あっちゃー、と私は頭を抱えそうになる。ユーモアを大事にしているという話を通形先輩から聞いたのであろうデクくんはサー・ナイトアイを笑わせようとしてオールマイト先生の顔真似という選択をした。はっきり言えば滅茶苦茶よく出来ているんだけど相手が悪すぎた。だってフィギュアの顔の皴にまで言及するほどのオールマイトファンだ。ちょっと違うレベルで怒るに決まっている。
「貴様、その顔何のつもりだ。私を元オールマイトのサイドキックと知ってやっているのか」
TICKLE HELLの電源を切ったけど放置されるバブルガールに背を向けてつかつかとデクくんのほうに歩いてくるサー・ナイトアイ。私はもう逆鱗に触れた重症ファンの激怒というだけで恐ろしすぎて瞳の奥で私にヘルプコールを送っているデクくんを助ける余裕がない。ひ、ひ~~。フィギュアのクオリティに妥協してたら私がああなってたかもしれないんだ。うぅ……怖いよぉ。
「オールマイトにこんなシワはない!」
「ちょっ……待っ……!?」
グイ、とデクくんの顔を掴んで私も気付いていた顔の皴を指摘したサー・ナイトアイ。だけどデクくんもさるもの、彼がチョイスした顔は、ビネガースーサイド事件という川でおぼれた中学生の個性によって川がお酢に代えられてしまい、そこに飛び込んで救助したオールマイト先生の顔を再現したものだというのだ。今チラッと検索したけど本当にある!多分デクくんの中でその顔がオールマイト先生の顔の中で一番ユーモアがあったってことだよね?凄いなあ、私も練習しようかな、顔真似。
「……オールマイトのグッズだらけ……!あのフィギュアなんて見たことも聞いたこともないぞ……!?」
「あ、それさっき私が作ったの。袖の下ってやつ?」
「え!?楪さんそれちょっと詳しく!」
「今は面接でしょ?」
「そうだった!」
どうやらサー・ナイトアイもデクくんが重度のオールマイトファンだということをそこで理解したらしく、意気投合……とまではいかないだろうけど私には少し理解が難しいオールマイト先生の話を繰り広げだした。デクくんもそれでタガが緩んだのか何時もの高速トークを始めている。私は立ち尽くすしかない、通形先輩は笑い過ぎで顔がすごいことになってるバブルガールを救助している。
「全く不愉快だが、ミリオの紹介だ。面接を始めよう。ミリオはバブルガールを事務室に移動させて楪を更衣室に案内してヒーロースーツに着替えてくるように」
「あ、はい」
「元気がないな」
「イエッサ!!!!楪さん、案内するんだよね!」
笑い過ぎで動けないらしいバブルガールを背負った通形先輩は私に声をかけてくれる。私もヒーロースーツに着替えるようにとの指示を貰っているので、サー・ナイトアイに一回お辞儀をしてから荷物を纏めて退出することにした。デクくん、面接頑張ってね。私は応援することしかできないけど、オールマイト先生が認めた弟子は貴方だよ。きっと大丈夫。
「成程、良く似合ってるんだよね!」
「ありがとうございます。通形先輩も、カッコいいです」
「だろ!?」
割とくすぐり地獄はいつもの光景だったのか、事務室で事務仕事をしていたムカデが個性のセンチピーダーというサイドキックにバブルガールを託して更衣室に案内されて、私はそこで着替えを済ました。一応相澤先生に合格したこととこれからヒーロー活動をすることをメールで連絡すると、了解の返事が返ってくる。
先に着替え終えてまっていた通形先輩に謝って合流すると、彼はニカッと笑ってグッドサインをしながら私のヒーロースーツを褒めてくれる。通形先輩の胸元に100万の数字が書かれたヒーロースーツも、オーソドックスながらマントが映えるいいデザインだったので、私は同じようにグッドサインで褒めてみる。
「きっとそろそろ面接も終わってるんだよね!」
「デクくん、合格できてるといいんですけど……」
「大丈夫さ!サーは厳しいけど、嫌いだからとかそんな下らない理由で落としたりはしないよ!俺相手にあそこまでやれるんだったら平気平気!」
私の背中をバン、と叩いて励ましてくれる通形先輩。突入するときは元気よく派手に行くよ!と言われて二人でこのポージングだ!と言われてしまい、やらざるを得なくなった。中がどうなってるのか、デクくんの結果がどうなのか、不安で仕方がないけど……きっと受かってると信じて!
