85話
「それで、暫く女の子の面倒を見ることになったの」
『なるほどなあ。希械、その女の子の個性っていうのは無機物が混ざった異形型なら効かないのか?』
「多分、だけどね。お父さんとお母さんは私とおんなじだけどお父さんは手と骨格で、お母さんは足と内臓半分でしょ?どれくらい生物だったら効かないとか実験もおいそれとできなくて」
『お父さんとお母さんは反対しないぞ。ただ、子供の面倒を見る、世話をするっていうのはお前が考えているより遥かに大変だ。一人でやろうとするんじゃなくて必ず周りを頼りなさい』
「うん、そうする。ありがとう」
エリちゃんの病室にて私は携帯に個性で接続して電話を両親にかけた。エリちゃんに話を聞かれても彼女は自分を責めるだけだと思うので、脳内で完結するように話している。自前の声帯は使ってない。結局エリちゃんと私は一緒に暮らすことになった。寮のみんなにもそれは今相澤先生が話していて、不安を持ったりとか反対する人がいれば私の部屋は引き払われて教員寮にお引越しすることになる。逆に受け入れられた場合は相澤先生が管理人室に常駐することになるのかな。
その他学校関係などは今校長先生がフルスペックを発揮してどうにかしてるみたい。健康管理はリカバリーガール、栄養管理はランチラッシュ、教育、お勉強に関してはプロしかいないので私が頑張れば大丈夫でしょう。ただ、ご飯をなぜ食べられないか尋ねたら前に、ご飯を食べたら眠くなって寝ちゃったら……これ以上は言いたくない。オーバーホールを許せない理由がまた一つ増えただけ。
私が持ってきたものは大丈夫みたいで、トーストした食パンにバターといちごジャムを塗ってあーんしてあげたら食べることができた。目の前で調理すれば信用できるのかもしれないね。食も細いし、食パン1枚でお腹いっぱいだそうだ。小分けにしてカロリーを確保したほうがいいかな。お医者さんと要相談。私が作っていいなら私が作るけど、味や栄養面を考えたらランチラッシュ先生なんだよね……。
「ん、良く似合ってるよエリちゃん。かわいい」
「……ん」
両親にエリちゃんのことを報告し終えて電話を切った。一回電話をするために私が離れて見たんだけど、私の姿が見えなくなるのがまずいみたいですぐにパニック発作が起きてしまった。部屋の中とかなら一回離れても平気みたい。だから一旦準備のために寮に戻ったりとかは出来なかった。なので私は相澤先生に病室から制服を持ってきてもらうようにお願いして今そこで着替え、エリちゃんは病院の売店で売っていた子供用のTシャツにスカート姿だ。可愛いとは言ったけど、もうちょっとマシな服を着せてあげたいな、無地だし。
エリちゃんは……笑わない。私と接していても一度たりとも笑顔を見せない。見せるのは不安げな表情や、泣き顔……笑うことができないのかどうかはまだ、分からないけど。いつかその顔を笑顔にしてあげられたらな、と思う。エリちゃんはこのまま退院、週に1度雄英の近くにある小児科の人が往診にくる。トントン、とドアがノックされた。
「希械、荷物持ってきたぜ。緑谷も今いっしょにいる。入って大丈夫か?」
「エリちゃん、デクくん来たよ。会いたい?」
「……ん」
「入って平気だよ」
どうやら病室の前にいるのはデクくんとえーくんの様子。デクくんが来てくれた、とエリちゃんに教えてあげると彼女はこくりと頷いた。入室を促すと静かにドアが開いてデクくんとえーくんが中に入ってきた。えーくんには私の部屋の荷物を纏めて欲しいってお願いしたので片手には私の鞄が下げられている。
「エリちゃん、こんにちは。まだ自己紹介してなかったね。僕は緑谷出久、ヒーローネームはデクって言うんだ。好きに呼んでね。これからよろしく」
「俺は切島鋭児郎!希械の幼馴染だ、困ったことがありゃ何でも頼ってくれ!よろしくな、エリちゃん!」
「……デク、さんに、えいじろー、さん」
「うん!」
「おう!」
ぽそり、とたどたどしく二人の名前を呼んだエリちゃんに二人はニカッと笑って返事をする。デクくんをじっと見つめるエリちゃんが彼の手を見つめているのに気づく。デクくんもそれに気付いて膝をついてエリちゃんに向かって手を差し出した。エリちゃんはその手を両手で取って、確かめるように2度、3度と握ってから離す。そのあとぴゃっと私の傍まで戻ってきちゃったけど私だけに安心感を覚えるわけじゃないっていうのが今証明された。
