個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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86話

 「んぅ……」

 

 「ん、エリちゃん起きた?おはよう」

 

 「お、おはよう、ございます」

 

 『オハヨウ!オハヨウ!』

 

 私のベッドの上で、エリちゃんが目を覚ます。枕元に鎮座していたハロがエリちゃんに挨拶をしている。私はエプロンをつけて朝食を準備しているところ。昨日は結局エリちゃん、お夕飯を半分くらい食べてお腹いっぱいになっちゃって、そのあと私たちと一緒にお風呂に入って私が添い寝する形で眠ったんだ。私はやることがあったからそのあとに起きて相澤先生やランチラッシュとエリちゃんのことについてリモートで会議していた。

 

 昨日のこともあって、ランチラッシュが作ったものを運ぶより私が目の前で調理したものの方が安心して食べられるだろうと私が提案したのが通ったのでランチラッシュが献立を決めて私が作る形に落ち着いた。エリちゃんは、病院での様子とは打って変わって怯えた様子はなかった。個性エネルギーも相変わらず検知されず、私の部屋に漂っているホログラムを興味津々で触ったりしていた。けどやっぱり、無表情で、笑顔がない。

 

 エリちゃんはどうも私に甘えられる状況に安心感を覚えると同時に申し訳なく思っているようでお行儀よく、自分で何もかもをしようと頑張っていた。着替えも、お風呂も。その行動の一つ一つに「嫌われたくない」「捨てられたくない」という感情があって、彼女の世界の大部分を私が占めてしまったことに胸がちくりと痛んだ。

 

 「ご飯の前に、顔洗っちゃおうか。あと、今日は髪の毛整えて……服も考えないとね」

 

 エプロンをかけたままの私はベッドの前でしゃがみ込み、エリちゃんと顔を合わせる。髪越しに私と目が合ったエリちゃんは起きたばかりで眠い目をシパシパさせて、こくりと頷く。寝ぐせでぼさぼさの髪の毛を手櫛ですかして整えてから私はエリちゃんを抱き上げて共用の洗面所におりていく。途中であった百ちゃんと合流して顔を洗ったエリちゃん。ご飯を用意してくるから百ちゃんと待てる?と聞いたら不安そうに頷いてくれたけど、パニック発作の兆候が見られたので一緒に連れて帰ることにして、ついてきてくれた百ちゃんに遊んでもらいながら私は朝食を仕上げてまたエリちゃんと一緒に共用スペースにおりていく。

 

 「ごめんね百ちゃん、ご飯持ってきてもらって」

 

 「いえ、当然のことですわ。べったりですのね」

 

 「うん。甘えてくれるならいくらでも甘えて欲しいくらい。普通なら、お母さんとかお父さんの役割なんだよね……私がやって、いいのかな」

 

 「希械さんらしくないですわ。今のエリちゃんは、希械さんしかいませんの。私たちも支えますから、頑張りましょう」

 

 「ありがと、百ちゃん。オムレツあげちゃう」

 

 「ふふ、有難く頂きますわ」

 

 本日の朝食は、トーストした食パン、野菜のオムレツ、角切りリンゴにヨーグルトをあえたもの。オレンジジュース。エリちゃん用はどれも量は少ないけど、食べられるなら私の分を分けてあげればいい。お盆に乗った余りのオムレツは百ちゃん用だ。ちらほらと起きてきたみんなが共用の席について、配膳ロボットが持ってきた朝食をみんなで配っていた。片手でトレーを持った私はエリちゃんを席に座らせてその前に朝食を並べる。

 

 「おはよ、エリちゃんいいもん食ってんなー。うまそう」

 

 「ランチラッシュの方が美味しいよ?上鳴くんは和食なんだ」

 

 「女子の手作りってのがいいんだろー?なんか今日味噌汁飲みたくてよ」

 

 「またそういうこという。そんなんだからぞんざいに扱われるんだよ。そのうち峰田くんみたいになるよ?」

 

 「オイラが悪い手本みたいないい方やめろよ!」

 

 「じゃあエリちゃんの前で今までやってきたこと言えるの?まあ言ったら私の手が何をするかわからないけど」

 

 きょとん、と峰田くんを見つめるエリちゃんに峰田くんはうっ……とバツが悪そうな顔になる。良かったー、これで嬉々としてセクハラ行為を自慢するようであれば黒焦げにしてたよ、うん。電動のドリルとか鋸とか使ってまで女子風呂覗こうとしてたんだから私たちからの扱いが底辺になっちゃうのはしょうがないと思うの。エリちゃんは好き嫌いはないのかな?野菜のオムレツは食べれるみたいだし、半分にしたトーストも食べれたね。

 

