9話
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトともう一人の3人体制で見ることになった」
「何するんですかー!?」
「地震雷災害何でもござれ、レスキュー訓練だ」
雄英バリヤーを修復した翌日の午後、授業開始前にやってきた相澤先生が今日のヒーロー基礎学の内容を説明してくれる。レスキュー、つまりは人命救助。ヒーローと切って切り離せない超重要な訓練内容だと思う。今は屋外の派手な個性戦が人気でワイドショーでもヒーローの戦闘シーンの切り抜きが流れるほど。人を救助する姿がテレビに映るなんてオールマイト先生くらいじゃないかな?
クラスのみんなもやっぱり雄英に入学するエリート揃いなだけあってみんなそこら辺をきちんと理解しているみたい。にわかにレスキューこそがヒーローの本分であるというざわつきがクラスに広がっていく、けど相澤先生のひと睨みで一瞬で沈静してしまった。流石は相澤先生、この短い期間の中で私たちを完全に掌握してると思う。怖いけど、頼りになる先生だ。
「今回コスチュームの着用は各自の判断にゆだねる。訓練場はバスに乗っていくからきびきび動け、以上。準備を始めろ」
それだけ言って壁のコスチューム保管ボックスを動かした相澤先生はそのまま出ていってしまう。私は立ち上がって上の方にある人たちのコスチュームを取ってみんなに渡してから自分の分のコスチュームを取った。こういう時おっきいと便利だよね。長手袋を外して、ついでに手足を白に変えてしまう。髪の毛に青メッシュを入れて準備完了。着替えよーっと。
「は~~、楪さんコスチュームを付けた時とそうじゃない時だいぶ印象変わるやね~~。アニメのヒロインみたい」
「そう、かな?こんな大きいヒロインはお断りだと思うけど……でも、自分の好きな色を纏えるのはテンション上がるかも」
「青が好きなん?」
「うん、私の目の色。私の右目は機械だからみんなと見てる色も景色も違うけど、左目はみんなと同じものが見れる。だから私はこの目が好きなんだ」
「めっちゃいい話や!」
「そうかな?」
同時に着替え終わった麗日さんと話しながら集合場所に向かう。途中で麗日さんにいろいろ褒められたので少し赤くなりつつも私はコスチュームの色の由来を言うと、すごくいい反応をしてくれた。ジャンパーの銀のラインはデザイナーさんの趣味みたいだけど、色はえーくんとかアルバイト先の人と相談して決めた。アルバイト先のある人曰く「エレガントな配色」らしいんだけど、エレガントってごつい私と対極にある言葉だと思うんだ……
「あ、デクくん体操服なんや」
「あ、うん。戦闘訓練で壊れちゃったから修復待ちなんだ」
「デク?もうあだ名で呼んでるんだ」
「あ、うん。もともとはかっちゃんがバカにして付けてたんだけど……麗日さんがコペルニクス的転回をしてくれたから……今は気に入ってるんだ」
「……じゃあ私もそう呼ぼうかな。よろしくねデクくん、個性の制御手伝えそうだったら手伝うから遠慮なく言ってね。あんまりこういうこと言いたくないんだけど、一人にしたらすんごい怪我しそうだから」
「うっ……キヲツケマス……」
緑谷出久くん、下の名前を読み方変えてデクくんかぁ。私が知ってしまった彼の秘密、個性の制御が上手くいかないのも他人の個性だから、ということなんだろう。もし彼の個性がサポートアイテムで解決できる類のものなら私が使い捨ての籠手とか作って数を撃たせて制御するっていう方法もあるんだろうけど……知ってしまった罪悪感と怪我ばっかりする心配が混ざって思わずちくりと言ってしまう。
