「ではブリーフィングを始める」
「はい!」
「はいっ!」
翌日の事、ただ単に誰かに甘えたかったらしい梅雨ちゃんとお互いに抱き合った状態で目を覚ました私は、梅雨ちゃんより一足先に起きて朝ごはんを作ってから梅雨ちゃんを起こして、一緒に朝食を取り別れた。そのままデクくんと一緒にサー・ナイトアイ事務所に出勤した。梅雨ちゃんが実は甘え下手だったっていうのは初収穫だったかな。すりすりと寝ながら私にすり寄る梅雨ちゃんはとってもかわいかった。あと寝ぼけた状態の梅雨ちゃんも。
電車で通形先輩と合流してからサー・ナイトアイ事務所にやってきて、ヒーロースーツに着替える。センチピーダーは既にパトロールに出てるらしく不在、ナイトアイの執務室にて集合した私たちに号令がかけられて、私たちは背筋を伸ばして大きく返事をする。ナイトアイの後ろにあるくすぐりマシンにかけられるのは嫌だ。いや私ならかけられた時点で拘束ごとマシンを壊すことはできるけど、そういうのは違うだろう。
「では本日のパトロール兼監視だが、まず私とバブルガール、楪で監視を。ミリオと緑谷は周辺のパトロールだ」
「監視、ですか?」
「ナイトアイの事務所は今秘密の調査中なんだよ」
「死穢八斎會という小さな指定ヴィラン団体を調べている」
バブルガールが言うには、死穢八斎會の若頭「治崎」と呼ばれてる男が妙な動きを見せ始めているらしいとのこと。指定ヴィラン団体、昔々だと指定暴力団って呼ばれてたみたい。個性が出る前の呼び方ね。平たく言うならヤクザ屋さんってことか。でも過去に大解体をされているから軒並みそういう団体は今は潰れるか潰れないかギリギリで続いてるくらいの弱体化を食らっているはず。それが今、変な動きをしていると。
「最近はあのヴィラン連合と接触をはかったわ。顛末はまだ分からないけど、現場を見るに穏やかではなさそうね」
「ただ奴が何かを企んでいるという証拠をまだつかめていない。それがない限り死穢八斎會は黒に近いグレー、強制捜査などできない。我がナイトアイ事務所が狙うのはやつらの
「イエッサー!」
ビシッ!と敬礼をすると通形先輩をよそに、私とデクくんの表情はすぐれない。ヴィラン連合ときたか……!神野でのどさくさに紛れて姿を消したやつらの尻尾がつかめるかもしれない。その一助になれるなら、こんなにやる気がみなぎることはない。だって私は結局、あの人たちにはやられっぱなしなんだ。いつか絶対に100倍返しにしてやるって思ってたけど、可能なら捕まえたいな。
しとしとと小雨が降る中、私はバブルガールとナイトアイについて、死穢八斎會の本部近くまでやってきていた。なぜ身長が大きくて目立つ私をこっち側に連れてきたのかは分からないけど、役に立てるなら頑張ろう。とりあえず、ポンチョ型の光屈折迷彩を作って、被る。それを不思議そうに見ていたバブルガールが蛍光灯が付くような音を立てて周囲に消えていく私を見て驚いている。
「気づかれたらいけないようなので、必要でしたらどうぞ。周囲の光景に溶け込むことができます。最大稼働時間は5時間です」
「凄い、これ一つで潜入任務の難易度変わっちゃうわ……!」
「……これだけでも採って正解だったかもしれん」
顔のフードを脱いだ私が差し出した光屈折迷彩を受け取ったバブルガールとナイトアイはそれを被る、起動はオートなのでそのまま二人が透明となっていく。私にははっきりくっきり見えてしまっているんだけどね、光学的に透明になってるだけだから。いやホント、私にも知覚できないステルスシステムも開発しないとなあ。
そんなこんなでやってきたのは死穢八斎會の本部、一応ビルの路地裏から本部を見てみると……うわ、純和風建築のとっても大きなお家。ヤクザ屋さんってドラマとかフィクションの中ではお金持ちって印象だけど本当に現実でもお金持ちなのか。いい家住んでるなあ……ん……?あれ……??
