エリちゃんが目を覚ました。相澤先生のその言葉を聞いて私たちは揃ってソファから立ち上がる。だけど相澤先生は全員を会わせるわけではなくエリちゃんが探しているという私だけを会わせるつもりらしい。万が一個性がぶり返した場合どれほどの速さで戻るか分からないからだそうだ。先生が止めても、間に合わないかもしれないと。
「そっか……ならしゃーねーわ。希械、エリちゃんの事頼んだぜ」
「そうね、大勢で押しかけても怖がらせちゃうだけだわ」
「後で大丈夫そうか教えてね!」
「うん、ごめんねみんな。相澤先生、行きます」
「ああ、わかった。ついてこい」
私は自分の分の缶ジュースを飲み干して缶を握りつぶし、飴玉サイズまで圧縮して口の中に放り込んで飲み下す。たまーにこれ中身入った状態でやってぶしゃ―ってなっちゃうんだよね。中学時代の時スポーツドリンクでやって上半身ベッタベタになって下着が透けて……いやこれどうでもいい話だ!今はエリちゃん!
彼女が覚えているのは目を出した私なのでピンで髪を分けつつ先に行く相澤先生についていくと、エレベーターで上の階、小児科病棟じゃなくてどうやら特別病棟にエリちゃんの部屋は位置してるみたいだ。最高層の階までたどり着くと壊理と書かれた部屋に相澤先生はたった。こんな漢字で書くのか、オーバーホールが野望のためにつけた当て字か知らないけど、あまりいい意味じゃないかも。
部屋の前に立つとにわかに中が騒がしいことに気づく、落ち着いて、大丈夫だよ……ゆっくり息を吸って……?エリちゃんに何かあったの!?私はノックをせずに急いでドアを開ける。中ではエリちゃんを囲んで医師や看護師がせわしなく動きながらエリちゃんに声をかけていた。
「ハッ、ハッ……アッ……ッ!!!」
「落ち着いて、貴方を傷つける人はいないわ。ゆっくり、ゆっくり息を吸って……」
中にいたのは病院着に身を包んだエリちゃんが苦し気に胸を押さえて呼吸をしているところだった。涙がにじんだ瞳から雫が落ちる。これ、過呼吸だ!エリちゃんの瞳が私を映すと同時に、彼女は泣きながら私に手を伸ばした。医師や看護師さんが私に目を向けて、私は彼女らにどいてもらって膝をつきエリちゃんを胸の内に抱きしめる。膝の上に改めて抱きなおし、とん、とんと背中を叩いてあげていると不規則だった呼吸が落ち着いてきた。呼吸が完全に落ち着いてきても、彼女は私の胸から顔をあげようとはせず、必死に私にしがみついていた。
「……原因は?」
「……おそらく心因性です。目覚めた時は落ち着いていましたが、あのヒーロースーツを見てしまってからパニックを起こして……。相澤さんが出て行ったときはまだ混乱しているだけでしたけど、段々と酷くなって過呼吸に移行しました」
「じゃあ、私が原因で……?」
「正確には、貴方がいなくなったのが原因です。どうやら、エリさんにとって貴方は唯一の安全な人間……そう捉えているのかと」
そんな……頭がグルグルと混乱してきた。私の胸の中でぐずるエリちゃん、助けられたと思ってた……けどそれは結局独りよがりで彼女はまだ闇の中にいるんだ。なんで、と考えてすぐに原因が思い当たった。私はエリちゃんが知っている中で唯一彼女の個性が効かない人間なんだ。相澤先生は彼女の個性を消せるけど、彼女はそれを知らないし……。だから、私がいなくなったせいで彼女はもし個性が発動したらという恐怖におびえ続けることになってしまった。昨日、救急車に乗る前に一人個性で少し巻き戻してしまったことも影響しているかも。まずい、どうしようもない……。
「参ったな……」
「暫く落ち着くまで様子見を。大人に囲まれてはまたぶり返すかもしれません、白衣も怖がっているのでいったん私たちは外に出ます、何かありましたらナースコールを。すぐに駆け付けます」
「頼みます」
頭を掻く相澤先生を残してお医者さんと看護師さんが心配そうにしながら部屋を出ていく。残された私と相澤先生はまずいことになった、と目で意思疎通をしてエリちゃんを見る。理由ははっきりとわかる、決定的な一打は私が打ってしまった。エリちゃんを助ける為に、別の迷宮に彼女を放り込んでしまった。ああ、なんて情けない。不甲斐ない……。
「……ごめ、なさい……ごめんなさい……!」
「どうしたの?エリちゃん、私は怒ってないよ。ごめんね、いなくなって。怖かったよね……」
「ち、ちがう……!おか、……ん、また、戻しちゃったって……思って……!」
「だーいじょーぶ、私は平気。私は戻ってないよ、どこも昨日のまま」
