる。初訓練にして初勝利、これは嬉しい。
そして私たち二人がベストだった理由、正直私にはわかんないや。ヒーロー側の勝利条件を一つ潰したっていうのだったら私だけになるはずだし、無力化数だったら障子くんと轟くんを拘束したえーくんになるはず。だからどうして、二人なのか。是非とも気になる。手を挙げたのは八百万さんと飯田くんの二人、八百万さんはさっき答えたのでオールマイト先生は飯田くんを指名した。
「二人がベストな理由、それはチームワークの巧みさであると思います。轟君の個性による制圧を逆利用して油断を突き、身体能力が一番高かった障子君を別の部屋に分断して拘束、残った瀬呂君を同時に拘束することで瞬時に形勢を逆転させました。また轟君の個性を受けても問題ない楪さんが残ることで障子君を拘束する時間を稼ぎ、さらにはもう一度奇襲をかける隙を作る。完成されたコンビネーションだと思われます」
「むぅ、またしても思ってたより……ごほん!飯田少年の言う通りだ!もっと言えば轟少年への対処も素晴らしい!切島少年の個性をうまく利用して切島少年に当たっても問題ないが轟少年が当たったらまずい攻撃で逃げ場を塞ぎ、状況判断を鈍らせたうえでの拘束!初めての訓練とは思えないほど素晴らしいぞ!高得点だな!ところで楪少女、核爆弾の起爆解除なんてどこで知ったんだ?」
「今時爆弾の起爆装置の構造なんてネットの深いところに転がってますよ」
「現代社会の闇!」
「……冗談です、メカジョーク」
「だからお前の冗談は冗談じゃねーってば」
実はアルバイト先の粗大ごみ回収危険物回収の人がヒーロー免許持ってて色々扱いを教えてくれてるだけなんだけど。人気が出なくってヒーローからは引退したんだけど持ってる知識だけは本当だし……雄英を目指すって言ったら必要になるかもって教えてくれたのだ。ありがとう社長さん。でもなんで核ミサイルとかの図解を持ってるの?
はちゃめちゃだった緑谷くんたちの時とは違いある程度まともだった私たちの試合を見て他の人たちもやる気をあらわにしたみたい。皆ああすればいいのか、こんな感じで行こうかと他のチームの人たちにも火が入った様子。でもやっぱり、私は対人戦が苦手かもしれない。使える火力に上限が出ちゃうから、対ロボットにやったレールキャノンなんて使えるわけないし……課題、かなあ。
「楪さん、お疲れさまでしたわ。素晴らしいコンビネーションでした、切島さんも」
「うん、ありがとう八百万さん。八百万さんは……峰田くんとだよね?大丈夫そう?」
「ま、まあ峰田も訓練になったらまじめにやるだろ。何で入学2日目で頓珍漢なキャラになってるのかはしんねーけどよ」
「時々視線が怖いですわ……」
話題になってる峰田くん、どうにも男子から見てもその、えっちな方面にいろいろ傾きすぎてるらしい。昨日1日でそこまで知られちゃってるってことはそういうお話をしちゃったのかな?もしかしてヒーロー科ってみんな濃ゆいのかなあ?私は自分を棚に上げてそんなことを考えつつも、次の試合を観戦するのであった。あ!次三奈ちゃんだ!がんばれー!