「どうした、エクスマキナ」
「いえ、その地面に違和感が……これは地下道……?本部から無作為に伸びてる……?」
じーっと本部を見てたら何かがおかしいと思って、視界を切り替えて家の中まで透視する。高精密なレーダーの画像を脳内処理していく。間違いない、本部の真下から地下道が伸びてる……!これ無許可じゃない?ヤクザに国が地盤沈下の可能性があるあんな粗雑な地下道の建設を認めるわけがない。というかどこまで伸びてるの?私たちの下にもあるね?
「確定しました。本部から地下道が伸びています。それに既に何人かが地下にいます。流石に顔の判別まではできませんが……」
「ここ一週間いつもより人出が少ないと思っていたら、活動を地下に移してたのか……エクスマキナ、どこまで探れる?」
「マップを作成するまでは行けそうですけど……3時間は欲しいです。結構広いですし、何層にも分かれてまして……」
私は地面にしゃがみこんで地面に手を付ける。この下にも地下道が伸びているのでそこを起点として反響音で探るためだ。手から可聴域外の音を発して地下まで届かせ、地面越しに戻ってきた音を利用して物体の形を把握する。エコーロケーションによる反響視界はいつも透ちゃん相手にやってるんだけど、地面越しは初めてだからうまくいくかどうか……。
そうしているとバブルガールの電話がミュートで鳴り出した。それに出たバブルガールが話を進めていくうちに血相が変わる。私は一旦マップ作りを中断して立ち上がる、バブルガールは電話を繋いだまま
「ナイトアイ……!!ルミリオン、治崎と接触したらしいです……!」
「なんだと?いったん合流する。ルミリオンに指示を出せ。エクスマキナ、今はここまでとする」
「わかり、ました」
デクくんたちが治崎と接触した……!?ってことは本部にはいなかったんだ。しかも別の場所をパトロールしていた二人と接触するだなんて、そんなことがあるのかと思ってしまう。連絡が来たということは二人は無事なんだろうけど……ナイトアイに気づかれないように、ハロに接続したドローンを飛ばす。狙撃用に調整された高性能カメラを駆使して路地裏を探すと……いた。写真通りペストマスクをしているんだ、それと……小さな女の子……?あ、地下道の入り口がそこにあるのか、これ以上は追えないか……。
「すいません!まさかあんな転校生と角でぶつかるみたいに遭遇するとは思わなくて……!」
「いや、これは私の失態。事前にお前たちを見ていれば防げた話だ。無事で何よりだ」
指定した街角でデクくんと通形先輩と合流する。かなり焦った表情をしている二人を見てギリギリの攻防があったのだと察することができる。まさか追っている組織のボスが目の前にいきなり現れるなんて思えもしないよね……。
「そんな恐ろしい感じには……」
「……先日の話だ。治崎ら死穢八斎會が一つの事件に巻き込まれた。強盗団が人を巻き込みながらトラックで暴走していた事件だ」
「!レザボアドッグズですか?」
「そうだ。死傷者はゼロ。強盗団の連中も含めてだ。なぜか、事故で負傷したであろう以外の部分、持病のリウマチに虫歯……一切綺麗に直ってたそうだ。おそらく治崎の個性」
知っている、ネットニュースで事故った強盗団は無事だったのにお金だけ全部消えてしまった話。警察は現金は燃えたものとして事件性はなしと判断してるみたいだけど、サー・ナイトアイ事務所では怪しいと判断して本格的にマークを始めたんだ。これがプロの眼力……!
