個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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78話

 むしゃくしゃする、とは少し違うか。イガイガする?チクチクする?何とも表現しがたい感情が私の中に渦巻いている。端的に言い表すならば、しこりが残った。週明けの今日、授業に集中できない私は筆記を取りつつも、頭の中ではインターンのアレソレだけが残り続けている。

 

 あの後個人的に画像の解析を進めていたんだけど、女の子……エリちゃんの腕や足の包帯の下は恐らく虐待痕ではなく、もっと別な洗練された医療器具による傷の可能性が高い事に気づいた。痣がない、腫れもない……注射やメスなどの傷を隠すために巻いてるのかもしれない。治療痕かと思ったけど、それにしては元気に動けている。皮膚病?手足だけに……?謎が深まるばかりだ。

 

 こういう時に頼れるのはえーくんだけど、彼は喜ばしいことにファットガムにインターンを受け入れてもらえて今絶賛大阪にいる。机に突っ伏す私を撫でる三奈ちゃんをありがたく思いつつも、私はこう思うんだ。このままではいけないと。

 

 授業は精彩を欠いた。というか私よりもひどい人がいた、デクくんである。授業では当てられた問題を答えられず、USJではおぼれ、対人訓練では身体能力は一般人の透ちゃんにやりこめられる始末。相澤先生に捕縛布で釣り上げられて、両立できないなら辞めさせるとまで言われてしまった。私も爆豪くんに爆破されて黒焦げになったし、うぅむ。よくない!

 

 

 「こういう時は、お料理に限る!」

 

 もやもや気分を吹っ飛ばせ!と冷蔵庫をのぞいてみる私であるが、週明けにも関わらずすっからかんだった。そういえばインターンで買い物に出かけられてないんだった……ぐすん、何もないとわかると急に切なくなってお腹がすくよね。不思議だなあ人体。私は半分機械だけど。

 

 ナイトアイからは暫く忙しくなるのでインターンは少し先になるというお話を貰っている、急に呼ばれたりする可能性もあるが……プロが仮免の人間を引っ張り出すということはよほどの緊急事態のハズ、つまり既にニュースとかで流れる可能性が高い。今のところそういうのはないのでお出かけしても大丈夫だろう、そうつまり……お買い物に行こう。

 

 雄英近くのスーパー、というか繁華街。カラオケもゲームセンターもコンビニもなんでもある所まで私は制服姿のまま歩いていくことにした。そういえばお休みじゃない日にお買い物行くなんて初めてだ。いつもは基本纏めて買って冷凍して都度解凍してお料理してたから。ちらほらと周りには雄英の制服を着た人たちがいる。多分普通科とか経営科の人たちかな。ヒーロー科やサポート科は忙しいからあまり遊び歩いたりはしないし。

 

 私の目的はいつものスーパー!ではなく、商店街。最近気づいたんだけどこの近くの商店街大型スーパーがあるにもかかわらず結構賑わってるの!しかも、お野菜にお肉、お魚に至るまで珍しいものからメジャーなものまで取り揃えがすごい。ココナッツが売ってたりとかしてみるだけでも楽しいんだよね。ただ欠点とすれば、ちょっと遠いの。いつものスーパーより30分くらい歩かないといけない。

 

 でも、ちょっと体を動かすだけでも気分転換には十分だ。この無力感を飲み込む方法は思いつかないけど、パフォーマンスが低下するのはいただけない。ならちゃんと気持ちを切り替えて次につなげるのが大事。この歩いてる時間が、私の頭の中を整理する時間をくれている、ならそれも楽しい事なんじゃないかな。

 

 「……あれ?心操くんだ」

 

 軽く鼻歌なんか歌っちゃったりして、気分良く歩いていると見知った後ろ姿を見つけた。紫色で柔らかそうな無造作ヘアー、普通科の星の心操くんだ。行先は……同じ方面だと商店街かな?声をかけようかと思ったけど、彼はどうやら普通科のお友達と一緒に遊びに行く様子。私たちヒーロー科は普通科の人にいい印象は持たれてないみたいなので、声をかけるのはやめよう。心操くん一応ヒーロー科に編入するつもりだっていうのクラスには内緒にしてるみたいだし、私と関わりがあるのがばれたら心操くんのクラスでの立場が悪くなるかも。

 

 道路を挟んだ反対側にいる心操くんの顔は、何時ものニヒルな顔でありつつも楽しそうに微笑んでいて、これが普段の心操くんなんだなあ、と私は勝手に納得した。そりゃ特訓で毎回のようにボッコボコにしてくる相手に対して穏やかな表情なんて出来るハズもあるまい。お見舞いに来てくれたのは彼生来の優しさだろうし。やっぱり彼はヒーロー向きだねえ。

 

 知り合いが楽しそうだとなんだか私も楽しくなってくる。何とも単純だけど、今回は心操くんに感謝しなくちゃ。よーし!今日は美味しいもの沢山作って一人満漢全席やってやるもんね!どうせお腹が空いてる人が部屋になだれ込んでくる可能性があるから多めに買い物しよう!ふふふ、楽しくなってきたぞ~~!

