71話
「ケ、ケンカして謹慎!?デクくんと爆豪くんが!?」
「らしいぜ?俺も朝聞いて驚いたんだ。だからホレ、寮内の共有スペースの掃除させられてんだとよ」
「私が朝クロワッサンを焼いている時にそんなことが……」
「お前もお前で何してんだよ。なんかいい匂いするなって思ったらそういうことか」
「えーくんも欲しい?」
「食う」
翌日の事、朝ごはんにメープルクロワッサンを焼いて、ベーコンエッグと共に自分の部屋で堪能した私が制服に着替えて共有スペースにおりていくとなぜか普段着の爆豪くんとデクくんが朝ごはんもそこそこに掃除機で共有スペースを掃除していたので先におりてきていたえーくんに話を聞くと、なんと昨日の夜に爆豪くんとデクくんが本気でケンカをしてしまい、相澤先生に寮内謹慎を言い渡されたのだそうだ。
爆豪くんが合格できなかった腹いせに……なんて浅い考えを持つ人はこのクラスにはいないので、きっと何か理由があるんだろう。えーくんがいうには殴り合って深まる友情というものがあるそうなのできっとそのたぐいじゃないか、って。なるほど、そういうのもあるのか……。
「うわー、希械ちゃんいい匂いする~」
「焼き立てのパンの匂いだ~甘くて香ばしい~」
「ふふ、いいでしょ。教室についたら分けてあげるね」
くんくん、すりすりと私の服についたクロワッサンの匂いにつられた三奈ちゃんと透ちゃんが私の匂いを嗅いでいる。ちょっと恥ずかしいけど今朝のクロワッサンは自分でもガッツポーズの出来だったので数に限りはあるけど学校に持っていくことにしたんだ。ああ、でも爆豪くんとデクくんはここに居るんだった。
硬質な音を立てて急いで階段を昇り、自分の部屋から夜に食べようと取り分けて置いたクロワッサンの籠を取ってくる。まだほんのり暖かいそれを共有スペースのリビングに置いて、掃除をしているデクくんと爆豪くんに話しかけた。
「じゃあ、これおやつ置いておくね。ケンカした後なんだから、仲良く分け合って食べること!ね?」
「うん、ごめんね楪さん」
「ああ!?んでこんなクソデクと仲良く分け合いっこしなきゃなんねえんだよ全部俺が食うわ!」
「爆豪くん?」
「……ケッ!」
「よろしい。それじゃあ、お掃除よろしくお願いします」
爆豪くんが一回反発するのは分かってたので、改めて圧をかけると顔を逸らして舌打ちした。むむ、まあ態度は悪いけどこれは了解のポーズだね。私もだんだん爆豪くんを理解してきた気がするよ~。
始業式への移動途中でB組の物間くんに会って、B組が仮免試験に全員合格したという祝福すべき事実を教えてくれた。私はそれを素直に喜んでたんだけど、なんか最近の物間くんは私に対しての悪口のキレというか、挑発の度合いというか、B組の自慢というかそういうもののレベルが低くなったというか、なんか乗り切れてないというか、そんな感じがする。なんか言おうとして慌てて口を押えてたし。B組の女の子たちが今にも物間くんを袋叩きにしそうな視線がちょっと怖い。拳藤さんだけじゃなくて全員が手刀構えてたし。
多分私のせいなんだろうなあ。物間くん、一回口が回りだすと自分じゃ止められないからきっと、ヤバい事言いそうになったら僕を止めろとかB組のみんなに言ってるのかも。B組をあげる発言をするならいいけど、B組の品位を下げちゃうのは僕の本来の目的じゃないとかそんな感じで。まあ、拉致の被害者が二人もクラスにいるんだから、発言も慎重になっちゃうよねきっと。
それで始まった始業式、校長先生のなが~~~~~~~い自分の毛質の話を聞いていると、すごく気になる情報が入ってきた。ヒーローインターン、名前から察するに職場体験のアップグレードバージョン?めっちゃ気になる!特に私職場体験が超中途半端で終わっちゃったから経験が少ないの!情報!情報頂戴!