「失礼しまぁす!緑谷君どうでした!?」
バンッと勢いよくドアを開けた通形先輩と室内に侵入、鏡合わせのポーズをとってド派手に登場した私たちを迎えたのは……スツールに座って足を組むサー・ナイトアイと意外そうな顔で私を見るデクくんだった。うん、分かってるよ。私こんなことするキャラじゃないものね。でもね違うのデクくん。これは通形先輩がやるって言ったからこの事務所の流儀だと思って……。
「採用だ、ミリオ」
「わぁ!良かったじゃないか緑谷君!」
「とりあえず今日は一旦帰ってよく話し合ってくるように。貴様のインターンは明日からだ、遅刻厳禁。では、解散だ」
「よろしくお願いします!」
デクくんからハンコを受け取ったサー・ナイトアイはデクくんにつらつらと明日の集合時間等を口頭で説明してからそのまま退室を促す。私は先に何かやるらしいのでここでインターン開始です。少々焦った顔をしているデクくんを見送ってからサー・ナイトアイの指示を待つ。少ししてからサイドキックの二人が入室してきてサー・ナイトアイはそれに一つ頷いた。
「ではこれよりパトロールを行う。ルミリオンはエクスマキナと組んで周辺地域のパトロール、私とセンチピーダーはホシへの張り込み。バブルガールはルミリオンたちとは逆方向にパトロールだ」
「「「「はい!」」」」
「いい返事だ。ではルミリオンたちは正午に一度事務所に戻るように」
「了解したんだよね!」
「よろしくお願いします!」
私たちはサー・ナイトアイの号令で事務所を出発する。既に一人でのヒーロー活動を容認されているなんて通形先輩、やっぱりすごい人だ。尊敬しちゃうなあ。そういえばホシって確か警察の隠語で容疑者とか犯人って意味だよね?張り込みをしているってことは長期捜査だろうし……やっぱりプロは色々してるんだね。
「エクスマキナは、どういうヒーローになりたいの?」
「私ですか?」
パトロールの最中に、通形先輩にそう聞かれる。緑谷君にも聞いたんだ、彼凄くとんでもない目標立ててるね!と仰る通形先輩。パトロールは平和そのもので、ヴィランのヴィの字も見当たらない。そういえばこれが普通だったなあ、と濃すぎる前期のあれこれを遠い目をしながら思いだす。いやホント、入学してすぐヴィランが襲撃してくるわ、職場体験で凶悪犯に出くわすわ、旅行先でテロリストに会うわ、林間合宿で攫われるわ碌なことがなかったね!
「私は、そんな大それた目標は立ててないですけど……誰かの幸せを守ったりとか、誰かの盾になれるようなヒーローになりたいです」
「いい目標だね。俺もそうさ!ありったけ沢山、手の届く限り100万人だって救って見せる!それがルミリオンの名前の由来さ!」
胸を張って胸の100万の数字を示す通形先輩、なるほど……そんな意味がヒーローネームに込められているんだ……。レミオロメンみたいでカッコいいだろ、というけどそうじゃなくてもかっこいいと思う。確かにこの人、ユーモアがあるというよりは笑顔を絶やさない人で、その笑顔が周りに伝播していくっていう感じの人だ。ふふ、と私の顔も綻んでいく。
「きゃーーーっ!」
「エクスマキナ!」
「はいっ!」
ほっこりとした雰囲気が一変して鋭いものに変わる。白昼堂々の悲鳴、私たちは急いで現場に走っていく、するとそこには札束でパンパンになった鞄を背負って、子供の首に鋭くとがった針のような指を突き付ける男がいた。人質事件、おそらく銀行強盗の帰りだ。警察の姿はまだないが、背後の銀行は入り口のドアのガラスが割れている。中の人に怪我はないか……!?