 

 「きゃあああ~~~~っ!?」

 

 ウキウキ気分で何を買おうか考えだした私の耳を悲鳴が貫いた。悲鳴の先には、大型のトレーラー。それがなぜか信号機やガードレールをなぎ倒してこちらに向かって時速80キロほどで突っ込んできている。運転手の顔の焦り方からして、居眠り運転じゃない。どういうこと?違う、ブレーキ踏んでるけど効いてないんだ!トレーラーの下から油が漏れ、さらには高圧の空気が抜ける音が聞こえる。整備不良?

 

 このままじゃまずい、周りのヒーローは、いない!このままじゃトレーラーは時速を保ったまま私の後ろにあるマンションに突っ込むことだろう。その前に、心操くんたちを轢いてから。心操くんは私の次にトレーラーに気づいたらしく一気に顔を引き締めて頭を回転させ始めたみたい。そして遅れて普通科の人たちも気づく、このままじゃ死ぬかもしれないということに。

 

 仮免取っといてよかった、と思いつつスラスターを全開にして心操くんたちの前に躍り出る。幸い轢かれそうになった人は路地裏に逃げ込んだりして逃げてくれた。そこだけは良かった、そう思いつつ私は全身でトレーラーに真正面からぶつかった。ガッシャァァァァン!とすさまじい音がしてトレーラーのフロントと私が衝突し、フロントガラスが割れる。

 

 「楪っ!?」

 

 「くっ……!うぅ……ん!」

 

 ギャリギャリズガガガガガ!と私の足がアスファルトを割って後ろに押し込まれる。けど、幸いアクセルのシステムは無事だったのかこれ以上加速がかかることはないらしい、トレーラーの勢いは徐々に徐々に収まっていって心操くんたちの少し手前で停止する。あー、5mも押し込まれちゃった。焦って戦闘形態に変形することも忘れてたよ。へたり、と心操くんのお友達らしい女の子が、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

 

 「ふへー、止まった。運転手さーん、大丈夫ですかー?」

 

 ぷらぷらと手を振ってからトレーラーのフロントから離れて運転手席側のドアをドアごと外して中の運転手さんを確認する。私と衝突した瞬間にエアバッグが作動したらしく、顔を叩きつけられたりしたとかはないようだけど、衝撃が激しすぎてどこかを痛めたみたいでうめき声をあげている。私は両目を使って損傷部位を確認しつつとりあえずスマートキーらしいトレーラーのシステムにハッキングをかけてエンジンを切った。やっば運転席若干変形してるや。力入れすぎた。

 

 「あ、声出さないでくださいね。はい、肋骨が3本折れちゃってますから。とりあえず病院まで行きましょう。ちょっと失礼しますね」

 

 運転手さんは肋骨を折ってしまったみたいだ。運転席から運転手さんを引っ張り出して、反重力ストレッチャーを作ってそこに寝かせる。通報通報っと、携帯を取り出して通報しようとしたら、胸ポケットに入れてたせいで盛大に折れ曲がってた。私の携帯電話……三奈ちゃんとお揃いだったのに……。

 

 「ゆ、楪!お前、無事なのか!?」

 

 「あ、心操くん。ごめん携帯壊れちゃったみたいで、悪いんだけど通報してくれないかな?あと学校にも、連絡は救急車が先で」

 

 「あ、ああ……」

 

 「いや、必要ない。よくやった楪、遅れて悪かったな」

 

 「あ、ブラドキング先生」

 

 「あとは俺が引き継ぐ」

 

 ファンファンとサイレンを鳴らしてパトカーと救急車が駆け込んできた。おお、ブラドキング先生が呼んでくれたみたいだ。ブラドキング先生もかなり急いで来てくれたみたいで、若干息が切れている。そりゃここから学校までは徒歩で40分前後かかるわけだし、通報を受けてからじゃ間に合わないよね。私の背中を優しく叩いてくれたブラドキング先生が警察の対応に入った。救急隊の人に肋骨が折れてることを伝えてから私は地面に座り込む。

 

 「もー、びっくりした!心操くんは無事?お友達も怪我してない?」

 

 「いや、俺は無事だし……あいつらも驚いただけだよ。それよりもお前、大丈夫なのか?」

 

 「あ、ごめんね驚かせたっぽくて。大丈夫だよ、トレーラーくらいなら。比較対象がオールマイト先生だけど」

 

 「それ大概のやつが大丈夫だっていうことになるからやめろよ。ってお前!血が!」

 

 「あ、ぶつかった時切れちゃったのか」

 