「寮のグルルルッ!バウバウ!アオーーーーン!!」
「ぴゃっ!?」
「えー、昨晩ケンカした生徒がいましたが節度を持って譲り合い、生活してくださいとのことです」
「な、なんだ……ハウンドドッグ先生か」
ヒーローインターンについて考えるのに夢中でいきなり響いた猟犬のような吠え声に私は肩をビクッと跳ねさせる。慌てて壇上を見ると肩を怒らせたハウンドドッグ先生をブラドキング先生が宥めて意訳をしているところだった。興奮すると人語を忘れるんだったねハウンドドッグ先生、ってことはデクくんと爆豪くんにそれだけ怒ってるんだ怖い。私は冷や汗を背中にかきながら、始業式を終えるのだった。
「じゃあまあ、今日から通常授業を再開することになる。色々あったが学生の本分を全うしてくれ、訓練は明日からだ」
「あの先生、少しいいかしら。校長先生のお話に出ていたヒーローインターンってどういうものか、聞かせてもらえないかしら」
始業式を終えてホームルーム、相澤先生が注意事項と連絡事項を伝え終えたタイミングで梅雨ちゃんが挙手をして、みんなが気になっているであろうヒーローインターンについての説明を求める。皆もその話題が出てやっぱり気になっていたのかざわざわとヒーローインターンの正体について騒がしくなる。それを一睨みで黙らせた相澤先生が首に手をやりながら説明をしてくれる。
「まあ、今話しといたほうが合理的か……平たく言うと校外でのヒーロー活動、以前行った職場体験の本格版だ」
「え!?体育祭の頑張りは何だったんですか!?」
「そこもきちんと関係がある。これは体育祭で貰った指名をコネクションとして使う。つまり指名がなければ活動自体が難しいんだ」
なるほど……つまり、仮免の免許を前提としてセミプロとして本当にヒーロー事務所で働くことを言うんだ。何それ凄い!私絶対やりたいよ!というか職場体験をやらなかった分絶対やらなきゃいけないやつだ!絶対私を先に進めてくれると確信した!今はまだ先生方は協議中みたいだけど許可が下りたら一番に申請に行かなきゃ!そのために今日から指名を貰った事務所のリストアップから分析してどこに行くか決めておかないと!
「とりあえず今日は授業に集中しろ、きちんと後日に改めて説明する。じゃあマイク、待たせた」
「オゥケェイ!エヴィバディハンズアップ!今日は盛り上がっていくぜ!置いて行かれないように死ぬ気でノート取れ!」
「楪、ちょっと」
「あ、何でしょうか相澤先生」
「この後、ヒーロースーツ持って運動場γに来てくれ。お掃除だ」
「分かりました~」
午後のホームルームを終えて、みんな寮に帰ろうというタイミングで相澤先生が話しかけてきた。お掃除ということは心操くんの特訓ですね?了解ですとも。ちなみに本当にお掃除というか廃材処分の時もあるので動きやすいヒーロースーツで行うことも間々ある。えーくんとかが手伝ってくれたりしようとするけど、専門知識があるサポート科と一緒にやるから大丈夫だよ~と断っている。割とマジで危険物扱ったりするからね、危ない。
えーくんたちも私の個性関係なので無理に手伝おうとはしないし、彼らにも彼らでやりたいことが毎日あるんだ。私に付き合わせてばかりでは可哀想だし。ちなみに私はこれが強くなる手段なのでやめるつもりはありません!しかし運動場γかあ……職場体験明けで救助レースをしたところだね。そんな広い所を抑えるなんて相澤先生、本気だ。
寮でね~とみんなと別れた私は、運動場γの更衣室へ直行、さささっと着替えて、さらにボックス懸架用のベルトいっぱいに超圧縮した兵器を配置して準備完了……なんかちょっと胸きつくなった?いや気のせいだ、そうに違いない。まさか太った……?え?こんなに動いてるのに?毎日腹筋も背筋も欠かさず行っているのに?か、帰ったら体重計に乗ろう……!いつも通り青メッシュを髪の毛に入れて、両目を出してよし!
「お、やっほー心操くん」
「ん、ああ楪……何その恰好!?」
「え?私のヒーロースーツ……あ、そっか見せるの初めてだったっけ」
既に運動場γに来てウォーミングアップをしていたジャージ姿に捕縛布を首にぐるぐる巻きにした状態の心操くんが私を見て物凄く驚いている。そういえば心操くんの特訓の時はずっと私もジャージだった。相澤先生が私に心操くんの特訓でヒーロースーツを着用するように言うのは確かこれが初めて……あれ?今日何かある?