「怪我の功名というのは少し違うんですけど……さっき確認できました!治崎には娘がいます!」
「エリちゃんって呼ばれてました。とてもおびえてて……助けを求めてた。手足も包帯がグルグル巻きで……!」
「もしかして、この子?」
「そう!楪さんどうしてこれを……!?」
「さっき通形先輩から連絡を貰った時、ドローンを飛ばして上空500m地点から観測して見つけたの。すぐに地下道に潜っちゃったから追えてないんだけど……」
通形先輩とデクくんから治崎には娘がいる、という話が出た。私は隠しておく意味はないと感じてすぐさま立体投影で上空からドローンで撮影した治崎とその娘、エリちゃんの画像を呼び出した。ナイトアイとバブルガールはその画像を食い入るように見つめた後、ため息をついた。
「どうにか……保護してあげられていたら……」
「傲慢な考えをするんじゃあない。事を急いては仕損じる。焦って追えばますます逃げられる、救けたい時に救けられるほど貴様は特別でもない」
「そんな……」
「それができるのは……オールマイトのような圧倒的なものだけだ。そうではない我々ができるのは分析を重ね、準備をし、万全な状態で挑むこと。志だけで救けられるほど、今の世の中は甘くない」
ぐっ、とデクくんが息をのむ。きっと保護できなかったから、救けられず、そのまま見逃してしまった後悔が今彼を苛んでいる。デクくんにとっては一番つらいことのはずだ。だってそれは、目の前で攫われた爆豪くんと重なるだろうから。また……神野みたいに無理やり助けに行ったりとかしないといいのだけれど。もしそうなってしまうようなら私が止めよう。きっと、相澤先生もそういうだろうから。
「真に賢しいヴィランは闇に潜む。時間をかけねばならなければならないこともあると心得ろ」
「とりあえず、今日は二人とも事務所に戻って。サー、エクスマキナはどうしますか?」
「……エクスマキナは引き続き私たちと監視だ。気づかれないように地下道の様子を探ってほしい。それと上空からの空撮はいい判断だった。だが、次からは報告をする様に」
「はい、申し訳ありません」
「……すいません、やっぱり道路の上からだと精度が著しく落ちます。地下道なのか下水道なのかは判別できないです」
「いや、十分だ。後でHNでこの近辺の下水道の通り方と照合して地下道がどれかを絞る。よくやってくれた」
「はい……あと、これ、この近辺で地下道の入り口かもしれない場所を、さっき治崎が入っていった入り口と照らし合わせてマッピングしました。ただ……こっちもやっぱり絞り切れていないです」
事務所の執務室内にて、私はサー・ナイトアイと一緒に本日あったことを整理して書類に起こしていた。あのあと死穢八斎會の本部近くまで戻った私とサー・ナイトアイ、バブルガールは監視を続けたけども、結局そのあと死穢八斎會に動きはなかった。反響定位でのマッピングも空洞が下水か地下道かを判別することは潜ってみない限り難しいので、作成したマップはまるで幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣みたいな感じになってしまっている。
ただ、下水道がある高さの下にある物がそうなんじゃないか思ってる。そこは深すぎて何かがあるとしか分からなかったけど。うーん、直接ミニロボットか何かを侵入させることが出来れば完璧なマップを作ることができるんだけど、死穢八斎會はまだ指定ヴィラン団体なだけでヴィラン確定じゃない、つまり捜査権限がないのでそこまでは踏み込めなかった。
あとは半径1キロ圏内の地下に繋がっている構造物をリストアップしてマップに表示してみたけどどこまで役に立てるか……真に賢しいヴィランは闇に潜む、オールマイト先生が言った通りだった。エリちゃん……あの白い髪の小さな女の子、目が……まるですべてを諦めているかのように伏せられていた目が、私を捉えて離さない。
なんで助けてくれなかったの、どうして私を放っておくの……そう言われているようにしか思えない。分かってる、勝手な妄想だって。だけど、裸足で、あんな病院着より薄い襤褸切れみたいな服で……必死に逃げ出したに違いないんだ。あの小さな体から勇気を振り絞って。絶対助ける、そのためならなんだって調べてやる。
「本日はこれで終了とする。ミリオと緑谷と合流して帰宅するように。君のおかげで捜査はかなり進展した、気を落とすな」
「分かりました。ありがとうございます」
データの整理が完了したので、業務終了がナイトアイから告げられる。報告書は既にデータで作っていたのでナイトアイに転送済み、私は私が見てもいい資料と本日分かったことの整理をお手伝いしていたわけだ。こういうことならお任せあれ、って面接でアピールしたからね。ああ、もやもやする。こんな気持ちを捜査中のヒーローは抱えてるのかな、救けられたのに、見逃さざるを得なかっただなんて。
沈んだ顔をしているデクくんと通形先輩と合流して電車に乗る、きっと二人も同じ気持ちなんだ。だけど、これも一緒だよね。絶対に次こそは救け出す、気持ちを重ねて前に進んでいこう。
死穢八斎會編は大幅に原作から変えるつもりです。それがどういった内容なのかはまだ内緒ということで。
一家に一台楪さん、何でもできて便利ですね。ではでは次回にお会いしましょう。感想評価よろしくお願いします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