 たらり、と私の顔を血が伝って地面に落ちる。どうやらトレーラーを受け止めた時に部品か何かで額を斬ってしまったらしい。うへえ、無傷で終われたと思ったのに。少しため息をついていると心操くんは私の前髪をぐいっと上げると片手で持ってたハンカチを切れてしまった私の額に当てた。うわ、申し訳ない、そのハンカチ使えなくなっちゃう!ああ、もう。自分のうっかりが呪わしい。あ、それよりも

 

 「ありがとう。友達のところ戻らなくて大丈夫?私と一緒にいるところ見られたら、あんまりよくないんじゃない?」

 

 「お礼を言うのは俺の方。何で楪と一緒にいるとよくないの?」

 

 「いやほら、私たちヒーロー科って普通科の人から良く思われてないんでしょ?心操くんが私と仲良くしてるってわかったら立場悪くなるんじゃ……」

 

 「あのさ、流石にさっきみたいに助けられた後で悪く言うやつらだったら俺の方から願い下げだから。それに、あいつらはそんなんじゃない」

 

 「そっか。安心しました!心操くんがちゃんとやれてるみたいで」

 

 「……アンタ俺の母親か何か?」

 

 失礼な、そんな年取ってません。心操くんがいい人なのは知っていたんだけど、心操くんがヒーロー科のフォローを人知れず入れてくれているおかげで直接的な害がヒーロー科に来てないことも私は知っていた。だから、普通科の癖にヒーロー科の肩を持つのか、みたいな感じで邪険に扱われてたらどうしようかなってちょっと心配だったの。そういう人の感情って理屈じゃないから。正論よりも感情で動くのが人間だから、いくら優秀な雄英生って言ってもそこら辺はまだ難しいんじゃないかって思ってた。

 

 だけど、抜けてしまった腰を何とか立て直してこちらに歩いてきた心操くんの友達が、助けてくれてありがとうと言ってくれて……嬉しくなった。心操くんの俺の言った通りだろ、という顔には少しむっとしたけど彼の人を見る目は確かだったってことだからね。はい、私の負けです。そろそろ血止まったかな。

 

 「あの、私絆創膏もってるの。良かったら使って」

 

 「ありがとう。次は無傷で止めるからね!そのくらいしないと立派なヒーローにはなれないし!」

 

 「いやもう一回はごめんかな……」

 

 「そりゃそうだ!」

 

 ぺたり、と心操くんのお友達から貰った絆創膏をおでこに貼って、私も立ち上がる。見下ろされる形になった彼ら彼女らはさっきまでは気づかなかった身長差におっきい、と声を漏らした。おっきいでしょ~。ちょっと前まではコンプレックスだったけどヒーロー科に入ってからは大きいといい事ばかりだから誇りになったんだよね。何せ庇う面積が広いからね!

 

 「あ、商店街やってるかな。晩御飯の材料買いに来たのに」

 

 「……その状態で買い物行くわけ?」

 

 「でもー、目的を果たせないまま帰るのはなんか負けた気がする!トレーラーごときに負けるのは悔しい!メカとして!」

 

 「心操、知り合いか?ヒーロー科で、体育祭優勝したやつだよな?」

 

 「……たまに運動するとき付き合ってもらってる」

 

 「ああ、ヒーロー科編入のための特訓に付き合ってもらってるんだ、やるじゃん心操。大物釣りあげてる」

 

 確かに私の制服は今かなり破れたりとかでアバンギャルドな感じになってしまっているけど、トレーラーに敗北宣言するのはなんかヤダ。ほぼ無傷なのに!本体は軽傷なのに!くやしい!脳無とかのパンチの方がよっぽど強かったぞ!オールマイト先生のスマッシュの方が威力があったのに!油断してたか?気を引き締めねば。

 

 それはそうとどうやら心操くんがヒーロー科に行くために頑張ってるという話はどうやら普通科にとっては公然の秘密だったらしい。そして、それを応援しているのもみんな一緒なんだ。今度は私がにやにやする番だね、心操くん?かぁっと赤くなって隠してたはずなのに、とつぶやく心操くんに分かんねえと思ってたのか、とあきれ顔のお友達。いいお友達じゃん、私とえーくんみたいだね。

 

 楪、状況説明たのむ。とブラドキング先生に言われたので私はまたね、と心操くんたちに手を振って警察の所に行く。心操くんたちには別の警察官が事情を説明するようだ。私はお財布の中から仮免許を取り出して警察に見せつつ、事情聴取を受けるのだった。




 作者の推しキャラの一人、心操くん。マジでいいキャラしてますよね、実はデクくんより好きだったり。とりあえずトレーラー程度なら余裕の楪さん、お強い。

 普通科の悪感情をどうにかしてくれ心操くん。理不尽だよね、悪いのヴィランなのに。

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