「あかん!エクスマキナ!離れろ!戻るぞ!その子をまた傷つけるつもりか!」
「はな……れて……!」
ファットガムの怒鳴り声が聞こえる。確かに、物理的に人間を巻き戻すこの個性かかれば普通の人なら巻き戻されて……きっと受精卵まで巻き戻り、なくなる。それをこの子は知っているから救急隊員の人が完全に戻る前に自分からその手を振り切った。なんて、優しい子なんだろう。伸ばしたその手を、今まで誰もとることが出来なかった。けど、私なら手を取ることができる!
「いいえ、大丈夫。私は戻らない」
「……え?」
エリちゃんを抱き上げる。周囲からも私が戻っていないことに気づいたヒーローたちから疑問の声が上がった。予想通りだ、この子の能力は純粋な生物のみに適応される個性。地面が戻ってなかったように道路や車、無機物は戻らない。じゃあ……機械が体中のそこかしこに入り混じった私なら?機械と生物が融合し矛盾を孕んだ状態で生き続けてる私なら?純粋な生き物じゃない……私なら?答えは戻らない。私は機械だから。
「怖かったね、辛かったね……助けるよ。もう絶対、離さないから」
「エリちゃん、楪さん!」
「ダメ!3人とも近づいたら戻る!私だから効いてないの!」
私に個性が効いてないからか、デクくんにえーくん、そして通形先輩が駆け寄ってくるのを止める。3人が私の必死の声に足を止める。どうする、どう止める?エリちゃんの個性は額にある角を中心にしてエネルギーが噴き出すような形で発動し続けている。そして、そのエネルギーの噴き出し方は少しづつ強くなっていってる。影響範囲がどこまで広がるか分からない……!
「ナイトアイ!空に行きます!そこで思いっきり個性を使わせる!」
「どういうことだ!?」
「エリちゃんの個性はエネルギーをため込む形です!エネルギーを使い切ればおのずと止まります!」
両目の測定が終了した瞬間に私はナイトアイに叫んだ。放出されているエネルギーは角の中に溜まっている。そのエネルギーは貯蔵されているのであって無限に湧いてくるわけではないんだ。証拠にエネルギーの放出口兼貯蔵庫である角が徐々に、徐々にではあるが短くなっている。ただ、角が短くなるにつれてエネルギーの放出が強まってる以上、誰もいないところに連れて行くのがベスト!
ナイトアイが苦渋の決断とでも言わんばかりの顔で頷く。私は許可が出た瞬間、上空に舞い上がる。指数関数的に噴き出すエネルギーが増えていく、そして角が短くなる速度も上がっていく。上空200m、エリちゃんを抱きなおして話しかける。
「大丈夫、怖くないよ。貴方の個性は人を傷つけることなんてない、きっと……人を助けられる優しい個性」
「やさ、しい?」
「そう。貴方の個性があれば何人も傷ついた人を助けることができる。今はコントロール出来なくても、大丈夫。私がずっとそばにいる。貴方の個性で私はいなくならない」
「……うぅ……うえぇえぇん……!」
きっと、こんな風に抱きしめてもらったことがないのだろう。甘えたことなんてなかったんだろう。安心感もない生活だったんだろう。ボロボロとエリちゃんの瞳から流れる涙がそれを物語っている。エリちゃんが私に抱き着く。手を伸ばしてくれた、私を安心できるものとして捉えてくれた……!間欠泉のようにエネルギーが噴火する。エリちゃんが個性を自分の意志で使い始めたんだ。止められないから、使い切ろうとしている。
なんてエネルギー量……そして目に見える速度で角が短くなっていく。噴き出すエネルギーが突然ふっと弱くなり……蛇口を閉めるように止まった。エリちゃんの角は目立たないほどに小さくなっている。ぎゅっと私を離さないように強く抱き着くエリちゃん、私も彼女を抱きしめる。ここにいるよ、と伝える為に。
「おかあ、さん……」
「……おやすみ、エリちゃん」
エネルギーを使い切ったエリちゃんが瞳を閉じる。消耗しすぎて気を失ったんだ。でも、個性は止まった。それならもう下に降ろして大丈夫だろう。気を失う前に、母親を呼んだ彼女……おかあさん、か……この子の母親はどうしたんだろう。でも、きっと私と同じように抱きしめたことがあるんだ。エリちゃんは幼いながら、それを覚えていて……母親を呼んだ。やるせない。この子が穏やかに目覚めることができますように、と祈るしかできないだなんて。
スラスターの勢いを調整してゆっくりと下降していく。下ではもう大部分の撤収は終わったらしく、オーバーホール他の死穢八斎會の幹部たちを乗せた装甲車が出発するところだった。すやすやと眠るエリちゃんを起こさないように音を立てずに着地した私に待っていた皆が駆け寄ってくる。
