エリちゃんの居場所が特定できるまでの間、私たちは待機することになった。既に無許可での地下道建設という罪により捜査の許可は下りているんだけど、エリちゃんを保護しそこなったら台無しどころか負けなので、情報収集が終わるまで私たちは待機することとなる。
なにせチャンスは一度きり、どれほど準備しても足りないだろう。私だってそうだ、帰ってから放課後は完全に演習場を一つ借り切って実験に励んでいる。今回は加減を抜いて何でもありでやるつもりなので、必要なことは全部済ませておかなくちゃいけない。だって、失敗すれば全部終わりだもの。これがプロの現場、プロの人たちはこれをこなし続けてるんだよね……。
相澤先生曰く、私たちの役割は薄いとのことだ。当然か、むしろ参加させてもらえるだけでもありがたいくらいなのに、ここでまた重要な仕事をインターン始まったばかりの生徒に任せるわけがない。それでもいい、エリちゃんを助けるのは誰だっていいんだ、私たちがその一助になるなら喜んで作戦に協力する、きっと皆そうなんだ。
「あの……楪さん、少しいいかな?」
「ん?デクくん、どうしたの?」
「その……聞きたいことがあるんだ、オールマイトについて」
「……聞いたんだ?」
授業後、演習場からみんないなくなるタイミングで今日使った武器やら百ちゃんの創造物を片付けるのを手伝ってくれたデクくんが、そんなことを言った。私はそれに、何となく察しがついた。デクくん、オールマイト先生の予知について知っちゃったんだね。それで、私にも知ってるかどうか尋ねた。
多分、納得がいってないのかな。後継者である自分より先に私たちにそれを教えたオールマイト先生について、さらにそこにエリちゃんのことがのしかかってきたから、デクくんが処理できるキャパをオーバーしたんだ。とにかく事情を知ってる人に話を聞きたい、そんなところだろうね。
詳しくは私の部屋で、とデクくんの耳元でささやいてから、私は演習場のお片付けを再開するのだった。デクくんもそれで納得したのか、そのまま手伝いを続行してくれた。
「いらっしゃい、デクくん。さて、単刀直入に聞くけど、聞きたい事って何かな?」
「えっと、楪さんはオールマイトの事情を全部教わってたんだよね?」
「うん、そうだね。教えてもらったのは仮免の日だよ。メリッサさん達もそこで。ああ、でもワンフォーオールの話はしてないから其処はシールド博士たちと話すときは考えてね」
そんなこんなで私の部屋にて、椅子に座った私たちはテーブルとコーヒーを挟んで膝を突き合わせていた。聞かれたら困る話なのでドアには実験中、爆発の恐れありなので入室禁止と書いたうえで鍵を閉めてある。まあロケランでも撃ち込まれない限り問題ないでしょう。デクくんは自分より先に私が全部知ってたことについて少し声を荒げる。
「どうして!どうして教えてくれなかったんだろう……オールマイトは……」
「そりゃ、知ってほしくないよ。気づいてないかもしれないけどデクくん、オールマイト先生にとって今一番大事な人だよ?死んでもいいって思ってた先生をデクくんは思いとどまらせるどころか、生きる希望になった。私だったらそんな人には教えたくないよ、笑っててほしいもの」
「それは、分かってるつもりだけど……悔しいんだ。楪さんはオールマイトに頼ってもらえた、だけど僕は……」
「ずっと秘密にされてた、と」
うーん、ディスコミュニケーション。まあ、弟子として後継者として全部を知りたかったっていうデクくんの気持ちは分かる、と思う。当たり前の感情だし、そりゃあいい気分でもないか。憧れのヒーローが1年かそこらで死んでしまうだなんて。まあ私が言うとすれば――
「えっとデクくん、デクくんがやることって何だと思う?」
「え、それは……立派なヒーローになることで」
「そう、そうなんだけど……ワンフォーオールを100%使いこなすのがマストでしょ?オールマイト先生は話せば多分、こっちの方にも首を突っ込んでくるって思ったんじゃないかな、デクくんの性格上、ね」
「うっ……」
はっきり言うけど、デクくんが私とシールド博士とメリッサさんのヒーロースーツ製作とかに関わるのは推奨できない。けど、デクくんは知ってしまったら100%何かの役に立ちたいと首を突っ込んでくるだろう、それが正しいか正しくないかは別にして、デクくんにはもっと大きなタスクがある。必殺技を開発して、今いい所なんだから……そっちに集中して欲しいのは当たり前の話だ。
「今回はきっと分業だよ。手分けしてオールマイト先生を助けよう!」
「分業?」
「私たちはオールマイト先生の命を助ける為に頑張る。デクくんはワンフォーオールを使いこなせるようになってオールマイト先生を安心させて、運命を捻じ曲げることに専念させてあげる!チームアップだよ!」
「そうだね……どうしてだろ、頭がもやもやして……」
あー、もう!この師弟はコミュニケーションが下手なの!?ファンの扱いは超上手なのに弟子となると不器用だねオールマイト先生は!メンタルケアもしてあげてよ!デクくん思い詰めるタイプだよ!いっそのこと河原で殴り合いでもさせた方がいい気がする!だから話した方がいいんじゃないかって言ったのに、オールマイト先生の気持ちも分かるんだけどさ!