 いつもは私、自分の部屋で食事を取ってたんだけど、これからはエリちゃんが他の人と交流を持つために共有スペースでご飯を食べることにしたの。たまに三奈ちゃんとかにお願いされて下でご飯を食べることもあったけど、自分で作って自分で食べる以上自室の方が片付けが楽なもので……。

 

 「ん?もしかしてエリちゃん、リンゴ好き?」

 

 「……甘くて、美味しい」

 

 「そう、じゃあおやつはリンゴで何か作ろうか」

 

 私と百ちゃんに挟まれたエリちゃん、ペースはゆっくりではあるものの食べ切ることは出来て、デザートのリンゴのヨーグルト和えに取り掛かった。リンゴを口に含んだ瞬間、きらきらとエリちゃんの目が輝いて、リンゴが好きなんだとわかった。エリちゃんのことが少し知れて嬉しいな。

 

 ご飯の後は歯磨きして、エリちゃんのやたらめったらに伸びた髪の毛をお風呂場で切ることにした。ばっさりと短くすることも考えたんだけど、エリちゃんが私と同じがいいという可愛いことを言ってくれたのでロングに抑えて前髪や毛先をカットしてかなり整った感じに変えた。ぼさぼさしてた毛質も百ちゃんプレゼンツのお高いシャンプーとかコンディショナーとかその他もろもろのおかげでさらつやに変わっている。値段を聞いて目玉が零れ落ちそうになった。零れ落ちても作り直せるけど、メカジョーク!

 

 「おお!エリちゃん可愛くなったねー!あ、私見える!?見えないよね!ごめん!私葉隠透!服だけ浮いてたら私だから覚えてねー!」

 

 「っ!?……?……?」

 

 「エリちゃん、透ちゃんは透明なの。これも個性だよ。とっても優しいから大丈夫」

 

 お風呂場の掃除を終えてお着替えも済ましたエリちゃんと一緒に共用スペースに戻ると可愛らしい普段着に身を包んだ透ちゃんが迎え入れてくれた。既に各々好きに過ごしていて、テレビを見る人や部屋に戻った人、様々だ。デクくんは残っていてエリちゃんが戻ってきたことを知ると微笑んでこっちを見ていた。透明な透ちゃんにびっくりして頭の上に疑問符が浮かんでいるエリちゃんの頭を撫でて私もデクくんの隣のソファにお邪魔する。

 

 「えーくんはまた寝坊だなー?もー、休校で休みだからって」

 

 「切島君、朝苦手だよね」

 

 「起きるには起きれるんだけど、目覚まし時計寝ぼけて硬化して壊したりしちゃうの。スヌーズ3回目くらいで起きるから、1回目でそれやると寝坊しちゃうんだよ」

 

 「そうなんだ、やっぱり個性柄色々あるんだね。エリちゃん、寮生活大丈夫そうでよかった」

 

 「うん、すごくいい子だよ。ご飯も完食できたし!」

 

 ハロを膝の上に乗せて見つめ合っていたエリちゃんが自分の事を話してると気づいて私たちに顔を向けた。デクくんがテレビのチャンネルを弄って子供番組にする。初めて見るのか分からないけど、私たちが幼稚園のころからやっている息の長いアニメだ。エリちゃんは首を傾げながらもだんだんと前のめりになってアニメを見始める。ここら辺は年相応なのかな。

 

 「今日はどうするの?」

 

 「ずっと寮にいてもいいんだけど、一回学校の中に行こうかなって。人がいないし、それならエリちゃんが中に入っても大丈夫でしょ?」

 

 「そうだね、僕も行っていいかな?」

 

 「勿論。午後から行こうと思ってるから、適当な時間に連絡入れるよ」

 

 午前中はとりあえず寮の中でみんなとコミュニケーションを取れたらな、と思う。そんな話をしているとえーくんが降りてきて、景気のいい朝の挨拶をした後朝ごはんにがっつき始めた。みるみるうちに減っていく大盛りの朝食を見たエリちゃんが目を白黒させている。山盛りのご飯を平らげたえーくんが食器を片付けてエリちゃんにニカッと笑ってから歯磨きに行く。

 

 昨日と朝、エリちゃんを観察してて気づいたんだけど、エリちゃんは自分から人に触れようとしない。誰かから触れられるときも一瞬身を硬くして一歩引く。エリちゃんと仲良くしたいクラスのみんながコミュニケーションを試みてくれているけど、あんまりうまくいってないのが実情。そりゃ、来てすぐだしいっぱいいっぱいだと思うんだけど……。私から一切離れられない現状は少しまずい。1時間くらいは離れられるようにしたい。いざという時のためにも。

 

 個性のせいかな……「自分が触れると人が戻る」という意識が彼女が人と触れ合うことを拒んでいる……そんな感じがする。ハロを伸ばした脚の上に置いて撫でているエリちゃんを眺めながら私が考えを巡らせていると、私たちの寮の玄関が開いた。誰かが自主練にでも行ったのかな?と思ってたら入ってきたのはブラドキング先生だった。

