「では面接を始める」
「よろしくお願いします!」
大きめの事務机に腰掛けたサー・ナイトアイが私が提出した書類を一通り確認して頷きつつ、私に視線を戻した。かっちりと整髪料で固められ、メッシュの入った七三分け、眼鏡の下の眼光は鋭く、私の一挙手一投足を見逃さんとしてるように見えてしまう。
出勤途中だったらしいサー・ナイトアイとばったり事務所前で遭遇してしまった私はやばいやらかした!と滅茶苦茶焦りまくっていたのだが、むしろ早めに来たことは好印象だったらしく、事なきを得ることができた。案内されたサー・ナイトアイの事務室はいたるところにオールマイト先生のグッズやフィギュアが飾られ、完璧に掃除が行き届いてるように見える。というか埃一つかぶってない、すごい。
「まずなぜ私の事務所にインターンを申し込んだ?貴様ならもっと上の事務所からの指名もあっただろう」
「授業で身に着けた必殺技の強化をするためです。その必殺技には予測、観測、計算……単純に分けても1度に15行程ほどの作業を同時に脳内処理する必要があります。通形先輩の複雑な工程が絡み合う個性の制御を指導したサー・ナイトアイの下でなら私の必殺技の強化につながると思いました」
「成程、では次だ。お前はわが社に何をもたらせる?この事務所は既にサイドキック2名、インターン生1名で滞りなく回っている。貴様を入れて私の事務所にメリットはあるのか?」
サー・ナイトアイの鋭い質問、彼の厳しい目から絶対に自分の目を逸らさないようにする。逸らせば落ちると思え。インターンはお客さんじゃない、プロとして仕事としてのヒーロー活動をすることになる。その場合、私はこの事務所に何をもたらせるのか。私のもたらせるものはただ一つ、科学技術だ。
「そうですね、まず監視の目を増やすことができます。私は現在30程度の監視カメラであれば同時に脳内で処理して監視し続けることができます。現地でのサポートアイテムの修理、製造も可能です。こちらはすでにプロの免許を取得しています。デジタル的な処理もお任せください。それと……」
「戦闘能力が入っていないようだが?」
「仮免許を取れる程度の戦闘力があるのはインターンの前提だと思っています。確かに一番得意ですが、それ一辺倒ではないことを示せ、ということかと思いました」
「……イレイザーヘッドはいい教育をしているとみえる」
インターン生を受け入れての一番のうまみは単純に戦力が増えることだ。なのでそれは大前提として、そのうえで何をこの事務所にもたらせるのかという話だと思って、私が出来ることを列挙していく。私とハロの情報処理能力ならオールレンジ攻撃の応用でドローンを飛ばして町全体を監視することができるし、情報を纏めたりとかそういうことも得意だ。それを伝えるとサー・ナイトアイは首肯してくれた。どうやら正解を導き出すことができたらしい。
「では最後だ。私を笑わせてみろ」
「……サー・ナイトアイを、笑わせる?」
「そうだ。私の事務所の方針として「元気とユーモアのない社会に未来はない」というものがある。ヒーローとして、私はユーモアを何より大事にしている。オールマイトが、パワーとユーモアで世界に示したように」
元気とユーモアない社会に未来はない……オールマイト先生のサイドキックとして何年も共に活動した彼らしい信念だと思う。確かにウィットに富んだジョークや、余裕のあるユーモアをオールマイト先生は大事にしている。安心感をもたらして、人を笑顔にすることができるから。なら、サー・ナイトアイもそれを大事にしてるのは当然の話。
だけど、私にそれはちょっと難しいかな……いやメカジョークを言うという手段がないではないけど、彼のこの厳しい鉄面皮を見る限り、生半可なことで笑ってくれるとは思えない。どうやら時間を少しくれるみたいだから、私はその間に脳内の回転速度を脳無と戦った時並みに高速回転させる。笑顔……笑顔?サー・ナイトアイの笑顔……だめだ。私にはジョークやユーモアで彼を笑顔にすることはできない。それならば、私は、私らしくやろう。
ふぅ、と息を吐いてから掌を上に向けて、個性を使う。今回使うのは強化プラスチック、3Dプリンターの技術を応用して成形されたものに塗装を済ませ、机の上にことりと置く。それを見たサー・ナイトアイは目を見開いて両手でその物を手に取った。
「これは……!」
「私にはユーモアのセンスはありません。ですけど、人を笑顔にするのはユーモアだけではないことを知っています。私にできるのは作ること、私が作ったもので人を笑顔にすることが出来ればと……そう思います」