嗚咽をこらえながら私を見上げたエリちゃん、そのルビーのような大粒の瞳からまたポロリと涙が落ちる。ベッドの傍らにあったタオルでエリちゃんの顔を優しく拭ってあげる。分からない、このまま甘えさせ続けていいのか、それとも心を鬼にして突き放してあげるべきなのか。傷つき続けたこの子が今私だけを頼りにしてる状態で、私だけおめおめと自分の居場所に帰るべきなのか。
おかあさん、とまた私を呼びかけて慌てて口をつぐんだ彼女。やっぱり、私と母親を重ねているのか。また、ということはきっとこの子は覚えてるんだ、両親を戻してしまったことを。本来なら行政で手厚く保護されるのが通例だ、特にエリちゃんの個性は所謂個性訓練が必要な類の個性、それを受けていないということはやはりオーバーホールは彼女を監禁していたということの証拠に他ならない。
「も、戻らない?ほんと……?おかあさんも、おとうさんも……私が……わたし、が……」
「うん、戻らない。だから、もっとくっついても大丈夫だし、一緒にいても、平気。もしまた個性が出ちゃったら、私が昨日みたいに助けるよ」
「そうなる前に俺が抑える。エリちゃん、もう大丈夫だ」
結局私は相澤先生とアイコンタクトをして彼女を甘えさせる、依存させる方向へ舵を切らざるを得なくなった。優しく声をかけた相澤先生を見て、少し警戒気味の空気を醸し出し始めた。私は彼女に言い聞かせるように相澤先生を紹介した。
「この人は相澤先生っていうの。個性を消せる凄い人、私よりすごい人なんだよ。もしエリちゃんが個性が出ちゃっても、すぐに止めてくれるわ。私より苦しくないかも」
「…………」
「こりゃすこし時間かかるかもな……」
相澤先生が笑った瞬間、エリちゃんは私の入院着を強く握りしめて身を固くした。ま、まあ中々怖いもんね相澤先生の笑顔……。それにエリちゃんは相澤先生が個性を止められるって言ってもその現場を見たことがないから何とも言えないのか……結局私しか今は頼れる人がいないのかな……。
「え、と……あの……緑の人と金色の人は……」
「ん?デクくんと通形先輩のことかな?この二人?」
「そ、そう!げ、元気、です、か……?」
「元気だよ、大丈夫。エリちゃんに会いたいって二人とも言ってるよ。エリちゃんが元気になったら会おうね」
「……うん」
通形先輩とデクくんの写真を投影すると頷くエリちゃん。優しい子だな、と思った。私なんかじゃ想像もできないくらい酷い目にあってなお、他人のことを心配してくれるなんて。ゆっくりと彼女の頭を私の手袋をつけた手が撫でる。安心するように瞳を閉じた彼女を見て、ほっとした。先々の不安は絶えないけど、それでもまだ希望はあると、そう思うから。
「……先の予定の組みなおしだな。楪、どうしたい。このまま離れるという選択肢もある。個性の訓練が出来るようになるまでは俺の元で監督することになるだろうが……」
「そんなの、決まってるじゃないですか。ヒーローなら、いえ……ヒーローじゃなくても、この子を見捨てたりなんてしませんよ」
「だろうな。校長にどう報告したものか……」
「その必要はないのさ!」
「こ、校長先生!?」
「……くまさん?」
「クマなのかネズミなのか……その正体は校長さ!」
驚いた、いつの間にかドアをすり抜けたとしか思えないくらい自然体で校長先生が私が腰かけているベッドの枕の上に出現している。唐突に表れた校長先生にエリちゃんがまた怖がるかと思ったけど、見た目がぬいぐるみっぽい、というか動物その物な校長先生に少しだけ興味を示してくれたらしい。不思議そうな顔で、校長先生を見つめている。
「すまないね!病院から連絡を受けて文字通り脱兎の勢いで駆け付けたのさ!エリちゃんを受け入れることは全く問題ないのさ!見る限りエリちゃんは君と一緒だと安心感を覚えるみたいだね!つまり」
「つまり?」
「学校に連れてきて一緒に授業を受けるのがベターだね!個性に関しては……もう今その子に暴走するだけのエネルギーはないのだろう?」
「……それは私が見た範囲での話です」
「病院を舐めない方がいいのさ。個性由来のエネルギーの計測装置なんて今の時代どの病院にも備え付けられてる。それがこの子が昨日入院してから都度7回、検査が行われて結果はゼロ。つまり安全ということさ。リカバリーガールとも相談したが、今その子に必要なのは安心を覚える相手と、優しい環境。敵と思える人がいない環境だよ」
「白衣を見て怯えるんじゃ、病院に置いておく方が危ない。かといって個性の調節を覚えさせずに里親に預けるわけにもいかない。そして、その子が一番頼っているのは個性が効かないアンタ……ヒーローやってれば間々あることではあるけどね」