「ごめんねえーくん。荷物頼んだりして」
「気にすんなよ。相澤先生にいろいろ話聞いた。寮の皆も納得してて、爆豪もなんも言わんかったんだと。帰ろうぜ」
「そっか……うん、そうしよう」
ぴっとりと私の足にくっつくエリちゃんを抱っこして、私たちは病室を出る。やっぱり外は不安みたいで顔を私の体につけて動かなくなってしまった。雄英専用のバスがすでに病院の前に止まっていて、相澤先生や通形先輩や天喰先輩、波動先輩は既に待ってた。通形先輩がエリちゃんに声をかけようとして、彼女にそんな余裕がないことに気づいてやめた。天喰先輩も波動先輩も心配そうだ。
バスに乗り込んで、エリちゃんを窓側に座らせてシートベルトをつける。涙で飽和した瞳を不安そうに揺らすエリちゃんが安心できるように頭を撫でていたら、運転手さんが気を利かせてくれたのか驚くほどゆっくりかつ滑らかにバスは出発し、雄英を目指して進んでいった。
バスがゆっくりと雄英の門の前に留まる。エリちゃんは緊張しっぱなしで疲れてしまったのか、道中でうつらうつらとして、最終的には私にもたれかかって眠ってしまった。すぅすぅと寝息を立てる姿は年相応、いやそれ以上に幼く見えた。ただ、私に触れてないと不安なのか服の袖をずっと掴んでいて、心の傷の深さを改めて見せつけられる形になってしまった。
学校についたので起きないように横抱きで抱っこした状態で立ち上がる。若干かがみながらえーくんの手を借りてバスを降り、落ち着いたらまた会いに来るんだよね、という先輩方と別れて寮へ私たちは歩いていく。道中で気温が変わったせいかエリちゃんは目を覚まして見慣れない外の景色にきょろきょろとしていたが、私やデクくんが一緒なせいなのかそこまで不安そうではない。むしろ、明るい外の景色に興味を示しているように思える。
色々あったせいで時刻は既に夕方、校長先生の配慮で事件関係のアレソレは明日以降に回された、降ってわいた休校だから、授業については心配することはない。むしろエリちゃんが慣れてくれるかどうかの方が大事だと思う。出来るだけ普通科やサポート科、経営科の寮を避けてヒーロー科の寮へ進んでいく。まだ子供がヒーロー科の寮に住むという話は周知されておらず、要らないあれこれを持ち込まないようにするためだ。休校明けに校長先生から全校集会で説明がなされる。
「ここだよ、エリちゃん。今日から暫くここがエリちゃんのお家だね」
「おうち?」
「うん」
そうしてついた1-Aの寮を指さしてエリちゃんに説明すると、ちょっとだけそわっとした雰囲気で私たちの寮を見つめている。期待2割、8割不安って感じかな。やっぱり少し性急すぎる気がするけど、病室から出てる方が病室の中よりも少しだけ明るいように思える。少なくとも、何かしらがあるたびに震えたり、白衣の人を見るたびに目をぎゅっと閉じて頭を抱えてうずくまるみたいな様子はない。ちゃんといろんなところに目を向けている。
お茶子ちゃんがドアを開けてくれて、先にデクくんや梅雨ちゃんが入ってみんなに帰ってきたことを知らせる。案の定、ニュースで死穢八斎會のことはやっていたので中に入った瞬間峰田くんのやつらが帰ってきたああああ!という叫びが聞こえて私は苦笑する。エリちゃんは一瞬驚いてびくっとなってしまったが、私のお友達が帰ってきてくれて嬉しいって言ってるんだよ、と伝えるとこくんと頷いてくれた。
えーくんが両手がふさがってる私の代わりにドアを開けてくれるので玄関に滑り込み、エリちゃんの子供用の靴を片手で脱がしてあげてから私の足もうち履きに変形させて共用スペースに入ると、既にデクくんとお茶子ちゃんに梅雨ちゃんはクラスの皆に囲まれてやんややんやとされており、砂藤くんがガトーショコラをデクくんの口に突っ込んだりしてる。
「あ、希械ちゃんおかえり!……その子が、エリちゃん?」
「うん、ただいま三奈ちゃん。そう、エリちゃんだよ。エリちゃん、この人は三奈ちゃんっていうの。私の親友、一番仲のいいお友達だよ」
「みな、さん?」
「はーい!アタシ芦戸三奈!よろしくね、エリちゃん!ヤオモモがハーブティー淹れてくれるって。砂藤のガトーショコラと一緒に食べちゃいなよ!エリちゃんも食べるよね!?」
「がとーしょこら……」
「チョコレートのお菓子だよ。お夕飯前だから私と半分こしようね」