私が作ったのはオールマイト先生のフィギュア、それも市販のものではなく……期末試験の時に私と戦った時のオールマイト先生を完全に再現したものだ。顔の皴、筋肉の張り、ヒーロースーツの損傷具合、煤の尽き方、今にも動きそうなスマッシュのポーズで自立するそれをサー・ナイトアイは食い入るように見つめている。身長体重も再現した。これを何倍にも大きくすればそのままオールマイト先生になる。
私のその答えを聞いたサー・ナイトアイは静かに、それでいて丁寧に机の上にオールマイト先生のフィギュアを置くと、机の中から会社印を取り出して、インターンの書類にダン!と勢い良く押して私に返してくれた。その顔には薄く笑みが浮かんでいる。
「満点だ、楪希械。貴様をわが社のインターン生として採用する。詳しくは後程説明しよう」
「ありがとうございます!!」
「ところで、これはいつのオールマイトだ?私が持っているコレクションには既知の事件でこうなったオールマイトはないのだが」
「あ、それは雄英の期末テストで私と戦った時のオールマイト先生です。一番かっこいい所を切りぬかせてもらいました!最近のフィギュアだと顔の皴まで再現しているらしいので、クオリティに妥協はしませんでした」
「ああ、素晴らしい出来だ。特にこの今にも拳を放ちそうな躍動感あふれるポージング、まさにオールマイトそのもの。これは私がもらっても構わないか?」
「え、貰ってくださるのであれば是非!持ち帰っても友達にあげるくらいしかできないので……」
「では、遠慮なく」
おお、かなり気に入ってもらえたみたいだねオールマイト先生のフィギュア!机の中から取り出した薄手の白手袋をつけて大切そうにフィギュアが並んでいる強化ガラスのケースを開けて、卓上から一番画角的に映える場所に配置して満足気に頷いた。この執務室を見て気づいたけど、やっぱりサー・ナイトアイはオールマイト先生が大好きなんだろう。聞いた通りの重度のオールマイトファンっぷりだ。デクくんにも匹敵するだろう。ガラスケースに鍵をかけたサー・ナイトアイはそのまま執務机に座って、私に楽をする様に配慮してくれた。
「コーヒーでも入れよう。砂糖とミルクはいるか?」
「ブラックで大丈夫です。すいません、有難く頂きます」
「構わない。ここからは雑談なのだが……緑谷出久について君はどう思っている?クラスメイトだそうだが」
「デクくんですか?どうして急に……」
雑談、ということで厳しめの口調を少し崩してくれたサー・ナイトアイに聞かれたのはデクくんの事、どうして急にデクくんの事を……と考えたけどすぐに理由にたどり着く、ワンフォーオールのことだ。アポイントを取った日の朝、オールマイト先生と話した時にワンフォーオールの後継者についても揉めていることを教えてもらっていたんだ。サー・ナイトアイはデクくんが継ぐことに反対していて、通形先輩を後継者として育てているということも知った。
「実は君がアポイントを取る前にミリオから連絡が来た。緑谷出久という少年をインターン生として紹介したいと。君の面接をこんなに早い時間にとったのは彼の情報を聞きたいからでもある。何せ、体育祭では自損して自滅していたからな」
「ああ、ワンフォーオールをどこまで使えるか、ということですね」
「……貴様、なぜそれを知っている」
私が素のままに出した言葉に一気に警戒を強めたサー・ナイトアイ、手の中にとっても重そうな印鑑がコンニチハしてて、緩んでいた視線がとんでもなくつぶれそうなほどの圧を込めたものに変わる。ひぃー、もう何ステップか踏めばよかった。
「端的に言えば、私は協力者です。デクくんがワンフォーオールを使いこなし制御するためにサポートしています。当然オールマイト先生も御存知です」
「……私にはそれが正誤いずれであるかを確認するすべはない。だが、神野での貴様の行動を信じて話を進めるとしよう。緑谷出久はワンフォーオールをどれほど使える?」
「何もない状態であれば12%ってところですね。ただ、私ともう一人が開発したサポートアイテムを使えば最大36発まで100%での攻撃をすることができます。それに私個人としてはデクくんをとても好ましく思っています。私は彼がどれだけ努力をしているかを知っています。何もない状態からたった1年で、個性の制御を見出しつつありますから」