「楪さん!エリちゃんは……?」
「しーっ。大丈夫、体力を使い果たして眠ってるだけだと思う。とにかく病院へ行かないと……」
「そうだな。私が同乗しよう。ミリオたちはリューキュウ事務所と一緒に行動するように」
「あの、私も行かせてください。もしまた個性が発動したら……抱きしめてあげられるのは私だけです」
「……いいだろう」
とにかくエリちゃんを病院に移動させなければならない。既にエリちゃんの個性の影響を受けた人は別の救急車で病院に行ったらしく、姿が見えない。私のヒーロースーツを強く握りしめたまま眠るエリちゃん、私は彼女をストレッチャーに寝かせて、ヒーロースーツの上着を脱いだ。握らせておいてあげた方が、いいと思ったから。
ナイトアイが救急車での同乗を申し出てくれたので、私も連れて行ってもらえるようにお願いする。気になるから、だけではない。もしまた個性が発動してしまうようなら、触れられる人間は今のところ私だけだ。それに、そばにいるってさっき約束した。
またあとで、とデクくんとえーくん、先輩たちに告げてから私はナイトアイと一緒に救急車に乗り込んだ。救急隊員たちが慌ただしくエリちゃんのバイタルチェックを進めていく中、何かを考えこんでいたナイトアイが口を開く。
「……エリちゃんをミリオが救助し私たちと合流していた時のことだ。君の所に行く前に、私はエリちゃんに予知を使った」
「作戦成功のためのダメ押しですね?」
「ああ、あの状態からなら確実に助かる未来が見える……そう思っていた。だが、見えたのは……君が敗北し、異形の姿に変わった治崎が地上で暴れまわる未来だった。エリちゃんは……治崎に奪い返されていた」
「……予知が覆った……?何が原因で……?」
ナイトアイがまるで罪人が懺悔するように語るのは、自らの個性の事。未来は見た時点で確定する、それならば私はオーバーホールに負けて殺されていて、エリちゃんは今頃オーバーホールに奪い返されて、ヒーローが敗北していたってこと?じゃあ私が治崎を倒せた理由はなんだろう?予知が覆った理由は?何か特別なことをしたつもりはない、強いて言うなら必死だった。
「思うに……エネルギー、いや願いの発露……そう感じる。私たちはエリちゃんを助けるために作戦行動を始めた。ヒーロー達だけじゃない、警察も……全く同じ疑念の入る余地のないヴィジョンを思い描いていた。それが最終的に収束し、君を通じて私が見た未来を捻じ曲げた」
「人の想いが未来を変える……」
「長らく私が忘れていたものだ。個性をよく使うようになってからことさらに感じていた『変えられない』『変わることはない』という諦め……その固定観念に縛られて、元から未来なんて不鮮明だということを忘れていたんだ」
「……何か私が特別なことをしたとは思いません。私には未来が見えません……ただ、絶対にオーバーホールに負けるわけにはいかないと必死でした」
私自身、その未来がナイトアイにとってどれだけ絶望的だったかは分からない。なぜかと言えば、私には未来が見えないから。ただ……それだけが全てではないと思う。結果が決まっているなら何でもいいんじゃない。負ける未来が見えるからもうやめよう、とはならない。負けるわけない、勝ってやる。その気概、決意、覚悟……きっとそれが望む未来を手繰り寄せるものだ。確信した、未来は不確定で捻じ曲げることができると。
「オールマイト先生……貴方の予知に抗う、と仰ってました。私やシールド博士に頭を下げて、生きる力をくれないかと頼んできたんです」
「オールマイトが……?」
「はい。なので、オールマイト先生と連絡を取ってください。先生もそれを望んでいます……合わす顔がないって、言ってましたけど」
「私は……ただ単に、彼に幸せになってほしいと思っているだけだ。生きると決意したなら、それで」
「よくはないでしょう!」
もー、なんなの!?オールマイト先生に関係する人たちは大切な人に対して不器用になる呪いか個性にでもかかってるの!?何がそれでいいの!よくありません!ちゃんと話し合ってください!いきなり大きな声を出した私に救急隊員も含めて視線が集まる。私はそれに顔を赤くしながら声のボリュームをダウンさせて話を続ける。
「あのですねえ、生きることは戦いだってアニメやコミックですら言ってるんですよ。生きる為にこれから戦うオールマイト先生を支えるのは誰なんですか。貴方じゃないんですか?」
「しかし……私は」