病院から買ってきた紙パックの麦茶にストローを刺してあげてエリちゃんに飲ませてあげる。エリちゃんの食の細さはすぐにどうこうなるものではないので朝昼晩だけでなく間食も挟むように言われている。私はガトーショコラ一本程度ならぺろりと入るけど、他人が作ったものをどこまで受け入れることが出来るか分からないので、同じものを私が先に食べることにする。高級そうなお皿の上に載った一切れのガトーショコラとティーカップを百ちゃんが運んできてくれた。私はガトーショコラをフォークで切り分けてから、先に私が食べてみせる。
流石は砂藤くんのケーキ、美味しいな。エリちゃんが私が食べたことで警戒心がなくなったのか私が差し出したフォークに刺さったガトーショコラを啄むように口に入れた。どうやらお口にあったらしく、無表情ながら瞳が少し輝いた。やるじゃん、と私が砂藤くんに親指を立てると彼はちょっと赤くなって頭を掻く。
「しかしまあ何で言ってくれなかったんだよ。俺たちニュース見てひっくり返ったんだぜ?」
「わりぃ、カンコーレー敷かれててよ。色々あったんだ」
抱っこからソファにぽふん、とエリちゃんを下ろして百ちゃんが淹れてくれたハーブティーをご馳走になる。みんな、意図的にエリちゃんに視線を集めないように目を逸らしてくれてる。授業で習った子供への対応の仕方、一度に殺到しないということを実践してくれてるんだ。エリちゃんはみんなが自分を気にしないようにしてくれてるのを分かってないけど、思ったよりも落ち着いている。その視線の先にあるのは、我関せずとソファの上で携帯を弄っている爆豪くん。
彼は視線に気づいたのかエリちゃんに目を向けると立ち上がる。そしてずんずん、とこちらに歩いてきた。エリちゃんがそれに身を固め、上鳴くんがおい、と制止しようとするのを無視して爆豪くんはしゃがみ込んでエリちゃんと視線を合わせた。その瞳にいつもより棘がないことに私は気づいてふふっと笑ってしまう。私に剣呑な目を向けた爆豪くんはすぐにそれをやめて
「ゆっくりしてけ」
とだけ言ってその場を後にした。エリちゃんは何が何だか分からないのかぽかんとしてるけど、爆豪くんをよく知っているデクくんの驚愕の表情と、クラスメイト達のありえないものを見たような視線が一気に爆豪くんを貫いている。爆豪くんはそれを気にすることなく、どこに行くのかと尋ねる上鳴くんに部屋に戻るとだけ返して爆豪くんは去っていく。
もともと彼はあまり共有スペースを利用しないので、今日はエリちゃんの顔を確認しにわざわざ待っていたんだろう。細かい所をよく見てる彼のことだから、エリちゃんの状態に納得がいったからこそ言葉少なく歓迎して、怖がらないように去っていった。うーん、スマートだけど分かりづらいね。
「揃ってるな」
「相澤先生」
「すまん、色々あってな。とりあえず今日の所はランチラッシュが飯を用意する。ただ、怖がるようだったら教えてくれ。風呂に関しては協力してやって欲しい。楪、明日か明後日にお前の部屋の壁を取っ払って二部屋繋げる。悪いがもう一度片付けを頼む」
「分かりました。さっき砂藤くんのガトーショコラを食べれたので私が一緒に同じものを食べればきっと大丈夫です、ね?」
「……おいし、かったです」
「だって、良かったな砂藤!」
「お、おう!俺の菓子でよければ何時でも作るぜ!」
玄関の扉を開けて入ってきたのは相澤先生、どうやらエリちゃんの夕飯についてお知らせに来てくれたみたい。多分、同じものだったら私が先に食べることで警戒が解けると思うと話したら相澤先生も安心してくれたみたいで、表情が緩んだ。エリちゃんはガトーショコラを気に入ったらしく、美味しかったと言ってそれに反応した上鳴くんが砂藤くんの背中を叩いている。
エリちゃんの入寮初日は思ったよりも穏やかに終わることが出来そうだ。私は右耳からハロを取り出して大きくする。エリちゃんはそれに目を丸くして驚いているけどお喋りを始めたハロに興味が沸いてきたらしく視線が一気に釘付け。これはエリちゃん用のハロを作った方がいいかな、と私はひそかにたくらむのだった。
暫くエリちゃん中心にお話が続きます。きっと爆豪くんは傷ついた子供には優しいという作者の妄想が爆発しました。ニトロだけに。ではでは次回もよろしくお願いします。
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