「ん、希械どこに行くんだ?反省会やってこうぜ」
「あ、うん。ちょっと相澤先生に用があるから職員室に行くの。アルバイトの事、出来ないと私の個性弱くなっちゃうし」
「あー、そういうことかあ。オッケー教室で待ってるわ」
授業を終えて、ヒーロースーツから制服に着替えた私たち。教室の中ではそれぞれが今のヒーロー基礎学の反省会を行っていた。私もそうしようと思ったんだけど、相澤先生にアルバイトを続けていいか確認しないといけなかったので一旦教室を出ることにする。クラス全体でやろうと飯田くんが張り切ってたんだけど轟くんと爆豪くんは帰っちゃった。
引き止めたえーくんは残念そうで、私も爆発のこととか聞きたかったからちょっと残念。とりあえず行こうかなと教室のドアを開けるとぽふり、と胸に衝撃が。別に痛くもかゆくもないけど相手はそうかもわからない、首を下ろして見下ろすと私の胸に激突したのは緑谷くんのようだ。彼の手はやはり重傷だったらしくギプスで固定されて吊られている。うわあ、痛そう……
「ゆゆゆゆ楪さん!?ごごごめんなさい悪気はなかったんです!」
「あ、だめだよ腕動かしちゃ!私こそ確認不足でごめんね。腕は痛くない?私鈍くさいし痛覚も鈍いからぶつかっても気づけなくて……」
私の胸に顔を突っ込んだことの情報がようやく処理出来たらしい緑谷くんが飛びのいて腕をぶんぶん振って謝ろうとするもんだから私は逆に距離を詰めて彼の手をできる限り優しく抑える。骨折してる腕を動かしちゃだめだ、うんでも元気そうでよかったなあ。緑谷くんが帰ってきたことに気づいたえーくんや三奈ちゃん、麗日さんに飯田くんが団子のようになって彼に口々に色々いう。そこでようやく再起動した緑谷くんは爆豪くんの事を尋ねる。帰っていってしまったことを言うと緑谷くんは一言謝って駆けだしていった。
緑谷くんと爆豪くん、この二人にはどうやら私たちの考える以上に複雑な事情があるのかもしれない。深入りするべきではないかもしれないけど、心配だ。とりあえず私は走っていってしまった緑谷くんに続いて教室を後にする。本来の目的である相澤先生の所に行かないと。
雄英高校は大きい、普通科、ヒーロー科、サポート科、経営戦略科などのたくさんの科がある、よって校舎も大きい。私たちのクラスから職員室までもそれなりの距離がある、私は速く用事を済ませて反省会に参加したかったので少し早歩きで通り道である下駄箱前を横切ろうとしたら、緑谷くんが何かを話しているのが聞こえた。その内容の衝撃具合に、思わず足が止まってしまう。
「この、個性は……人から授かった個性なんだ」
えっ?息をのむ。だって、個性は自分のものだから、他人に渡したり奪ったりできるものじゃない。ましてや自分の力を渡すだなんて、もっとあり得ない。そもそも個性の譲渡なんて夢物語のはずだ、極めて不可能そのもの。ひゅっと息をのむ、繋がった、繋がってしまった。
緑谷くんの個性発動時に観測したエネルギーとオールマイト先生が纏ってるエネルギーの同一性にすぐ行きあたってしまった。緑谷くんと爆豪くんはまだ何かを言い合っているようだけどもう私には聞こえない。下駄箱を背にずるずると座り込む、幸い誰もいない。ヒーロー科以外の下校時間はとっくに過ぎてるから。これを聞いてしまった、聞かれてしまったらとんでもないことになる。
いつの間にか爆豪くんはいなくて、代わりにオールマイト先生が緑谷くんと話し合っていた。話したのか、とオールマイト先生が言ったとたんに私の推論が真実だということに行きついて、もう耐えられなくなった。音を立てないように立ち上がって二人に気づかれないように私は足早に職員室に向かう。この話は絶対誰にも話せない。緑谷くんの個性がオールマイト先生のものだったなんて、誰にも言えるもんか。
「失礼します……」
「お!なんだA組のリスナーじゃねえか!どうした?なんか元気ないな!」
「あ、いえ……今日初めての訓練でオールマイト先生と一緒だったと思うと……なんかどっと疲れちゃって。機械だから疲れ知らずが自慢なんですけど」
「精神面っていうのは馬鹿にできないもんだぞリスナー。体と心のバランスだ、今日は帰ってゆっくり休むといいぜ?それで職員室に何の用だ?サインなら明日にしてやるから」
「あ、いえ相澤先生に用がありまして……いらっしゃいますか?」