 

 「ああ、いたな。少しいいか、楪」

 

 「あ、はい。なんでしょう」

 

 「あまり急ぎではないんだが……B組をエリちゃんに紹介だけしておきたくてな。今学期から合同の授業が増える、おそらくお前はエリちゃんと行動を共にするんだろう。一気にB組の20人と合わせるより1日に少人数ずつ顔を見せておいた方がいいと思ってな。イレイザーに話は通してある」

 

 「多分、大丈夫だと思います。周りを囲んだりしなければ怖がらない、はずです。昨日はA組の皆が気を利かせてくれたのでパニックは起こしませんでしたし。今朝も大丈夫でした」

 

 子供番組が終わって、デクくんとハロと一緒にソファの上で遊んでいるエリちゃんを見ながらブラドキング先生に了解をする。エリちゃんはどうやら私が見える範囲にいれば平気で、多分四方八方を囲まれたりするとちょっとまずい。エリちゃんに手招きをすると遠慮がちにとてとてと私の所にやってくる。お友達がエリちゃんに会いたいって言ってるから会ってくれる?と膝の上に抱き上げながら聞くとこくん、と頷いてくれた。

 

 それを確認したブラドキング先生は待っててくれ、と言って玄関の方に歩いていく。既に何人か伴ってきてたのかな?安心したように体を預けてくれるエリちゃんと待っていると先に歯磨きやら身支度を終えたえーくんがピシッとセットされた髪型で共有スペースに入ってきて私の隣に座った。ハロが飛び跳ねてデクくんの頭に着地するのをエリちゃんが拍手してみてたりしてると――

 

 「会いに来たぞA組ぃ!」

 

 「初っ端人選ミスだろこれ!」

 

 「なんだって!?」

 

 騒がしく部屋に闖入してきたのは物間くんだった。峰田くんとスマホで何やら見ていた上鳴くんが思わずと言った感じで突っ込むけど、物間くんは意に介さず狂気的な笑いをしている。すっと私がエリちゃんの目を塞ぐと阿吽の呼吸でえーくんがエリちゃんの耳を塞いだ。物間くんは、まずい。まずいっていうか峰田くんと並んで教育に悪い。口を開けばA組をこき下ろす彼の無駄に豊富な語彙をエリちゃんに学ばせてはいけない。

 

 「とまあここまでは冗談だよA組。僕も流石に保護されてる子の前で優劣どうこう言うつもりはない。顔見せしに来ただけだ」

 

 「急に落ち着きやがった」

 

 「やっぱり病名のある精神状態じゃないかこいつ?」

 

 「ごめーん、物間は最後にしようって話してたんだけど強引についてきちゃって……その子がエリちゃん?」

 

 その物間くんの後ろについてきてたのはB組のクラス委員長である拳藤さん、そして角取さんに鉄哲くん、あと泡瀬くんも一緒。5人だけかな?エリちゃんの目と耳を解放してあげるときょろきょろと増えた5人を見て少しだけ不安そうに私の服を握ったエリちゃん。B組の人たちはしゃがんでエリちゃんに目線を合わせて自己紹介、握手はまだちょっと不安みたいだけど大丈夫そう、かな?

 

 「学校で会うかもしれないから、あったら仲良くしてね。困ったこと、というかこれが迷惑かけたら言ってくれれば回収するから」

 

 「拳藤、君は僕のことを何だと思ってるんだい」

 

 「雄英の負の面かな」

 

 「言い得て妙だな!」

 

 「お前は雄英の性欲魔人って呼ばれてるぞ峰田」

 

 「僕の方がましだな!」

 

 「誇る所そこなんだ……」

 

 「せいよく……まじん……?」

 

 「おい上鳴」

 

 「わるかった」 

 

 一気に騒がしくなった共有スペース内の中心にいるエリちゃん、受け入れられているっていうことが分かってきたのか少しづつ言葉が増えてきたように思える。それで最初に言うことが上鳴くんが言った峰田くんのあだ名の一つなんだから複雑な気分だ。というか6歳の女の子になんて言葉言わせてるの上鳴くん?素直に謝ったからいいけど。

 

 角取さんが個性で自分の角を飛ばしてエリちゃんの前でハロを乗っけてふらふらさせる。エリちゃんはそれを見ていて、空を飛ぶハロも楽しそう。B組の皆が帰るまで、その状況は続き、エリちゃんの緊張は程よくほどけていくのだった。




 物真くんと峰田は物凄くオチとして便利だなあ。暫くこんな感じで進んでいきます。平和な話は書いてて楽しい(精神的に平和とは言ってない)

 では次回もよろしくお願いします。感想評価をくださると作者が喜びます

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

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