「納得するのは難しいと思う。でもデクくん、そういうのは時間をかけて飲み込んでいくしかないよ。デクくんにはデクくんの考えがある様に、オールマイト先生はオールマイト先生の考えがあるんだから。それに。話せないことだって。私だってえーくんに秘密にしてることあるし」
「楪さんが、切島君に……」
「そうだよ?スリーサイズとか。知りたい?」
「ぶっ!?」
「まあこれは冗談だけど。秘密なんてあって当たり前なの。全部知りたくても、教えてもらえる方が珍しいんだよ。それこそ、全部教えてもらうなら……教えても大丈夫だって思ってもらうしかないよ。だから、まずは目の前にあるタスクをこなす、それが第一歩でしょ」
「そっか、そうだよね。よし!頑張らないと!」
「その調子だよデクくん!目指せ運命ちゃぶ台返し!ということでかつ丼作るから食べてってよ!ゲン担ぎ!」
ふー、やっとデクくんが何時もの調子に戻った。なんか、食堂でもひと悶着というか、泣いてしまったらしいし、心配してたところにちょうどよく相談をぶつけてくれてよかった。最悪サンドバッグになるつもりでいたけど、デクくんはそういうタイプじゃなくてよかったよ。ぐいっとコーヒーを飲み干した私は、そのまま立ち上がって私はエプロンをつける。デクくんも手伝うよ、と立ち上がってくれた。私たちは並んで、調理台でお料理を始めるのだった。
「ちなみに私のスリーサイズは上から」
「いやいいから!」
ノリわるーい。
ヒーロースーツに着替えた私たちと、ヒーローたちが一斉に並ぶ。これだけの数のヒーローが一堂に会するとやっぱり壮観だね。デクくんの相談から約二日後の深夜に、決行日時を知らせるメールがあった。調査の結果、エリちゃんは身柄を移させることなく死穢八斎會の本部の地下にいることが分かった。ナイトアイの予知で構成員に接触して未来を見た結果分かったみたい。
そこからは速かった。既に無許可の地下道の件で裁判所から逮捕状が発付されている、なので決行日時の今日私たちは警察署の前に集合しているのだ。今回協力してくれる警察の皆さんも結構な数既にスタンバイ済み、さらに私が見つけた地下道の出口と思われる場所にも既に捜査員が張っているらしい。役に立てたみたいでよかった。
「緊張するな……」
「お茶子ちゃん、大丈夫。みんないるからね」
「うん!がんばろ!」
午前8時30分が作戦開始、警察署から移動を始める私たちに釘を刺したのは相澤先生、デクくんに今回俺はナイトアイ事務所と一緒に動くと話している、やり過ぎたら即止めるということだろう。私も神野みたいに油断しないように気をつけないと。今回は万全の態勢だし無傷で捕まえようとかそんな甘いことを考えてる余裕もない。最悪腕や足を飛ばすことも手段に入れるべきだ。止まってくれないならば、こちらもそれ相応の手段で。
「少しでも怪しい素振りや犯行の意思が見えたら、すぐ対応を頼むよ!令状読み上げたらガーーーッといくからね!」
本部の立派な木製の門に据え付けられたインターホンの前に警察の作戦責任者の人が令状をもって立つ。インターホンを押そうとした時に、私の聴覚センサーが異常を探知した。門の向こうすぐに誰かかがいる?まずい、このままじゃ攻撃を受ける。手足を戦闘形態に移行してそのまま警察の人の前に出る。轟音を立てて門が破られて拳が迫ってくる。
「何なんですかァ?」
バチィッ!とまるでカラスの顔のようなマスクをつけた大男の拳を受け止める。結構強いな、威力が高い。増強系……?いや、そんなことはどうでもいいか。勢いよく腕を掴んだまま振り上げて男を持ち上げて、思いっきり振り下ろして地面に叩き付ける。地面が陥没してマスクの男がうめき声をあげた。追撃を入れようと圧縮ボックスを手に取ると地面にうつぶせになる男に爬虫類のかぎ爪と鱗が生えた手がのしかかり、押さえつけた。
「よくやったわエクスマキナ。けど、ここからは私たちリューキュウ事務所が対処します。みんなは中へ!」
「突入!」
「ようわからん!もう入って行け行け!」
男を押さえつけたのは大きなドラゴンの姿に変わったリューキュウだった。彼女の個性は閉所戦闘では不利、だから外を担当してくれるということらしい。私は有難く彼女に男を任せる。男は抑え込まれた状態にもかかわらず、何事もなかったかのように地面に手を当てて立ち上がろうとしている。結構強くやったのに効いてないの?