これが例えばえーくんみたいにカッチカチだったら反動も無視できるのかもしれないけど……オールマイト先生が無傷で使えてるってことは反動に耐える体なら大丈夫ってことじゃないかな……うーん、オールマイト先生みたいな体したデクくん……私の脳内画像で勝手にコラージュされたデクくんの顔をしたオールマイト先生の画像が完成して思わずコレジャナイと顔に出てしまう。会ったばっかりだけどこんなゴツイデクくんは違うのだ、うん。
「みんな!バスの席順はスムーズに出席番号でいこう!2列に並ぶんだ!」
「飯田くんフルスロットル……」
「凄く輝いてるね。ある意味で天職かも……流石にバスの天井とか入り口は高くないよねえ」
「普段は不便なん?」
「うーん、慣れちゃったから不便ではないかも」
「こういうタイプだった!くそう!」
「あはは……」
私はバスに乗る機会はそんなになかったので飯田くんと同じ想像をしてたかは分からないけど彼が想像してたであろう学校でよく乗る長距離移動用のバスではなく市営バスみたいな椅子の並びで自由に選んで座ってねという感じだった。まあ私にとってはありがたい限りなんだけど。ずっと腰をかがめてるのはアレなので気を利かせて入り口近くの横並びの椅子を譲ってくれた砂糖くんにお礼を言う。天井低いとつらいよねえ……
「ねえ緑谷ちゃん、いいかしら」
「あ!?なに!?蛙吹さん!!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
これから実技だし、エネルギーを補給しとかないとダメだということで私はお昼ご飯に追加して持ってきていたカロリーバーをもっさもっさと頬張る。一口で一本、釘とかゴムとかより100倍美味しいけど口が乾くなあ。ごくりと喉を動かして食べ切った私、隣で梅雨ちゃんとデクくんが話してるのを聞いていると
「私思ったことは何でも言っちゃうの。あなたの個性ってオールマイトに似てるわね」
「ぶっ!!!???」
「げほっ!?」
「希械どうした!?」
「ごめん、喉に釘が刺さっただけ」
「一大事じゃねーか!?」
「大丈夫、抜けたし治った」
「そそそそうかなー!?でも僕の個性はえーっと」
梅雨ちゃんが話題にしたのはデクくんの個性の話、あまりにもデクくんと私にとってタイムリー過ぎて思わずせき込んでしまった。私がせき込んだせいでえーくんが話に入ってきてしまった……ごめんねデクくん。というかえーくん流石に今の慌てた誤魔化し方で納得されるのは少し私としても来るものがあるぞ。実際刺さったら魚の小骨くらい面倒なんだけどさ。
というかデクくん誤魔化し方がすごいへたくそだ。嘘が付けない性格なんだろうなあ……頑張って誤魔化して欲しい、私も誰にも言わないように頑張るから、盗み聞きしてごめんね……いやいや、と私を心配するついでに会話に入ってきたえーくんが否定してくれる。ありがとうえーくん信じてた!
「でもよ、オールマイトは怪我しねえだろ?似て非なるってやつだぜきっと。でもま、派手で羨ましいけどなあ。ま、俺の硬化は負けねえけど」
「派手っつったらこのクラスだと、爆豪と轟、あと楪ちゃんか。楪ちゃんはロマン詰まってるから人気出るだろなあ」
「そう、かな?男の子はみんな変形とか合体とか好きだよね。私もそういう方面で売るべきかな」
「爆豪ちゃんは怒ってばっかりだから人気でなさそ」
「んだとコラ!出すに決まってるだろ!」
「ほら」
話題が逸れてくれて一安心だぁ……それはそうと私の個性って派手?というよりはゴツイというか実用重視で見た目気にしてないんだよね。使えればよし!みたいなデザインばっかりしてる、私がそうだから。今度は見た目も考えてみるべきかな?それはそうと梅雨ちゃん爆豪くんを弄るなんてなかなかクレイジーだねぇ。だってほら、爆発されたら怖い……というか今も顔が怖い、目をそらしておこう。ひっ!?掌ぱちぱちいってる!?