私の所感に、サー・ナイトアイは難しい顔で考え込む。正直、デクくんはかなり頑張ってると思うし、結果も伴っているはずだ。だって全く鍛えてない状態から1年で収まりきらねば体が破裂するほどのエネルギーの結晶を受け取り体に収めるレベルまで体を鍛え上げて、雄英に入学した後も一足飛びにワンフォーオールを使いこなし始めている。スタートダッシュが遅かった分追いつけてないかもしれないけど、進むスピードは段違いなんだ。
「……ミリオからも聞いている、私が好みそうな戦い方をする上に貴様ともう一人との組み合わせが厄介極まりなく、必殺技まで使わされてしまったとな。使えない人材ではないことは分かる」
「だけど、平和の象徴を継ぐべき人間かどうかは別、ですか」
「そうだ。オールマイトの意思には反してしまうが、やはりミリオが継ぐべきだと私は思う」
確かに、通形先輩がワンフォーオールを継げば、攻撃をすかしつつワープで移動し回り超パワーですべてを粉砕するスーパーヒーローが完成することだろう。だけどそれは机上の空論だ、まだ。透過という非常に難しい個性を使いつつ、失敗すれば自損しかねないワンフォーオールを同時に使うことが果たしてできるのか。透過する以上フルガントレットにも頼れない。
「……話はここまでだ。サイドキックが出勤してくる。君はヒーロースーツに着替えてきなさい。さっそく今日からインターンを行う」
「今日からですか?」
「もともと君の採用は決まっていた。人となりを知るために面接をしたが、少々気が小さい以外は十分だった。あとは働きぶりを見せてもらおう」
「分かりました!」
君のロッカーのカギだ、と渡されたカードキーを有難く頂いていると、執務室のドアがノックされる。サー・ナイトアイが入室を許可すると中に入ってきたのは青い肌をした女性ヒーロー、サイドキックのバブルガールだ。彼女は分厚い書類の束を持っていて、私がいることに気づくと笑顔で挨拶してくれる。私もそれに丁寧にお辞儀をして返礼をした。
「サー!ホシについての報告ですが……」
私は採用するというのを聞いていたのか、バブルガールはそのままつらつらと報告書の中身を報告していく。すると内容が1分を超えたあたりでサー・ナイトアイは
「バブルガール、いつも言っている通り元気とユーモアのない社会に未来はないと私は思っている」
「え!?あっ!ちょ、報告書長くて……やだ、やめてくださ―――」
さっきも私に言った方針を改めて口にしたサー・ナイトアイが持ってきたのは部屋の片隅に鎮座していたTICKLE HELLと書かれた機械、確かこれアナハイムが遊びで開発した罰ゲーム用くすぐりマシンだったはず。無駄に高性能かつ多機能なので警察で尋問用に導入しようかという話も出てたほどだ。結局犯人虐待になるから導入は見送られたらしいんだけど。
「サー!お伝えした1年生!連れてきましたよね!」
「いったいどんな!?」
「あ、デクくんに通形先輩」
「楪さん!?何が何だか!?」
「サイドキックのバブルガール、ユーモアが足りなかったみたいだね……!」
くすぐりマシンに囚われたバブルガールのプルスウルトラな笑い声が響く中、勢いよくドアを開けて入ってきた通形先輩と彼に連れられたデクくん。私は彼らにひらひらと手を振る。デクくんは私がいる状態に驚いて尚且つバブルガールの惨状にも驚く二重の驚愕顔を見せてくれる。なんか安心するなデクくんのその顔。日常って感じがする。
くすぐりマシンが仕事を終えても捕らえられたままのバブルガールは息も絶え絶え、というか半分昇天してる感じで沈黙している。大きな声が出るじゃないか、と言ったサー・ナイトアイは今度はギロリと音が出そうなほどの眼圧を込めてデクくんを見据えた。デクくんはそれに若干気圧されつつも、手で顔を隠していきなり
「緑谷出久です!よろしくお願いします!」
見事なほどのオールマイト先生の顔真似をして自己紹介をした。きっと通形先輩からユーモアの話を聞いていたのかな。それでこの一発ネタを仕込んできたんだ。凄いな、そっくりだデクくん。若干皴の形が違ったりするけどそんな細かいことを気にする人は早々いな――――
「オールマイトを馬鹿にしているのか?」
ここに居たんだった……!
ユーモアっていうのは人を笑顔にさせるためにあるわけで、という感じの考えの楪さん。メカジョークよりもこっちの方がらしいかなという意図です。
さり気にオールマイト厄介オタクのナイトアイに認めさせるフィギュアを作ることができます。便利な個性ですね、緑谷君に教えたたらなんて言うでしょうか
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