白衣を脱いだリカバリーガールが入ってきてやれやれと言った感じでため息をつく。薄々気が付いてきた。エリちゃんは、私から離れようとしない。病院の設備その物に怯えてるような雰囲気だった。白衣を怖がり、お医者さんや看護師さんから目を背け、相澤先生やリカバリーガールといった大人に身を硬くして震える。例外は、私と多分、デクくんと通形先輩。
エリちゃんは今、数少ない例外を除いて全部自分を脅かす敵に見えてしまっている。選択肢は、ない。いや、ありはするし相澤先生も言外に首を突っ込み過ぎるなと警告をしてくれていた。リカバリーガールも遠回しに荷を下ろせと言った。けど大人たちの話を聞いて私を見上げるこの子を……どうしても見捨てるという選択肢は出来なかった。
「いきなり人が沢山いる環境に連れて行っても大丈夫でしょうか?」
「そうだね、そこが懸念だ。登校時間をずらすか、別の方法を考えよう。寮に行ってみての反応次第だね」
「校長、性急すぎます。合理的じゃない、楪の負担が大きすぎる」
「全く以てその通りだ。親御さんへの対応もある。ヴィラン連合が出ただろう?その件で上から警備案の見直しとシステムの全点検を命じられてね、一旦3日ほど休校になる。その間にやってみて対応を考えるしかない」
校長先生にしては行き当たりばったりな対応に思える。だけど、それしか方法がないんだ。校長先生の個性、ハイスペックからしてその対応しか出ないんだったらエリちゃんの置かれてる状況は私が考える以上にまずいのかもしれない。健康状態は両手両足の包帯の下にあった注射器とかメスの切り傷、これはリカバリーガールによって治癒済み。低栄養、こちらも軽度なので自宅療養で問題ないらしい。あとは精神面……やってみるしかないよね。
「ごめ……んなさい……私のせいで」
「それは違うよ。エリちゃんのせいじゃ絶対ないから。分かりました、私じゃなければダメだとしたら、私がしなければならないことです。けど、私では責任が取れません。未熟者ですが、どうかサポートのほどをお願いします」
「勿論なのさ!というか本来ならすべて大人の仕事なのさ。君たちに頼らざるを得ない情けない大人を許して欲しい。取り急ぎどうにかするから、君はエリちゃんのことだけ考えて欲しいのさ。煩雑な全ては私たちがやる」
校長先生が言うには先ほど既に学校内の職員でエリちゃんのことは周知されていて、私が関わらないにしろ雄英でエリちゃんを引き取ることは決定事項だったらしい。そのうえで私が関わるか関わらないかというところだったのか。不安そうに自分を責めるエリちゃんにそれは違うよと否定して私はすべてを引き受けることにした。やってやろうじゃない、人を助ける為にヒーローになろうというのに小さな女の子一人救えないでヒーローとはおこがましい。私の力が届く限り、頑張るのが筋というものだろう。
「エリちゃん、いま私がいる場所にはデクくんや通形先輩、それにたくさんの人たちが一緒に暮らしてる。はじめは怖いかもしれないけど、皆優しいし、エリちゃんを傷つける人じゃない。私と一緒に暮らしてくれる?」
「……ん」
不安げに私を見つめるエリちゃんに優しく問いかける。彼女がちゃんと理解しているかどうかわからないけど、彼女は私の目を見てこくりと頷いてくれた。ゆっくりでいい、ゆっくり、少しづつ……前に歩いていこうね。それまでは私が、貴方の手を引いて、守っていくよ。よろしくね、エリちゃん。
この作品のエリちゃんは原作よりも幼いです。精神的な意味で。良くも悪くも年齢通り。原作での入院中の緑谷君と通形君とのやり取り凄い大人みたいな考えしてますよね。
なので普通なら実験で使われたであろう医療器具や白衣、その他もろもろが集まる病院はトラウマの塊でしょう。あと重要なのですが原作エリちゃんは「自分でも助かろう」と思って助けられたのに対し今作エリちゃんは「訳の分からないうちにいつの間にか助かっていた」状態であるので。そこら辺の違いですね。
さて、なんでこうなったかですがエリちゃん視点で考えてみると、個性暴発からの救急隊員を少し巻き戻してトラウマ復活、誰も手を取ってくれないと思っていたところに現れた自分の個性が効かない人(240㎝メカサキュバス)が優しく抱きしめてくれて助けてくれたことになります。
さて、それでは次回以降もよろしくお願いします。感想評価を貰えると作者が喜びます
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