「よし、時間前だな。で、だ。今日楪にこんな仰々しい恰好をしてもらったのには理由がある」
「はい」
「今日はお前ら二人で模擬戦を行う、心操、お前が夏に身につけたものを発揮しろ」
「俺が、楪と……?勝てませんよ、今は」
「現実を見据えるのはいいがな、勝つ気概くらいは言葉で見せろ。目は合格だ。楪」
「はい」
「手段を選ぶな、徹底的にやれ」
「……分かりました」
相澤先生から釘を刺されてしまった。正直、心操くんと私は相性最悪だ。私は基本洗脳は効かないし、身体性能に大きな差がある。だから、模擬戦と言われた瞬間に彼をどうやったら無傷で制圧できるかの手段を考えていた。だって、私が本気で対応したら怪我じゃすまない。マグネの腕を破壊したように、脳無を再起不能にしたように……私に手段を選ぶなということはそういうことだ。
だから、気づいた。相澤先生は、ここで壁を見せるつもりなんだ。私という現状では超えられない壁を、どうするかということを心操くんに求めてる。雄英高校のヒーロー科編入は2年生からだ、体育祭で認められてもそれだけのスパンが開いてしまう。1年の訓練の差は大きい、相澤先生が特訓できる時間も限られる。だからこそ、濃度を限りなく濃くする。そのための私だ。
「心操、手を選ぶな。全てをつかえ。楪から2分、逃げてみせろ」
「2分でいいんですか」
「私にとっては、2分もあるんだよ。心操くん」
私の見え見えの挑発にむっとする心操くん、そうそう、その顔だよ。デクくんと戦った時にしてたその顔。やっと私の前でも出してくれたね。通信機をセットして、私がスタート位置に移動する。制限時間は2分、入り組んだ隠れやすい地形である運動場γは逃げに徹する側としては有利だろう。相手が私じゃなければだけど。
「スタートだ」
「1回目、だね」
「なっ……!?」
相澤先生がスタートを出した瞬間に、ブーストを爆発させるように吹かした私が壁もパイプもすべてを突き破って、両目で常に捕捉していた心操くんをタックルするように抱きかかえて捕まえる。タイムは5秒かかってない。何をする間もなく、何もさせてもらえずに心操くんの1セット目が終了する。呆然とする心操くんを放す。
「呆けるな、お前が諦めない限り何度でもやるぞ。もう辞めるか?」
「……いえ!続けます!」
「……それでいい。楪、分かってるな」
「はい、加減はしません」
彼が本気で私に挑み続ける限り、私も本気で心操くんに対応しよう。いじめに見えるかもしれない、彼の心が折れてしまうかもしれない。だけど、彼ならきっと……さらに向こうへ、プルスウルトラしてくれると信じているから。
「ハァッ……!ハァッ……!クソ……!」
「ここまでだな」
「っ!いえ!まだやれます!」
「時間だ。今日はここまで。講評だが……期待以上だ。心操。よくここまで折れなかった」
「……え?でも俺、結局一度も……」
30回目の鬼ごっこに負けて、心操くんは息も絶え絶えに倒れる。私は本当に手段を択ばずに彼を追い詰めたので、オールレンジ攻撃にビーム、爆発……全部を使った。それだけの戦力差を見せられてもなお心操くんは一度も弱音を吐くこともなく何度でも立ち上がった。そして結局、私は彼の心を折ることが出来ずに、運動場の使用時間を終えたのだ。
「そうだ、お前は楪から逃げられなかった。だがな、それは当然の話だ。手段を選ばないこいつから逃げるのは、俺でも難しい」
「イレイザーでも……?」
「それが俺やお前、戦闘能力に直結しない個性を持った人間の宿命だ。俺は個性を消せるからまだいいが……お前の場合は初撃で通用しなければそれ以降は無個性として戦わざるを得なくなる」
「……そう、ですね」
相澤先生の指摘に心操くんは顔を伏して答える。心操くんは洗脳が効かなければその後は対策を取られてしまい大幅に有効性が落ちてしまう。その事実を突きつける相澤先生の声は、優しい。相澤先生の伝えたいことは、そこじゃないから、心操くんのいい所、個性よりも何よりも凄い所だ。
「楪のような天敵と、戦わざるを得ない時……必要なのはなんだと思う?」
「判断力、とかですか」
「諦めない心だ。今のお前のように、何度でもくらいついて活路を開こうとする心だ。体育祭の時の緑谷を思いだせ。マラソン、騎馬戦、バトル……腕を壊そうが何しようが諦めなかっただろう。今のヒーロー科にお前が追いついているところはそこだ。たとえ周回遅れだろうと追いつこうと必死に努力をする。その心を忘れるな」
「俺が……ヒーロー科に……」
「神野以降、動きに焦りが見え始めた。そのままじゃお前はどこかで壊れていただろうからな。荒療治だが、思いだせたか。お前の原点……オリジンを」
そっか、心操くん焦ってたんだ……動きからそれを見抜いて、心操くんの原点……ヒーローへの憧れを思い出させるために、徹底的に彼を追い詰めた。どこかで折れるかもしれないと相澤先生は思ってたのかもしれない。だけど心操くんは相澤先生の予想を超えて何度でも立ち上がった。
「憧れちまったもんはしょうがないだろ……お見舞いに来てくれた時、そう言ってたよね」
「……あ……!」
「お前は既にヒーローとしての適性を見せている。焦るなとは言わんが、この前のように倒れるまで無茶をするな。それが分かれば今日の特訓は満点だ」
「はいっ……!」
相澤先生の言葉に、目尻に涙を浮かべた心操くんがそう返す。ヒーローとしての適性がどうなのかは私にはわからないけど、彼のその心は、私にとっては眩しくて、ヒーローになるには十分だと、そう思えるものだ。絶対にヒーロー科に入る、その誓いを彼が果たすまで、そう遠くないのかもしれない。
あせあせ心操くん。というか絶対心操くんの性格上どっかで一回オーバーワークする(確信)戦闘能力だけなら超高評価な楪ちゃん。そして物間くん、悪口のキレが落ちる。流石に女子相手に精神を保てないだろうという判断です。
では次回から本格インターン!感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