「希械ちゃんは~~お色気路線でも売れると思うよ~!可愛いしね~?」
「うーん、それは……無理じゃないかな?三奈ちゃんくらいのスタイルの方が人気出そう」
「デビューしたら二人でその路線やってみる?」
「オイラは応援するぜ!」
「やっぱやめとこうか希械ちゃん。アタシ峰田に推されたくない」
「ひでええええ!!上鳴オイラなんかしたか!?」
「俺に聞くなよ。日頃の行いじゃね?」
「そんなに日数経ってねえじゃねえかよおおお!」
「上鳴もなんかヤダ」
「えっ?」
上鳴くんはともかく、峰田くんは私もちょっとイヤかも。胸、見すぎだよ。女子のみんなそう言ってるから、こんな扱いされちゃうんだよ。
「おっきい~~……」
「すっげ~~!USJかよ!」
雄英に入学してから何度も使ったこの言葉。言われる側から言う側に回ったことで分かるのは、本当にぽろっと出てきてしまうということだ。それは如何でもいい話なんだけど、私たちの前に広がる演習場……ホントに演習場かと疑うほど広いしまるでテーマパークのように入り口がある。右目でズームしてみると台風だったり雷だったり火事に地震、災害のオンパレードがそこかしこで起こってる。ナニコレ滅茶苦茶ヤバいんだけど……
「この演習場はあらゆる事故や災害を想定して僕が中心となり作成しました。名づけて
それ権利的に大丈夫なんだろうか?と私は心配になってしまう。USJは別に商標に登録されてたりはしないけど連想してしまうものがあるから……それはともかく、籠ったような声で演習場の紹介をしてくれたのは宇宙服のような重厚かつ分厚いコスチュームに身を包んだヒーロー、災害救助を専門とするスペースヒーロー「13号」だ。
「スペースヒーロー13号だ!災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わーーー!私好きなの13号!」
「うん、女の人だったんだね。初めて知った……」
「「「「そうなの!?」」」」
「え、うん。声紋が女の人のものだから……」
「僕が女だと初見で見破るなんてやりますね楪さん」
デジタル的な分析は私が最も得意とするものの一つだ。声が籠ってても変声機を使われない限りは基本的に声紋分析は可能なの。13号先生の素顔はヒーロー界隈だと割と謎に包まれてるわけだけど、どれ透視でも試してみようか……と思ったが流石に失礼なのでやめよう。デクくんが13号先生の性別が女性だとわかった途端すさまじい勢いでノートを取り出して書き込み始めた。ああ、爆豪くんが言ってたナード、ってそういうことなんだ。ヒーローが好きなんだねデクくんは。
そういえばオールマイト先生が見えないな?さっき相澤先生が一緒に見るって言ってたもんだからここにいるって思ってたんだけど……後で来るのかな?
「では始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
めっちゃお小言増えてる……
「皆さんご存じかもしれませんが、僕の個性「ブラックホール」はあらゆるものを吸い込んで塵にしてしまいます」
「それでどんな災害からでも人を救い出すんですよね!」
「ええ、しかし一歩間違えれば人を殺すことができる力です。皆の中にもそういう個性の人がいるでしょう」
耳がとても痛い。私の個性はまさにそれ、というか人を殺すことに特化してると言ってもいいほど攻撃力が高い。作るものによっては大量虐殺すら可能だから。この世界で一番メカが発達してる分野はなに?と聞かれれば医療でも福祉でもなく……軍事方面。そこから漏れた技術が民間に伝わるんだ。レーダー技術の応用をした電子レンジのように。だから私は力の責任を自分に問わないといけない。
「超人社会の現代が成り立っているのは貴方たちの個性を行き過ぎないように管理しているからです。体力テストで上限を、対人戦闘で人に向ける怖さを体験したと思います」
そう、そうだ。体力テストで何ができるかを工夫して、対人戦闘でどうすればできるだけ傷つけずに無力化できるか頭をひねった。まともに向ければ殺せてしまうから、遠慮呵責なしにぶっぱなした入試の時とは全く違って冷や汗だらだらだったんだよ実はね。
「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではなく、人を助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。以上!ご清聴ありがとうございました!」
「カッコイイ!」
13号先生の言葉に誰かがそう漏らした。うん、カッコイイ。力はただ力だけど、それをどう使うかという方向性を考えさせられるお話だった。お説教?とんでもない。これは激励だ。私たち、オールマイト先生が言うには有精卵がこれからどう孵化するかの指針の一つを示してくれたことに感謝しなくちゃ。
13号先生のお言葉に感動しながらUSJの中に入り、相澤先生がまずはと声をあげたところで……私の右目が広場に黒い靄があふれ出すのを捉えた。ズームして観測、正体不明……?でも微かな空間のゆがみがある。周りと景色が微妙にずれてるから空間自体がおかしいのかも……?誰かの個性?じっとそれを見つめると……何かが出てくる。人だ、人の手をたくさん付けた人間に続いて……たくさんの人間。……だれ?
「一塊になって動くな!」
相澤先生が怒鳴った。思わず背筋が伸びる。演習の一環か何かだと思ってたらしいクラスメイト達も異常事態に気づいたみたい。ざわざわと少しづつ声が広がっていく。
「あれは……ヴィランだ!」
USJに突入。次回から戦闘が始まります
楪少女の秘密、実は生身の肉体に密かな憧れを持っているぞ!
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