同級生と平和の象徴のとんでもない秘密を知ってしまった私がほぼ満身創痍で当初の目的を果たそうと職員室のドアを開ける。流石にあんなことをほとんど盗み聞きに近い形で知ってしまった直後なので動揺が顔に出てたらしい、背の高い私を下からのぞき込むような形で明るく心配してくれたプレゼントマイク先生にお願いして相澤先生を呼んでもらう。
「おいイレイザー!お前のクラスのビューティーなリスナーがご指名だぞ!」
「マイク、声がでかい。なんだ楪、下校時間は過ぎてるぞ」
「えっと、その……少し相談がありまして、お時間頂けたらなと」
「……少し待て。談話室の3番で待ってろ」
「え、あの別にそこまで大事な話じゃ」
「いいから待ってろリスナー。俺たちはヒーローだが教師なんだよ。相談って言われたら本腰入れるのが仕事だ」
「その、はい……」
どうしよう、ただのアルバイトの許可が欲しいだなんてとても言いづらい。他の先生方も私が大きくて目立つものだし、さらには入学2日で相談なんて持ちかけるものだから何かあったのかととても心配そうにこっちを見ていて思わずいたたまれなくなってしまう。違うんです、アルバイトを続けたいだけなんです。個性に使う素材を取り込みたいだけなんです、口を使わずに。さっきとは別の意味で緊張してきた、どうしよう。
言われた通りに職員室の近くにある談話室、複数あるうちの3番の部屋の中に入って待つ。えーくんたちに時間かかるかもしれないから先帰っててってメールうっとかなきゃ。と自分の携帯を個性で電子的に操作してメールを二人に送信する。既読着いたから多分大丈夫。少しして相澤先生と、なぜかプレゼントマイク先生が一緒に入ってきた。どうして?
「マイク、お前は別の仕事が入ってるだろ。すまん楪、待たせたな」
「目の前で相談だの言われたら聞いてやるのがヒーローだろ?ああ、聞かれたくないなら出てくぜ?」
「ごめんなさい、お騒がせして。その、相談というのは……アルバイトを続けたくて……」
「アルバイトぉ!?リスナーお前中学の時から働いてたのか!?」
「バイトか、理由は?」
「先生方は、私の個性ご存じですよね?私は素材を取り込んで、機械に変えます。だから、素材を集める為に粗大ごみや危険ゴミの処理のアルバイトをしているんです」
私は八百万さんみたいに脂肪から何かを作るとかそういう器用な個性じゃない。鉄が必要なら鉄を取り込まないといけないし、絶縁体に半導体など機械に必要なあらゆる素材がないと私の個性は一気に弱体化する。武器を作った後使い終わったら出来るだけ回収して食べるのもそういう理由からだ。体内で合金を作ったりは出来ても元の元素は作れない。酸素があってもそれを鉄にしたりなんてのは不可能だ。
私がアルバイトをしている、というとプレゼントマイク先生は驚いたようで素っ頓狂な声をあげている。確かに国立の雄英に通う生徒、偏差値79という圧倒的な数値を持つこの進学校で苦学生は中々見ないのかもしれないがそんなに驚くことなのだろうか。それとも理由が理由だからなのだろうか?
「基本的に雄英がアルバイト厳禁なのは分かってるな?特にヒーロー科はそんな時間一切ないぞ」
「はい、実感してます。ですけど素材がないと私の個性は弱くなるばかりです。リサイクルにも限度が……」
「だろうな……金が目的なわけではないんだな?」
中学3年間で貯めた素材貯金は膨大だけど、それこそ湯水のように使うわけにはいかない。特に今日のガトリングでゴムの在庫は目減りしてしまっている。ゴムは特にまずいので好き嫌いしてたらこれだ、だめだね選り好みしてたら……。ただ、お金目的ではないのはそうだ。お金は全額お母さんに預けてるし私はお小遣いだけでやりくりしてる。お弁当とかの食費もお母さんに申請して買ってるくらいだから、アルバイト代は使ったことない。
「お金目的ではないです。というかアルバイト代は全部両親に預けてるので使ったことなくて……」
「そうか……わかった。結論だが、アルバイトを続けることは許可できない」
えーーーっ!?流れ的に許可をするべきでしょうそれは!と思ってしまったが何か続きがあるようだ。マイク先生が内線でどこかに連絡しているので続きがあるのだろう。マイク先生の連絡が終わってぐっとサムズアップをしている。それを見て頷いた相澤先生が続けて口を開いた。
「代わりに、もっといい素材を提供してやる。サポート科にいくぞ」
悲報 楪少女秘密を抱える。
メカジョークを考えるの難しいですな……
感想評価よろしくお願いいたします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