「お茶子ちゃん!梅雨ちゃん!後でね!」
「頑張ろうぜ!」
「またあとで!!」
リューキュウ事務所が残る、ということでお茶子ちゃんと梅雨ちゃん、そして波動先輩も残ることになる。私たちは彼女に一声かけてから死穢八斎會の本部に侵入する。日本庭園を模しているらしい大きな庭では既にいかにもホンモノっぽい、というかホンモノヤクザさんたちがドスとか、金属バットとかをもって待ち構えていた。
「ゴルァ!!何勝手にひと様の土地はいっとんじゃワレェ!!」
「ヒーローと警察だ!違法薬物製造、所持その他もろもろで令状が出てる!」
「知らんわ!」
ヤクザの人たちが個性を使って私たちに攻撃を加えようとしてくるけど、随伴する他のヒーローたちが鮮やかな手際で押さえつけて無力化して警察の人が手錠をかけていく。そのまま邸宅の玄関の閉ざされたドアをカチ割って中に入る。おかしい、どこからか情報が洩れてた?まるで待ち構えていたかのような感じの厳戒態勢。どういうことなんだろう?
「ここだ、この床の間の板を決まった順番に抑えると地下通路への扉が開く!」
「バブルガール」
「はいっ!」
ナイトアイが床の間の板敷きを順番に押すと壁がスライドして階段が姿を現した、それと同時に中で待ち構えていた構成員たちがなだれ込むようにこちらに出てくる、けどバブルガールとセンチピーダーによって纏めて捕縛されていく。私たちはその隙にその階段を使って地下に入る。階段の先にあったのは……行き止まり?
「おい、話が違うじゃねえかナイトアイ」
「俺、見てきます……ナイトアイ!先に道があります!壁はかなり厚いですけど……!」
「なら話は速ぇえ!!緑谷!」
「うん!」
右手を硬化させたえーくんとワンフォーオールを纏ったデクくんのパンチが壁を完全に粉砕する。先を越されたわ、というファットガムのぼやきと共に私たちが先に進もうとした瞬間、迷宮みたいに壁がまるで生き物のようにぐにゃぐにゃと動き出した。なに……これ……?
「入中だ!やつの個性にしては規模が大きすぎるが……」
「ヤクや、かなーーりキツめに打てばない話じゃないなぁ」
入中、確かものに入り自由に動かせる個性を持つ幹部、地下を形成するコンクリートに入り込んで操ってるのか!だけど、セメントス先生みたいに自在に操れるわけじゃない、それなら私たちにも勝機はある。一直線に壁に穴をあけるとかね……!
「道を変えられ続けたら、目的地までたどり着けない……!女の子を救い出すどころか俺たちも……!」
「環!そうはならない!大丈夫さ!なんせお前はサンイーターなんだから!こんなその場しのぎ、俺には関係ない!目的の方向さえわかれば!俺は行ける!」
「ミリオ……!」
弱気になった天喰先輩を通形先輩が励まして、スピード勝負なら時間稼ぎに付き合う必要はない、先に行きますとマントを翻して組変わってしまった道を透過で無理やり先に進んでいった。私たちも壁を壊して先に進もう、としたところで地面が鳴動して落とし穴のように大穴が開いた。とっさにブーストを吹かして私は浮いたが、そのまま他の人は落ちて行ってしまう。助けようと姿勢を変えた瞬間、ナイトアイの指示が飛んだ。
「エクスマキナ!ミリオを追って援護しろ!私たちも必ず追いつく!」
「希械!頼んだぜ!先輩の事!」
「一緒にエリちゃんを助けよう、楪さん!」
「うん!烈怒頼雄斗!デク!絶対にだよ!全員無事で、会おうね!」
私を落とすのは諦めたのか、地面が形を取り戻す。相澤先生の抹消を嫌ったのか、どうやら入中は私よりもプロが多く混じるみんなの始末を先にすることにした様子。私一人ならどうにでもなると?舐められたものだね、ここの地図は入った瞬間からずっと探知してる、組変わろうとも方向は見失ってない。それなら同じ、目の前の壁をぶち壊して進んでいけばいい。
ブォン、と私は太もものラックからビームサーベルを取り出して起動する。灼熱のビームの剣を私は思いっきり振りかぶって目の前の壁に振るうのだった。
次回、切島くん視点でお届けしようと思ってます。強くなった切島くんの活躍をお楽しみに
では次回に。感想評価よろしくおねがいします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