「どけ!このガキの首から噴水が出ることになるぞ!」
「そこまでだ!子供を放して投降しろ!」
「ッチ、ヒーローかよ……!これが見えねえのか、ああ!?」
まずい、犯人は興奮状態だ。この場合、加害へのハードルがかなり低くなる。刺激したらあの子供が無事じゃすまない……!幸いまだ人質にされた子は状況についていけてないのか、きょとん、としている。投降を先輩が呼びかけてみるけど、子供を突き出したヴィランは先輩に人質を突き付けてそこから動かないように命令してくる。
やばいっ!状況を理解した人質の女の子の顔が歪み、じわ……と瞳が涙で飽和し始めた。数瞬もしないうちに泣いてしまうだろう。そうなれば余計に犯人を刺激してしまうことになる。私は一歩前に出て、通形先輩を私の体を遮蔽物にして隠す。
「子供を放してください。すぐに他のヒーローも現着します。逃げられませんよ」
「うるせえっ!こうなりゃヤケ……ごあっ!?」
「POWERRR!」
私の呼びかけに語気を強めて言い返してくるヴィラン、人質の子が恐怖に耐え切れず泣き出してしまう、と周りもハラハラとしている。犯人がヤケだ、と言った瞬間地面から現れた通形先輩のアッパーカットが顎に直撃して、たたらを踏む。先輩は同時に人質の子を奪い取ってこちらに下がってくる。
私は犯人に向かってテイザーディスクを発射し、犯人をスタンさせて無力化する。そして腰から圧縮ボックスを一つ取り出すと犯人に向かって投げる。ボックスはヴィランに当たった瞬間にメイデンと呼ばれる移動式牢に変形してヴィランを中に取り込んで完全に拘束した。この間約3秒、一瞬の捕縛劇に周囲の人たちはポカンとしている。通形先輩の片腕に抱かれた女の子も。
「確保完了です」
「ナイス!エクスマキナ!ヴィランから見えないようにしてくれたおかげでスムーズに確保できたんだよね!」
私が一回前に出たのは体の大きな私に注意を向けて通形先輩が自由に動けるようにするため。ヴィランから見えないように私の体で先輩を隠した。先輩はその意図を察知してくれて隠された瞬間透過で地面に落ち、ワープで救出、そして人質がいなくなればこっちのものなので私が逃げ出せないように拘束する。ここまでを無言でやり取り出来たのは通形先輩の経験のたまものだろう。
「トモちゃんっ!」
「お母さーん!うえええんっ!」
状況を理解した観衆たちが沸く中、周りの人に飛び出さないよう止められていたらしい女の子のお母さんが飛び出してくる。通形先輩はお母さんを見つけて本格的に泣きだしてしまった女の子をお母さんに渡す。警察のパトカーが鳴らすサイレンが近づいてきていた。どうやら先に通報をしてくれた人がいるみたいだ。自立して移動するメイデンを引き連れて、私は先輩の所まで歩いていくのだった。
「ルミリオン、エクスマキナ。よくやった。本日の銀行強盗の件、スピーディーかつ完璧な立ち回りだった」
「エクスマキナのおかげで被害は最小限に抑えられたんだよね!」
「いえそんな……私は何もしていませんし、確保したのは先輩です」
「俺一人だったらアレかなり梃子摺ったんだよね!人質を抱えながら殴り合いなんてもってのほかだし!透過したら攻撃が素通りするから周辺の人たちに被害が行くかもしれない!その点俺が人質を救出した後一瞬で拘束してくれたおかげで安全かつ素早く終わった!サー!?即戦力じゃないかな!?」
「そうだな、危機的状況化でも冷静で頭が回る、うちの事務所向きだ」
銀行強盗の件はすぐにサー・ナイトアイの耳に入ったのか、すぐに一旦事務所に戻る様に連絡を受けた。そして警察にメイデンとそのカギごと犯人を引き渡し、通形先輩と一緒に戻ってきた私を待っていたのは褒め殺しだった。違うんです、私は特に何もしてないんです、と言っても通形先輩に褒められる始末。と、とりあえず……インターン初日は、成功ってことで、いいのかな?
「希械ちゃん、ちょっといいかしら?」
「梅雨ちゃん?どうしたの?こんな時間に」
あの後事件も起こることなく、正午で返された私はそのまま寮にトンボ返りした。帰ってくる頃には銀行強盗の件はネットニュースになっていて、クラスのみんなにも心配されるわ褒められるわ大変だった。怪我一つしてないのにみんな心配性なんだから、爆豪くんすら確認に来たからね。信用ないなあ、私。
まあそれはともかく、私はクラスのみんなに先んじてヒーローデビューを飾ることが出来ました!というか何時のまに私と通形先輩の写真をとってた人がいるんだろう?私に気づかれないってことは相当だよね。その道のプロの人かなあ。それ以降は何事もなく夜になって、もうすぐ完全消灯時間。そんな夜遅くに私の部屋を訪ねてきたのが梅雨ちゃんだった。
「ケロケロ……少し恥ずかしいのだけれど、お泊りさせてもらえないかしら?私いつも弟妹と一緒に寝てたから……一人で寝るのに慣れてないの」
「え?私は別に大丈夫だけど……それだったら同じ階の百ちゃんとか……わざわざ下まで降りてこないでも」
「……希械ちゃんが、いいのよ」
くりっとした瞳で口元に指を当てながらそういう梅雨ちゃんに、私は首をかしげながらも部屋に招き入れる。そういえばいつでも遊びに来ていいよって言ったし、私がいいって言ったわけだから構わないんだけど……ベッド一つしかないよ?大きさが部屋の半分はあるから私ともう二人くらいは入れるだろうけど。
結局私は梅雨ちゃんの目的が何なのか分からずに、一緒に寝ることにした。ただ、彼女が一緒の布団に入った時、ずっと、寝てる間すらも私の手に自分の手を重ねてたことが、不思議だった。
梅雨ちゃんってかわいいよね。寮生活の回にあった梅雨ちゃんがみんなをを集めて自分の気持ちを吐露するやつとかマジで胸が締め付けられる。
さり気にナイスコンビネーションな通形先輩と楪さん。でかい体はブラインドとして最適。そして変態製品を作るアナハイム、いつも通り
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