「サイドキックじゃないですか。辞めたとかじゃなくて、貴方しかいないんですよ。オールマイト先生の相棒を務められる人は。私や他の人はせいぜい、サポーター止まりです。そもそも私やシールド博士は彼の新装備の開発で手一杯です!ちゃんと会って腹を割って話してください!というか会わせます!」
「……は?」
「あ、もしもしオールマイト先生ですか?あ、どうもどうも。はい、作戦終了です。物は相談なんですけど今からこれませんか?ええ、胝棚の総合病院まで。というか来てください、絶対。じゃないとオールマイト先生が私の胸を盛大に揉みしだいたとデクくんにお話し……あ、来てくれます?ありがとうございます」
「待て待て待て!今さらっとオールマイトを脅迫しなかったか!?」
「私のユーモアです。事務所で学びました。ちゃんと半分冗談ですが、揉みしだかれたのは事実です。戦闘訓練で私の足がもつれてのしかかっちゃった際に支えてくれた時に偶然胸に手が、という形ですが」
いい加減に我慢に限界が来てしまった私はその場でオールマイト先生に電話をする。相澤先生からこの件について連絡を受けていたであろうオールマイト先生は真っ先に怪我人の有無を尋ねてきたけど、命に係わる怪我をした人はいないのでそこは安心だ。多分一番重症なのが相澤先生とロックロックかな?次点でファットガムかなあ。
それにほっと息をついたオールマイト先生に今から行く胝棚の総合病院まで来るように頼んだ。なんだかんだでオールマイト先生はナイトアイを避けてる感じがしたので強硬手段、一番やられたくないであろう私にラッキースケベをした件についてデクくんにばらすと言ってみたら、快く来てくれるとのお返事。怪我の功名だね、本当にごめんなさい。あれは全部私が悪いんです。
それでもあの時は恥ずかしかったなあ。オールマイト先生が必死になって謝る姿は初めて見た。正直オールマイト先生絡みの人間関係はボタンの掛け違いが多すぎるので少々頭に来ていたところだ。素直に話せば解決するのにいつまでもずるずるずるずると……!男ならシャキッとして欲しいものだ、えーくんみたいに。理由があるのは当然わかる、思想の違いも分かる。けど、じゃあもう関係ありません、気まずいしって……それは悲しい。
オールマイト先生がデクくんを選んだ理由も、ナイトアイが通形先輩を次代の後継に据えたいと思っていることも……相反しないものだ。というかそもそも通形先輩はワンフォーオールのことを知らないのに、ナイトアイが器として引き入れて育て続けたことを知ったらどう思うかとか考えないのかな。通形先輩は自分の個性に誇りを持ってるように見えるから、ショックを受けそうな気がしないでもないよ。
もちろん私が今無茶苦茶やってるのは分かってる。二人の考えを完全に無視して踏みつけるような行動だ。長年のわだかまりがそんな簡単に解消されるわけないし、後継問題では二人は相反する立場をとっている。理詰めで行けばデクくんに持たせておいた方が安全ではあると思うけど、将来性を考えるなら通形先輩だろう。ただフルガントレットを使えるかどうかの差は正直大きい。
「君は……無茶苦茶だな」
「お母さんが言ってたんです。女は男を振り回すくらいがちょうどいいって。男はこっちを振り回すんだから、私たちも振り回してやるんだって」
「……君にもユーモアのセンスはあったみたいだな……我が事務所向きだ」
諦めたように、ナイトアイは苦笑した。そういえば、初めてこの人が大きく表情を崩すのを見た気がする。そうです、私は滅茶苦茶なんです。そのくらい……貴方たちに仲直りして欲しいって思ってるだけなんです。これから先はきっと……貴方が絶対に必要だから、無茶でも何でも通します。ごめんなさいね、ナイトアイ。
はい、色々考えてたんですが楪ちゃんにエリちゃんの個性は効かないという結論になりました。この作品のエリちゃんの個性の作用範囲は「純生物のみ」となっています。分かりやすく言うと障子くんや口田くんみたいな異形型には聞きますけど、楪さんみたいな、無機物が入り混じって生物的に矛盾を起こしている人間には効きません。
そしてもう一つ大事なこと、今回エリちゃんは割とあっさり助かっていますけど原作にあった「助からなければならないという覚悟」がないままに助かっています。これがあとになが~~~く響いてきます。詳しくは次回以降。
では次回もよろしくお願いします。感想評価を頂けると作者の励みになるのでどうかよろしくお願いいたします
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